魔王と救世の絆   作:インク切れ

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第102話 最強の魔神卿の実力

スターミーのハイドロポンプが直撃し、早々にオノンドは戦闘不能となってしまった。

「オノンド、ごめんよ……お疲れ様。戻って休んでてね」

オノンドを労い、ボールに戻し、ハルはスターミーの方へと目を向ける。

(オノンドに対して水技は効果今ひとつなのに、あの威力を出せるなんて……ベリアルのヘルガーの炎でさえ、こんなに強くは……)

以前戦ってきた魔神卿と比べても、パイモンは強い。戦闘専門を名乗るベリアルと比べても、だ。

となれば、次に出すポケモンは決まってしまう。出し惜しみできる相手ではない。

「こうなったら、もう君しかいない。出てきて、ルカリオ!」

ハルが選んだのはルカリオ。先程までのスターミーの火力を見る限り、まともに相対出来そうなのは最早ルカリオしかいない。

傷薬で回復したとはいえパラレル戦での疲れが少しは残っているはずだが、そんな様子は微塵も見せず、両手から波導を生み出して静かにスターミーを見据える。

そして、それはパイモンにも分かっている。

「だよね、そう来ると思ってたよ。ちょうどいいや、ぼくも見てみたいと思ってたんだよね。ハル君が使うメガシンカの、その力をさ」

「言われなくても、そのつもりだよ。ルカリオ、準備はいい?」

ハルの言葉にルカリオは頷き、メガストーンの填まる腕輪をつけた右腕を掲げる。

「よっし! 僕と君の、絆の力に応えて! ルカリオ、メガシンカだ!」

ハルのキーストーンと、ルカリオのメガストーンが反応し、光が両者を繋ぐ。

七色の光を纏い、メガシンカエネルギーと波導が体内を駆け巡り、ルカリオはメガシンカを遂げる。

「行くよッ! ルカリオ、ボーンラッシュ!」

ルカリオの右手を覆う波導が形を変えて槍となり、得物を携えてルカリオが地を駆ける。

スターミーとの距離を一気に詰め、槍の切先を放つ。

「スターミー、下がって! ハイドロポンプ!」

回転して後ろへ素早く下がり、ボーンラッシュの射程から逃れつつ、スターミーは腕から高圧の水流を噴射する。

「ルカリオ、ジャンプ! 上からだ!」

激しい水流を大きく跳躍して回避し、ルカリオは上空から再び槍を構えて一気に急降下、今度は刺突の連打がスターミーを捉えた。

「っと、スターミー、十万ボルト! 動き回ってみようか!」

立て直したスターミーは高速回転しながらルカリオの周囲を駆け回る。

コアに電気を溜め込み、動き回りながらルカリオへと高電圧の電撃を撃ち出す。

「ルカリオ、防いで! もう一度ボーンラッシュだ!」

手にした槍を振り回し、ルカリオは周囲から襲い来る電撃を受け止め、弾き飛ばす。

波導の力を集中させてスターミーの回転の動きを見極め、

「波導弾!」

槍を瞬時に波導の念弾に変え、放出する。

電撃と念弾が競り合うが、さすがに適応力の特性を乗せたルカリオの格闘技は強い。

電撃を打ち破りながら突き進み、必中の波導弾がスターミーを捉えた。

「やるじゃん。スターミー、サイコキネシス!」

無機質な電子音のような鳴き声をあげ、スターミーはコアを点滅させて強いサイコパワーを発生させ、念力の衝撃波を起こす。

「ルカリオ、回避! 念力の軌道を探って!」

サイコパワーは目に見えないが、ルカリオは波導の力で衝撃波を感知し、跳躍してサイコキネシスを躱す。

「逃がさないよ。スターミー、ハイドロポンプ!」

「来た……! ルカリオ、発勁!」

宙に飛び上がったルカリオに向けてスターミーが高圧のジェット水流を噴射し、対するルカリオは右手に波導を集中させて強化した右掌を水流へと叩き込む。

再び両者が競り合うが、今度はルカリオの力を持ってしても打ち破ることはできず、お互いの技は相殺される。

「十万ボルト!」

スターミーがコアに電気を溜め込み、回転しながら高電圧の電撃を放つ。

「ルカリオ、受け止めて! ボーンラッシュ!」

ルカリオの右手を覆う波導が、再び槍の形へと変化する。

手にした槍を曲芸が如く舞わし、地を駆け、電撃を逸らしながら突き進み、

「今だ! 竜の波導!」

槍は形を変え、光り輝く竜となって突き進む。

光の竜がスターミーに噛みついたと同時に炸裂、青い爆発を起こす。

「決める! ボーンラッシュ!」

