魔王と救世の絆   作:インク切れ

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第110話 速攻主義者のリベンジマッチ

イザヨイシティポケモンセンター、地下の交流場。

そのバトルフィールド内に対峙するのは、ハル、そしてスグリ。

「ハル君とバトルするのも、これで四回目か」

「そうだね。シュンインシティとカザハナ大会では僕が負けて、ハダレタウンでようやく僕が勝った。今回も勝って、二勝二敗の五分に追いついてみせるよ」

「追いつく……それはオレの台詞さ。前回はハル君に負けて追い抜かれたけど、今回はそうはいかない。今度はオレが追い抜く番だよ」

バトルは三対三に決まった。両者、同時にボールを手に取る。

「それじゃ、始めるよ! 頼んだよ、オノンド!」

「よっしゃ。出て来い、コジョフー!」

ハルの一番手は、苦手タイプが少なく、かつスグリとのバトルでは初選出となるオノンド。

対するスグリのポケモンは、小型の獣人のようなポケモン。フィールドに立つと、拳法家のような構えを取る。

 

『information

 コジョフー 武術ポケモン

 流れるような華麗な連続攻撃を

 得意とする。圧倒的な手数によって

 パワーの低さをカバーしながら戦う。』

 

構えを取っている姿から予想した通り、格闘タイプのポケモンのようだ。

「先手は貰うよ。コジョフー、燕返し!」

バトルが始まると同時、コジョフーは地を蹴って飛び出したかと思うと、次の瞬間にはハルの視界から消える。

「っ!」

たんっ、と音が響く。

慌てて音源の方を振り向くと、壁を蹴ったコジョフーが爪を構え、既にオノンドの距離を一気に詰めていた。

「横に跳んだのか! オノンド、ドラゴンクロー!」

コジョフーの爪に切り裂かれるが、鱗に軽い傷がついた程度。一撃はそこまで重くない。

素早くオノンドは両腕に青く輝くオーラを纏わせ、反撃の竜爪を振るうが、

「遅い遅い! 燕返し!」

爪が振り下ろされるよりも早くコジョフーはオノンドの背後へと回り込み、再び鋭い爪を振り抜く。

さらにそのまま右手を地につけ、片手で逆立ちしたかと思うとそのまま回転、オノンドに蹴りを叩き込む。

「サイコパンチ!」

そしてコジョフーの攻撃はまだ終わらない。拳に念力を纏わせてそのまま突き出し、オノンドを殴り飛ばした。

「速い……っ! オノンド、立て直すよ! 落ち着いて行こう!」

いきなり連続攻撃を浴びたが、当然この程度ではオノンドはやられない。

即座に起き上がると、ハルの声に応えて雄叫びをあげる。

「さあ、反撃だ! 炎の牙!」

斧のような鋭い牙に炎を灯し、オノンドが突撃する。

「コジョフー、躱して燕返し!」

爪を構え、コジョフーもオノンドを迎え撃つように走り出す。

しかし正面から激突はしない。衝突の寸前、コジョフーはふわりと跳躍してオノンドの炎の牙を回避し、背後を取ってすかさず爪の連撃を振るう。

「ドラゴンクロー!」

だがオノンドも負けてはいない。両手に光の竜爪を纏うと、その場で回転し薙ぎ払うように周囲を切り裂く。

双方の斬撃がぶつかるが、パワーならオノンドの方が上。竜爪が燕返しを打ち破り、コジョフーを突き飛ばす。

「今だ! オノンド、瓦割り!」

さらにオノンドは宙を舞うコジョフーを追い、上空から手刀を振り下ろす。

「来るぞ! 躱してサイコパンチ!」

床に落ちる寸前、コジョフーは受け身をとって素早く起き上がる。

体を捻ってオノンドの攻撃を回避し、念力を込めた拳を振り抜き、叩きつける。

「これくらいなら……! オノンド、シザークロス!」

念力の拳を受けたオノンドだが、体勢を崩すことなく地に足をつけて耐え切る。

長い二本の牙を構えて、再びオノンドはコジョフーへと切りかかっていく。

「当たらないさ! コジョフー、燕返し!」

立て続けに牙を振るうオノンドだが、コジョフーには当たらない。

斬撃を躱すばかりか、回避しながら隙を突いて鋭い爪で反撃する余裕まで見せる。

「突き飛ばせ、サイコパンチ!」

「……今だ! シザークロス!」

着地すると同時に念力を纏わせ強化した拳を放つコジョフーに対し、全く同じタイミングでオノンドも牙を振るう。

正面衝突すればオノンドに分があるのは先程見た通り。オノンドの牙が均衡を破り、コジョフーを切り裂いた。

「っと、やるじゃんハル君。オレのコジョフーの動きに、もう対応できるなんてさ」

「ギリギリだけどね……だけど気付いたよ。そのコジョフー、燕返しに比べてサイコパンチは少しだけ前隙が大きいよね。燕返しも手数は圧倒的だけど一発一発の火力は控え目だから、僕のオノンドなら頑丈な鱗を盾に反撃に出られるよ」

