魔王と救世の絆   作:インク切れ

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第97話 突入、アルスエンタープライズ

クリュウが起こした爆音は、廃屋で待機するハルたち三人のところへも届いた。

「始まったな。我々も行くぞ」

「ええ」

「はい!」

ゴエティアの見張りの連中がクリュウたちの乱入に気を取られた隙を狙い、ハルとラルド、ゼンタの三人は走り出し、白い大きな建物――アルスエンタープライズ本社へ一気に駆け抜ける。

一階のロビーには人影は見当たらない。従業員の姿はないだろうとは思っていたが、黒装束の姿もない。

……と、思ったのも束の間。

階段やエレベーターから、無数の黒装束の人間が三人の行手を塞ぐべく飛び出してくる。

「やはり、そう簡単には通してはくれんか」

「所詮は下っ端です。さっさと蹴散らしましょう」

三人もすかさずモンスターボールを取り出し、ムクホーク、リザードン、エーフィが現れる。

「ムクホーク、フェザーラッシュ!」

「リザードン、火炎放射!」

「エーフィ、マジカルシャイン!」

広範囲攻撃を得意とする三人のポケモンたちが、一斉に攻撃を放つ。

ムクホークの撃ち出す矢のような無数の羽根、リザードンの薙ぎ払うように放つ灼熱の炎、エーフィの放つ純白の光が、下っ端の繰り出したポケモンたちを片っ端から吹き飛ばしていく。

「さあ、どうだ!」

「びびったなら道を開けろ。今のはほんの挨拶だぜ」

ハルが叫び、ラルドが凄むと、下っ端たちのほとんどは慌てて逃げ出していった。

だが。

異質な雰囲気を放つ、残った黒装束が三人。

「……ハル、ラルド、気をつけろ。あの三人、普通の下っ端と違うぞ。何かただならぬ気配を感じる」

ゼンタが二人に警戒を促す。

ハルとラルドが身構える中、三人の黒い男たちはモンスターボールを取り出す。

「行け、スピアー」

繰り出したポケモンは、三人ともスピアー。

見た感じは明らかに普通のスピアーであり特におかしな様子はないし、パイモンのスピアーと比べるとレベルも明らかに劣っているように見える

だが。

 

「スピアー、メガシンカせよ」

 

黒装束の男たちが腕を構えると、手首に着けているベルトに填められた血のように赤黒い宝石が光を放つ。

直後。

三匹のスピアーたちが軋むような呻き声を上げつつ、妖しく輝く赤黒い光に包まれていく。

渦巻く不気味な光の中で、スピアーたちのシルエットが変化していく。

鋭い毒針を持ちつつもどこか丸みを帯びた印象のあるスピアーの姿が、より鋭角的かつどこか機械的な姿へと変わる。

両腕と腹部の毒針が槍のように発達、さらに後足にも巨大な毒針へと変化し、翅が六枚へ増える。

鋭い羽音と耳をつんざく絶叫を響かせ、赤黒い妖光と共に、三匹のスピアーがメガシンカを遂げた。

「なっ……メガシンカ!?」

「だけどあいつら、メガストーンは……?」

流石に驚きを隠せないハルたち三人。

三匹のスピアーたちはメガストーンを持っている様子はなかった。にも関わらず、メガシンカしている。

そして何より不可解なのは、黒装束の下っ端たちの腕に付けられた、明らかにキーストーンとは異なる血のように赤い宝石。

「スピアー、毒突きだ」

困惑するハルたちをよそに、中央のスピアーが突如奇襲を仕掛けてくる。

腹部の毒針を突き出し、弾丸のように飛び出すスピアーに対し、

「ッ! ムクホーク、鋼の翼!」

ゼンタが反応し、ムクホークが咄嗟に硬質化させた翼を構えてどうにかスピアーの毒針を受け止める。

「っ……ハルのルカリオほどではないな。ならば」

三匹のメガスピアーを見据え、ゼンタはもう一つのボールを取り出す。

「いざ、ドードリオ!」

現れたのは翼を持たず、脚力の発達した鳥ポケモン。三つの長い首と頭を持つ珍妙な姿をしている。

 

『information

 ドードリオ 三つ子鳥ポケモン

 頭だけでなく心臓や肺も三つに

 分かれている。そのため長い距離を

 走り続けても息切れしないのだ。』

 

