魔王と救世の絆   作:インク切れ

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第8話 ポケモン泥棒

「さて、ジム戦も終わったことですし、ハル君のポケモンたちを元気にしてあげなければいけませんわね」

バッジとバッジケースを渡した後、イチイはポケモン用のスプレー式の傷薬を取り出した。

「さ、ハル君、ヤヤコマとリオルを出して。二匹の傷を癒してあげますわ」

「……あ、ありがとうございます。それじゃ、お願いします」

ハルは腕に抱えたリオルを下ろし、ヤヤコマを出す。

「リオル、腕は大丈夫かしら? よく休めておいてくださいな。ヤヤコマも、翼を見せて」

手慣れた様子で、イチイは二匹の傷を受けた場所や疲労した場所へと傷薬をかけていく。

「さて、これで少しは元気になったでしょう。今のは簡易的な処置ですから、後でもう一度ポケモンセンターで休ませてあげてくださいね」

ところで、とイチイは話を変え、

「ハル君は、この後どうする予定ですの?」

「うーん……まだどこに進むかは決めてないんですよね。ジム戦が終わってから考えようと思ってました」

「あら、それならちょうど良かったですわ。実はハル君がジムに来る少し前に、カザハナシティのジムリーダー、ヒサギさんから連絡が来まして」

カザハナシティといえば、スグリの出身地だ。

イチイはアルス・フォンを取り出し、メッセージ画面を開く。

「どうやら、カザハナシティでポケモンバトル大会を開くので、参加者を勧誘してほしいとのことですのよ」

バトル大会と聞いて思わずハルは身構えるが、

「バトル大会とはいえど、参加条件はバッジの数が二個まで。つまり初心者トレーナー限定の大会ですわ。ちょうどジム戦もできるし、次はカザハナシティに向かってみてはどうかしら?」

大会という言葉の響きには少し緊張を覚えるが、初心者でも挑戦できるちょうどいいバトルの機会だ。

「はい、じゃあそうしてみますね」

次はどこに行こうか迷っていたところだったので、この機会はありがたい。

「……それと、最後に」

そこで。

「ハル君がどんな目的で旅を始めたのかは分かりませんけれど、自分が歩みたい人生を歩みなさいな」

イチイの口調が、変化する。

「イチイさん……?」

「ポケモントレーナーとしての旅は、決して楽しいことばかりではありませんわ。上手くいかないことだってありますし、目の前にそびえる高い壁を乗り越えられないことだってあります。だけど、それをどう乗り越えるか、その手段に正解はない」

ポケモントレーナーに試練を与え、トレーナーを導くジムリーダーとして。

イチイは、真剣な眼差しで語る。

「私は元々富豪の生まれ。ですが、親に人生を決められるのが嫌で、家を飛び出し、ここの店長、クネニさんに拾っていただき、この花屋で働かせてもらっているのです。財産は家にいた頃の方がずっと多かったですが、生活はこちらの方がよっぽど楽しいですわ」

そこでまた、イチイはにっこりと柔和な笑みを浮かべる。

「急に難しいことを言って、ごめんなさいね。私が言いたいことは、自分が信じる道を歩みなさい、ということ。たくさんの人、ポケモンと触れ合い、自分の道を探せばいい。人に決められる人生なんて、退屈で仕方ありませんわ。それじゃ、カザハナシティでの大会とジム戦、応援しておりますわよ」

「……はい、ありがとうございます!」

もう一度イチイに礼を告げると、初めてのジム戦を勝利で飾った高揚感と共に、ハルはジムを後にした。

 

 

 

花屋を出たところで、ハルはスグリに出会った。

「……あれ? ハル君じゃん。もしかしてジム戦帰り?」

「うん。たった今バトルが終わったところだよ」

ハルがそう返すと、スグリはニヤッと笑みを浮かべ、

「で、どうだったのさ。勝った?」

「うん。ギリギリだったけど、何とか勝てたよ」

ハルははにかんでバッジケースを開き、フローラルバッジを見せる。

「へーえ、やるじゃん。ハル君に追いつかれちゃったなぁ。ま、俺は今からここのジム戦に勝つから、すぐに追い越すけどね。昨日、近くの林で新しいポケモンも捕まえたし」

スグリが得意げに話していると、

「あら、また挑戦者の方ですの?」

店の奥からイチイが出てきた。ジム戦を終え、花屋の仕事に戻ろうとしたところだろうか。

「って、あら、ハル君のお友だちですのね」

「まぁね。バッジの数で追いつかれちゃったから、追い抜きに来たわけよ。あ、俺はスグリ。よろしく」

「ジムリーダーのイチイですわ。スグリ君、自信満々のようですが、簡単には勝たせてあげませんわよ? それと……」

明るい笑みを浮かべるイチイだが、少し申し訳なさそうな表情になり、

「来ていただいたのに申し訳ないのですけれど、少しポケモンを休ませてあげてもよいかしら? 私のポケモンも連戦になってしまうし、そうなるとベストコンディションで戦うことができませんのよ。一時間もあれば充分元気になるでしょうけれど」