「そこまで気付かれてるかぁ。いやぁ、さすがはハル君だ」

苦笑いを浮かべるスグリだが、油断はできない。コジョフーの残り二つの技はまだ見えていない。

「だけど、オレとしても負けられないんでね。前回のリベンジ、果たさせてもらうよッ!」

そう力強く言い放つスグリに呼応し、コジョフーも再び動き出す。

「コジョフー、サイコパンチ!」

念力を両拳に纏わせ、コジョフーが地を蹴って飛び出す。

「来るよオノンド! 躱してドラゴンクロー!」

流れるように連続して放たれるコジョフーの念力の拳をなんとか回避すると、オノンドは両腕に光の竜爪を纏わせる。

対して。

「今だ! ドレインパンチ!」

コジョフーの右拳が淡い緑色の光を放つ。

襲い来る輝く竜爪を潜り抜け、光る拳がオノンドの腹部へと突き刺さった。

「っ! オノンド!?」

拳を撃ち込まれたオノンドだが、吹き飛ばされなかった。

その代わり、体から力が抜けてしまったかのようにその場で膝をついてしまう。

そして対照的に、コジョフーの体の傷が少し癒えている。

「これは……体力が吸い取られた?」

「そーゆーこと。ギガドレインとか吸血と同じ、ドレインってやつだね」

ドレインは、相手に与えたダメージの半分を吸い取って回復するという厄介な性質の技だ。

スグリが挙げた通り、ドレインの性質を持つ技はいくつかあり、ドレインパンチもその中の一つ。

「オレのコジョフーは耐久力が低いのが弱点でね。しぶとく戦うためには、相手の体力を戴いて補う必要があるんだ。さ、続けて燕返し!」

爪を伸ばし、コジョフーが体勢を崩したオノンドに飛び掛かる。

オノンドの周囲を舞い踊るように飛び回り、鋭い爪の華麗な連続攻撃を浴びせる。

「くっ、オノンド、振り払って! ドラゴンクロー!」

片膝をつきながらもオノンドは両腕に光の竜爪を纏わせ、周囲一帯を切り払うが、

「遅い遅い、躱してサイコパンチ!」

やはりと言うべきか、オノンドの斬撃はコジョフーに届かず、一歩下がったコジョフーは拳に念力を纏わせると、即座に地を蹴って飛び出す。

「オノンド、そこで迎え撃つよ! シザークロス!」

オノンドもようやく立ち上がり、長い斧のような両牙を構え、その場でコジョフーを迎え撃つ。

コジョフーの拳に合わせてオノンドも牙を振るう。一振り目は躱されるが、立て続けに放った二発目の牙がコジョフーの拳とぶつかり合う。

そのまま力任せに牙を振り抜き、コジョフーの体勢を崩すと、

「瓦割り!」

手刀を勢いよく振り下ろし、今度こそコジョフーに明確な打撃を叩き込んだ。

「よっしゃ! オノンド、一気に行くよ! ドラゴンクロー!」

オノンドが雄叫びをあげ、両腕に青く輝く竜爪を纏わせる。

竜の力を帯びた巨爪を構え、ようやく隙を見せたコジョフーに対して一気に振り下ろす。

だが。

 

「コジョフー! 飛び膝蹴り!」

 

