魔王と救世の絆   作:インク切れ

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第105話 イザヨイジム、鋼のタクティクス!

ルカリオとの特訓の結果、ラプラスのバトルはハルの想定以上のものだった。

長い間アルスで保護下にあったため、まだバトルに慣れていない感は否めないが、それでも戦闘センスは高そうだ。

「よし、ラプラス、お疲れ様」

背伸びしてラプラスの頭を撫で、

「そういえば、まだ君の好みの味を知らなかったね」

バッグの中の木の実保管ケースからいくつかの木の実を取り出し、ラプラスへと差し出す。

ハルの手の上にある五、六種類の木の実のうち、ラプラスは迷いなくソクノの実を咥え、飲み込んだ。スイーツにも使える甘酸っぱい味が特徴的な、水タイプや飛行タイプがよく好む木の実だ。

「ルカリオもありがとうね。せっかくだから、みんなにもあげなきゃね」

ルカリオや他のポケモンたちにも、それぞれの好みの味の木の実をいくつか渡す。

「さて、それじゃ後はちょっと調整して、ゆっくり休もうか。とりあえず、部屋に戻ろう」

ポケモンたちをボールに戻したところで、

「ふぁーあ……よく寝たぜ。よう、ハル」

一階のロビーから、ラルドが降りてきた。

「おはよう、ラルド。今から特訓?」

「あぁ。明日は初めてのジム戦にいく予定だからな。マキノさんは顔見知りだからまだやりやすいが、それでも緊張するし、訓練がてら緊張をほぐしにな」

魔神卿アスタロトに食い下がる実力を持つラルドだが、当然ジム戦は初めてとなる。

初めてシュンインジムに挑んだ時のあの緊張感は、ハルにとっても未だに忘れられない。

「それじゃラルド、明日は一緒にジムに行く? 僕が先にマキノさんと戦うからさ、それを見てからバトルすれば少しは緊張も解れるんじゃない?」

そうハルは提案するが、

「……いや、大丈夫だ」

少し考えた後、ラルドは首を横に振った。

「気持ちは嬉しいけど……初めてのジム戦、その緊張感、実際にこの身で味わってみたいんだ。ハルのジム戦の結果を聞いてから、俺一人で行くことにするぜ」

「分かったよ。たしかに、その方がいいかもしれないね」

「おう。ハルも頑張れよ」

その後、ハルはポケモンセンターの宿舎へと戻る。

ゆっくり休んで、明日はジム戦だ。

 

 

 

翌日。

「たしか、ここだったよね」

昨日もきたガラス張りの建物、イザヨイジムに、ハルは足を踏み入れる。

「失礼します」

出迎えるのは、真っ白い異質な部屋。そして、

「よく来たわネ、ハルサン。昨日はありがとう」

バトルフィールドの向こう側に立つのは、機械の右半身を持つ白衣の女性、ジムリーダーのマキノ。

「昨日からずっと、君たちと戦うのを楽しみにしていたワ。どんなバトルを見せてくれるのか、期待してるわヨ」

「ええ、僕もジム戦を楽しみにしてたんです。ジムバトル、よろしくお願いします!」

ハルの自信に満ちた力強い返事に、マキノはにっこりと微笑む。

左手でマキノがパチンッと指を鳴らすと、突然、右の壁にプロジェクターを映したように画面が浮かび上がる。旗を持った棒人間のような映像だ。

『それではこれより、ジムリーダー ・マキノと、チャレンジャー・ハルのジム戦を行います』

「ジムの審判を務めるAIヨ。私が発明したノ」

突然壁から声が聞こえてびっくりした様子のハルに、マキノが説明を入れる。

『使用ポケモンは両者四体。どちらかのポケモンが全て戦闘不能になった時点で、試合終了となります。なお、ポケモンの交代は、チャレンジャーのみ認められます』

AIが流暢に言葉を話す。ルールも特に変わらない、いつものジム戦だ。

『それでは、両者ポケモンを出してください』

その言葉を引き金に、両者がモンスターボールを取り出す。

「出てきて、ファイアロー!」

「おいで、クレッフィ」

ハルが先発に選んだのはファイアロー。

対するマキノの初手は、アルス・フォンなどに取り付けるストラップのような姿をした奇妙なポケモン。細長い両腕を繋ぎ、その腕にいくつもの鍵をぶら下げている。

 

『information

 クレッフィ 鍵束ポケモン

 鍵を集める習性を持つ。穏やかな

 性格だが悪戯好きな個体は民家に

 忍び込み鍵を盗んでいってしまう。』

 

ぶら下げている鍵とさほど大きさの変わらない、かなり小柄なポケモンだ。タイプは鋼・フェアリー。

(見たことないポケモンだな……見た目も特徴的だし、何してくるか分からないけど……まずはファイアローのスピードで攻める。作戦通りにだ)

