魔王と救世の絆   作:インク切れ

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第101話 待ち受けるは邪冠の悪魔

「社長さぁん、これでもダメ? そちらにとってもかなりいい条件のつもりなんだけどなぁ」

アルスエンタープライズ本社13階、社長室。

そこで社長と話しているのは、行儀悪くテーブルの上に腰掛け、不気味な笑みを浮かべた、少女にも見える少年、魔神卿パイモン。

時代を間違えたような派手な王冠と赤い貴族のような衣装に身を包み、悪意に満ちた瞳で社長を見据える。

「……どんな条件を出されても返答は同じだ。顧客を危険に巻き込むような、そんな取引はできない!」

そして。

その向かいには、震えながらも語気を強めて言い返す初老の男性。

「そう言われてもさぁ、こっちもはいそうですかと引き下がるわけにはいかないんだよね。今の街の状況、分かってるんでしょ? ぼくがこれ以上荒っぽい手段に出る前に承諾してほしいんだけどなぁ」

そしてそんな社長の言葉を受けても、パイモンはせせら笑うのみ。

「しっかし、強情だねえ。だいぶお金は積んだつもりでいるんだけどなぁ。それともあれかな? 名だたる大企業の社長、これだけの大金でもまだ安く見えるってことかな?」

「金の問題ではない! 顧客の信頼を裏切るような真似はできないと、そう言っているんだ!」

声を荒げる社長を見て、パイモンは小さく舌打ちする。

「……そうかぁ。さすがに、こっちもそろそろ荒っぽい手段に頼りたくなってきちゃったんだけど」

ダン! とテーブルを叩き、パイモンが袖からモンスターボールを取り出す。

その時。

 

「そこまでだよ!」

 

カードキーによって部屋の扉を開き、ハルとラルドが社長室へと突入する。

「パイモン、やっぱりお前だったか。社長を離して、この街も解放するんだ」

ハルが踏み出し、テーブルに座るパイモンへと言い放つ。

「ちぇっ、もう到着かぁ。思ったよりも早かったなぁ」

ボールを掴んだまま、不機嫌そうにパイモンはハルの方を向く。

「久しぶりだね、ハル君。そっちの子は初めましてだね。ところで、ここに来たってことはパラレルもアスたんも負けちゃったってことだよね? アスたん倒したの、どっち?」

「最終的には僕だよ。僕が倒せるくらいまで削ってくれたのはラルドだけど」

「へえ、二人ともやるじゃん。アスたんって実はああ見えて頭いいんだよ。ぼくと話しててもちゃんと話も合うしね。七人の魔神卿の中ではアスたんが一番弱いんだけど、それでも誇っていいと思うよ?」

本気出してたかは知らないけどね、とパイモンは続ける。

「アスたん、専門技術学べばアモちゃん――分かるかな、アモンの代わりに参謀くらいなれると思うのになぁ。アモちゃんも賢いけど、たまに考え方が古臭いんだよねぇ。アモちゃんみたいなのは後ろで支援するよりバトルの方が向いてるよ、多分」

「お前、パイモンっつったな。イザヨイシティを乗っ取って、何が狙いだ」

話がずれてきたパイモンの言葉は無視し、ラルドが口を開く。

しかし、

「ん? あぁ、その件? そっちに関してはアスたんとロノが勝手にやったことだし、ぼくに聞かれても困るなぁ。そもそもさ」

パイモンの返事は、ハルとラルドが全く予想だにしていない返答だった。

「イザヨイシティなんて、別にどうでもいいんだよね。ぼくの目的は、あくまでアルスエンタープライズと契約を結ぶことなんだからさ」

「は……?」

「どういうこと……?」

疑問を隠せないラルドとハルに対し、パイモンはさらに続ける。

 

「“アルス・フォンに関する全ての権限をゴエティアに売り渡してね”。ぼくの要求はそれだけなんだけど」

 