爆炎に吹き飛ばされるスターミーを追い、ルカリオが槍を構える。

起きあがろうとするスターミーのコアを狙い、波導の槍を突き刺した。

スターミーは甲高い電子音のような悲鳴をあげ、ぐったりと倒れて動かなくなった。

「あら? やられちゃったかぁ、まぁいいや。スターミー、戻って」

スターミーを戻すパイモンの表情に一切の焦りはない。寧ろ、この戦いを楽しむかのように薄ら笑いを浮かべてさえいる。

「流石だねえ。ジムリーダーからメガシンカを継承されただけのことはあるね」

それじゃ、とパイモンは懐から次のボールを取り出す。

「こいつ使うか。やっちゃえ、メタグロス!」

現れたのは、青い巨大な鋼のボディに四本の頑丈な鉄の脚を持つポケモン。顔にはX字のフレームが装着されている。

 

『information

 メタグロス 鉄脚ポケモン

 四つの脳はスーパーコンピュータを

 上回る知能指数を叩き出す。相手の

 動きを先読みして戦うことができる。』

 

見た目からも分かるが、以前からパイモンが使っていたメタングの最終進化系だ。

かなりの重量なのか、一歩足を踏み出す度に硬い爪が床に食い込む。

「さあ、次はこいつが相手だ。掛かっておいでよ」

パイモンが手招きしてハルを挑発し、メタグロスは身動きせずにルカリオを見据える。

「かなり強そうなポケモン……だけど、ここまで来たらやるしかない! 行くよルカリオ! 波導弾!」

まずはルカリオが動く。右手を突き出し、その掌から波導の力を集めた光弾を発射する。

「メタグロス、サイコマシンガン!」

メタグロスの顔面のX字のフレームが輝き、念力を発生させる。

生み出された念力は実体化して無数の小さな念弾となり、マシンガンのようにサイコパワーの念弾が一斉に撃ち出される。

ルカリオの放った波導弾は蜂の巣にされて一瞬で破壊され、残った念力の弾はルカリオへと襲い掛かる。

「来るよ! ルカリオ、躱して!」

素早い動きでルカリオは残った念力の弾を次々と躱していくが、

「甘いね。メタグロス、ラスターカノン!」

メタグロスがX字のフレームに力を集め、鋼のレーザーを放つ。

避け方を予測していたのか、素早いルカリオを的確に捉え、レーザー光線がルカリオを呑み込み、吹き飛ばした。

「メタグロスってポケモンはね、四つの脳を使った圧倒的な知能によって相手の動きを分析できる。ルカリオも波導で相手の動きを読むのが得意なポケモンだろうけど、ぼくのメタグロスの計算能力はそれ以上だよ」

得意げにパイモンが語り、メタグロスはただ冷徹にルカリオを見据える。

ルカリオの動きを機能として分析し、次の動きを見定める。

「さあ、続けよう。メタグロス、雷パンチ!」

四本の足を折りたたみ、メタグロスが念力で宙に浮かび上がる。

そのまま前脚に電撃を纏わせ、浮いたまま突撃を仕掛けてくる。

「電気技なら……ルカリオ、ボーンラッシュだ!」

ルカリオの波導が形を変え、槍となる。

突っ込んでくるメタグロスに対し、波導の槍で迎え撃つが、

「読み通りだよ。冷凍パンチ!」

激突の直前、メタグロスが回転する。

冷気を纏っていた後脚を伸ばし、二本の鉄脚で槍を弾き飛ばし、ルカリオを蹴り飛ばした。

「ラスターカノン!」

折り畳んだ足を伸ばして床に立ち、メタグロスはフレームから鋼のレーザーを発射する。

「ルカリオ、食い止めて! 発勁!」

立ち上がったルカリオが、増幅させた波導を纏った掌を突き出す。

鋼のレーザーと波導の掌底が激突、ルカリオは少し押されるが、地に足をつけてしっかりとメタグロスの光線を受け止めた。

「よく止めたね。でもこれはどうかな? サイコマシンガン!」

レーザーを止められたメタグロスは続けてフレームから念力を発して実体化させた無数の念力の弾を放つ。

「だったら、ボーンラッシュ!」

波導の槍を手にしたルカリオが、槍を振り回して無数の念弾を迎え撃つ。

だが念弾の一つ一つの威力が高い。ルカリオの持つ波導の槍に次第にヒビが入り、遂には打ち破られて残りの念弾をまともに浴びてしまう。

「ルカリオ! くっ、強い……!」

メガシンカしたルカリオの攻撃力すら上回る火力。それに加えて硬い鋼のボディは防御力も高く、おまけに四つの脳を持ち知能指数も圧倒的。先発のスターミーと比べても明らかに強い。恐らく、パイモンのエースポケモンなのだろう。

