魔王と救世の絆   作:インク切れ

103 / 121
第100話 託されしもの

「ルカリオ……!」

大地を揺るがすほどの力を込めた渾身の蹴りを受け、ルカリオが吹き飛ばされて壁に叩きつけられる。

それでもまだ起き上がるが、受けたダメージは明らかに大きい。もう一発受ければ、さすがに耐えられないだろう。かと言って、地震を起こすほどの一撃を避けることもできない。

「ほう、耐えたか。ならば!」

そしてパラレルが一切の容赦をするはずもなく、ガブリアスは再び跳躍する。

「俺に勝ちたければ、この一撃を乗り越えてみせろ! ガブリアス、地震だ!」

雄叫びを上げ、ガブリアスが再びの急降下攻撃を仕掛ける。

しかし、

「まだだ……」

ルカリオの体内でさらに激しく湧き上がる波導の力が、ハルと共鳴する。

ルカリオの波導の力か、メガシンカによるシンクロの力か。

ハルにも、ルカリオの感情が伝わってきた。

「ルカリオ、まだ終わらないよね! 君の力、僕が解き放つ!」

ハルの言葉が、思いが、ルカリオに届き、ルカリオの瞳が青く輝く。

刹那。

 

ルカリオの掌から、青く輝く光の竜が飛び出した。

 

光の竜の顎に捕らえられ、床に叩き落とされると同時に青い光が炸裂、爆発に巻き込まれてガブリアスが吹き飛ばされた。

「なにっ……!? 竜の波導だと!?」

パラレルもこの展開はさすがに想定外だったようで、驚きを隠せないでいる。

「ルカリオ! 一気に決めるよ!」

新技の習得を喜ぶのは後だ。今は目の前の敵を倒す。

「波導弾!」

ルカリオの構えた両手から、青く輝く波導の念弾が放出される。

起き上がったばかりのガブリアスを狙って正確に飛び、波導の力を炸裂させた。

「ガブリアス!」

立て続けの二連撃を耐え切ることができず、吹き飛ばされたガブリアスは地に伏したまま目を回してしまった。

「ここまでか……あのタイミングでの新技習得とは、やはり絆の力は侮れないな。ガブリアス、戻れ。休んでいろ」

ガブリアスをボールに戻したパラレルは、それ以上戦おうとする様子は見せず、一歩引いてハルへと告げる。

「そう警戒するな。今回は俺の負けだ」

「……」

それでもまだ気を抜かないハルに対し、パラレルはさらに言葉を続ける。

「元より指示された任務は時間稼ぎだからな。俺はここで引き下がる。お前は魔神卿と戦っているお前の仲間の手助けでもするがいい」

それだけ告げ、パラレルは踵を返して上階へと去っていってしまう。

 

 

 

「さて、まだやるかしらん? 私のクチートはまだ充分戦えるけど、あんたの手持ちにリザードンより強いポケモンはいるのかなぁ?」

クチートを侍らせ、アスタロトが嘲るような笑みを浮かべる。

「敵に背を向けるわけないだろ。まだ戦うに決まってる」

対するラルドは冷静にそう返す。

「ふぅーん? ま、止めはしないけど――」

「ただし」

アスタロトの言葉を遮り、ラルドは続ける。

 

「俺じゃないけどな」

 