そう、言ってのけた。

「そ、それじゃ、なんでイザヨイシティの乗っ取りなんか……」

「あぁ、それ? さっきも言ったよね、アスたんとロノが勝手にやったって。アスたんに『交渉の間邪魔が入らないようにしといて』って頼んだ結果、なんかアモちゃんに協力してもらって街ごと制圧する流れになっちゃってたんだよね。アモちゃんがゴエティアの拠点からイザヨイの基幹『マキノシステム』にハッキングしてアクセス権乗っ取って、セキュリティを含めた一切の機能を停止させて、その間にアスたんがロノを引き連れて丸ごと制圧しちゃった。ぶっちゃけそこまでやれとは頼んでないんだけど、邪魔が入らないならいいかなって。まあ結局は君たちに邪魔されてるんだけどね」

自分たちのやっていることがあたかも当然のことであるかのようにぺらぺらと喋るパイモンだが、やはりゴエティアのやることは常軌を逸している。

そして、

「馬鹿な……『マキノシステム』を、ハッキングした!?」

パイモンのその言葉に反応したのは、アルスの社長だった。

「『マキノシステム』はこの街のジムリーダーにして天才科学者、マキノさんが作り上げた、彼女にしか扱えないイザヨイシティの基幹システム。それを乗っ取るなど、できるはずが……」

「だーかーらーさぁ」

面倒くさそうにパイモンが頭を掻く。

「そっちの常識で物事を考えてもらっちゃ困るんだよね。普通の人間じゃ出来ないことが出来るのが、ゴエティアなんだよ」

そこまで話すと、さて、とパイモンはハルの方に向き直り、

「ハル君。君はイザヨイシティを解放するためにここに来たんだよね? つまり、ぼくを倒しに来たわけだ」

「そうだよ」

「ふぅん。だったら」

薄ら笑いを浮かべ、パイモンは掴んだボールをハルへと向ける。

「ぼくを相手に今の君がどこまでやれるか、試してあげるよ。シュンインの林で会った時と比べて君がどのくらい成長しているのか、ぼくとしても気になるしね。あんまり時間は掛けたくないから、ぼくに勝てる見込みはないと判断した時点で終わらせるけど。どう? 君が勝ったら、もちろんこの街は解放するよ」

「分かった。元より、そのつもりでここに来たんだ。ラルド、ここは僕に任せて」

「おう」

ラルドが引き下がり、ハルはモンスターボールを取り出し、パイモンと対峙する。

「さあ、勝負だ! パイモン!」

「ふふふ、そう来なくっちゃ。それじゃ、始めよっか」

不敵な笑みを浮かべ、パイモンが手にしたボールを突き出す。

「やっちゃえ、スターミー!」

現れたのは、青い星形のボディを二つ連結させたようなポケモン。中心部にある赤いコアのようなものが淡く発光している。

 

『information

 スターミー 謎ノポケモン

 コアから電波を発信しているが

 何のための電波なのか不明。食性や

 繁殖方法なども解明されていない。』

 

異質な見た目のポケモンだが、とりあえず水とエスパータイプを併せ持つポケモンのようだ。

「スターミー、まずは邪魔なものをどけちゃおう。サイコキネシスだよ」

スターミーは場に出るとコアから念力を発生させ、部屋のテーブルや社長の座るソファーなどを社長ごと全て部屋の隅へと無造作に移動させる。

「スピアー、社長が何かしないように見張ってて。変な真似したら即座に刺していいからね」

さらにパイモンはスピアーを出し、社長の背後で毒針を構えさせる。

「さ、ハル君もポケモンを出しなよ」

「水・エスパータイプなら……出てきて、オノンド!」

対して、ハルが繰り出すのはオノンド。牙を構え、低く唸って戦闘態勢に入る。

「それじゃ、始めよう。スターミー、まずは十万ボルト!」

バトル開始と同時、スターミーがその場で回転を始める。

中央のコアに電気がチャージされ、そこから高電圧の強烈な電撃が発射される。

「オノンド、躱して! ドラゴンクロー!」

オノンドが両腕に輝く光の竜爪を纏う。

電撃を避けつつ突撃し、巨大な爪でスターミーへと切りかかるが、

「スターミー、弾いちゃおっか。高速スピン!」

対するスターミーは躱そうとすらしなかった。

その場で超高速で回転し、振り下ろされるオノンドの竜爪を逆に弾いてしまい、

「もっかい十万ボルト、いっとこ」

回転をやめないまま、スターミーがコアから再び電撃を発射。

攻撃を弾かれて体勢を崩していたオノンドは回避が間に合わず、電撃を浴びてしまう。

「オノンド、大丈夫? 一旦立て直すよ」

電気技はドラゴンタイプには効果今ひとつ、オノンドはすぐに起き上がり、雄叫びを上げる。

しかし、

(効果今ひとつにしてはダメージが大きいな……タイプ一致でない電気技でこれなら、水技やエスパー技はそれ以上ってことか)