ともあれ、両者のポケモンが出揃った。

審判のAIが、旗を持った右手を掲げる。

 

『それでは、試合開始です!』

 

「行きます! ファイアロー、ニトロチャージ!」

バトル開始と同時、ファイアローが炎を纏う。

しかし、

「クレッフィ、電磁波」

ファイアローが飛び出すよりも早く、先にクレッフィが動く。

頭の突起の先から微弱な電気を発し、ファイアローへとぶつけた。

「っ、速い!」

今まさに突撃を仕掛けようとしていたファイアローは電気を躱せず、電磁波を浴びて麻痺の状態異常を受けてしまった。

「麻痺か……仕方ない、スピードを上げてカバーだ! ファイアロー、もう一度ニトロチャージ!」

再びファイアローが炎を纏う。

今度はクレッフィからの妨害を受けることなく、突撃を仕掛ける。

「クレッフィ、リフレクター」

対して、クレッフィが周囲に輝く光の壁を展開する。

直後クレッフィはファイアローの炎の突撃を受けて吹き飛ばされるが、輝く壁がダメージを軽減した。

「変化技を先制で使う……これ、たしか……」

そのようなポケモンと直接戦ったことはないが、覚えがある。以前本で読んだか、大会で見たか。

ハルは記憶を辿り、思い出す。

「……特性、悪戯心!」

悪戯心。

変化技を先制で使うことができるという、単純だが厄介な特性だ。

スピードが自慢のファイアローであっても、この特性が相手では先制されてしまう。

(だけど攻撃してこないなら考えがある。相手が準備を整えてるうちに、一気に決める!)

「ファイアロー、もう一度ニトロチャージ!」

再びファイアローが炎を身に纏い、飛び出す。

「クレッフィ、光の壁」

クレッフィは今度は先程とは色の違う、煌めく光の壁を展開する。

しかし壁を展開してからの回避は間に合わず、再びファイアローの炎の突進を受けて突き飛ばされる。

「一気に行くよ! 鋼の翼!」

吹っ飛んで地に落ちたクレッフィを狙い、ファイアローが翼を硬化させ、急降下して襲い掛かる。

「クレッフィ、雨乞い」

床に落ちたまま、クレッフィが何かを唱える。

次の瞬間、ファイアローが思い切り鋼の翼を振り抜き、クレッフィを翼で殴り飛ばした。

クレッフィは二度三度と床をバウンドし、転がって床に倒れ、そして、

『クレッフィ、戦闘不能。ファイアローの勝利です』

なんと、早くも戦闘不能となってしまった。

「お疲れ様、クレッフィ。ゆっくり休んでてネ」

しかしマキノは焦る様子も驚いた様子も見せず、落ち着いたままでクレッフィを労い、ボールへと戻した。

「えっ?」

寧ろ、驚いているのはハルの方だ。

拍子抜けだった。麻痺こそ受けているものの、ファイアローはダメージを一切受けることなく、あまりにもあっさりと先手を取ってしまった。

「どうかした、ハルサン? 何を困った顔をしているノ?」

「え、いや……クレッフィが思ってたよりずっと早く倒れてしまったので……」

「あぁ、そういうことネ。私のクレッフィは耐久力が低いのヨ」

特に表情も変えることもなくマキノは続けるが、

「それに、やってほしいことはやってくれたし、問題ないワ。今の短時間で、クレッフィはちゃんと仕事をこなした」

(やってほしいこと……仕事?)

そう言われれば、クレッフィは倒れる瞬間に何かを唱えていた。

「すぐに分かるワ。それじゃ、次は……」

クレッフィの入ったボールを仕舞い、マキノが次なるボールを取り出す。

「おいで、ジバコイル」

 

『information

 ジバコイル 磁場ポケモン

 結合していた三匹のコイルが進化

 によって連結。その見た目から

 UFOと見間違える人が後を絶たない。』

 

コイルというポケモンが三匹連結したポケモンのようだが、中央のコイルは巨大化し、頭からはアンテナのような突起が生えている。U字の磁石のようなユニットが左右のコイルにそれぞれ一つずつ、背に一つ、合計三つ備わっており、たしかにUFOに見えなくもない。

鋼・電気タイプを併せ持つポケモンのようだが、

「……?」

ハルの鼻先に、水滴が落ちてくる。

ふと天井を見上げれば、いつの間にか鈍色の雲が天井を覆っていた。

暗い雲から、ぽつりぽつりと雨が降ってくる。

「クレッフィが最後に使った技、雨乞いヨ。しばらくの間、天候を雨天に変える技。雨が降っている間は、炎タイプの技の威力が減少し、逆に水タイプの技の威力が強化されるワ」

日本晴れを使うイチイ、砂嵐を使うワダン。

天候を変えてくるジムリーダーとは、ハルも何回か戦ったことがある。今回は、雨だ。

「雨が降り続けるとなると……ファイアロー、ちょっときついよね……」

炎タイプのファイアローには、雨天は辛いだろう。

ハルとしても交代させたいところだが、

(だけど、誰と交代する?)

