「それじゃ、行こっか。ニューラ、冷凍パンチ!」
鉤爪の周囲を冷気が渦巻き、鋭い爪に氷の力を纏わせ、ニューラが駆け出す。
「エーフィ、迎え撃つよ! スピードスター!」
対するエーフィは二股の尻尾を振り抜き、無数の星形弾を飛ばす。
必中の星形弾はニューラを目掛けて正確に飛び、進路を塞ぎつつ迫る。
しかし、
「ニューラ、その拳、床へ差し込め!」
スピードスターに襲われる直前、ニューラは冷気を纏った右拳を床へ突き刺す。
刹那、ニューラの前方へ壁のように氷の柱が出現。無数の星形弾は氷の柱群に阻まれてしまう。
「だったら、シャドーボール!」
即座にエーフィは額の珠から黒い影の弾を作り上げる。
氷の柱をシャドーボールで破壊し、さらにその向こう側のニューラへもう一発を放つが、
「遅い遅い! ニューラ、地獄突き!」
既にニューラはそこにはいない。
刹那、風を切る音が響いたかと思うと、上空からニューラが鋭い鉤爪を突き出し、落下の勢いも乗せて襲いかかってくる。
「っ!」
咄嗟にエーフィはニューラの急降下攻撃を回避するが、
「逃すな! もう一発だ!」
その次の一撃にまでは対応しきれず、ニューラの鋭利な一突きを喉元に受けてしまった。
「しまった……エーフィ!?」
効果抜群の大きなダメージを受けたが、まだやられてはいない。
立ち上がったエーフィだが、しかし、咳き込んで苦しそうな様子を見せる。
「エーフィ……大丈夫?」
苦悶の表情を浮かべながらも頷くエーフィだが、声が掠れている。
代わりにハルの言葉に答えるのはスグリだ。
「地獄突きを受けるとしばらくの間、音を使う技が出せなくなるよ。ハル君のエーフィは音の技は覚えていないから関係ないだろうけど、音、つまりは声を封じるために喉にダメージを与えるから、一時的に喉が潰れちゃってるんだよ。しばらく経てば治るから、安心して」
スグリの説明を聞いて、ハルはハダレタウンでの大会のことを思い出す。
あの時も、スグリはニューラの地獄突きでロノウェのバクオングの大声を使った戦法の対策をしていた。
声の出せないエーフィだが、ハルの目を見据え、まだやれると言わんばかりに頷く。
「……ありがとう。エーフィ、ちょっと辛いだろうけど、頑張るよ! スピードスター!」
バトル再開。エーフィは尻尾を振り抜き、再び無数の星形弾を飛ばす。
「必中技はちょっと苦手なんだけど……ニューラ、もう一度冷凍パンチ!」
冷気を纏った鉤爪を床に突き刺し、先程と同じように氷の柱を発生させる。
無数の星形弾は氷の柱に阻まれ、
「メタルクロー!」
今度は鉤爪で即座に氷を砕き、再び駆け出す。
「来るよエーフィ、シャドーボール!」
エーフィが額の珠を黒く染め、影の弾を作り上げる。
立て続けに黒い影の弾を放つが、ニューラは不規則な動きで容易く影の弾を躱しつつエーフィへ接近、鋼のように硬化させた鉤爪を振るう。
「今だ、地獄突き!」
メタルクローでエーフィの体勢を崩し、さらにニューラはエーフィの喉笛を狙い鉤爪を構える。
「させないッ! マジカルシャイン!」
だが今度はエーフィの方が早い。額の珠を白く輝かせ、周囲一帯に眩く煌めく純白の光を放出する。
腕を突き出したニューラを逆に押し返し、光に飲み込み、吹き飛ばした。
「っ、やるじゃん。やっぱりマジカルシャインが厄介かな?」
だがニューラもこの程度ではまだ倒されない。立ち上がると、不機嫌そうに低く唸る。
「そうは言っても、やることは変わんないね。さあ、反撃だ! ニューラ、メタルクロー!」
両腕の爪を硬化させ、ニューラが地を蹴って飛び出す。
予測不能の不規則な動きから一転、今度は一直線に駆け抜け、一気にエーフィとの距離を詰めて鉤爪を振るう。
「っ、速い……! エーフィ、躱して!」
