魔王と救世の絆   作:インク切れ

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第7話 自然の脅威!絢爛のチェリム

「行きますっ! リオル、電光石火!」

試合再開と同時、リオルが地を蹴って飛び出し、高速でチェリムに突っ込む。

ヤヤコマのそれよりさらに速いスピードで一気にチェリムへと近づき、そのまま体当たりで突き飛ばす。

「続けて真空波!」

さらにリオルは腕を振り抜き、真空の波を飛ばして追撃。

しかし、

「チェリム、マジカルリーフ!」

真空波を受けても顔色一つ変えず、チェリムは光を帯びた無数の葉を放って逆にリオルを押し戻してしまう。

「ポケモンには、特性が存在するのはご存知ですわよね?」

ポケモンの特性。

ポケモンごとに持っている、特殊な能力のことだ。戦闘時に効果を発揮するものが主で、その種類は実に様々。

「ええ。例えばこのリオルの特性は精神力なので、怯み状態を受け付けません。それがどうかしたんですか?」

「一ついいことを教えてあげましょう。私のチェリムの特性はフラワーギフト。日差しが強い天候状態の時に、攻撃力及び特殊防御力が上昇する効果ですわ。真空波のような特殊技でチェリムを攻撃するのは、得策ではありませんわね」

「なるほど……ん? 日差しが強い時……? もしかして!」

はっと上空を見上げるハルは、そこでようやく気づいた。

天井近くに浮かぶ炎の球体は、スボミーの打ち上げた擬似太陽。スボミーはあの技でこのバトルフィールドを日差しが強い状態に変え、後続のチェリムを強化させていたのだ。

「天候の変化については覚えておくとよいですわよ。日差しが強い時には他にも葉緑素の特性を持つポケモンの素早さが上がったり、炎タイプの技の威力が上がったりしますわ。さらに、天候に左右される技もありますのよ。例えば」

そこで、イチイは一拍置く。この妙な間に、ハルは何か嫌な予感を覚えた。

イチイが、再び口を開く。

「チェリム、ウェザーボール!」

チェリムが空気を固めたような白い球体を打ち上げる。

するとその球体は上空で強い日差しを受けて着火、炎の玉となり、リオルを狙い落下してくる。

「なっ!? リオル、発勁!」

咄嗟にリオルは青い波導を纏った右手を突き出し、何とかウェザーボールを防ぐが、

「さあ、休む暇はありませんわよ! チェリム、マジカルリーフ!」

「それならリオル、もう一度発勁だ!」

チェリムが撃ち出す無数の光る木の葉の中へ、波導を纏った右手を構えてリオルは正面から向かっていく。

右手を振るって木の葉を振り払いながらまっすぐ突き進み、

「岩砕き!」

握り締めた右拳を勢いよく突き出し、チェリムを殴り飛ばす。どうやらこのチェリムも、そこまで素早いポケモンではないようだ。

「続けて行くよ! リオル、さらに発勁!」

ハルの声に呼応し、リオルの腕を再び青い波導が包む。

対して。

「チェリム、いい位置どりですわ。仕掛けましょう」

吹き飛ばされて砂地の上に落ちたチェリムが、立ち上がる。

 

「チェリム、自然の力!」

 

振り下ろされるリオルの右拳をその場で耐え切り、チェリムが足元の大地から力を吸い上げる。

刹那。

フィールド全体が激しい揺れに襲われ、地面を衝撃波が這い、リオルが吹き飛ばされた。

「っ、リオル!?」

「チェリム、もう一度自然の力です!」

リオルが立て直す間にチェリムは位置どりを変えて芝生の上に立ち、再び大地から力を吸う。

「リオル、また来るよ! ジャンプで回避だ!」

先ほどの衝撃波はかなり強烈だったが、所詮は揺れを起こして地を這う技。空中にさえいれば影響はない。

だが。

肝心の揺れはいつまで経っても起こらず、代わりにチェリムの手元から淡く緑色に輝く光の弾が放出された。

「ええっ!? リ、リオル、岩砕き!」

想定していたものとはあまりに違う攻撃が来た。慌ててハルは指示を出し、リオルも咄嗟に拳を振るって光弾を迎え撃つが、タイミングが遅れたのもあって相殺しきれずに押し負けてしまう。

