魔王と救世の絆   作:インク切れ

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第112話 翠の絆

ジュカインが首元に巻く、赤いスカーフ。

その留め具に填められていたメガストーン、ジュカインナイトが、スグリのキーストーンと反応し、光を放つ。

両者の光が繋がり、七色の光がジュカインを包み、その姿を変えていく。

光の卵の殻を破るが如く、七色の光を解き放ち、メガシンカを遂げたジュカインが姿を現す。

頭や腕の葉がより鋭利な形状に変化し、胸から背中にかけてX字状に広がる草のアーマーを纏う。

背中に付いた種も増えており、尻尾に近づくにつれ赤く染まっていく。そして何よりの特徴は、大型化し針葉樹のように尖ったその尻尾だ。

「どう? カッコいいでしょ。オレ、メガジュカインのこの姿、すっげー気に入っちゃってさ。もちろんそれに見合った実力を持ってる自信もあるし、オレの相棒にぴったりだよね」

スグリの言葉が聞こえ、ジュカインは嬉しそうにニヤッと笑う。

「さあ、これでハル君に追いついた。後は追い抜くだけ。この勝負、絶対に勝たせてもらうよ」

「そうはいかないよ。僕だって、あの時とは違う。正しい絆の力を教わった。ルカリオと一緒に、必ず勝つよ」

両者のメガシンカポケモンが、戦闘体勢に入る。

準備は整った。

「ルカリオ、発勁!」

「ジュカイン、リーフブレード!」

二人が初撃の指示を出したのは、ほぼ同時だった。

ルカリオの両掌から揺らめく炎が如き青い波導が吹き出し、対するジュカインの両腕の葉が鋭い刃のように伸びる。

双方が駆け出し、正面切って激突。波導の打撃と葉刃の斬撃の激しい連続攻撃が真っ向から炸裂する。

「ジュカイン、竜の波動!」

激しい攻防が続く中、僅かな隙を突いてジュカインがルカリオの攻撃を捌き、跳躍する。

ルカリオの波導拳が空を切り、直後、輝く蒼竜の波動が襲い掛かる。

「ルカリオ! こっちも竜の波導!」

輝く竜の波動の直撃を受けるが、すぐさまルカリオは起き上がり、同じく掌から青く輝く竜の形を取った波導を放つ。

「躱せジュカイン! 一気に接近だ!」

輝く蒼竜を身をかがめて回避し、そのままジュカインは地を蹴り、一気に飛び出す。

腕の葉を伸ばしつつ、一瞬のうちにルカリオとの距離を詰め切り、

「シザークロス!」

弱点を見定め、両腕を振り抜き、鋭利な二振りがルカリオを切り裂いた。

「っ、急所を狙われた……! ルカリオ、大丈夫!?」

幸い、虫技のシザークロスなら効果は今ひとつ。しっかりと地に足をつけて立ち、ルカリオはハルの声に頷き、気合を入れ直すべく雄叫びをあげる。

「さあ、休ませないよ! ジュカイン、竜の波動!」

「だったら! ルカリオ、ボーンラッシュ!」

ジュカインが咆哮と共に輝く光の竜のオーラを放ち、対するルカリオは手を纏う波導を槍の形に変えて携え、ジュカインへ向かって駆け出す。

光の竜の牙を躱し、爪を捌いて鱗を潜り抜け、ルカリオは波導の槍を構え、ジュカインへとその刃先を叩きつける。

「ここは受け止める! ジュカイン、リーフブレード!」

自然の力を帯びて淡く光る両腕の葉を伸ばし、ジュカインはルカリオの波導の槍を迎え撃つ。

双方の得物が激突、火花を散らして激しく競り合う。

「今だジュカイン! シザークロス!」

「そうはさせない! ルカリオ、波導弾!」

鍔迫り合いの末、ジュカインが波導の槍をいなして即座にルカリオへの背後へと回り込む。