このスターミー、見た目に反して火力のあるポケモンのようだ。今ひとつの技でも、そう何回も受けるのは危険だ。

「さあ、どう来るのかな? 来ないならこっちから行くよ。スターミー、サイコキネシス!」

コアを妖しく光らせ、スターミーが発生させた念力を飛ばして衝撃波を起こす。

「オノンド、シザークロス!」

鋭い牙を振り抜き、オノンドは念力の波を食い破り、

「もう一度だ!」

そのまま牙を構え、スターミーへと向かっていく。

「また弾いちゃえ。高速スピン!」

対するスターミーも再び超高速の回転でオノンドを迎え撃つが、

「回転してるなら、狙い目は真ん中だ! オノンド!」

カザハナジムのカポエラー戦での経験が活きる。どれだけ回転しようと、中央部はカバーできない。

一気に距離を詰め、オノンドが牙を振り抜き、スターミーのコアを切り裂いた。

「おっと……スターミー、大丈夫かな?」

どうやらコアが急所らしい。スターミーは電子音のような声を上げ、体を震わせて立ち上がる。

「さてさて、もう回転戦法は使えないかな。スターミー、ギアを上げるよー」

ニヤッとパイモンは笑い、

「ハイドロポンプ!」

スターミーが腕に水を集める。

投げつけるような挙動とともに、腕の先端から高圧の水流を噴射する。

「オノンド、避けて!」

咄嗟に飛び退き、間一髪でオノンドは水流を躱す。

(っ……水技の中でも威力の高いハイドロポンプとはいえ、なんてパワーなんだ……!)

まるで、水のレーザー光線のようだった。

今までハルが戦ってきたポケモンの水技と比べても、今のハイドロポンプの威力は飛び抜けていた。

「それでも負けられない! オノンド、ドラゴンクロー!」

オノンドが両腕に青く輝く竜爪を纏わせ、再びスターミーへと突撃を仕掛ける。

「スターミー、躱して十万ボルト!」

対してスターミーは回転しながら滑るような動きでオノンドの竜爪を回避しつつ、背後へと回り込みながらコアに電気を溜め込み、強烈な電撃を放つ。

「オノンド、後ろ! ドラゴンクロー!」

赤いコアから電撃が放出されると同時に、オノンドは光の竜爪を纏った爪を突き出す。

電撃を突き破ろうとするも、競り合った末の相殺が限界だった。

「スターミー、手を緩めないよ! もう一発!」

スターミーのコアが黄色く輝き、溜め込んだ黄金の光を放出するように再び電撃が発射される。

「躱して! シザークロス!」

確かに強力な電撃だが、先程のハイドロポンプに比べれば勢いも威力も弱い。

一直線に発射された電撃をジャンプで躱し、そのまま空中から一気にスターミーとの距離を詰め、鋭い双牙で二度切り裂く。

だが。

「捕まえちゃおうか。スターミー、サイコキネシス!」

攻撃を受けたスターミーは動きを止めず、コアから強力なサイコパワーを発生させる。

至近距離にいたオノンドはサイコパワーをまともに浴び、念力に拘束されて完全に動きを封じられてしまった。

「っ、しまった……! オノンド――」

「もらいぃ! スターミー、ぶん投げちゃえ!」

ハルが指示を出そうとするが間に合わず、スターミーがコアを妖しく輝かせて念力を操作し、オノンドを投げ飛ばして床へと勢いよく叩きつける。

さらにそれでもまだオノンドの拘束は解けていないようで、

「これで決めちゃおうか。ハイドロポンプ!」

念力によって床に縫いとめられたオノンドへ、スターミーが腕から高圧のジェット水流を噴射する。

オノンドを水柱に飲み込んでそのまま吹き飛ばし、物凄い勢いで壁へと叩きつけた。

「オノンド!?」

壁に激突し、床に落ちたオノンドはびしょ濡れになって目を回し、戦闘不能となっていた。

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