刹那。

「ルカリオ! ボーンラッシュ!」

クチートが横からの奇襲を受け、波導の槍の連続攻撃を叩き込まれて吹き飛ばされた。

「え?」

「発勁だ!」

素っ頓狂な声を上げるアスタロトには目もくれず、ハルは指示を続け、ルカリオは波導を纏った右掌をクチートへと叩きつけた。

リザードンの炎を浴びて体力の削られていたクチートは予想だにしない不意打ちを受けて倒れ、メガシンカも解けて戦闘不能になってしまう。

「すまねえ、ハル。ありがとな」

「気にしないで。無事でよかったよ」

バトルは終わったと判断し、ようやくルカリオもメガシンカを解く。

「なっ……はあぁぁぁ!? ちょっと、何してくれてんのあんた!?」

「仲間を助けるなんて、当然のことだよね。ルカリオ、よくやったよ」

ルカリオを労うが、肝心のルカリオはまだボールには戻ろうとしない。

まだ油断はできない。メガシンカポケモンを倒されたとは言え、アスタロトがここで引き下がるかどうか。

まだ戦うようであれば、ハルもルカリオも、再びのメガシンカも厭わないつもりだが。

「チッ……馬鹿にしてくれるじゃない。どうやら私を甘く見てるみたいね。だったら――」

いかにも忌々しそうに舌打ちし、低い声でボールを取り出したアスタロトだが、そこで我に返ったように目の前のハルと自分の手にしたボールを交互に見つめる。

そして、

「……おっと、いけないいけない。あのポケモン欲しかったけど、仕方ないわねえ。今回は諦めてあげる。そんじゃ、撤収しようかしら。出てきなさい、アーケオス」

すぐに普段の猫撫で声に戻り、手にしたボールからハダレタウンでも姿を見せていたアーケオスを繰り出す。

「おい、逃さねえぞ」

ラルドが一歩踏み出すが、

「あら、いいの? 私とパラレルの目的はあくまで時間稼ぎよ? 私たちを捕まえようと躍起になってる間に、上にいるパイモンが本命の目的を達成しちゃうかもしれないわよ。上に進んで街を守った方がいいんじゃないかしらん?」

アーケオスに掴まり、アスタロトは意地悪く笑う。

「っ、どうするよ、ハル」

「……ここでこいつらを見逃したくない気持ちは分かる。けど、上にはまだ魔神卿がいるし、この街を解放するのが先決だ。悔しいけど、先に進もう」

迷った末に、ハルは先に進むことを決める。

その間に、既にアーケオスに掴まったアスタロトは姿を消していた。窓から飛び去っていったのだろう。

「さあ、進むよ」

「あいつら、次に会ったら絶対取っ捕まえてやる」

アスタロトとパラレルを撃退、ハルはルカリオをボールに戻し、ラルドと共にさらに上階へ進もうとしたところで、

「君たち、ちょっと待ってくれないか」

不意に呼び止められた。

二人が振り向くと、声の主は数人の研究者のうちの一人だった。

アスタロトに抵抗し、蹴散らされたのだろう。白衣は汚れ、顔や腕もところどころ傷ついている。

「大丈夫ですか……?」

「ああ、何とかな……我々はな。保護していたポケモンたちはほとんど奪われてしまった。このような不祥事があったとなれば、研究も中止になるだろう。生態保護を謳っておきながら、あの女相手に歯が立たなかった……不甲斐ない」

座り込んだまま、研究者の一人は肩を落とす。

「すみません、僕たちがもう少し早く来ていれば」

「いやいや……助けに来てくれた君たちに、文句は言えない。それより、私たちからお願いがあるんだ」

そう言って、その男は一つだけ残ったボール――アスタロトが自分のものにしようとしていたボールから、ポケモンを出す。

背中に甲殻を纏った青い首長竜のようなポケモン。ヒレのような四肢を見る限り、水辺に生息するポケモンだろうか。

 

『information

 ラプラス 乗り物ポケモン

 人間や小さなポケモンを背中に

 乗せて海を進むのが好き。かつては

 絶滅危惧種とされていたポケモン。』

 

水と氷タイプを持つ、ラプラスというポケモンのようだ。

「この子は群れからはぐれ、弱っていたところを保護されたんだ。人懐こいが賢くてな、悪い人間には決して心を開かない。この研究は中止になるだろうし、そうでなかったとしてもこのような事件が起こってしまった以上、我々にはこの子を守る資格はない」

だから、と男は続け、

「このラプラスを、君たちに託したい。ずっとここにいるより、君たちと一緒に行った方がラプラスにとっても嬉しいことのはずだ。私たちの代わりにこの子を守り、広い世界を見せてあげてほしい」

そう言って、ボールを差し出す。

「俺には無理だ。ハル、お前が受け取れ」

ラルドは即答した。一歩引き下がり、そう言った。

「え、いいの……? でも……」

「俺は無法の町と呼ばれるノワキタウンで育ってきた。もちろん自分のことを悪人だとは思ってないが、だからといって自信を持って自分が善人ですとは言えない。少なくともハル、お前に比べたらな」