だがルカリオの反応も早い。背後に回ったジュカインに対し、槍を掴んだままの右腕を裏拳のように背後へ振り抜くと同時、槍を一瞬で波導の光弾へと変えて掌から発射する。

今まさに振り下ろそうとしていたジュカインの刃に波導弾が命中、炸裂してジュカインの体勢が崩れ、

「発勁!」

間髪入れずにルカリオが波導を纏った掌底を叩きつけ、ジュカインを吹き飛ばした。

「ルカリオ、追撃! 竜の波導!」

「ジュカイン、こっちもだ! そのまま撃て!」

ルカリオが両手を突き出し、宙を舞うジュカインが空中でルカリオを瞳に捉え、両者が同時に青く輝く光の竜のオーラを放出する。

二頭の蒼竜が正面から激突。大爆発と共に竜の咆哮のような爆音が響き、爆煙がバトルフィールドを覆う。

「ルカリオ、君ならジュカインの位置が分かる! 発勁で切り込むんだ!」

パシンッ、と手を叩いてルカリオは両手に波導を纏わせ、ルカリオが爆煙の中へと飛び込んでいく。

ジュカインの発する波導を感知し、煙の中でも正確に相手の場所を見定め、ルカリオは一気にジュカインの懐へ飛び込み、波導を纏った右手を叩きつける。

「っ! ジュカイン、シザークロス!」

振り下ろされる右手を叩きつけられ、地面に叩き落とされ、それでもなおジュカインの動きは止まらない。

砂煙の中から即座に両腕の葉を伸ばして飛び出し、一瞬のうちに狙いを定めて両腕を振り抜き、双刃がルカリオを切り裂き、さらに、

「吹っ飛ばして追撃だ! リーフブレード!」

長い尻尾を振り抜いてルカリオを殴り飛ばし、床に叩き落とすと、淡く光る腕の葉刃を伸ばしてさらにルカリオを狙い襲い掛かる。

「来るよルカリオ、受け止めて! ボーンラッシュ!」

立ち上がると同時にルカリオの掌から波導が噴出、形を変えて青白い槍を作り上げる。

右手に握った波導の槍を剣のように振るい、一瞬の隙もなく立て続けに繰り出されるジュカインの刃による連続攻撃を、ルカリオはなんとか凌ぎ、いなし、捌いていく。

「竜の波動!」

「竜の波導だ!」

次の手、ハルとスグリの二人とも考えていたことは同じだった。

連続攻撃のさなか、不意をついてジュカインが青く輝く竜の波動を放ち、それとほぼ同時にルカリオも左掌から光の蒼竜を形作った波導を放出する。

ほとんどゼロ距離に近いほどのこの近距離で両者の放つ輝竜が激突。牙や爪の軋むような音が響き、最後には咆哮のような爆音と共に青い大爆発を起こした。

爆炎と爆風に巻き込まれ、ジュカインとルカリオ、両者とも派手に吹き飛ばされた。

「まだだッ! ルカリオ!」

「この程度……! ジュカイン!」

壁まで飛ばされたルカリオだが、即座に壁を蹴って再び飛び出し、両腕に青い波導を纏わせる。

対するジュカインは床に落ちたがこちらもすぐさま起き上がり、腕の刃を構えて跳躍、ルカリオを迎え撃つ。

両者激突と同時に、凄まじい連続攻撃を放つ。

互いの連続攻撃による怒涛の応酬、この攻防を制するのは

「発勁!」

「リーフブレード!」

ルカリオが渾身の力を込めて波導の掌底を突き出すが、その瞬間にジュカインは姿を消し、ルカリオの背後へと回り込んだ。

反応させる間も与えず、ジュカインの葉刃がルカリオを切り裂く。最後に打ち勝ったのはジュカインだった。

「一気に決めるぜ、シザークロス!」

ルカリオを床へと落とし、ジュカインは両腕の刃を構えて急降下、再び刃を振るう。

「っ! ルカリオ、ボーンラッシュ!」

間一髪。

波導を槍の形に変え、体勢を崩しながらも、ルカリオは波導の槍をまっすぐに突き出し、ギリギリのところでジュカインの刃を食い止める。

「そんな体勢じゃ、オレのジュカインには打ち勝てないよ。ジュカイン、波導の槍を断ち、さらにルカリオも断ち切れ!」