あれだけ戦って一時間で万全になるあたり、流石はジムリーダーのポケモンと言うべきか。

「うーん、そう言われちゃ仕方がないね。分かった、少し時間を潰して、また来るよ」

と、そんな時。

「ハル……! イチイさん……!」

二人を呼ぶ声が聞こえた。聞こえただけならいいのだが、その聞こえた声が間違いなく友人の声だ。

しかも、泣き声。

振り向いた先にいたサヤナの顔は、涙に濡れていた。

「ちょ……どうしたの? 大丈夫?」

「おやおや、昨日ジムに来たサヤナさん? 一体どうされたんですの?」

イチイが進み出て、サヤナの頭を撫でながら尋ねる。

普段から感情の忙しいサヤナだが、それでもこの号泣っぷりは異常だ。

言葉にならない泣き声を漏らしていたサヤナだが、イチイに慰められ何とか落ち着いて言葉を発する。

 

「わ、私のポケモンが、変な二人組の男の人に盗られちゃったの……!」

 

「ええっ!?」

「な、何ですって!?」

早い話が、ポケモン泥棒。

「あの、ちょっといいかな。サヤナちゃんだっけ、ポケモンを盗まれたのはどこ?」

真っ先に声を掛けたのは、サヤナとは初対面となるスグリだった。

「近くの……林……ポケモンを特訓してて、帰ろうとしてボールに戻したの。そうしたら、急に後ろから突き飛ばされて、転んで……」

「分かった、あそこか。格好は覚えてる?」

「背の高い……真っ黒な二人組……林の中も薄暗くて、見失っちゃった……」

恐らく、サヤナが昨日特訓をすると意気込んでいた林だろう。

「よし……ハル君、行くよ。ジム戦は後回しだ。先に盗まれたポケモンを取り返す」

「うん! サヤナ、待ってて。すぐに取り戻してくるから!」

スグリが駆け出し、ハルも急いでそれに続く。

「ちょっ……お二人とも、すぐに追いかけますわ! 無理はなさらず! サヤナさん、貴方は少しここで待っていてくださいね。クネニさん、すみませんがこの子をお願いしますわ!」

イチイは一旦店の奥に引っ込むと、店長に事情を話して、すぐに二人の後を追う。

 

 

 

薄暗いこの林は、シュンインの林と呼ばれる。

そこまで広くはないが野生ポケモンは多く生息しており、新米トレーナーたちの特訓の穴場とされている。

「す、スグリ君! この道で合ってるの?」

ハルとスグリは現在、林の中を突っ走っている。

ハルはひたすらスグリの後をついて走っているだけなのだが、

「ああ。こいつが案内してくれてるから大丈夫さ」

スグリ曰く間違いないようだ。

そのスグリの前方には、大きな耳をした紫色の蝙蝠のようなポケモンが、二人を先導して飛んでいる。

 

『information

 オンバット 音波ポケモン

 薄暗い森や洞窟に生息。耳から

 超音波を発して暗いところでも

 周囲の様子を正確に把握できる。』

 

「オンバットはここで捕まえたポケモンなんだ。この林は庭みたいなものだし、超音波を使えば人がどこに何人いるかも把握できる」

茂みをかき分けて進みながら、スグリは説明する。

「ここを特訓の場に使うのは新米トレーナーばかり。泥棒は背の高い二人みたいだから、大人の二人組を見つければそいつらが犯人でほぼ確定さ。オンバットはもう二人組の大人を見つけてる」

「だけど、大人の二人組なんでしょ? 僕らじゃ勝てないかも……」

「いーや、それはないね」

そこに関しては、スグリは断定した。

「急に後ろから突き飛ばされたってことは、初心者トレーナー、しかも女の子相手に不意を突かないとポケモンを奪えないってこと。どうせ大した使い手じゃないさ、オレとハル君でぶっ飛ばしてやろう」

しばらく進むと、不意にスグリが立ち止まり、ハルを制す。

「わっ……」

「静かに。奴らはもうすぐそこにいるよ。止まって休憩してるみたいだから、チャンスだ」

できるだけ静かに、ゆっくりと二人は進む。

すると近くの木陰から、男の話し声が聞こえてきた。

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