「さっさと終わらせる。さあ頼んだぜ、リザードン!」
「それ、こっちのセリフなんですけど。欺け、クチート!」
ラルドが繰り出すのはエース、リザードン。
対するアスタロトのポケモンは、かなり小柄のポケモンだった。愛嬌のある黄色い小人のような姿をしているが、頭部からポニーテールのように生えているものはその身体と同等のサイズの鋼の巨大な口だ。
『information
クチート 欺きポケモン
鋼のツノが変化した大顎を持つ。
大顎で捕らえた獲物をほどよい大きさ
に噛み砕いて本来の口で食事をする。』
鋼とフェアリータイプを併せ持つポケモンのようだ。
ボールから現れるや否や、大顎を開いて不気味な咆哮を上げ、ラルドとリザードンを威嚇する。
「特性は威嚇か……いきなり攻撃を下げられちまったけど、タイプ相性は有利だ。リザードン、焼き尽くすぞ」
ラルドの言葉に応えてリザードンも負けじと雄叫びをあげ、クチートを見下ろし睨みつける。
「行くぞ! リザードン、火炎放射!」
先に動いたのはラルド。
リザードンが大きく息を吸い込み、灼熱の炎を吹き出す。
「クチート、躱しなさい!」
ぴょんと身軽に跳躍し、クチートはリザードンの放つ炎を回避すると、
「ストーンエッジ!」
着地すると同時に大顎を床に叩きつけ、床から尖った岩の柱を出現させる。
「岩技、やべえけど……リザードン! 躱して雷パンチ!」
リザードンにとっては当たれば致命傷の岩技だが、柱の出現する軌道そのものは単純。
翼を羽ばたかせてリザードンは突き進む。突き出す岩を次々と躱しつつ距離を詰めていき、電撃を纏った拳を振り抜き、クチートを殴り飛ばす。
「ふぅん、やるじゃない」
それを見て、アスタロトは不敵な笑みを浮かべる。
「ちょっとばかりパワーで負けてるかしらん? まぁ、クチートってポケモンはそこまで能力値の高いポケモンじゃないからねー。んー、どうしようかしら?」
「……」
何か嫌な予感がする。
歳の割に戦闘経験の多いラルドだからこそ、感じる。アスタロトというこの女が放つ、不気味な気配。
「しょうがない。開始早々だけど、やっちゃいますか。クチート、準備できてる?」
アスタロトの言葉を聞いてクチートは振り返り、ニヤリと笑って頷く。
それを見てアスタロトは満足そうに頷き、髪を結った花のシュシュを解いた。
「……?」
怪訝な表情を浮かべるラルドをよそに、アスタロトは花のシュシュを手に取る。
薔薇の花の形をした赤いシュシュ。そして、その真ん中に、
「っ……! この気配、まさか」
ラルドは気づいた。確信した。
赤い薔薇の中で煌めく、“それ”は。
キーストーンだ。
「欺き、突き立てろ、欺瞞の双牙! クチート、メガシンカ!」
クチートが大顎を開く。
その奥歯に、隠すようにメガストーン、クチートナイトが結びつけられていた。
アスタロトの持つキーストーンの光に、クチートのメガストーンが反応し、光を生み出す。
双方の光が繋がり、クチートは七色の光に包まれ、その姿を変えていく。
体が一回り大きくなるが、何よりも目を惹くのは巨大な大顎。
光の中で、大顎が分裂し、二つに分かれていく。
「メガシンカ――メガクチート!」
光が弾け飛び、メガシンカを遂げたクチートが姿を現す。
下半身と手首にかけて薄い桃色が入り、巫女装束のような袴を思わせる姿へと変化する。
一番の特徴だった大顎はさらに巨大化した上にツインテールのように二つに増加し、それぞれが意思を持つかのように不気味な咆哮を轟かせる。
「ちっ……メガシンカが使えるのかよ、お前」
「んっふふ、残念だったわねえ。クチートは確かにあまりパワーのあるポケモンではないけれど、メガシンカしてしまえば話は別よ? あんたのポケモンなんて、一捻りなんだから」
悪戯っぽい、しかし悪意を含んだ笑みを浮かべ、アスタロトが指示を出す。
「それじゃ続けるわよ! クチート、ワンダーボム!」
クチートの二つの大顎の中に、ピンク色の霧を固めたような弾が作り上げられる。
大顎を振るい、クチートが二つのピンクの霧弾を投げつける。
「っ! リザードン、回避!」
翼を広げて飛翔し、リザードンは一発目を回避する。
だが二つ目が躱し切れず弾が直撃、爆炎と同時に鮮やかなピンク色の煙が噴き出し、リザードンを吹き飛ばす。
「リザードンっ! 今のは……フェアリー技か!」
「さあさあ今よ! アイアンヘッド!」
空中で体勢を崩すリザードンに対し、クチートは地を蹴って跳躍、一気に距離を詰める。
首を思い切り振り、遠心力を乗せた大顎を鈍器として叩きつけ、リザードンを勢いよく床へと叩き落とした。
「リザードン、立て直すぞ! 気合い入れ直せ! 勝負はここからだぜ!」
幸い、フェアリー技も鋼技もリザードンに対しては効果今ひとつ。
起き上がったリザードンは火を吹いて吼え、自身を鼓舞する。
(それにしても……メガシンカしたとは言え、攻撃力の上昇幅がやけに高いな。パワーだけならクリュウさんのメガアブソルにも劣ってねえ。ただここまで攻撃力に振り切ってるなら、スピードは上がってないはずだ。落ち着いて戦え、俺!)
