魔王と救世の絆   作:インク切れ

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第103話 イザヨイシティ、再生

突如、アルスエンタープライズの建物内に警報のような音が鳴り響く。

「っ!?」

パイモンが驚いたような様子を見せたということは、どうやらゴエティアの仕業ではないようだ。

「間に合ったか」

少し安心したように呟いたのはゼンタ、そして、

「これは……イザヨイシティのセキュリティ警報だ」

もう一人冷静なままでいたのは、スピアーに毒針を打ち込まれる直前だった社長だ。

「は? セキュリティ!? そんなバカな、だってここのシステムは全部アモちゃんが――」

先程までの余裕を失い、途端に慌てた様子になるパイモン。

その時。

 

『よくもやってくれたわネ、ゴエティアの魔神卿サン』

 

部屋のスピーカーから、機械を通したような女性の声が響く。

「その声は……マキノさん! ご無事ですか!」

『ご迷惑をお掛けしたわネ、社長サン。たった今、この街の管理システム「マキノシステム」が復旧したわヨ』

社長とのやり取りを聞く限り、恐らくこの声の主こそがイザヨイシティジムリーダー 、マキノなのだろう。

「なっ……バカな、あり得ない! ちょっと待ってよ――もしもし! アモちゃん!?」

慌ててパイモンが小型の通信機を取り出す。

「ねえアモちゃん、どういうこと!? アクセス権限取り返されちゃってるんだけど!?」

『かたじけない……完璧に掌握していたはずなのですが、たった今向こうが復旧したようで権限を奪い返され……くっ、だめです、取り返せませんな! 早く撤収された方がよろしいかと!』

「嘘だろ……? アモちゃんのハッキングを、どうやって……!?」

『パイモン、って言ったかしら? 面白い焦りようネ。カメラのシステムも取り返したから、そっちの状況、筒抜けヨ』

スピーカーの向こうでこちらの様子が見えているらしく、マキノがせせら笑うような声が聞こえる。

『こっちにも協力者が来てくれてネ、システムとドッキングしていたせいで動けなくなっていた私を救出してくれたのヨ。助かったワ、彼女が来てくれて。パイモンサン、貴方もう少し有能な見張りを用意した方がよかったんじゃないかしラ?』

「うっさい! くそっ、だから見張りにはベリちゃんを使いたかったのに……協力者? 一体誰が! ノワキの奴らか!?」

喚くパイモンに対し、スピーカーから協力者の声が響く。

『おまたー。イロー様、参上☆三人とも、無事かなー?』

聞こえてきた声の主はイロー。そこでハルも今回の作戦を思い出す。

ゴエティアの連中がハルやノワキの住民たちから目を離せなくなったところで、イローがマキノを救出する。作戦決行の前に、クリュウはそう言っていたはずだ。

「イローさん! 間に合ったんですね!」

『モチのロンよ。さ、今はそいつらを捕まえるのが先よ』

『そうネ。さて、パイモンサン。この街全体に電磁バリアを仕掛けたワ。貴方の仲間もまだこの街からは出ていないようだし、全員纏めて捕まるのも時間の問題ネ。ところでよそ見してる場合? 社長サン、逃げちゃったワヨ?』

「っ!?」

咄嗟にパイモンが振り向くが、既に社長はハルとラルドによって救出され、ゼンタの背後へ逃げてしまっていた。

「くそっ……こうなったら……いや、ここを超えても、まだ外にはノワキの連中とイザヨイの連中が残ってるし……」

焦り呟くパイモンだが、どうやら何とかして逃走するしかないと踏んだらしく、

「メタグロスは傷ついてるから全速力は出せないし……バルジーナ、出てきて! スピアー、メタグロス、戻って!」

スピアーとダメージを負っているメタグロスをボールに戻し、代わりに骨で着飾ったハゲワシのようなポケモンを繰り出す。

 

『information

 バルジーナ 骨鷲ポケモン

 大空を旋回しながら地上を観察し

 弱ったポケモンを捕まえて連れ去る。

 捕食した獲物の骨で巣を作る。』

 

バルジーナに飛び乗るが早いか、パイモンは叫ぶ。

「バルジーナ、窓を突き破って逃げるんだ! 早く!」

主のただならぬ様子に焦りを感じたのか、バルジーナも慌てて飛び立つと、強引に窓ガラスをぶち抜き、飛び去っていった。

「逃げたか……!」

『心配ご無用ヨ。この街のセキュリティロボットが起動している。電磁バリアで足止めを食らってる間に、ロボットが全員まとめてとっ捕まえてしまうワ』

 

 

 