「っ、なんなんだ、この技は……?」

「自然の力。文字通り自然の様々な力を行使する技ですが、何の技が出るかはその地の自然によって……つまり地形によって変化する。砂地に足をつけて使った時には“地震”が、芝生で使った時には“エナジーボール”が出たようですわね」

つまり、この技を覚えていれば立つ場所を変えるだけで多種多様な技を使えるということだ。

ここに来てハルはサヤナが言っていたことを思い出す。

一匹目、つまりスボミーは倒せたものの、二匹目チェリムにコフキムシとアチャモを倒されてしまった。毒でじわじわ削る戦法や日本晴れを使ったことも考えるとスボミーの主な役割はチェリムのサポート。さらにこのチェリムは、タイプ相性で不利を取るコフキムシとアチャモを破っているということになる。

「さあチェリム、ウェザーボール!」

チェリムが白い玉を高く上空へと投げる。

「リオル、電光石火!」

空中で着火し火の玉となって飛来するウェザーボールを躱し、リオルは地を蹴って目にも留まらぬスピードで飛び出す。

「チェリム、躱してマジカルリーフ!」

「リオル、チェリムを追って! 発勁!」

身軽なステップでリオルの突撃を躱すチェリムだが、対してリオルも踏み止まり、右手に波導を纏わせ方向転換する。

チェリムの顔のど真ん中へ右手の一撃を叩き込んだが、その直後リオルは光を放つ無数の木の葉に襲われる。

さらに、

「まだやられませんわよ。自然の力!」

顔面をぶん殴られてふらついていたチェリムだが、首を振って意識を戻し、足元から自然の力を吸い上げる。

「芝生……エナジーボール! リオル、躱して!」

木の葉の攻撃を受けて若干タイミングが遅れるが、それでもリオルは何とか淡く輝く光弾を回避する。

尻尾の先をエナジーボールが掠めたが、大したダメージにはならない。

「見上げた素早さですわね……チェリム、ジャンプしてウェザーボール!」

チェリムが大きく飛び上がり、上空から白い玉を放つ。

「躱して! 岩砕き!」

横っ飛びして火の玉を躱すと、リオルは上空のチェリムを追って跳ぶ。

「着地して自然の力です!」

繰り出されるリオルの拳を、チェリムは思い切り体を捻って避ける。

そのままチェリムはウェザーボールによって焼け焦げた芝生の上に着地、力を吸い上げる。

直後。

燃え盛る炎の渦が出現し、瞬く間にリオルを巻き込んだ。

「っ!? リ、リオル!」

チェリムが放ったのはまさかの炎技。しかも炎の渦は日照りによって強化されている。

「焼けた芝生の上に立てば、自然の力は“炎の渦”になりますわ。ハル君、君のリオルも、そろそろ限界なのではなくて?」

炎の渦から脱出し、まだリオルはなんとか立ち上がる。

だがその体には黒い煤がまとわりついており、今の一撃で大ダメージを負ったのは明らかだった。

「ジムリーダーとして、ここばかりは厳しく行きますわよ。私に勝ちたければ、この窮地、乗り越えてごらんなさい! チェリム……マジカルリーフ!」

チェリムの周囲の空気が渦を巻き、光を帯びた木の葉が浮かび上がる。

マジカルリーフは必中技。確実に勝負を決める気だ。

「っ……やるしかないんだ! リオル、発勁!」

だが勝ちたい。絶対に勝ちたい。チェリムの受けたダメージだって、決して小さくはない。

ここまで頑張ったリオル、スボミーを倒してくれたヤヤコマのためにも、この初めてのジム戦は絶対に勝ちたい。

襲い来る光の木の葉を打ち破り、そこからどうにかして勝利への道を切り拓く。

策があったわけではないが、諦めたくない、どうにかしなきゃ、その思いで、ハルは叫んだ。

その刹那。

 