「っし、反撃だ! リザードン、鋼の翼!」
リザードンが広げた翼を硬化させるが、
「遅い! クチート、不意打ち!」
飛び立とうとした瞬間、クチートがリザードンの懐まで飛び込み、頭突きをかましてリザードンを突き飛ばす。
「さあ、墜落させなさい! クチート、ストーンエッジ!」
クチートが両顎を床に叩きつけ、尖った岩の柱を呼び起こす。
メガシンカ前と比べ、実に二倍近い量の岩の槍が次々と突き出てくる。
「リザードン、飛べ! 火炎放射だ!」
それでもリザードン持ち前の飛行能力で岩の柱の間を掻い潜って突き進み、クチートへ向けて炎を放出。
予想通り素早さはほとんど変化していないようで、クチートは回避できずに灼熱の炎を浴びてしまう。
「やってくれるじゃないの! クチート、ワンダーボム!」
体に残る煤を気にもせず、クチートが大顎を振るって二発のピンクの煙弾を投げつける。
「弾いてやるよ! リザードン、鋼の翼!」
翼を硬化させ、リザードンが羽ばたく。
ラルドはワンダーボムを弾き返すつもりだったが、リザードンの翼にぶつかった瞬間に煙弾は爆発し、ピンクの爆煙がリザードンを覆って視界を塞いでしまう。
「ウフフ、無駄無駄! ワンダーボムは着弾すれば即座に炸裂するわ。弾き飛ばそうとしたって無意味よ! クチート、アイアンヘッド!」
煙に包まれたリザードンを狙い、クチートは地面を蹴って跳躍し、首を振って両顎を振り回す。
「リザードン、来るぞ! 煙を振り払え!」
翼を羽ばたかせて煙を吹き飛ばすリザードンだが、目の前には既に突撃を仕掛けるクチートの大顎が迫る。
「上等! リザードン、雷パンチ!」
リザードンが握り締めた拳に、電撃が迸る。
振り下ろされるクチートの大顎に対し、拳を突き出して真っ向から競り合う。
しかしメガクチートの圧倒的な攻撃力の前には打ち勝つことができず、リザードンが少しずつ押されていき、遂には押し負けて叩き落とされてしまう。
「あっはは! メガシンカしたクチートに攻撃力で敵うわけないでしょ! なんせこの子の特性は“力持ち”なんだから!」
「は……? 力持ち、だと!?」
特性“力持ち”。
その効果は、自身の攻撃力を二倍に増加するという極めて単純なもの。
しかし、それ故に強力。メガシンカした途端クチートの攻撃力が跳ね上がったのも頷ける。
「クチートはメガシンカによって耐久力が上昇し、特性で攻撃力も爆上がり。あと足りない部分は、私の頭脳で補う! さあクチート、ぶっ飛ばしちゃいなさい! ワンダーボム!」
開いた両顎にピンク色の霧の弾を作り上げ、クチートが頭を振って二つの霧弾を投げつける。
「今度は躱すぜ。リザードン、飛べ!」
翼を開いてリザードンは飛翔し、霧の弾を二発躱して、
「鋼の翼だ!」
上空から一気に急降下し、硬化させた翼をクチートへと叩きつける。
「今だぜ! 火炎放射!」
さらにリザードンが大きく息を吸い込むが、
「そうはいかないわよ? クチート、不意打ち!」
その瞬間、再びクチートがリザードンとの距離をゼロまで詰める。
だが、
「来るぞ、堪えろ! そのまま焼き尽くしてやれ!」
クチートの頭突きを受けたリザードンは怯まなかった。
不意打ちの一撃を根性で耐え切り、リザードンはクチートに向けて今度こそ灼熱の業火を吹き出した。
「やばっ!? クチート、躱して!」
顔色を変えるアスタロトが慌てて指示を出すが、クチートの速度では当然間に合わない。
肉を切らせて骨を断つ、リザードンの必殺の一撃がクチートに直撃し、その鋼の体を焼き焦がす。
「吹き飛ばせ! 鋼の翼!」
炎に覆われるクチートを、リザードンは硬化させた翼でぶん殴り、吹き飛ばす。
「もう一発、食らっとけ! 火炎放射!」
一気に勝負を決めるべく、リザードンは再び息を吸い込む。
だが。
「魔神卿を甘く見んじゃないわよ! クチート、ストーンエッジ!」
業火に焼かれて吹き飛ばされても、クチートはまだ動く。
顎を地面に叩きつけ、リザードンの足元から鋭く尖った岩の柱を出現させる。
「あ……まず――」
ラルドが反応する間もなかった。
足下から突き出た岩の柱の刃先がリザードンを突き上げ、そのまま天井へと勢いよく叩きつけた。
「リザードンっ!?」
炎と飛行タイプを持つリザードンには、岩タイプの技は致命傷となる。
岩の柱が引っ込むと、リザードンは重力に従って力無く地に落ちる。
最大の弱点である岩技の直撃を受けてしまい、あえなく戦闘不能となってしまっていた。
《ワンダーボム》
タイプ:フェアリー
威力:80
物理
鮮やかなピンク色の霧を固めた爆弾を投げつける。一定確率で霧をまとわりつかせて相手の回避率を下げる。
※威力はあくまでも目安です。