「そんなこと、関係ないよ。育った環境なんて――」

「それに」

ハルの言葉を遮り、ラルドはさらに続ける。

「ラプラスを守るって意味でなら、尚更だ。俺はあの女に負け、お前は二人倒した。お前の方が適任だって、もう証明されてんだ。そいつを守るには俺じゃ力不足さ」

「……分かった。じゃあ、僕が受け取るよ。ありがとう」

白衣の男からボールを受け取り、ハルはラプラスの前に立つ。

「ラプラス。僕と一緒に、来てくれるかい?」

ラプラスは少し戸惑っているようだったが、ハルの瞳をしばらく見つめると、やがてにっこりと笑い、頷く。

「……うん、分かったよ。それじゃ、これから君は僕の仲間だ。よろしくね、ラプラス」

ハルの言葉に応え、ラプラスは首を伸ばしてハルの持つボールへと触れる。

その巨体がボールへと吸い込まれる。一瞬だけ赤い光が点滅するが、すぐに止まった。

「ありがとう。ラプラスをよろしく頼むよ。それと、君たちにはこれも」

そう言って白衣の男が差し出したのは、ポケモンの傷薬だ。

「これくらいしか君たちの力になれるものがなくて、本当に申し訳ないが……頼れるのは君たちだけだ。イザヨイシティを守ってほしい。頼んだよ」

「充分です、ありがとうございます。必ずこの街を解放しますから、もう少しだけ待っててください」

「さあハル、行くぞ。あまり時間はなさそうだ」

「うん」

研究者たちに礼を言い、二人はルカリオとリザードンたちの手当てをすると、さらに上階へと進んでいく。

 

 

 

 

 

「ムクホーク、フェザーラッシュ! ドードリオ、ドリルライナー!」

ムクホークが羽ばたいて無数の尖った羽を射出し、羽根の弾幕の後ろからはドードリオがドリルの如く回転しながら突撃を仕掛け、スピアーを纏めて吹き飛ばす。

三匹のメガスピアーを前にしてなお、ゼンタは二匹の鳥ポケモンで互角以上に戦いを進めていた。

ただ、

「スピアー、毒突き!」

奇妙な点が一つ。

どれだけ攻撃を加えても、スピアーたちは倒れない。

二匹の連携攻撃を受けてふらついていたスピアーだが、黒装束の男たちが身につけている赤黒い宝石が輝くと、すぐさま攻撃に転じてくる。

「ドードリオ、前に出ろ! 守る!」

ムクホークが下がり、ドードリオが進み出て、守りの結界を展開する。

三匹のスピアーが一斉に毒針を突き立てるが、ドードリオを守る結界を破壊することはできず、

「トライアタック!」

三つの首からそれぞれ赤、青、黄の光線を放ち、スピアーを押し戻した。

「おのれ……だが我らのスピアー軍団は不滅だ! スピアー、起き上がれ! 目の前の敵を駆逐せよ!」

黒装束の男が吠え、赤黒い宝石が妖しく輝く。

だが、その刹那。

ピシッ! と音を立て、宝石にヒビが入る。

「……は?」

入ったヒビはみるみるうちに大きくなっていき。

その末に、黒装束の男たちの持つ宝石は粉々に砕け散った。

それと同時に、スピアーたちを光が包み、元に戻す。

元の姿に戻ったスピアーたちは、まるで糸を切られた操り人形のように次々と床に落ち、動かなくなった。

「な……何が……」

想定外の事態に狼狽える下っ端黒装束たち。ゼンタにも何が起こったか分からないが、とにかく決着はついたようだ。

「とりあえず、大人しくしていてもらおうか。ムクホーク、フェザーラッシュ!」

ムクホークが翼を羽ばたかせて無数の尖った羽を飛ばす。

無数の羽が突き刺さり、男たちは声を上げる間もなく気絶し、動かなくなった。

「さて……思ったよりも時間をかけてしまったか。ムクホーク、ドードリオ、よくやった。休んでいるといい」

ムクホークとドードリオをボールに戻し、ゼンタは粉々に砕けた赤黒い宝石に目をやる。

(先程のスピアーの戦い方……まるで体力の限界を超えて強制的に戦闘をさせているかのような挙動だった。宝石が砕けた途端にスピアーが動かなくなったのも合点がいく。原理は分からないが……集めておくか。イザヨイの研究者に解析を頼めば、何かわかるかもしれんしな)

砕けた宝石を回収し、ゼンタは気絶した黒装束からボールを奪い、倒れたスピアーたちを保護すると、一階を後にする。

  1. 目次
  2. 小説情報
  3. 縦書き
  4. しおりを挟む
  5. お気に入り登録
  6. 評価
  7. 感想
  8. ここすき
  9. 誤字
  10. よみあげ
  11. 閲覧設定

▲ページの一番上に飛ぶ
X(Twitter)で読了報告
感想を書く ※感想一覧 ※ログインせずに感想を書き込みたい場合はこちら
内容
0文字 10~5000文字
感想を書き込む前に 感想を投稿する際のガイドライン に違反していないか確認して下さい。
※展開予想はネタ潰しになるだけですので、感想欄ではご遠慮ください。