マデル地方最大の街、ハイテク都市イザヨイシティは、観光地であると同時に研究施設の拠点でもある。
古代ポケモン博物館や海の科学博物館などはその最たる例であり、観光と研究を兼ね備えた施設の代表格。その他にも様々な研究施設が立ち並び、動く歩道に乗って移動していれば時折清掃ロボや警備ロボとすれ違う。
観光施設の多くは自動化され、AIやロボットによって運営されており、飲食店も自動化されているものが多い。
そしてこれらの自動サービスはあのマキノがたった一人で管理しているというのだから驚きだ。圧倒的な知能指数を持つ彼女だからこそ為せることなのだろう。
ハルとスグリはその様々な観光地を数日かけて見て回り、今日は大会の前日。
「よっしゃ、あっという間に十連勝じゃん!? ハル君、ナイスサポート!」
「見てよスグリ君、十連勝までの最速記録更新だってさ! やったね!」
ハルとスグリは、バトルタワーと呼ばれる施設でバトルをしていた。
一流のブリーダーが育てたポケモンを、例によってマキノお手製のAIが使用し、それを相手に戦い続ける腕試しの施設。二人はタッグバトルコースを選んで挑戦している。
ハルは大会の調整も兼ねたバトルだったのだが、気がつけばあっという間に十連勝。しかも最速記録を更新していた。
『挑戦者ハル、スグリ。お見事です。このまま挑戦を続けますか?』
「ハル君、どうする? オレはどっちでもいいよ」
「うーん……明日は大会もあるし、ここまでにしておこうかな」
『かしこまりました。それでは挑戦を中断いたします。新記録達成のお二人に報酬がございますので、ロビーにてお受け取りください』
アナウンス通りに二人はロビーに戻り、受付窓口で報酬を受け取る。
新記録樹立とあってなかなか豪華だった。まず賞金があるし、見慣れないアイテムがいくつか封入されている。
「なんだこりゃ? カプセル状の薬みたいな道具が入ってるぜ」
「えーっと、“特性カプセル”だって。二種類の特性を持つポケモンに使うと、もう片方の特性に変わるアイテムみたいだよ。アルスエンタープライズが他地方の企業と協力して作ったんだって」
同封されている説明書を見つけ、ハルがそれを読み上げる。
「たまに見つかる隠れ特性持ちのポケモンには効果がないみたいだよ。例えば僕のエーフィの特性は隠れ特性のマジックミラーだから、そういうポケモンには使えないってことだね」
「なるほどねぇ、なかなか面白いアイテムじゃん。でも使い所はよく考えなきゃな」
ちなみにバトルタワーでは、一戦毎にポケモンの回復が行われる。とはいえ疲労が完全に癒えるわけではないため、ポケモンセンターでのケアは必要だ。
「さてと、そろそろいい時間だね。ポケセンに戻って休んで、その後夕飯でも食べようか」
「そうだね。明日に備えて、早めに寝なきゃだし」
バトルタワーを後にし、二人はポケモンセンターへ向かう。
そろそろ夕方だ。街の電光掲示板からは、夕方のニュースが流れている。
『続いてのニュースです。カロス地方ミアレシティのミアレワインショップにて、何種類かのワインが強奪される襲撃事件が発生しました。ミアレシティでは今日未明、何者かの襲撃によって爆発が……』
聞こえてきたのはなんとも物騒なニュースだった。マデル地方内での事件ではないようだが。
『……後の捜査で、何種類かのワインが盗まれていたとのことです。この事件で、ワインショップを警備していた警備員のうち一人が意識不明の重傷、数名がけがをしました。警察は強盗事件とみて捜査を進めていますが、犯人については……』
「カロスで爆破事件かぁ……なんかどの地方も物騒だなぁ」
ニュースを見ていたスグリが呟く。マデル地方も、ついこの間イザヨイシティがゴエティアに占拠されていた。
カロス地方とマデル地方は比較的近く、しかもそれなりに規模の大きな事件のようなので、こちらでも報道されているのだろう。
『では、CMの後は、いよいよ明日開催されるポケモンバトルイザヨイリーグについての……』
流れてくるニュースを適当に聞いている間に、動く歩道でポケモンセンターに到着。二人はポケモンセンターの扉をくぐる。
ポケモンセンターの食堂は相変わらず四人用のテーブルとカウンターしかないので、今回もハルはスグリと一緒に四人用のテーブルを使っている。
「スグリ君、たくさん食べるね……」
「そーかな? 寧ろハル君少なすぎない? いっぱい食べないと、明日力出ないよ?」
何と言っても目を惹くのは、スグリの皿一杯のフライドポテト。山盛りに積まれている。
