「それじゃ、ハル、ラルド。達者でな」
「はい。お世話になりました、ありがとうございました」
「皆さんお元気で! 次に会う時は、成長した俺の姿を見せてやりますよ」
ジムを出た後、ハルとラルドはノワキに戻るクリュウたちに挨拶する。
「おう。楽しみにしてるぜ」
「無理はするなよ。たまにはノワキに帰ってきてもいいんだぞ」
「大変なこともいっぱいだろうけど、頑張ってね……!」
「応援してるぞー? ふぁいとー!」
クリュウに続き、ゼンタやアン、イローたちも二人に別れを告げ、クリュウ一行はノワキタウンへと帰っていった。
「それにしてもマキノさん、本当に変わった人だったよ」
「だろ? 俺らはもう見慣れちまったけど、初めて会った時は驚いたもんだ。ちなみにあの人、若く見えただろうけど実年齢は四十歳超え、マデルのジムリーダーの中でもかなりのベテラントレーナーなんだぜ」
「ええっ!? そうなの!?」
「ああ。科学技術を駆使して若々しい見た目を保ってるんだってよ」
動く歩道に乗ってポケモンセンターに向かいながら、二人はマキノについて話している。
「ところでさ、気になってたんだけど……マキノさんがシステムとドッキングしていたのを、イローさんが救出したって言ってたよね。あれ、どういうこと?」
「あぁ、あれか」
ハルの疑問に対し、ラルドは軽い調子で答える。
「さっき見た通り、あの人は体の半分が機械化してるだろ? それを利用して、イザヨイの管理システム『マキノシステム』と自身を接続させることで、システムの機能をマキノさん自身の頭脳でさらに増強することができるんだ。わざわざそんなことしなくてもシステム自体は稼働するみたいだが、メンテナンスの時とか、街でイベントを開催する時にはシステムをフル稼働させるためにドッキングするんだと。今回はメンテナンス中にマキノさんの機械化した体ごとゴエティアのクラッキングを受けて、自分の意思で接続を解除できなくなってたんだろうな」
「へ、へえ……」
ハルが微妙な反応なのは、驚いていないからではない。
話がとんでもなさ過ぎて、理解が追いついていないのだ。
「元から天才って言われてたのに、さらに機械化によって今ではとんでもない知能指数だって話だぜ。あの人はマデルじゃ有名人だよ。失敗したことがない科学者だってな」
「失敗したことが、ない?」
「正確には、失敗を失敗と考えてない、ってことだけどな。普通の研究者が失敗だと判断するような実験結果を、あの人は成功への一歩だと考える。どんな悲惨な失敗でも、それは成功への道筋。体の半分が機械化されてしまったって、それはマキノさんにとっては成功のための通過点に過ぎないんだぜ」
「そ、そうなんだ……」
話しがぶっ飛びすぎてよく分からないが、とりあえずマキノという人がとんでもなく凄い人だと言うことは分かった。
「ま、俺が凄いと思うのはあの人の思考回路だけどな。俺からしたら肉体の半分が機械になったらなんて考えたくもないけど、マキノさんはその成果を得て喜び、それをどう生かせるか考える。その結果産み出されたのが、人間と機械を繋いでフル稼働する『マキノシステム』だってんだから、あの人の思考回路は凄いよ」
「うーん、なるほどねぇ」
そこだけはハルにも同意できた。
「とはいえ、周りからの評価は両極端らしいけどな。天才科学者だって褒める人もいれば、マッドサイエンティストだって非難する人もいるらしい」
そんなことを話しているうちに、二人はポケモンセンターへと戻ってきた。
「ハルさん、ラルドさん、お待ちしておりました。お預かりしたポケモンはみんな元気になりましたよ」
ジョーイさんからポケモンたちを受け取る。
「ありがとうございます。オノンド、ルカリオ、お疲れ様。今日は大変だったね」
「リザードン、よく頑張ったな。ゆっくり休めよ」
ゴエティアと戦ったポケモンたちを改めて労い、ボールへと戻す。