最も有利に戦えそうなのはワルビアルだが、地面タイプなのでこれまた雨は苦手。雨を活かせるのはラプラスだが、さすがに電気タイプ相手に水タイプは出せない。エーフィ、オノンドも相性がいいとは言えないし、エースのルカリオは出来ればまだ出したくはない。

悩むハルの様子に気付いたのか、ファイアローはハルの方へと振り向き、強気に甲高い啼き声を上げる。

「任せろ、ってこと? だけど、雨は大丈夫?」

心配するハルに対し、ファイアローは勢いよく啼いて翼から火の粉を噴き出す。

「……分かった。任せるよ。だけど、無理はしないでね」

ハルの言葉にファイアローは頷き、ジバコイルへと向き直ると、甲高い声で威嚇する。

「準備は整ったようネ。それじゃ、続けるわヨ」

「はい! 行きますよ!」

二体のポケモンが再び動き出す。

「ファイアロー、ニトロチャージ!」

ファイアローが翼から火の粉を吹き出し、炎を纏い空を駆ける。

雨により炎が少し削がれてしまうが、それでも威力は上々。

「ジバコイル、そのままヨ」

対するジバコイルは動かなかった。磁石のような三つのユニットを回転させて力を溜めつつ、ファイアローの攻撃を受け切る。

「連続で攻める! ファイアロー、アクロバット!」

立て続けのニトロチャージで麻痺した分の素早さは取り戻した。

さらにファイアローは旋回し、一気にジバコイルとの距離を詰める。

目にも留まらぬ速度でジバコイルの周囲を飛び回り、翼や爪で連続攻撃を叩き込む。

だが。

 

「ジバコイル、雷」

 

ファイアローの攻撃を気にせず、ジバコイルがユニットをフル回転させ、上空の雨雲へと電気を放つ。

刹那。

雷鳴が轟き、電撃の槍のような稲妻がファイアローへと降ってきた。

「なっ……!?」

雷撃にその身を貫かれ、ファイアローが床へと撃墜される。

「もう一度、雷ヨ」

さらにジバコイルがもう一度ユニットを回転させると、立て続けに落雷が起こる。

「ファイアロー……っ!」

再びファイアローへ稲妻が直撃し、ファイアローは飛び立つこともできず、その場に倒れ伏してしまった。

『ファイアロー、戦闘不能。ジバコイルの勝利です』

AIの無機質な声が勝敗を告げる。

「なっ……そんな、バカな……!」

クレッフィ戦でファイアローは全くダメージを受けていなかった。それが効果抜群とはいえ、たった二発の攻撃で戦闘不能にされてしまうとは、予想だにしていなかった。

「どうかしラ? まずは挨拶代わりにってネ。私のジバコイルの特性は“アナライズ”。相手より後に攻撃することで、技の威力が上がるのヨ。それに加えて、雷は雨が降っている時に使うと必中技になる。君のファイアローのスピードは目を見張るものがあったけど、どんなに素早いポケモンでも必中技は回避できないわよネ」

得意げに語るマキノの緑色の瞳が、小さくピカピカと点滅する。

「なるほど……そういうことだったんですね」

雨を降らせたのはファイアローの炎技の威力を下げるためだと思っていたが、それだけではないということだ。

「ごめんね、ファイアロー。交代させなかったのは僕の判断ミスだ。ゆっくり休んでて」

ハルがファイアローを抱えて嘴を撫でると、目を覚ましたファイアローは、気にするな、とでも言うかのように首を横に振る。

ファイアローをボールに戻し、ハルは二番手を思案する。

(さっきのクレッフィとはうって変わって、このジバコイルはかなりの高火力ポケモンだ。特にあの雷の威力は、効果今ひとつにしたところでかなりのダメージを受けてしまいそうだし……ファイアローでの反省を活かせないけど、ここはワルビアルで行くしかないかな)

やむを得ない。雨を受けて不利になっても、必中の雷を無効にできる方がメリットが大きい。

「出てきて、ワルビアル!」

ハルが掲げたボールから出てきたワルビアルは、降り注ぐ雨に気付き少し顔をしかめるが、

「ごめんねワルビアル、雨はちょっとつらいよね。だけど、あのジバコイルと最も有利に戦えるのは君なんだ。頑張ってくれるかい?」

それでもハルの言葉に応え、ワルビアルは任せろと言わんばかりに両腕を振り上げて雄叫びをあげる。

「なるほど……地面タイプのポケモンがいるのネ。その選択、果たしてどうなるかしら?」

対するマキノは余裕の微笑を浮かべ、宙に浮かぶジバコイルは赤い目をピカピカと点滅させてワルビアルをじっと見据える。

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