魔王と救世の絆   作:インク切れ

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第115話 まずは敵を知るべし

「ワルビアル、ドラゴンクロー!」

「クリムガン、こっちもドラゴンクローだ!」

ハルのワルビアルと、相手の炎のように赤い顔に青い胴体を持つドラゴンポケモンが、同時に両腕に青く輝く光の爪を纏わせる。

 

『information

 クリムガン 洞穴ポケモン

 洞窟に生息し日光浴のため時折外に

 出てくる。翼は日光で体を温める

 役割を持つが飛ぶことはできない。』

 

両者の竜爪が真っ向から激突、お互い一歩も引かずに取っ組み合うが、

「ワルビアル! そのまま、地震だ!」

がっぷりと組み合いクリムガンを睨みつけたまま、ワルビアルが太い尻尾で思い切り地面を打ち据える。

大地が大きく揺れ、クリムガンが体勢を崩す。

「今だ! 投げ飛ばして、ストーンエッジ!」

その隙を逃さず、ワルビアルは竜爪で掴んだクリムガンを投げ飛ばし、さらに咆哮と共に地面から尖った岩の柱を出現させる。

クリムガンが地面に叩きつけられた瞬間、真下から突き出る岩の柱がクリムガンを捉え、宙へと派手に突き飛ばした。

「クリムガン……!」

打ち上げられたクリムガンは重力に従ってそのまま落下し、目を回して倒れてしまう。

「クリムガン戦闘不能! ワルビアルの勝利です! 勝者、ハル選手!」

審判がハルの勝利を告げる。たった今、ハルは予選最後の試合に勝ち星を付けた。

「よーし! ワルビアル、よく頑張ったね!」

ハルに呼応して喜び勇むワルビアルを背伸びして撫で、ボールへと戻す。

これでハルの予選は終了。ただし第三会場の他の人の予選は続いているので、結果はまだ分からない。

予選結果は四勝一敗と、全勝はできなかった。不安と期待を抱きながらも、ハルは一旦控え室へと戻る。予選の試合が全て終了した時点で、アルス・フォンに結果の通知が来る。

そして、

「……! よし、載ってる!」

大会アプリ内にて表示された予選通過者の一覧の中に、ハルの名前が載っていた。一覧の並び順は参加登録の番号のようで、このリストではどのトレーナーが特に強かったかまでは分からない。

よく見てみると、第三会場の予選で五戦全勝したトレーナーは一人もいなかった。やはり今回の大会、相当にレベルが高い。

「ハル! お互い予選突破だぜ、やったな!」

その時不意に声を掛けられた。声の主は、いつの間にか隣にいたラルドだ。

「おぉ! ってことは、ラルドも予選通過したんだね!」

「へへっ、当たり前だろ。今日は俺もポケモンたちも絶好調だ。まぁ全勝はできなかったんだけどな……初戦でカタコトの派手な金髪のリンダって女の人に負けたけど、その後は四連勝できたぜ」