「おい、どこへ行きやがった! 逃げんじゃねえ、出て来いよ!」

怒鳴り散らす声の主は魔神卿ロノウェ。

彼はクリュウたちノワキの住民と交戦していたはずだが、突然鳴り響いた警報に気を取られた隙に、クリュウを中心とした部隊は忽然と姿を消してしまった。

「くそっ、どこだ! ビビってんじゃねえぞザコ共!」

罵声を上げながら街の中を歩き回るロノウェだが、そこで異変を感じる。

「っ! ……?」

一瞬、体に軽い痺れを感じた。ドアノブに手を掛けた時に静電気が走るような、そんな感覚が全身を駆け巡る。

「何だ?」

何気なくロノウェが空を見上げる。

そこには。

 

街全体を囲むように、ドーム状に電磁バリアが張られていた。

 

「……は?」

何が起こっているか分からず、呆然とするロノウェ。

そこへ、

「ロノ! 早く逃げるわよ!」

アーケオスに掴まったアスタロトが、ロノウェの元へ降りてくる。

「逃げる……? どういう事だ?」

「あれ見て分かんないの!? 街のセキュリティが復活したの! 今パイモンがアモちゃんに電磁バリアの解除をお願いしてる! ここから逃げないと私たちは捕まっちゃうの! 分かったら掴まって! 急いで!」

「何だと!?」

ロノウェもようやく事態を把握したようで、差し出されたアスタロトの手を掴む。

二人をぶら下げたアーケオスは激しく翼を羽ばたかせて飛び立ち、バルジーナに乗るパイモン及びガブリアスに乗るパラレルと合流する。

「おい、あれ! やべえぞ!」

ふと背後を振り返ったロノウェが叫ぶ。

アスタロトとパイモンが何事かと後ろを見れば、夥しい数のセキュリティロボットが浮上していた。

「っ……! アモちゃん! バリアの解除はまだ!?」

『もう少しですぞ! しかしマキノシステムの干渉が強い……恐らく解除できるのは一瞬、それを逃したらもう打つ手はない! 確実に脱出するのですぞ!』

「分かってる! 早く!!」

パイモンが通信機に向かって怒鳴る。

背後からは、無数のセキュリティロボットが四人を捕らえんと迫り来る。

『3……2……1……今です!』

「いけえーっ!」

アモンのカウントダウンの直後、電磁バリアが一瞬消滅する。

その隙を突き、ゴエティア四人を乗せたポケモンたちは全力で飛翔。

すぐに電磁バリアは復活したが、パイモンたち四人は間一髪、バリアの外へと逃げ出していた。

『どうにか、逃げ切れたようですな。では、また後ほど』

「はぁ……死ぬかと思った。アモちゃん、助かったよ……ありがとう」

緊張の糸が切れた様にパイモンは大きく息を吐き、通信を切る。

「ロノ、後で説教ね。ロノが街の中ちゃんと見張っててくれたら、こんなことにはならなかったんだから」

「っ……すまねえ」

いつもハイテンションのロノウェも、今回ばかりは俯き謝罪するしかなかった。

そしてアスタロトもアスタロトで、

「それにしても、あのガキ共……マジで覚えておきなさいよ」

いつもの口調はどこへやら、苛立ちを浮かべながら呟く。

結果的には大敗としか言いようがないが、それでも何とか危機を脱し、ゴエティアの四人は逃げるように飛び去っていった。

 

 

 

その後警報は止み、電磁バリアも消える。

魔神卿三人とパラレルは逃げてしまったが、街に取り残された下っ端構成員は全員セキュリティロボットに捕縛された。

後で知ったことだが、アスタロトが奪ったアルスエンタープライズのポケモンを預かっていた下っ端も捕まってしまったので、ポケモンたちは無事研究所へと戻ることができるそうだ。

ハルとラルド、ゼンタの三人はシステム復旧によって再稼働した動く歩道に乗り、ポケモンセンター前でイローと合流した。

「いやっほー! みんな無事でよかったよー!」

ハルたちの姿を見つけ、イローが大きく手を振る。

「ご苦労だったな、イロー。お前も無事で何よりだ」

「イローさんのおかげで、助かりました」

「本当に。一時はどうなることかと……」

そんな三人の様子を見て、イローはケラケラと笑い、

「じゃあ三人とも、一旦ポケモンセンターにポケモンたち預けてきたら? 三人分のポケモン回復には時間がかかるだろうし、その間にジムまで行こ。マキノさんがみんなにお礼を言いたいそうよ」

「そうですね、分かりました」

「私は後で大丈夫だ。ムクホークもドードリオもまだ元気が残ってる。ノワキに戻ったらお前にお願いするよ」

ハルとラルドはゴエティアと戦ってくれたポケモンたちをポケモンセンターに預けると、再び動く歩道へ乗ってイザヨイジムへと向かう。

「そーだ、ハル。マキノさんって、けっこー変わってる人だから。最初会った時はびっくりすると思うけど、いい人だから安心してねね」

「えっ、そうなんですか?」

ハルが聞き返すと、イローだけでなくゼンタやラルドも頷いている。

「うむ……変わってるというか、常軌を逸しているというか……」

「まぁとにかく、会ってみりゃ分かるぜ」

そうこうしているうちに、イザヨイジムの前まで着いた。透明なガラスで覆われた研究施設の様な建物だ。

「さ、行こっか」

イローを先頭に、四人は建物の中へ入っていく。

「マキノさーん。三人を連れてきたよん」

入れば、そこは異質な部屋だった。

ジムバトルの部屋のようだが、壁も床も、天井までもが真っ白。時々ネオンが走るように薄い水色の不思議な模様が壁に移り、バトルフィールドの縁が淡い緑色の光でうっすらと照らされている。