「ハル、ラルド。お前たちは先に行け」

ムクホークとドードリオを携え、三匹のメガスピアーと対峙し、ゼンタは二人へと促す。

「いや、でも……」

「大丈夫だハル、私なら問題ない」

ハルが躊躇うが、ゼンタはそれを遮って言葉を続ける。

「ムクホークとの衝突で分かった。あのメガスピアー、一体一体の実力はお前のメガルカリオより遥か格下だ。この程度の使い手であれば、私一人で充分だ。ラルド、ハルを連れて」

「分かりました。ハル、行くぞ」

ラルドは迷わなかった。

ハルの腕を掴み、ゼンタの脇を駆け抜けていく。

「逃がすな。スピアー、ドリル――」

「ドードリオ、トライアタック!」

スピアーのうちの一匹がハルとラルドを狙うが、ドードリオが三色の光線を放ち、スピアーを牽制する。

「どこを見ている。貴様らの相手は、この私だぞ」

ハルとラルドを無事に進ませ、メガスピアーを引き連れた下っ端黒装束と対峙し、ゼンタは淡々と尋ねる。

「さて、バトルを始める前に、そのメガシンカの理屈を教えてもらおうか。貴様らの外道で異質なメガシンカ、放っておくことはできん」

「……気になるか。ならば冥土の土産に、教えてやる」

中央に立つ下っ端が腕を構え、手首のベルトに填められた赤黒い宝石を見せる。

「“プロトタイプ・メガウェーブ”。とある国で開発・悪用され、禁忌とされて封印されていた、メガシンカを強制的に発現させる、メガウェーブと呼ばれた科学技術。アモン様が解読し、開発した試作品を我々に与えてくださったのだ」

そんなものが存在することが驚きだし、強制メガシンカの理論もゼンタには全く分からないが、とりあえずそのような物騒なものをゴエティアが保有していること、それだけは理解できた。

「試作品だし、ちょうどいい。お前とお前のポケモンを実験台にして、使用感を試させてもらおう」

「好きにすればいい。ただし、やれるものならな」

その言葉を合図に、ゼンタの鳥ポケモンと黒装束のメガスピアーたちが動き出す。

 

 

 

「エーフィ、マジカルシャイン!」

ハルのエーフィが額の珠を白く輝かせて純白の光を放出し、立ちはだかる下っ端たちを纏めて吹き飛ばす。

「いい調子だよ、エーフィ。このまま行こう」

小柄なエーフィは狭い通路でも問題なく動けるため、ハルはエーフィをボールに戻さず、そのままラルドと共に建物の中を進んでいく。

一階で下っ端の集団を軒並み蹴散らしたためか、二階より上には黒装束の数は少ない。

「ゼンタさん、大丈夫かな」

ハルとしては一階で残ってくれたゼンタのことが気掛かりだが、

「あの人なら問題ねえよ。あんな相手にやられるほど、ゼンタさんは弱くねえ」

同じノワキタウンで暮らしてきた仲間だからだろう、ラルドははっきりとそう言い切った。

「ゼンタさんはクリュウさんの相棒、ノワキタウンで二番目に強い実力者だ。昔は一流の飛行タイプ使いとしてクリュウさんとジムリーダーの座を競ってたって話も聞いたことがある。三体のメガシンカポケモンって言っても、一匹一匹はお前のメガルカリオより遥か格下なんだろ? だったらゼンタさんは絶対に負けない。あの人を信じて、上に進むぞ」

「……そうだね。僕たちは僕たちのやるべきことをしなきゃね」

先に進ませてくれたゼンタのためにも、立ち止まるわけにはいかない。

上階を目指す二人だが、しかし気になることはある。

「それにしても、イザヨイシティを占拠するなんて、何が狙いなんだろうな」

「うーん……ここに魔神卿が二人いるって話だし、アルスエンタープライズの何かを狙ってることは間違いなさそうだけど……」

ハルも何度かゴエティアと戦ってきたし、魔神卿の全員と遭遇しているが、そもそもゴエティアというのがどんな組織なのか、詳しいことは全く分かっていない。

分かっていることは、魔神卿たちの口ぶりからするに『王』と呼ばれる何者かが組織の中心であること。そして、ハルは何故か魔神卿の中心的人物であるパイモンに気に入られているということ。そのくらいしかない。