「さあさあ、ハル君の力はまだまだそんなもんじゃないでしょ? メタグロス、冷凍パンチ!」

再び四肢を折り畳んで浮上し、メタグロスが前脚に冷気を纏わせて突進する。

「ルカリオ、ギリギリまで引きつけて」

両手の波導を強めて、ルカリオは目を閉じ、波導の力に集中する。

メタグロスが一気に眼前に迫る。浮遊したまま前脚を振り上げ、ルカリオへ冷気の打撃を放つ。

「今だルカリオ! 発勁!」

刹那、波導の力でメタグロスの位置を確認していたルカリオがカッと目を見開く。

だが、

「ハズレ。メタグロス、雷パンチ!」

振り上げた腕をそのままにメタグロスはルカリオのすぐ真横を通り抜ける。

冷凍パンチはフェイント、ルカリオの背後から電撃を纏った鉄脚を突き出す。

「想定内! ルカリオ、避けて!」

しかし、ルカリオは発勁を撃っていなかった。

メタグロスがフェイントを仕掛けてくることを予測し、ルカリオは身を捻ってメタグロスの突き出した雷パンチを回避する。

そのままメタグロスの背に向けて、波導を纏った掌底を叩きつけた。

「今だ! ボーンラッシュ!」

体勢を崩して浮遊念力が乱れ、床に落ちたメタグロスへ、ルカリオは立て続けに波導の槍での刺突を放つ。

鋼タイプのメタグロスには、地面技のボーンラッシュは効果抜群。ようやく手応えのある一撃を叩き込んだ。

「へーえ、まぁそれくらいはやってくれないとね。メタグロス、サイコマシンガン!」

だがメタグロスもその程度では倒れはしない。

槍の連打を放ったルカリオは素早くメタグロスとの距離を取ったが、メタグロスはそれも予想していたのか、ルカリオの飛び退いた方向へ正確に無数の念力の弾を撃ち出す。

咄嗟に躱そうとしたルカリオだが全弾は回避できず、何発かはルカリオを撃ち抜いてダメージを与える。

「よしよし、その調子だよ。メタグロス、ラスターカノン!」

念力の銃弾を撃ち込まれて体勢を崩すルカリオへ、メタグロスはさらに鋼のレーザー光線を放つ。

「まずっ……ルカリオ、躱して!」

体勢の整わないままでも何とかルカリオは飛び退き、間一髪のところでレーザーを避けるが、

「はい読み通り。雷パンチ!」

四肢を折り畳んだメタグロスが飛び出す。

ルカリオの飛び退いた先へ、電撃を纏った渾身の一撃を放ち、ルカリオを蹴り飛ばした。

「くっ……」

あまりに強い。強すぎる。ルカリオの攻撃がまるで通用しない。

いや、攻撃どころではない。そもそも、ハルとルカリオの戦法自体がまともに通じていない。

それでも、

「諦めるわけにはいかないんだ。パイモン、僕はお前に勝って、イザヨイシティを取り戻すんだ! !」

ハルの叫びに呼応して立ち上がったルカリオが、咆哮と共に膨大な波導をその身に纏う。

「……なるほどねぇ。それがハル君の最後の切り札ってわけか」

パイモンの表情に変化はない。

ハルとルカリオの特別な絆の力による、波導の覚醒。

燃え盛るが如き激しい波導を纏ったルカリオを目前にしてもなお、パイモンは冷や汗一つ浮かべない。

「ルカリオ! 発勁だ!」

右腕全体を覆うほどの、青き炎の如き波導を纏い、ルカリオは地を蹴って一気に駆け抜ける。

「最後は正面突破か。潔いね、そういうのは嫌いじゃないよ」

深く息を吐き、パイモンはさらに言葉を続ける。

「まぁでも、残念だけど……まだぼくには届かなさそうだね。メタグロス、サイコマシンガン!」

メタグロスが顔面のX字のフレームから発生させた念力を実体化させ、無数のサイコパワーの念弾を作り上げる。

実体化した念弾はマシンガンのように一斉に射出され、ルカリオを迎え撃つ。

サイコパワーの銃弾がルカリオを纏う波導を貫き、削ぎ落とし、容赦なくルカリオを撃ち抜いた。

蜂の巣にされたルカリオが、前のめりに床へと倒れ伏す。

「ルカリオ……!」

体を纏う残り僅かな波導が霧散し、その体が七色の光に包まれ、メガシンカ前の元の姿へと戻る。

つまり。

それは、ルカリオの戦闘不能を意味していた。

