イザヨイジム制覇の証、ガウスバッジを手に入れ、ジムを出たハルは移動床に乗ってポケモンセンターへと向かう。
ポケモンセンターではラルドが待っている。勝利報告をして、この後ジムに向かうラルドにバトンを渡すのだ。
「ラルド! 勝ったよ!」
ポケモンセンターに戻り、ラルドに凱旋を告げる。
ハルの言葉が聞こえ、ロビーのソファに座っていたラルドが振り返り、立ち上がる。
「さすがだぜ、ハル。なら、次は俺の番ってわけだな」
「頑張ってね。ラルドとリザードンたちなら、きっと勝てるよ」
ハルがそう返すと、ラルドはまだ少し緊張した様子を見せながらも頷き、手を振ってポケモンセンターを出て行った。
「さて、まずはルカリオたちを元気にしてあげないと」
ジム戦を頑張ってくれたルカリオたち四匹の入ったモンスターボールを、ジョーイさんへと手渡す。
「はい。それでは、お預かりいたしますね」
ジョーイさんはにっこり微笑んでハルのボールを受け取ると、奥の部屋へと向かっていった。
待つこと一時間弱。
『ハルさん、お待たせしました! お預かりしたポケモンたちは、みんな元気になりましたよ!』
ポケモンたちの治療、回復が終わり、ハルを呼ぶアナウンスが響く。
「ありがとうございました」
「はい。またいつでもご利用くださいね」
ジョーイさんからモンスターボールを受け取り、戻ろうとしたその時。
「ハル! 戻ったぜ」
イザヨイジム戦を終えたラルドが、ポケモンセンターへと帰ってきた。
「ラルド、おかえり! ジム戦はどうだった?」
尋ねるハルだが、ラルドの表情を見れば勝敗は一目で分かった。
結果はもちろん、
「勝ったぜ。これで俺も、ポケモントレーナーとして第一歩を踏み出したってわけだな」
手にしたバッジケースを開き、得意げに笑うラルド。その中には、歯車を模したガウスバッジが煌めいていた。
ちなみにラルドの持つバッジケースは灰色で、白色や黒色の歯車模様がいくつも描かれたイザヨイジム製のもの。シュンインジムでイチイから聞いた通り、マデル地方では最初に突破したジムでジムバッジと一緒にバッジケースを貰うのだ。
「おお、やったね! ラルドならきっと勝てると思ってたよ」
「ありがとな。正直最初は緊張してたんだが、いざバトルが始まったら緊張なんてどこかに吹っ飛んじまった。ジム戦つっても、やることは一つ。いつも通りポケモンと一緒に全力で戦うだけだもんな」
ラルドはいかにも簡単そうにそう言ったが、一瞬で緊張を吹き飛ばすなどそう簡単にできることではない。
このメンタルの強さはやはりクリュウやゼンタに鍛えられてきた賜物だろう。
「つーか、ハル、聞いてくれよ」
先程まで笑みを浮かべていたラルドは、急に頬を膨らませる。
「マキノさん、俺がクリュウさんに鍛えられてること知ってるからって、開口一番『貴方は強いから、バッジ五個の挑戦者と戦うレベルで戦うわネ』だぜ? こっちはバッジ持ってないどころかジム戦すら初めてなのによ……」
「あはは……マキノさんらしいね……」
ジムリーダーは挑戦者のレベルに合わせて戦っているのでマキノの判断は正しいのだが、初めてのジム戦でいきなりそんなことを告げられるラルドの気持ちも分からなくはない。
「ま、まぁ、勝ったんだからいいじゃない。逆に言うなら、ジムバッジを五個持っているトレーナーと同じくらいには強いってことだよ」
「まあな……にしても、疲れちまったよ。ハル、昼飯にでもいかねーか?」
「そうだね、ちょうどお昼時だね。ポケモンセンターの食堂にする?」
「ああ、いいぜ」
ジム戦での熱い戦いを終えた二人は、腹拵えに向かう。
ポケモンセンターの食堂は、バイキング形式になっている。
四人用のテーブル席とカウンターしかないが、別に満席というわけでもないので、二人はテーブル席に腰掛けている。
「ラルドの皿、野菜ばっかりじゃない?」
「ん? あぁ、俺あんまり肉とか食べねえんだ。食べたくないほど嫌いってわけじゃないし、出されれば普通に食べるけど、自分で選んでいいって言われると野菜ばっかになるな」
ラルドの皿に盛られているのは野菜炒めやサラダばかり。一応野菜炒めにお肉は入っているが、ほぼ野菜。
健康的なのはいいことではあるが、なんだかラルドのイメージと違う。
「知ってるか? 野菜は体にいいんだぞ?」
「うん……それはその通りなんだけどね」
ドヤ顔で野菜炒めを頬張るラルドにそう返しながら、ハルも自分の料理を口に運ぶ。
そんな時、
「あれ? ハル君じゃね?」
唐突に、後ろから聞き覚えのある声が聞こえた。
振り返ると、
「あっ、スグリ君!」
そこに立っていたのは、ハダレタウン以来の再会となるスグリだった。
「久しぶりだね! 元気にしてた?」