「狙っているとしたら、マデル地方トップの科学技術のうちの何かだろうね」

「もしくはアルスエンタープライズそのものかもな。社長を脅して企業全体をゴエティアの傘下に置く、とか考えててもおかしくないぜ」

とはいえ、考えていても仕方ない。

残っている下っ端構成員を蹴散らし、ハルとラルドはとにかく上を目指して突き進む。

その途中で、

「うわっ!?」

曲がり角を曲がったところで、ハルは白衣を着た研究員の男性とぶつかりそうになった。

「び、びっくりした……君たちは? ゴエティアの仲間じゃ無いよね……?」

「はい。安心してください、僕たちは味方です」

「こいつがハル、俺はラルドだ」

そう名乗ると、二人がゴエティアのメンバーではなくてホッとして力が抜けたのか、研究員は床へと座り込んでしまう。

「よかった……奥の部屋の方にみんなで逃げ込んでいたんだが、物音がしなくなったので僕が様子を見にね……しかし、どうして君たちみたいな子供だけで? 怖くは、ないのかい」

「ゴエティアには俺たちのホームを荒らされた上、リーダーの大事にしてたものも奪われた。ムカついてんだよ。一発やり返さないと気が済まねえんだ」

研究員の男性の質問に答えたのは、ラルドだ。

「ちゃんと策はありますから、安心していてください。まだこの建物にはゴエティアがいます。今は安全なところに隠れていてください」

ラルドの言葉にハルは付け足し、男性を避難させる。

「……そうだ、君たちにこれを渡しておこう」

奥の部屋に戻る前に、男性はハルとラルドへカードを手渡す。

「これはアルス社内のカードキーだ。社長室やこの先の一部フロアには、このカードがないと入れないんだ。このくらいしか君たちをサポートできなくて申し訳ないが、どうか気をつけて」

「ありがとうございます、助かります。それじゃもうしばらく、じっとしていてくださいね」

「さあハル、行くぞ。さっさとこの会社、そしてこの街を解放する」

カードキーを受け取り、ハルとラルドはさらに上階を目指して進んでいく。

 

 

 

そして。

「お? ノワキタウンの奴ら、とうとう入り込んできたか」

最上階には、監視カメラに繋がるモニターを眺める男が一人。

王冠を被った、腰まで届く長い黒髪の少年、魔神卿パイモンはソファーの上に行儀悪く胡座をかいて座り込み、不敵な笑みを浮かべる。

「しっかし、よりにもよってハル君もいるのかぁ。ノワキの連中だけならまとめて叩き潰しておしまいなんだけどなぁ……ま、しょうがないね」

独り言を呟き、パイモンは袖から小型の通信機を取り出す。

「おーい、アスたん? 聞こえる?」

それに向けてパイモンが呼びかけると、

『何かしら、パイモン』

通信機の向こうから、女性の声が聞こえた。

「おっ、通じた通じた。アスたん、今何やってんの?」

『この建物内を物色してる。今いるところね、すっごいわよ。生態保護・研究室とかいう部屋なんだけど、レアなポケモンがたっくさん。根こそぎ貰ってっちゃっていいかしらん?』

「えっ、ほんとに? そりゃいいね、纏めて持っていこうよ……っと、それはいいんだけど」

向こうの話に乗りかかったパイモンだが、脱線した会話を戻し、話を続ける。

「アルスの中にさ、侵入者が入って来てるんだよね。下っ端は蹴散らされてるし、試作メガウェーブ部隊も一階で交戦中、こっちの仕事もなかなか終わりそうになくてさー。悪いんだけど、足止めをお願いしてもいいかなぁ? 護衛もつけるからさ」

『足止め? なに、もしかしてあんたのお気に入りのあの子も来てんの?』

「そうなんだよ。ぼくとしても、さすがに想定外だった」

通信機の向こうの女性は、はぁ、と息を吐き、

『しょうがないわね……適当に時間を稼いでおくわ。上手く行けば追い返すけど、期待しないでよ? あんまりバトルには自信がないし。私が魔神卿七人の中でもダントツで弱いこと、忘れてないよね?』

「分かってるよ。時間を引き延ばしてくれれば大丈夫。いやぁ、アスたんは話が通じるのが早くて助かるねぇ。それじゃ、頼むよ」

『はいはーい。その代わり、そっちもさっさと終わらせてよね? あと護衛は九階によろしく』

「了解、任せといてよ。そんじゃ」

要件は告げ終えたのか、パイモンは通話を切って振り返る。

押し殺したような呻き声が響く。この部屋にいる人間は、パイモンだけではなかった。

不気味な笑みを浮かべて、パイモンは机の向かい側にいる人間に声を掛ける。

「それじゃ社長さん、話の続きをしようか。こっちの要件は一つ。この会社の――」

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