スピードスターは間に合わない。咄嗟にエーフィはその場から飛び退き、ニューラの斬撃を間一髪のところで回避し、
「シャドーボール!」
額の珠に黒い影の力を集め、反撃に転じる。
だが、
「そこだ! 氷の礫!」
エーフィに躱され、空を切ったニューラの鉤爪に冷気が集まったかと思うと、そこから無数の氷の礫が飛び出す。
シャドーボールを放出するよりも早く、無数の氷弾がエーフィを捉える。体勢を崩されて影の弾は霧散してしまい、
「ニューラ、メタルクロー!」
鋼の如く硬化させた鉤爪を構えて切り込み、今度こそエーフィを切り裂く。
「逃がさないよ! エーフィ、スピードスター!」
鋭い鉤爪の一撃だが、先程の地獄突きに比べれば威力はずっと低い。エーフィも即座に尻尾を振り抜き、すかさず無数の星形弾を放つ。
思っていたよりも反撃が早かったようで、ニューラは咄嗟に回避しようとしてしまうが、スピードスターは必中技。正確に追尾し、避けた先のニューラへ無数の星形弾が直撃する。
「シャドーボール!」
「くっ、ニューラ! 戻って来るんだ!」
さらにエーフィが額から黒い影の弾を放つが、起き上がったニューラはその場から飛び退いて何とか回避、一旦スグリの元まで退いて体勢を立て直す。
「ふー、危ない危ない……気をつけろ、ニューラ。タイプ相性では有利でも、相手はハル君なんだ。油断するなよ」
スグリの指示を受けて頷き、ニューラはエーフィを睨みつけると、再び鉤爪を構える。
「っし、ニューラ! メタルクロー!」
「エーフィ、来るよ。迎え撃って」
再びニューラが駆け出す。エーフィの元まで一気に高速接近し、鋼のように硬化させた鉤爪を振り抜く。
その瞬間を狙い、
「……今っ! エーフィ、躱してシャドーボール!」
額の珠に黒い影を集め、ニューラの攻撃をギリギリまで引きつけ。
鉤爪が振われた刹那、エーフィは僅かに退いて斬撃を回避。そのまま、漆黒の影の弾を放つ。
だが、
「オレの方が速い! 氷の礫!」
空を切ったニューラの鉤爪はそこで止まらない。
冷気を纏ったかと思うと、次の瞬間には無数の氷の礫を弾丸のように射出し、エーフィに氷の礫を浴びせる。
「っ……!」
「冷凍パンチ!」
鉤爪に冷気を纏わせたまま、ニューラは一気にエーフィの懐へ飛び込み、冷気を帯びた爪を突き刺す。
冷凍パンチを受けたエーフィは殴り飛ばされなかった。その代わりに、強い冷気がエーフィの体を凍りつかせていく。
「エーフィ! くっ、これは……」
冷凍パンチの追加効果、氷の状態異常だ。幸い全身を氷漬けにされたわけではないが、この状態ではニューラの攻撃を回避することもままならない。
そして、
「もらった! 地獄突き!」
そんな隙を逃すほど、スグリは甘くはない。
待ってましたとばかりに不敵な笑みを浮かべたニューラが、右腕を構えて鉤爪を思い切り突き出す。
鉤爪による鋭利な地獄突きが、エーフィの喉元を捉えた。
それと同時に。
「それなら! マジカルシャイン!」
回避できないのであれば、もはや迎え撃つしか道はない。
氷の鉤爪が喉笛を捉えた、その刹那、エーフィの額の珠から白く煌めく純白の光が放出される。
いくらスピードが自慢のニューラでも、攻撃直後かつゼロ距離での反撃を回避することなどできるはずもなく、ニューラは光の中心に飲み込まれ、派手に吹き飛ばされた。
「ニューラ……!」
宙を舞って床に激突、二度三度とバウンドし、ようやく床に倒れたニューラはそのまま動かなくなった。
しかし、
「っ! エーフィ!」
光が収まると同時に、エーフィも力尽き、その場に倒れ伏した。すなわち、両者共に戦闘不能だ。
「よく頑張ったね、エーフィ。いい活躍だったよ。休んでてね」
「上出来だ、よくやったぞニューラ。後は任せて、休んでな」
お互い、戦い抜いたポケモンをボールへ戻す。