ラルドは大きく伸びをし、
「はー……俺はちょっと寝るわ。今日はなんだか疲れちまった」
「そうだね。僕はちょっとやりたいことあるから、地下の交流場にいるよ」
ポケモンセンターの宿舎へ向かうラルドを見送り、ハルは地下一階、バトルフィールドのある交流場へと向かう。
先程までゴエティアに占拠されていたため、人はいない。ハルの貸切状態だ。
「さてっと。みんな、出てきて!」
モンスターボールを手に取り、ハルは一斉に手持ちのポケモンたちを出す。
ルカリオ、ファイアロー、エーフィ、ワルビアル、オノンド。それに加えて、今日からはもう一匹。
「皆、嬉しいお知らせだよ。ようやく、僕の仲間が六匹になったんだ。これからよろしくね、ラプラス!」
ポケモントレーナーは、同時に六匹までポケモンを所持できる。
故に、ポケモンを六匹揃えることはポケモントレーナーとしての一つの到達点になる。
ラプラスが加入したことで、ようやくハルもそこに達するに至った。
五匹も多種多様な反応でラプラスを迎える。ファイアローが翼を羽ばたかせて舞い踊り、ワルビアルとオノンドは手を叩いて愉快に囃し立てる。
エーフィもクールに微笑み、最後にハルの手持ち代表としてルカリオが進み出て、広げた右手を差し出す。
ラプラスも器用にヒレを伸ばし、にっこり笑ってルカリオと握手を交わした。この調子なら、一人と六匹で上手くやっていけそうだ。
すると、ラプラスは目を閉じ、歌を歌い始める。
透き通った歌声が、氷のように美しく、しかしどこか温かい旋律を奏でる。
やがてラプラスが歌い終えた時、思わずハルは拍手を送っていた。
「……すごいね。うっとりするほど、綺麗な歌だったよ」
感心する様子のハルたちを見て、ラプラスは得意げに笑う。
ラプラスが他のメンバーたちとも打ち解けてきたところで、次は作戦会議だ。
「さて、次のジム戦はここイザヨイシティ、相手はマキノさんだね」
アルス・フォンで調べたところ、マキノは鋼タイプのエキスパートであるようだ。
「まず、いつ挑むかなんだけど……ルカリオ、オノンド、体は大丈夫? パイモンとの戦いは厳しかったし、君たちが万全になるまで待ちたいんだけど」
パイモンと戦った二匹を気遣うハルだが、その心配は全く無用だった。
オノンドはすぐに戦わせろと言わんばかりに腕を振り上げて吼え、ルカリオもハルの目を見つめて自信満々に頷く。
「ふふっ、みんな頼もしいね。それじゃ、明日にでもジム戦に行こうか!」
ハルがそう返すと、オノンドが真っ先に雄叫びを上げる。
「ところでラプラス、君はバトルをしたことはある?」
ハルが尋ねると、ラプラスは威勢よく頷く。
群れからはぐれていたところを保護された、とのことだったので、ラプラスがバトルを見たり実際に戦ったりすることはできるのかとハルは心配していたが、どうやらこちらの心配もいらないようだ。
「よし、それじゃラプラス、ちょっと技を使ってみようか。ルカリオ、技の練習相手になってくれる?」
とりあえずはラプラスの技を確認。バトルをするわけではないが、ラプラスとルカリオにバトルフィールドに立ってもらう。
図鑑でラプラスの技を確認すると、一つだけ見たことのない技を覚えていた。
「……? ラプラス、“泡沫のアリア”って技、使ってみてくれる?」
ラプラスは頷くと、大きく息を吸う。
美しい歌声と共に無数の水のバルーンを放出し、バルーンは床やルカリオにぶつかると破裂して水を噴き出す。
ルカリオは波導を纏った右手で攻撃を防ぐことができたが、バルーンはかなり広範囲に放たれたため、回避するとなると難しいだろう。
「なかなか面白い水技だな……あとは冷凍ビーム、フリーズドライ、それに渦潮か……特性はシェルアーマーなんだね」
覚えている技は水と氷だけだが、癖もなく扱いやすい技が揃っている。