「……ルカリオ、お疲れ様。よく頑張ったね、休んでて」

ルカリオを労い、ボールに戻したところで、「ま、こんなところかな」

テーブルから立ち上がったパイモンはメタグロスの背中に腰掛け、ハルを見下ろす。

「シュンインの林で対峙したときと比べたら、見違えるほどに強くなってると思うよ、ハル君。だけど、ぼくにはまだまだ及ばないってところだね」

「何言ってんだ、お前? ハルにはまだポケモンが――」

ラルドが口を挟むが、パイモンはそれを遮り、言葉を続ける。

「ハル君も気付いてるんでしょ? 君の手持ちのポケモンが何であれ、今の君じゃ、ぼくには勝てないって」

そう告げられ、ハルはパイモンを見上げる。

これは事実だ。

絆の力を発動させたルカリオですら歯が立たないのであれば、今のハルではパイモンには敵わない。

「ごめん、ラルド。こいつの言う通りだ。今の僕じゃ、多分こいつには勝てない」

ラルドに目線を向け、ハルは静かにそう言った。

ラルドの息を呑む音が聞こえたが、言い返しては来なかった。

「でも頑張った方だと思うよ? スターミーを倒して、メタグロスにも傷を負わせた。とりあえず及第点には達してるってところかな」

そんな様子を見てパイモンはわざとらしく拍手すると、さて、と言葉を続け、

「ま、安心しなって。別に君たちを手にかけるつもりはない。ハル君の頑張りを讃えて、ぼくらはそろそろイザヨイシティから出て行こうかな」

「え……?」

「は?」

思わず、ハルとラルドは聞き返していた。

だが当のパイモンは、顔一杯に意地の悪い笑みを浮かべ、

「計画変更、社長をぼくらのアジトに連れて行くことにするよ。ここでぐだくだやってても仕方ないし、取引の続きはそっちでやる。魔神卿総出でどんな手段を使ってもアルス・フォンの権限を貰うから。あぁハル君、ラルド君、このことは口外しないでね? もしゴエティアとアルスが取引したって情報が外に漏れたら、社長の命は無いと思ってね」

「……っ!」

歯噛みするハルだが、どうすることもできなかった。圧倒的な力で叩きのめされている以上、できることはない。それは、ラルドも同じ事。

「はー、疲れた。ここにはもう用はないし、スピアー、社長さんを少しの間眠らせて。あぁ社長さん、心配しないでね。ちょっとチクっとするだけだから」

パイモンの指示を受け、スピアーが毒針を構える。

その時。

 

「そこまでだ」

 

ハルたちの背後から男の声が響く。

不意に聞こえたその声の正体は、

「ゼンタさん!」

一階で一度別れたゼンタが、三匹のメガスピアーを撃破し、最上階まで登ってきた。

「待たせたな。少々手間取ったが、問題はない。それより」

ゼンタは、パイモンと今まさに毒針を刺そうとしてるスピアーに目を向け、言い放つ。

「お前も魔神卿の一人か。ここまで好き勝手してきたようだが、そろそろ大人しくしてもらおうか」

「はぁ?」

対するパイモンは露骨に不機嫌そうな顔になり、

「まーた新手かよ、めんどくさいなぁ。何? お前もぼくと戦う気? そんなにボコられたいのかよ」

忌々しそうに呟きながらモンスターボールを取り出す。

しかし、

「何を勘違いしているんだ? 私は貴様と戦うつもりなどないぞ」

超然としたまま、ゼンタも言い返す。

「えっ?」

「……?」

パイモンだけではなく、ハルとラルドも怪訝な表情を浮かべるが、

「ハル、ラルド。忘れたか。私たちの目的はこいつと戦うことであり、こいつを倒すことではない」

ゼンタが、そう告げた瞬間。

 

ビーーーーーーー!!! と。

唐突に、建物全体に警報のような耳障りな音が鳴り響く。




《サイコマシンガン》
タイプ:エスパー
威力:25(連続攻撃)
物理
無数のサイコパワーの小型弾を作り上げ、マシンガンのように一斉射出する。

※威力はあくまでも目安です。

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