リオルの右手を中心として爆発的な波導の力が噴出し、マジカルリーフが吹き飛ばされた。

 

「なっ……これは……!?」

「え……?」

予想だにしない事態に驚愕を隠しきれないイチイだが、それはハルとて例外ではない。

リオルの体は波導に包まれ、特に右手は青く揺らめく炎が如き波導の力を纏っている。

「もしかして……これはリオルの特性」

やがて、イチイがゆっくりと口を開く。

「特性といってもフラワーギフトのようなものではなく、リオルが持つ本来の能力という意味でのもの。確か、リオルというポケモンは危険な状態に追い込まれた時に波導の力が強くなる」

しかし、とイチイは続け、

「強くなるとはいっても、本来は仲間に危機を伝えるための防御的な力のはずですわ。まさかここまで強大な波導の力を操るなんて……」

イチイの話を聞いても、トレーナーになってまもないハルには難しいことはよく分からない。まして、この力の本質になど気づくはずもない。

ただ一つ、ハルに分かることは。

今。ジムバトルというこの場において、流れは間違いなくこちらに向いているということだ。

「……何だかよく分からないけど、リオル、君はすごい力を持ってる。それだけは分かるよ。この勝負、勝とう!」

ハルの言葉に応え、リオルは大きく吼える。意識もしっかりと保っているようだ。

(まだ未熟なポケモンながらこれだけの波導の力を纏い、かつ見たところ過剰な力によって暴走しているわけでもない。この力は、一体……いいえ、今はバトルに集中すべきですわ。ジムリーダーとして、ハル君とリオルへの試練となる!)

「ハル君、仕切り直しですわよ。その力、使いこなして見せなさいな! チェリム、マジカルリーフ!」

「はい! リオル、真空波!」

チェリムが周囲に光を放つ葉を浮かべるが、それを放つよりも早く。

リオルが右腕を振り抜き放った真空波に青い波導が乗り、青い波動の弾となってチェリムへと直撃する。

「いくら強化されようと、特殊技ではチェリムは崩せませんわ。自然の力!」

マジカルリーフを撃てなければ即座に次の手を。

足元の芝生から力を受けて、チェリムが淡く光る緑色の光弾を発射する。

「リオル、発勁!」

対するリオルはその場でエナジーボールを迎え撃つ。

爆発的な波導を纏った右手を突き出し、光弾を打ち破った。

そこで。

(……分かった!)