「あ、あはは……僕、昔から少食気味だからね……あんまりたくさん食べるとお腹壊しちゃうよ」
フライドポテトを摘むスグリを見て苦笑いしながら、ハルも自分の料理を口に運ぶ。
その時、
「ハル! あっ、それにスグリ君も!」
後ろから自分の名前を呼ぶのは、よく聞き覚えのある声。
振り返ると、
「その声は……やっぱり、サヤナか! カタカゲシティ以来だね、元気にしてた?」
立っていたのは、大量の料理を運ぶサヤナだ。
「うん! さっきイザヨイジムのマキノさんに勝ってきたところだよ! 体が機械になってて、びっくりしちゃったよ。スグリ君も、久しぶりだね!」
相変わらずテンションの高いサヤナが、ハルの隣に座る。
「やあ、サヤナちゃん。ハダレタウンの大会以来かな? 久しぶりじゃん」
頬張っていたポテトを飲み込み、スグリが顔を上げ、笑顔で手を振る。
「大会のために私もイザヨイシティに来たんだ。二人も明日の大会出るんでしょ? 明日に備えて、私のポケモンたちのコンディションも万全に仕上げてきたからね! にひひー、目指すはもちろん、優勝だよ!」
意気込むサヤナ、そしてそれとは対照的に、
「いや、オレは今回はパス。ちょっと理由があってね、今回は観客席でみんなの試合を見ながら応援してるよ」
「そっかぁ、スグリ君出ないのかぁ。ちょっと寂しいけど、でも逆に考えれば私の優勝の可能性が少し増えるかも? これはチャンスかもしれないね!」
少ししょんぼりするがすぐに笑顔を見せ、サヤナは目の前の料理を次々と頬張っていく。
(サヤナもたくさん食べるなぁ……)
サヤナの食べっぷりに思わず目をやってしまうハルだが、今回は相手が女の子なので触れないことにしておく。
「ハルは明日の大会出るの?」
「うん。ちょうどいい腕試しにもなるからね。やるからには、僕も優勝目指して頑張るよ」
「やったー! というか、久々にハルともバトルしたいね! もし大会で当たったら、私が勝っちゃうからね!」
ハルがそう答えると、サヤナはいかにも嬉しそうににんまりと笑う。
「あっ、そう言えばさ。今回の大会はかなり大規模な大会だって話はハルも知ってるよね」
「うん、そう聞いてるよ。優勝者にはポケモンリーグ予選のシード権が与えられるほどだし」
「そうそう! それでね、なんと! スペシャルゲストとして、チャンピオンが来るっていう噂があるんだよ!」
「マジ? ダフナさんが来るのか。テレビとかで見たことはあるけど、実物を見るのは初めてだな」
サヤナの言葉に、スグリも反応を示す。
「ダフナさん?」
ハルがきょとんとしていると、
「そっか、ハルは引っ越してきたから知らないよね。ダフナさんはマデル地方のチャンピオン! なんでも、百年前に救世主と呼ばれた七人の英雄のうちの一人の子孫なんだって。もうかなりの歳だけどその実力は他の地方のチャンピオンも認めるほどの、とっても強いお爺ちゃんなんだよ!」
「そそ。もうかれこれ三十年以上はチャンピオンの座を守り抜いてるんだ。その下の四天王は何回も代替わりしてるのに、ダフナさんは未だ健在。マデル地方の全トレーナーの憧れなのさ」
「なるほど……そんなに凄い人が、明日の大会に来るのか……」
残念ながらチャンピオンのバトルを見ることができるわけではないようだが、それでもこの目でチャンピオンを見れるとなると楽しみだ。
その後、食事を終えて三人は解散し、ハルが借りている部屋に戻ったところで、
「ん? 誰からだろう……もしかして」
アルス・フォンが着信音を鳴らす。
通話の相手は、
『ハル、俺だ。ラルドだ』
イザヨイジム戦後、他の街へ向かったラルドだった。
「やっぱりラルドか! もうイザヨイにいるの?」
『いや、ちょうど今カタカゲシティだ。本当はこのくらいの時間には着いてるはずだったんだけど、ちょっと予定がずれちゃってな。ま、カタカゲからイザヨイまでの道はリザードンも知ってるし、ここからはリザードンに乗って飛んで帰れる。今日中には着くぜ』
「そっか、よかった。大会は明日なのにこっちに戻ってきた様子がないから、連絡くれて安心したよ」
どうやら、明日にはラルドとも会えそうだ。
『っし、そんじゃそろそろ向かうかな。明日の会場で会おうぜ』
「うん。楽しみにしてるよ」
じゃあね、と告げ、通話は切れる。
ラルドが戻ってくるのは確定、明日になればミオやエリーゼなど、ライバルたちともまた会えるかもしれない。
ゆっくり休んで、明日はいよいよイザヨイ大会だ。