「もちろん。飯食って、これからイザヨイジム戦に挑むところだったんだ。ハル君、もう行った?」
「うん。今朝挑んで、無事七個目のジムバッジを手に入れたところだよ」
ハルは微笑み、バッジケースを開く。旅の成果を示す、七個のバッジが輝く。
「わお、ハル君もうバッジ七個なのか……また追い抜かれちゃってるな。ま、今から勝ってくるから、すぐに追いつくけどね」
そう言って、スグリもバッジケースを開く。煌めく六個のバッジの中には、いくつかハルの知らないバッジもある。
ところで、とスグリはハルの隣――ラルドに視線を移し、
「隣の男の子は? ハル君の友達?」
「うん、ラルドって言うんだ。最近旅に出たばっかりなんだけどね、ラルドも今日初めてのジムバッジをイザヨイで手に入れたんだよ」
「マジ? ラルド君だっけ、すごいじゃん」
ハルの言葉に、スグリは感心したように目を開く。
「お、おう、ありがとな。ということは、お前もポケモントレーナーなんだな」
少し照れ臭そうに笑みを浮かべ、ラルドもスグリのバッジを眺める。
「そそ。ハル君とは友達でありライバルって感じ。メガシンカを得たハル君にこの間負けちゃったから、リベンジするべく鍛えてるのさ」
「そうは言っても、スグリ君にはそのバトルでようやく勝ったんだけどね……それまではずっと負け続けて、ようやく勝ったって感じだし」
「……とりあえず、どっちも強いってことだな。俺も二人に並べるように頑張らなきゃな」
ハルとスグリのやり取りを見て、ラルドの士気も高まる。
「さてっと。そんじゃ、オレはそろそろジムに挑戦して来ようかな。ハル君の話を聞いたら、俄然やる気が湧いて来たよ。サクッと勝って、ハル君に追いついてくるよ」
そう言ってスグリは手を振り、ポケモンセンターを走り去っていった。
「ハル。あいつ、そんな強いのか?」
「スグリ君は強いよ。正直、かなり強い。前回は僕が勝ったけど、次に戦ったら普通に負ける可能性も大いにあるくらいにはね」
「おいおい、マジかよ……上には上がいるもんだな」
椅子にもたれかかったまま、ラルドは天を仰ぐが、
「……だけど、それを聞いたら俺もますますやる気が出てきたぜ。マデルにはまだまだ俺の知らない強者がたくさんいる。そんなやつらと戦って勝てるように、頑張らないとな」
その後、二人は食事を終え、ラルドはジョーイさんから元気になったポケモンを受け取る。
「ハルは暫くイザヨイに残るのか?」
「うん。せっかくマデル一番の大都市に来たわけだから、いろいろ観光もしたいし。それに、もうすぐバトル大会も開かれるからね。ポケモンリーグ出場を目指す者として、出場しないわけにはいかないよ」
「なるほどな。その大会って、いつだっけか」
「えっと、ちょっと待ってね」
ハルはアルス・フォンを取り出し、ポケモンリーグのホームページを開く。
「ちょうど一週間後だね。街の真ん中のイザヨイスタジアムで開催されるみたいだよ」
「うーん……だったら、俺はちょっと別の街へ向かうかな」
そう返し、ラルドはモンスターボールを取り出す。
「一週間あれば、ジムバッジをもう一つくらいは獲れるだろ。バッジを少しでも集めて、大会までには戻ってくるよ」
「そうだね、分かった。それじゃ、また一週間後、大会でね」
「おうよ。バッジを増やして強くなった俺を楽しみにしててくれよな。スグリにも、よろしく伝えといてくれよな」
ラルドはリザードンを出すと、背中に飛び乗り、笑顔で手を振って飛び去っていった。
再び、待つこと一時間弱。
「ただいま、ハル君」
ポケモンセンターのロビーのソファに腰掛け、アルス・フォンを弄っていると、ジム戦を終えたスグリが帰ってきた。
「スグリ君、おかえり。ジムはどうだった?」
ハルが立ち上がり尋ねると、スグリは余裕の笑みを浮かべ、バッジケースを開く。
七個目の位置に、煌めくガウスバッジが填め込まれていた。
「ま、オレの実力があればよゆーだったね。メガハガネール相手にちょっと攻めあぐねたけど、最後はスピードで押し切ったよ」
そーいや、とスグリは言葉を続け、
「さっき一緒にいた男の子、えーっと、ラルド君は?」
「あぁ、次のジムに向かうからって、行っちゃった。スグリ君にもよろしくってさ」
「そっかぁ。もっと色々話聞きたかったんだけど、残念だなぁ。まあでも、大会の日には戻ってくるんでしょ?」
「うん、そう言ってたよ」
「んじゃ、その日にたくさん話すとしますか」
んー、と伸びをし、スグリは再びハルの方に向き直る。
「ハル君、この後時間は?」
「あるよ。今日はもう特に予定はなかったから」
ハルの返事を聞くと、スグリは再びニヤッと笑う。
そして、続ける。
「それじゃさ。オレのポケモンを回復させたら、久々にポケモンバトル、しない?」