ハルは遂に、このチェリムの突破口に気づいた。

「もう一度ですわ!」

いつのまにか砂地に場所を変え、再びチェリムが自然の力を行使し、フィールド全体に強い揺れを起こす。

「えーっと……地震か! リオル、ジャンプして回避!」

衝撃波が襲い来る寸前、リオルは跳躍してそれを躱すと、

「チェリムの足元へ、真空波!」

着地してチェリムの足を狙い、波導を乗せた真空波を放つ。

「起動力を奪うつもりかしら? チェリム、躱しなさい!」

いくら特防が上昇しているチェリムとはいえ、何度も受け続ければ無視できないダメージとなる。

大きくチェリムは跳躍し、真空波を躱すが、

「いいえ、違いますよ! リオル、電光石火!」

猛スピードでリオルが飛び出した。

チェリムが空気の玉を打ち上げるより早く、一気にチェリムの懐へ潜り込む。

「っ、チェリム――」

そこで、イチイは気づいた。

チェリムは空中にいる。つまり、

「大地から力を受ける自然の力は、空中では使えないはずっ! リオル、発勁!」

チェリムの技のうち、マジカルリーフとウェザーボールは共に出が遅い。

このバトルで見たチェリムの出の早い技は、自然の力によるエナジーボールと炎の渦のみだった。

だが、この瞬間。

空中にいるチェリムには、自然の力を受け取れない。

二倍以上に膨れ上がった波導を乗せた右拳を叩きつけられ、チェリムが地面に叩き落とされる。

「岩砕きっ!」

拳を突き出したリオルが、流れ星のように青い尾を引いてチェリムを狙い急降下する。

「これで最後……受けて立ちますわ! チェリム、マジカルリーフ!」

何とか起き上がったチェリムも、上を見上げて輝く木の葉を周囲に浮かべる。

両者、最後の力を振り絞り、攻撃を放つ。

無数の木の葉の中に、拳を構えたリオルが飛び込む。

光る葉の刃に体を切りつけられながらも、ただまっすぐにチェリムだけを見据え。

その末に、無数のマジカルリーフから抜け出した。

「行っけええええ!」

遮るものがなくなったリオルの拳は、最早チェリムを捉えるのみ。

青い波導を纏った渾身の拳が、チェリムに叩き込まれた。

「っ、チェリム……!」

全力を乗せた拳の一撃を浴びて、チェリムが吹き飛ばされる。

今度こそ。

地面に落ちたチェリムは、そのまま目を回してしまう。

 

「……チェリム戦闘不能、リオルの勝利です! よってこのジム戦、チャレンジャー・ハルの勝利!」

 

「……勝った……?」

審判オンコの声が聞こえても、ハルはしばらく呆然としたままだった。

だが、次第に実感が追いついてくる。

勝利。初めてのジム戦で、勝ったのだ。

「……やったあーーっ! リオル、勝ったんだよ! やったね!」

ちなみにチェリムを倒した直後、リオルも膝をついてその場に座り込んでしまっていた。リオルも限界間近、ギリギリのところで戦っていたのだろう。

リオルの元へと駆け寄り、ハルは最後まで戦い抜いた幼き波導の戦士を抱き抱える。

「チェリム、いいバトルをありがとう。ゆっくり休んでくださいな」

チェリムを優しく撫でてボールに戻し、イチイがハルとリオルへ歩み寄る。

「ハル君、見事なバトルでしたわ。ありきたりな言い方ですが、貴方がリオルを信じ、勝負を諦めなかったその思いに応えたからこそ、リオルも力を存分に引き出せたのでしょう」

「いやぁ、リオルのおかげです。僕はただ、諦めたくなかっただけですから。でも、リオルも、ボールの中のヤヤコマも、きっと同じ気持ちだと思ってました」

イチイの言葉に照れたのか顔を赤くするハルの様子を見て、イチイはにこりと微笑み、

「オンコさん、バッジを持ってきてくださいな」

「はい、ただいま」

オンコが小さな箱を取り出し、イチイに手渡す。

箱の中から取り出されたのは、緑色のFという文字を、赤や黄色の花で色とりどりに装飾したような形状をしたバッジだ。

「それでは、ハル君にはこれを。シュンインジムを制覇した証、ポケモンリーグ公認のジムバッジ、フローラルバッジです。是非お受け取りください」

「はいっ、ありがとうございます!」

「それと、ハル君はこのバッジが一つ目でしたわよね? それでは、これも」

イチイが取り出したのは、薄い黄色の下地に緑色の花の模様が描かれたケースだ。

「これはポケモンリーグ公認のバッジケースですわ。マデル地方では、初めて勝利したジムでバッジと一緒にバッジケースも手に入れるのが伝統ですの。この花模様はシュンインジム製の証ですわよ。お気に召したかしら?」

「はい、とっても! ありがとうございます」

イチイから受け取ったバッジケースを開き、フローラルバッジをセットする。

「まずはバッジ一つですわね。これからもこの調子で、頑張ってください」

ケースの中で輝く初めてのバッジは、ハルのこれからの旅への希望の証のように、キラキラと輝いていた。




オリ技リストを作成しようとしたのですが、文字数が1000文字に到底満たず作成することができませんでした。
いずれ公開いたしますので気長にお待ちくださいませ。
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