ジュカインが唸り声と共に刃へ力を込める。

軋むような音を立て、波導の槍にヒビが入る。ヒビはどんどん大きくなっていき、その末に、音を立てて真っ二つにへし折られた。

しかし、

「……それを待ってた! ルカリオ、波導弾!」

切断された波導の槍は消えない。即座に形を変えて、二つの波導の念弾となり、ジュカインへと襲い掛かる。

「なにっ……!?」

予想外の反撃に、スグリの反応が遅れる。

左右から飛来する必中の波導弾が直撃、炸裂して青い爆発を起こし、ジュカインを吹き飛ばした。

「今だ! ルカリオ、発勁!」

決定的な一打を与え、さらにルカリオは地を蹴って飛び出す。

宙を舞うジュカインを追い、両手に青く揺らめく波導を纏わせ、駆ける。

体勢を崩しつつも床に着地したジュカインだが、僅かにふらつく。回避は間に合わない。

ならば。

ここで勝負に出る。

 

「ジュカイン! リーフストーム!」

 

掌に波導を纏わせ突撃するルカリオに対し、立ち上がったジュカインは、背を向けた。

「っ!?」

だが決して臆したわけではない。背を向けたまま振り向いてルカリオをその瞳に捉え、尻尾を構える。メガシンカにより巨大化したジュカインの尻尾を中心としてその周囲に空気が渦を巻く。

刹那。

ジュカインの尻尾の付け根の赤い種が炸裂、渦巻く空気に乗る無数の尖った葉と共に、大きな尻尾が切り離されてドリルミサイルのように撃ち出されたのだ。

「なっ……これは……!?」

超高速で回転しながら、無数の尖った葉を纏わせたジュカインの尻尾がルカリオへと直撃する。

ルカリオの両手を纏う波導を容易く吹き飛ばし、さらにルカリオを捉え、突き飛ばし、無数の葉と回転するドリルミサイルの如き尻尾がルカリオの全身を切り裂いていく。

そしてルカリオを壁へ叩きつけると同時に、大爆発を起こした。

「今度こそ決めろ! リーフブレード!」

そしてジュカインの尻尾はすぐさま再生し、ジュカインはルカリオとの距離を一気に詰め、淡く光る腕の鋭い葉の刃を振り抜く。

反撃する間も、波導覚醒の間も与えられなかった。翠の双刃に切り裂かれ、ルカリオはその場に崩れ落ちる。

七色の光が倒れたルカリオを包み込み、元の姿へと戻す。

つまり。

「……ここまでだね。お疲れ様、ルカリオ。よく頑張ったよ」

ルカリオは戦闘不能。よってこのバトルは、スグリの勝利となった。

 

 

 

「よっしゃ……勝った……! ジュカイン、追い抜いた! よくやったぞ……ッ!」

感極まった様子で、スグリは天を仰ぐ。

元の姿に戻ったジュカインもスグリの元へ歩み寄り、目を合わせて笑みを浮かべる。

「ルカリオ、いいバトルだったよ。だけど、やっぱり悔しいよね」

ハルが屈み込んでルカリオの顔を覗くと、ルカリオは目を開き、小さく唸ってハルの言葉に頷く。

「また一つ目標が増えたね。次に戦う時は、勝とう。それまで、また一緒に鍛え直そう」

ルカリオを労い、ボールに戻し、ハルも立ち上がった。

「さすがはスグリ君だね。悔しいけど、今回は完敗だよ」

やはりスグリは強かった。それも、ハルの想像以上。ハダレタウンで最後に戦った時より、ずっと強くなっていた。

「いやぁ……まぁね。正直、オレも前回ハル君に負けたのが本当に悔しくてさ。あの後から、ジュカインたちと必死で鍛え直し、特訓を重ねた。だから、ハル君のおかげでオレたちはもっと強くなれたし、メガシンカの力も手に入れることができたんだ。やっぱりハル君は、オレにとって一番のライバルかもしれない」