そして翌日。
ハルとサヤナは、アルス・フォンで参加登録を済ませ、朝早くから会場を訪れていた。
街の中央に聳える、巨大なバトルスタジアム。ここが今回の大会の舞台だ。
もちろん予選も行われるが、予選は中央のスタジアムを囲む周囲のバトルフィールドで行われる。そのため、本戦に進むことができなければスタジアムに立つことは許されないのだ。
「開会式まではもう少し時間があるね。ちょっと会場内を見て回ってみようか」
「うん! ……あっ、パパからメッセージだ。『大会頑張れ。仕事でそっちには行けないけど、テレビから応援してるぞ』だって。頑張んなきゃねっ」
久しく会っていないが、サヤナの父親はハルにリオルをくれたミツイ博士だ。リデルとも関わりがあるようなので、彼づてでルカリオについての話も聞いているかもしれない。
すると、その時。
「あら? ハル君にサヤナちゃんじゃない?」
曲がり角から現れた女性が、二人を見て声を掛ける。
声の主は、
「あっ!」
「アリスさん!?」
レオタードのようにも見える、ぴっちりした青い服に、青白いグラデーションの掛かった短いスカート。右手首に付けたブレスレットには、キーストーンが填め込まれている。
サオヒメシティジムリーダーにしてメガシンカの継承者、アリスだ。
「久しぶりね。ここにいるってことは、二人とも大会に出場するのよね?」
軽く手を振り、アリスはにっこりと笑う。
「はい。こんな大きな大会、滅多にありませんから。優勝目指して頑張ります」
「アリスさんは大会を観に来たの? それとも、大会の解説?」
サヤナが尋ねるが、アリスは首を横に振る。
そして、
「違うわよ。私も参加者。今回は一トレーナーとして、イザヨイ大会に参加するのよ」
そう、返した。
「……えっ? 大会に出るんですか!?」
予想だにしていなかった返答に、ハルは思わず聞き返してしまう。
「そうよ。ジムリーダーとは言っても、ポケモントレーナーの一人であることに変わりはないわ。それに私は今の立場に満足してない。継承者の家系に生まれた名のあるメガシンカ使いの一族として、いずれは四天王、チャンピオンの座だって狙う。その足掛かりに、まずはイザヨイ大会に出場することにしたの」
「そうだったんだ……まさかアリスさんが参加するなんて、思ってもみなかったよ」
サヤナの言う通り、ハルもまさか現役のジムリーダーが参戦するとは思いもしなかった。
が、驚きはそこで終わらない。アリスはさらに続ける。
「びっくりしてるところ悪いけど、私だけじゃないわよ」
「えっ?」
アリスの言葉に二人が再び反応した、それと同時に。
「すみません、アリスさん。お待たせいたしました」
アリスに遅れて、もう一人の女性が姿を現す。
「おかえり、イチイ。あっちの用事は済んだの?」
「ええ。店長さんから仕事のことで、確認の電話があっただけですので……って、あら? ハル君に、サヤナさん? お久しぶりですわね」
赤い木の実のような髪留めを差し、桜の柄の桃色のワンピースを着た女性。シュンインシティジムリーダー、イチイだ。ハルとサヤナを見て、柔和な微笑みを浮かべる。
「イチイさん! ……ってことは、もしかして」
「イチイさんも大会に出場するってこと!?」
二人の言葉に、イチイは照れくさそうに少し頬を赤らめ、
「ジムリーダーの私が大会に出場することには少々抵抗もありまして、本当は出るつもりはなかったのですけれど……アリスさんに何度もお誘いを受けましてね。先輩ジムリーダーであるアリスさんが出るのなら、私も出場させていただいても構わないと思いまして、今回アリスさんと一緒に参加することにいたしましたの」
「そういうことよ。今回は私もイチイも、ジムリーダーではなく一人のポケモントレーナーとして優勝を目指すから」
「もし大会で当たることがあればその時は、お互い手加減なし、ですわよ」
そう告げると、二人のジムリーダーは手を振り、その場を去っていった。
「……サヤナ。どうやら今回の大会、かなり厳しい戦いになりそうだね」
「うん。いつも以上に気を引き締めていかないと、あっという間にやられちゃいそう。だけど、本気のアリスさんたちと戦えるチャンスでもあるんだよね」
「そうだね。俄然燃えてきた。今までの大会の中で、一番楽しみだよ」
当然だ。
相手が強ければ強いほど、こちらも燃え上がる。それが、ポケモントレーナーというものなのだから。
まもなく開会式、そしてそれが終われば、いよいよイザヨイ大会の開幕だ。