フリーズドライは氷タイプの技だが、水タイプに効果抜群で攻撃できるという特殊な効果を持つ。ハルの手持ちは水タイプの相手が苦手という弱点があったが、ラプラスの加入により多少は水タイプ対策もできそうだ。
「よし、それじゃあもう少し、ルカリオと訓練してみようか!」
ハルの掛け声に、ラプラスは綺麗な鳴き声と共に笑顔で返事を返した。
マデル地方某所、上空。
魔神卿パイモンの持つ通信機に、着信が入る。
「はーいもしもし。ん、アモちゃん? どったの?」
『申し訳ない、伝え忘れたことがありましてな。先程はあのような緊急事態だったもので、すっかり失念しておりましたぞ』
「別にぼくが帰ってからでもいいのに。どうせもうすぐ着くんだし」
そうパイモンは返すが、話自体には興味があるので、
「で、何の話? わざわざ連絡寄越してくるってことは、それなりに大事な話なんでしょ?」
『ええ。悪い知らせと、よい知らせがありますが』
「え、何そのノリ。んー、じゃあとりあえず悪い知らせからで」
『承知しました。それでは……」
アモンは一拍置き、
『下っ端に装備させた「プロトタイプ・メガウェーブ」についてなのですがな。イザヨイをクラッキングする傍ら、三匹のメガスピアーを測定していたのですが……』
そこでアモンはため息をつき、続ける。
『結論から申し上げますと、実用に値せず。そう言わざるを得ませんな』
「……んー、まぁアモちゃんの口調から、そんな気はしてたけど。そう簡単にメガシンカは使えないか。何がダメだったの?」
『理由は二つ。まず、本来のメガシンカと比べてポケモンの発揮される力があまりにも低すぎること。三匹のメガスピアーが発揮できていた力は、通常の力の五割にも満たないものでしたな』
「それさぁ、あいつらとスピアーの間に何の繋がりもないからじゃないの? メガシンカはポケモンとトレーナーの絆が力の源。アモちゃんに貸し与えられただけのポケモンじゃ、絆もクソもないでしょ」
『それがですな……』
自分でも信じられないといった口調で、アモンは言葉を続け、
『比較対象が“メガシンカを使えるようになって間もないポケモン”なのです。未熟なメガシンカポケモンと比べて五割未満の力、と考えていただければ、この惨状が分かるかと』
「は? よわ……」
思わずパイモンは呟いていた。無理もない。
「未熟なメガシンカポケモンと比べて五割未満? それ、ちょっと強いポケモンってだけじゃん」
『勿論、プロトタイプだから、という可能性はありますがな。しかしその可能性を考慮してもなお実用価値を見出せないのが、もう一つの理由にあります』
アモンが語る、もう一つの理由。それは、
『二つ目。ポケモンに対して、通常のメガシンカとは比べものにならないほどの過剰な負荷が掛かる点。しかもこれ、ポケモンに対してのみです。メガシンカを使用するトレーナーには一切の負荷が掛からず、ポケモンにのみ重く苦しい負担を掛ける、ろくでもない兵器ですぞ』
「うわ、マジか……たしかにそんな代物ならぼくらには必要ないね。でもさ、ろくでもないなんてぼくたちが言えたことじゃなくない?」
ゴエティア魔神卿は全員が曲者、揃いも揃って人格の破綻した悪党揃い。
それは魔神卿たち本人も自覚していることだが、その一方で彼らは自身のポケモンを信頼し、彼らなりに愛着を持って接している。ダンタリオンのゲンガーやアスタロトのクチートがメガシンカを使いこなせているのも、その証拠だ。
『先のスピアーは過剰な力を受けてバトルが終わると同時に完全に動けなくなっていましたが、もし動く力が残っていればトレーナーに対して反逆を仕掛けても何ら不思議ではない。そこまで言えるほどの負荷が掛かっていました。このメガウェーブの本来の開発者は、ポケモンを単なる道具程度としか考えていなかったのでしょうな』
そこまで話すと、アモンは一息つく。
「まぁしょうがないよ。正直、メガウェーブに関しては何か裏があるんだろうなとは思ってたし。そんじゃ、次はいい知らせを聞かせてもらおうかな」