そう言って、笑って、スグリは笑う。

ハルもにっこりと頷き、その上で。

「だけど、次は負けないよ。今のバトル、得るものはたくさんあった。この一週間で少しでも鍛えて、イザヨイ大会でスグリ君にリベンジするからね」

だが。

「……あー、ごめん」

返ってきたスグリの返事は、ハルの予想だにしないものだったを

 

「オレ、その大会出場しないんだ」

 

「……えっ!?」

すなわち、不参加。

規模の大きさで言えばポケモンリーグに次ぐと言われるイザヨイ大会に、スグリは出場しないというのだ。

「理由を、聞いてもいいかな」

「ああ。オレさ、そろそろマークされたくないんだ。いずれ戦う他のトレーナーたちに、目をつけられたくないのさ」

「どういうこと……?」

「手の内を知られたくないってことさ。イザヨイ大会はポケモンリーグに次ぐ大舞台、だとしたらここで好成績を残せばポケモンリーグ本番では必ずマークされる。要注意トレーナーとして警戒される。まぁ別に警戒されたところで負けるつもりはないけど……それでもできるなら手の内は隠しておきたいんだ。それに」

さらにスグリは続け、

「優勝賞品のシード権だけど、オレはそこまで必要なものとは思えなくてね。ハル君、マデル地方のポケモンリーグの試合形式は知ってる? 毎年二百、いや、年によっては三百を超える参加者がいるんだけど、本戦のトーナメントに進めるのは予選を勝ち抜いた十二人、そこに四天王を加えた合計十六人。たった十六人しか本戦には出られないんだ。しかも予選も全てトーナメントだから、一敗でもしたらそこで敗退。つまり、予選で苦戦するレベルじゃ絶対に本戦には上がれない。もう分かったよね、シード権なんて必要ないんだ。予選を一戦分パスしたところで、結局負けたら終わりなんだから。それならシード権を得るより、情報を隠して少しでも勝ちを狙った方がいい。オレはそう思ってる」

スグリの話は、あくまでそれを成し遂げられる実力があることを前提とした話。

しかし、ハルには納得が出来てしまう。スグリならそれが出来るかもしれない、そう思ってしまう。

「まぁ長ったらしく話したけど、要は天秤にかけたのさ。予選のシード権と、自分の戦力の情報、どっちが大事かってね。そして戦力の情報の方が大事だと判断した。そんなとこだよ」

話し終えると、スグリは得意げに笑う。

「……そっか。だけど、僕は大会に出るよ。今の話を聞いてちょっと気持ちが揺らいだけど、僕は僕の決めた道を進む。それでさ、一つ、約束をしない?」

スグリの話を聞くうちに、ハルにも目標が見えてきた。

「ん? 約束って、どんな?」

「スグリ君がイザヨイ大会に出ないなら、次に戦うことになるのはポケモンリーグってことになるよね」

「うん、そうだね」

「だったらさ」

ハルはそこで一拍置き、続ける。

 

「ポケモンリーグの本戦、決勝戦。そこで、決着をつけよう」

 

ハルが見えてきた目標、すなわち、ポケモンリーグで優勝すること。

まだ雲の上の目標だが、必ず、その境地に達してみせる。

「……なるほど。いいね、それ。分かったよ、次に戦うのは、ポケモンリーグの決勝戦だ」

「うん、約束だよ。それまでに、もっともっと強くなってるからね」

そう言って、ハルは右手を差し出す。

スグリもすぐにその意図を理解して、握手を交わす。

今、ここに。

二人の少年の間で、再戦の誓いが交わされた。

「……さて、硬っ苦しい雰囲気はここまでにしようよ。ハル君、大会まではまだ一週間もあるしさ。今日は休んで、明日からしばらく、この街を観光しない?」

「わぁ、いいね! 科学技術の最先端の街、いろいろ見て回ろうよ!」

「よっしゃ、決まりだ! それじゃ、また明日!」

スグリはそう言うと、手を振り、先に交流場を出て行った。

「ポケモンリーグ優勝か……そのためには、さらに強くならないとね」

ハルも一言呟き、激戦を終えたポケモンたちを、再びジョーイさんへ預ける。

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