ハルからすれば、最後までルカリオを温存できたのは大きい。エーフィは苦手な悪タイプ相手に相打ちまで持ち込んだのだ、大健闘だったと言っていいだろう。
「うーん、マジカルシャインみたいな広範囲攻撃への対策がまだ課題だなぁ。それでもオレのニューラ、進化せずとも強かったでしょ?」
「そうだね。超至近距離のマジカルシャインを決められたからなんとか引き分けにできたけど、あれがなかったら危なかった。スピードも攻撃力も高いし、何より動きに無駄が少ないよね、スグリ君のポケモンは」
ニューラだけではない、初手のコジョフーもそう。
スグリのポケモンはスピードを持ち味とするポケモンたち。しかも全員が全員、ただ素早いだけではなく攻撃前後の隙が極めて少ない。そして隙が少なくなれば、その分の僅かな時間を追撃や回避に当てられ、結果的にさらに攻撃速度が上がっていく。
スグリのポケモンバトルのセンスは本当に天才的だ。しかし、だからといってハルも負けるわけにはいかない。
「さて、お互いに最後の一体だね」
「ああ。出すポケモンはもう決まってる」
これが最後の一匹。お互いにボールを取り出し、両者のエースを繰り出す。
「さあ頑張るよ! ルカリオ!」
ハルの最後のポケモンはルカリオ。やはりエースのルカリオでなければ、スグリには勝てない。
対して。
「勝とうぜ! ジュカイン!」
スグリのポケモンは、ジュプトルよりもさらに大きくなった緑色のトカゲのようなポケモン。
『information
ジュカイン 密林ポケモン
木々の枝から枝へ身軽に飛び移り
相手を惑わし鋭い葉で敵を仕留める。
密林での戦いは無敵の強さを誇る。』
スグリのエースであるジュプトル、その最終進化系だ。
華奢な体つきだったジュプトルよりも少しがっしりしているが、細身でスタイリッシュなのは相変わらず。背中には四つの種のようなものが生えており、尻尾の葉の数が大きく増えている。
「ジュカイン……スグリ君のジュプトル、進化してたんだね」
「そ、六個目のバッジを賭けたジム戦でね。どう? この首元のスカーフ、似合うでしょ?」
ジュカインの首元には、赤のスカーフが巻いてある。持ち物というわけではないが、赤と緑がおしゃれにマッチしている。
再び対峙する両エース、ハダレタウン以来の対決。その時はメガルカリオが勝ったが、ギリギリの勝利だった。まして今回はジュプトルの進化系、ジュカインが相手だ。油断などするはずもない。
「大丈夫だよルカリオ。今の僕たちなら、きっと勝てる。僕たちの絆の力、スグリ君にぶつけてやろう!」
前回はメガシンカの力を得て思い上がっていたハルだが、今回は違う。
正しい絆の力、正しいメガシンカの力を理解し、もう一度スグリに勝つ。
「僕と君の、絆の力に応えて! ルカリオ、メガシンカ!」
ハルのキーストーンの輝きにルカリオのメガストーンが反応し、光を放つ。
両者の光が繋がり、ルカリオを七色の光に包み、その姿を変えていく。
黒き紋様を体に刻み、咆哮と共にルカリオはメガシンカを遂げる。
「来たか……メガルカリオ。だったら」
思わず。
スグリの脳裏に、前回の敗北が僅かにチラつく。
「こっちも行くぞ、ジュカイン。お前の新たなる力、お披露目の時だぜ」
しかし、今回は違う。冷や汗を浮かべつつも、バトルを楽しむ笑みを浮かべ、スグリは左手突き出す。
その左手の親指には、煌めく宝石を填め込んだ指輪がついていた。
そして。
「……! スグリ君、その指輪は」
「気づいたね。そうとも、オレは手に入れたのさ。ジュカインをメガシンカさせるために……こいつを!」
指輪の中で煌めくその宝石は。
紛れもなく、キーストーンだった。
「オレたちの熱い絆ってヤツを、見せてやる! ジュカイン、メガシンカだ!」