『承知しました。それではこちらも、結論から申し上げますと』
パイモンに促され、アモンは語り出す。
『キーストーン、ひいてはメガストーンそのものを作り上げることができるかもしれません』
「はぁ!?」
あまりにも衝撃的な内容に、思わずパイモンは叫んでしまった。
突然大声を上げたパイモンに驚き、背後のロノウェやアスタロトたちが視線を向ける。
「キーストーンを作れる!? メガウェーブなんてどーでもよくなるくらいやばい話じゃん! え、どういうこと!?」
『落ち着きなされ。今から説明させていただきますぞ』
荒ぶるパイモンを落ち着かせ、アモンは話を続ける。
『時にパイモン。貴方はフェルム地方と呼ばれる場所をご存知ですかな?』
「フェルム? いや、知らない。どこ?」
疑問符を浮かべるパイモンだが、後ろから反応があった。
「フェルム地方……聞いたことがあるぞ」
そう返してきたのは、アーケオスに掴まるロノウェだ。
「たしか、ポケモンバトルがかなり盛んな地方だったはずだ。各街に大きなアリーナが建てられて、常日頃からバトル大会が開催されてると聞いたことがある」
『その通りですぞ。フェルム地方は、地方独自のポケモンバトルに力を入れている地方でしてな。「共鳴石」と呼ばれる石が人とポケモンを繋ぐ街で、この共鳴石を用いてバトルを行うのですが』
「石を使うって、なんかメガシンカみたいだね」
『いいところに気付きましたな。みたい、というより、メガシンカそのものなのです。簡単に説明しますと、フェルムのトレーナーは巨大な共鳴石を削り、小さな共鳴石を組み込んだアイテムを使い、ポケモンに一時的に力を与えることができるのです。現地ではそれを「共鳴バースト」と呼んでいるそうですが……それはともかく、共鳴バーストしたポケモンは一時的に強大な力を得られるのです。そして、メガシンカを使えるポケモンが共鳴バーストの力を得ると、メガシンカするのですよ』
「えっ……? それって、まさか」
『そう。キーストーンやメガストーンは、この共鳴石を使って作ることができる可能性が高い。つまり、この仮定が正しければ、私たちの科学力をもってすればキーストーンやメガストーンを作り上げることも出来るかもしれない。メガウェーブなど使う必要もなく、ポケモンの力を最大限引き出す正しいメガシンカが使えることになりますな』
「マジか……アモちゃん、大手柄じゃん! 今すぐ共鳴石を取りに行こうよ!」
先程までのお通夜ムードはどこへやら、パイモンの顔に歓喜の笑顔が浮かぶ。
『貴方たちが帰り次第出発する予定でしたが、ただし、全員でというわけにはいきませんな。共鳴石は元は人間とポケモンの絆を確かめる儀式に使われていたものらしく、天然の共鳴石の眠る地は神聖な場所として禁足地とされているようです。忍び込むにしても、二人か三人が限度でしょうな』
「んー、それなら……」
パイモンは少し考え込み、後ろを振り向く。
「アスたん、仕事続きで悪いんだけど、アモちゃんとの同行を頼まれてくれるかな。こういう工作活動は多分アスたんが一番向いてると思うんだ。アジトに帰り次第、アモちゃんが説明してくれると思うからさ」
「分かったわよ。要はアモンについて行けばいいんでしょ」
二つ返事でアスタロトは了承する。
「俺は――」
「ロノは帰ったら説教だから。忘れてないよね?」
「……忘れてないです」
イザヨイでの大戦犯を黙らせ、パイモンは再び通信機を取り出し、
「それじゃ、そっちに着いたらアスたんを同行させるよ。詳しくはまた説明してあげてね。それじゃ、もうちょっとで着くから」
『ええ。お待ちしておりますぞ』
約一名落ち込んだままの者がいるが、イザヨイでの大敗からはどうにか立ち直り、ゴエティアの四人は空を飛び去っていく。
フェルム地方はゲーム『ポッ拳』の舞台です。
名作だからみんな、買おう!