そして、

「アラ、いらっしゃい。イローサン、ありがとうネ」

部屋の奥の自動扉が開き、女性が現れた。

容姿端麗で髪は灰色の長いストレートヘアー、黒い服の上から白い白衣を着た、いかにも研究者、といったような風貌の女性。

しかし、

「えっ……!?」

そんなことがどうでもよくなるくらい、彼女の見た目には特徴があった。

「アラ、やっぱり気になるかしら? 初対面の人はみんなそんな反応ネ。私にとっては今はこれが正常体だから、気にしないでネ」

服を着ているといってももちろん手や足首あたりは露出しているのだが、ハルが驚いたのはマキノの右半身だ。

彼女の右半身は明らかに人体のそれではなかった。右手はまるで黒い装甲を纏ったサイボーグのようだし、袖口から覗く右腕もそう。一言で言うなら、機械だ。顔は普通だが、首から下の右半身が機械化している。おまけに時折、語尾にノイズのような音も混ざる。

「実験の過程で今はこうなっているだけヨ。体に異常はないから、安心してネ」

「えぇ……どういう実験なんですか……?」

「機械を体に取り込んで半永久的な寿命を得るって実験ヨ。まだ未完成だけど」

「は、はぁ……?」

よく見てみれば右目もおかしい。白目にあたる部分は黒く、瞳は緑色と、明らかに機械に侵食されている。

本人が大丈夫と言っているので問題ないのだろうが、やはり違和感がある。ラルドたちはもう見慣れているのだろうか。

「面と向かっての自己紹介はまだだったわネ。私はマキノ。この街のジムリーダーにして、ハイテク都市イザヨイシティのメインシステム『マキノシステム』の管理人ヨ」

 

『information

 ジムリーダー マキノ

 専門:鋼タイプ

 異名:機械仕掛けの女帝(エンプレスエクスマキナ)

 趣味:研究・実験』

 

「ハルといいます。よろしくお願いします」

ハルも簡単に自己紹介する。

「さっきはどうもありがとうネ。皆さんのおかげで、この街を守ることができたワ。あっ、そういえば」

ふと何かを思い出したようにマキノは話を続け、

「さっきゴエティアを捕まえようとして、セキュリティロボットを出動させたでショ? その際にロボットの警戒レベルを最大まで上げてしまったのヨ。そのせいで、関係のない人が何人か捕まっちゃってネ」

「関係ない人……あっ」

「まさか……」

ハルやラルドたちが思い浮かべている人物は同じだった。

「せっかくだから、ここで解放するワ」

マキナが白衣のポケットからリモコンのような機械を取り出し、ボタンを押す。

すると奥の部屋からセキュリティロボットが現れ、拘束していた人たちを床へ雑に下ろしていく。

「あぁ、やっぱり……」

「クリュウさん、大丈夫ですか?」

「みんなで何やってんの? ウケるんだけど」

想像通り、関係のない人とはノワキの住民たちのことだった。

「痛え、くそ……笑ってんじゃねえよ。こいつら、突然ぞろぞろと現れて俺たちを捕まえて連れて行きやがったんだ。俺たちは街を守る側だってのによ」

「ごめんなさいネー。何しろ奴らを捕まえるためにセキュリティレベル最大、イザヨイシティの住民以外は全て捕獲するように指示していたものでネ」

舌を出して悪戯っぽく笑うマキノを見て、クリュウはやれやれと首を振る。

「謝罪の意思が微塵も感じられねえんだが? ……まぁいいか、全員無事だったことだしな」

ようやく解放され、クリュウやアンたちノワキの住民が立ち上がる。

「マキノ、一ついいか」

そこでゼンタが進み出て、マキノに何かを手渡す。

「これを調べてほしい。ゴエティアの連中がポケモンをメガシンカさせるのに使っていた怪しい宝石の残骸だ。キーストーンとは明らかに異なるようだったし、暇な時にでも調べてみてくれないか」

「ん、了解。分かったわヨ」

砕けた赤い宝石を受け取ると、マキノは改めて皆の方を向き、手を叩く。

「さて、今日は皆さん疲れているでしょ。私はまだ復旧作業が残ってるからジムも開けないし、皆さん今日はゆっくり休むといいワ。明日には、ジムを再開するわネ」

そう言って、マキノは微笑む。

魔神卿たちは逃がしてしまったが、イザヨイシティ占領事件は、とりあえずこれにて一件落着だ。

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