初めての大会に高揚しているのか、五試合こなしてきたのにラルドはまだ元気が有り余っている様子だ。

「それから、見たか? 予選通過者のリストの中に、ジムリーダーの名前があったぞ。しかも、二人も。まさかジムリーダーが参戦するなんて、想像もしてなかったぜ」

「アリスさんとイチイさんだよね。昨日会ったから参加してるのは知ってたけど……まぁ、当然上がって来るよね」

さらにリストに目を通していくと、サヤナ、ミオ、エリーゼの名前が載っていた。ラルドも通過したので、どうやらハルの友人たちは皆予選を突破したようだ。

「そういや、ラルドが負けたって言ってたリンダって人、いないね」

「マジ? ……うわ、本当にいないな。結構強かったんだがな、あのパンプジン……」

ポケモンバトルは、何が起こるか最後まで分からない。強い、と目されていたトレーナーが脱落してしまうことも、この世界においては何ら不思議ではないのだ。

「さてと。今日はこれで終わりなんだっけか?」

「そうだね。本戦は明日からだよ」

そう言ってハルがアルス・フォンの時刻に目をやると、そろそろ夕方だ。

予選は朝から行われていたので、かなり長い間続いていたことになる。

ちなみに、本戦トーナメント一回戦の組み合わせ発表も明日。誰と戦うことになるかは、この時点ではまだ分からない。

「おっ。ハル、大会アプリの更新が来てる。画面に映ってる、本戦出場のトレーナーの名前を押してみろよ。面白いものが見られるぞ」

ラルドに言われて、ハルはとりあえず自分の名前をタップしてみる。

するとフォンの画面が切り替わり、映像が流れ始める。ワルビアルとクリムガンが雄叫びを上げている。

「これって……さっきの予選の試合?」

「みたいだな。どうやら、タップしたトレーナーの予選の勝ち試合を一戦だけ見ることができるらしいな」

「なるほどね……試合はまだでも、既に本戦は始まっているってことか」

「そういうことだぜ。試合を有利に進めるために、情報収集は欠かせないよな」

そこまで言うと、さて、とラルドは立ち上がり、

「今日はもう試合がないなら、俺はもう少しポケモンの調整をしておこうかな。ついでにクリュウさんたちにも本戦に進んだって連絡しないといけないからな。ハル、明日からの本戦も頑張ろうぜ。もし当たることになったら俺が勝つからな」

「前半は同意だけど、後半はそうはいかないよ。勝利は譲らないさ」

ハルの返事を聞いてラルドはニヤリと笑うと、手を振り控え室を出て行った。

 

 

 

ポケモンセンターの食堂のテーブル席に、ハルとサヤナ、そしてバトルタワーから帰ってきたスグリがそれぞれの料理を並べて座る。

曰く、暇つぶしにバトルタワーに挑戦していたら50連勝していたらしい。

「ハル君もサヤナちゃんもお疲れ。二人が戦ってる間に、今回の大会の注目選手を調べといたよ」

予選を終えた二人を労い、スグリがアルス・フォンの情報を転送する。

「まずは、この間オレたちも出場したハダレ大会の好成績者だね。ハダレ大会ビギナーランク準優勝者のコロン、そして優勝者のメイコ。どっちも予選突破してるよ」

かつてのハダレ大会は、ジムバッジの個数によってレギュレーションが分けられていた。

「次にレギュラーランク……はオレとハル君、ミオ君だから飛ばして、強豪ぞろいのアドバンスランク。あの時のベスト4が今回も全員本戦進出してるよ」

ハルとサヤナがフォンの画面を覗き込む。

「まずは同率三位のガイ、ラティナ。この二人はオレたちと同じ、今年からポケモントレーナーになったルーキー。だけどトレーナー歴はオレたちより数ヶ月上だね」

次に、とスグリは続け、

「準優勝者、炎タイプ使いのキマリ。イッシュ地方出身のトレーナーで、トレーナー歴は二年目。他の地方出身でマデルを旅してるって意味では、エリーゼさんと一緒だね。前回のイッシュ地方ポケモンリーグにも参加してて、ルーキーでいきなり予選突破するも本戦では一回戦で敗退。通称“炎舞のキマリ”って言われてるんだって」

たしかカロスリーグに出場してきたエリーゼも“紅の弾丸”の異名を持っていたはずだ。ポケモンリーグに出場すると二つ名が貰えるのだろうか。

「そして、一番やばいのがこいつ。アドバンスランク堂々の優勝者、バキ。生まれ育ちはマデルだけど、あのガラル地方のジムチャレンジを経験してる。ガラルのジムを全部踏破するも、セミファイナルトーナメント決勝で敗退。一から鍛え直すべく、マデルに帰ってきた猛者だよ」

「あ、この人選手宣誓の時の人だね」

アドバンスランク優勝者ということで、開会式の選手宣誓に選ばれていたのはこの男だ。

「そういえばパパから聞いたことあったかも。たしかガラル地方のジム戦って、マデルのジム戦とは全然違うんだっけ」

サヤナが画面から目を離し、口を挟む。

「オレも詳しくは知らないけど、そうみたいだね。ジムの順番が決まってるとか、決められた期間内に八個のジムを突破しないといけないとか、そもそも参加するのに推薦状が必要だとか。いずれにしてもかなり厳しい戦いだって話だよ」