コジョフーが地を蹴り、オノンドに正面から突っ込む。

激突の寸前、コジョフーは思い切り首を横に振ってオノンドの爪を躱すと、その体勢のまま体を捻って渾身の膝蹴りを放つ。

オノンドの頬へと膝を食い込ませ、そのまま脚を振るって凄まじい勢いでオノンドを床へと叩き落とした。

「なっ……!?」

「決める! サイコパンチ!」

拳に念力を纏わせ、コジョフーが急降下する。

床に叩きつけられ呻くオノンドへ、回避する隙も与えず念力で強化された拳を叩き込んだ。

「オノンド!?」

砂煙が晴れると、既にオノンドは目を回して戦闘不能となっていた。

「つ、強いね……オノンド、お疲れ様。ゆっくり休んでてね」

オノンドの頭を撫でてボールへと戻し、ハルはスグリとコジョフーの方へ向き直る。

「さすがはスグリ君のポケモンだね。隙が少ないしスピードも速い……火力で押していくしかないと思ったけど、あの跳び膝蹴りは想定してなかったよ」

「まあねー。ハダレタウンでハル君と戦った後に、一部のメンバーに新しい戦法を組み込んでみたんだ。今まではただスピードで攻めるだけだったけど、その中に一個だけ、単発の威力を重視した大技を持たせる。あの時点では、ジュプトルの草の誓いで試してはいたんだけどね」

その結果が、ギリギリまで隠していた今の飛び膝蹴りの威力。スグリのバトルスタイルもまた、進化しているということだ。

「さ、バトルを続けようよ。ハル君の次のポケモンは?」

「そうだね。コジョフーが相手なら、君だ! 出てきて、エーフィ!」

ハルが二番手に選んだのはエーフィ。格闘タイプのコジョフーに対しては有利に戦える。

「んー、やっぱりエーフィで来たか。コジョフーからは有効打があんまりないけど……ここで引いてもあんまり意味はないね。コジョフー、もう少し頑張れるかい?」

スグリの言葉にコジョフーは頷き、戦闘の構えを取り直す。

「エーフィ、先手こそ取られたけど、バトルはまだまだここから。立て直していくよ」

エーフィも一歩踏み出し、コジョフーを見据える。準備は万全だ。

「よし、行こうか! コジョフー、燕返し!」

再びコジョフーが先手で動き出す。

鋭い爪を伸ばし、コジョフーが地を蹴って勢いよく駆け出す。

「必中技にはこっちも必中技だ! エーフィ、スピードスター!」

対するエーフィは後ろに飛び退きつつ、尻尾を振るって無数の星形弾を飛ばす。

極めて隙の少ないコジョフーの燕返しだが、必中の星形弾に行手を阻まれ、その爪はエーフィに届かない。

「エーフィ、シャドーボール!」

エーフィの額の珠が影を集めて黒く輝き、影の力を集めた黒い弾を放つ。

「遅い遅い、躱してサイコパンチ!」

影の弾を飛び越え、一気にエーフィとの距離を詰め、コジョフーが念力を纏った拳を突き出すが、

「それはどうかな! マジカルシャイン!」

黒く輝いていたエーフィの額の珠は一瞬にして白い輝きを放ち、直後、周囲へと純白の光が放出される。

「ヤバっ……コジョフー、離れろ!」

スグリが慌てて指示を出すが間に合わず、コジョフーは白い光に飲み込まれ、吹き飛ばされる。

「今だ、サイコショット!」

宙を舞うコジョフーに対し、エーフィは額の珠から念力の弾を撃ち出す。

念弾がコジョフーに直撃。撃墜され、コジョフーは戦闘不能になってしまう。

「うーん、ここまでか。まだ耐久力はあんまり鍛えてあげられてないし、仕方ないな。コジョフー、よくやったぞ」

コジョフーをボールに戻したスグリは、どうやら二番手が決まっている様子。即座に次のボールを手に取る。

「エーフィで来るなら、予定通りだ。出て来い、ニューラ!」

スグリの二番手はハルも見たことがあるポケモン、エスパータイプに有利な悪タイプのニューラだ。フィールドに立つと余裕たっぷりに腕を組み、エーフィを一瞥してケラケラと笑う。

「次はニューラか……だけど、まだ進化してないんだね。スグリ君のニューラの実力から考えたら、進化しててもおかしくないのに」

「そーなんだよねー。かなり鍛えてるはずだから、何か進化の条件があるんだろうね。持ってる進化の石は全部試したんだけど、進化する気配は一向に無くてさ。まぁ今のままでも充分強いから、気長に進化方法を探してるよ」

実際、スグリの言う通りだ。このニューラは強い。

直接バトルをしたことはないものの、テンションを抑えていたとはいえ魔神卿ロノウェのバクオングを圧倒したのをハルは目の当たりにしている。

「それじゃ、再開と行こっか」

軽くスグリがそう告げ、ニューラは組んでいた腕を伸ばし、不敵に笑って鉤爪を構える。


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