「なるほど……その厳しい戦いを経験したトレーナーが、対戦相手になるかもってことか。楽しみだね」

ハルも顔を上げ、頷く。

そんな二人の様子を見て、スグリはさらに続ける。

「逆に、全く情報がないトレーナーも二人いるね。今まで大会に参加せず、今大会でいきなり本戦に来たトレーナー……まぁ片方はラルド君なんだけど、もう一人いるよ」

再びスグリが画面を転送する。

「この街、イザヨイシティ出身のライタ。大会に出場するのは今回が初めてらしいけど、ジムバッジは七個。過去の情報が全くないから、ラルド君と並んでダークホースになり得るね」

バッジ七個ということは、ハルやサヤナと同格。加えて情報がないとなると、特に気をつけなければならない。

「ま、何と言っても今回の大本命はアリス&イチイのジムリーダーコンビだけどね。今回のジムリーダー参戦に関しては、ネットでもかなり話題になってるよ」

そう言ってスグリがSNSを開く。なんとネットニュースにまで上がっていた。

「わ、ほんとだ。しょーじき、私もアリスさんたちが来てるなんて考えもしなかったもんね」

サヤナが呟き、ハルもその画面を覗く。

「……なんだか、批判的なコメントが多いみたいだね」

「不思議なことにねー。出来レースだとか誰が勝つかワクワク感がなくなるとか……ま、オレからすりゃ批判する意味が分かんないけど。多分、批判してる人の中にポケモントレーナーいないよ」

「そうだよね。僕たちからすれば、本気のジムリーダーと戦えるかもしれないなんてまたとない機会なんだし。胸を借りるつもりで行かなきゃ損だよね」

「ちぇっ、ジムリーダーが参加すること知ってたらなぁ……そしたらオレも手の内とかかなぐり捨てて参加したのになぁ」

ポケモントレーナーの性である。自分より強い者と戦い、どこまで通じるかを知りたい。トレーナーでなければ、この感覚は伝わらないだろう。

「にひひー、スグリ君の分まで、私とハルが頑張るからね!」

「スグリ君、情報ありがとう。明日からの本戦で役立ててみせるよ」

「ああ。オレは観客席から、みんなのバトルを観察させてもらうぜ」

意気込む二人に対して、スグリはフッと笑う。

いよいよ明日は、大会本戦だ。

 

 

 

そして翌朝。

朝食を食べて準備を整え、ハルはポケモンセンターを出て会場に向かおうとしていた。

「おっはよー! ハル、調子はどう?」

ポケセンの外に出たハルを出迎えたのは、サヤナともう一人。

「お久しぶりね。ハル、元気にしてたかしら?」

赤いストレートヘアーの先輩トレーナー、エリーゼ。珍しく傍にハッサムがいない。

「エリーゼさん、お久しぶりです! カタカゲシティ以来ですね! サヤナも、おはよう!」

ぱあっと明るくなったハルの顔を見て、エリーゼはにっこりと笑う。

「一週間前、イザヨイシティがゴエティアに占拠されてるって聞いたけど、無事解放されたみたいで良かったわね。こうして大会も問題なく開催されたわけですし」

ハルやラルド、ノワキの住民たちがイザヨイ解放のために戦ったことは報道されていない。ハルもラルドも騒がれ持て囃されるのはあまり好きではないこと、何よりノワキの住民たちの平穏のため、マキノに隠してもらうようお願いしたのだ。

「大会でハルと当たるとしたら、ヒザカリ大会振りかしら? あの時は負けてしまったけど、今回はそうはいかないわ。ハルが相手なら、私のハッサムでお相手いたしますわよ」

「望むところです。僕もエリーゼさんのハッサムには一度負けてますし、リベンジを果たしてみせますよ」

エリーゼの名前が昨晩の作戦会議で挙がらなかったのは、ハダレ大会で一回戦からよりにもよってスグリと激突したためだ。彼女も充分、強豪に数えられる一人である。必ず勝ち上がってくるだろう。

「さあ、それじゃ会場に向かおう! にひひー、もうすぐ大会本戦、始まるよ!」

「そうね。そろそろ向かうとしましょうか」

ハルとサヤナ、エリーゼの三人は動く歩道に乗り、街の真ん中の巨大なスタジアムへと向かう。

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