「まぁ、まずまずの収穫ってとこか」
「コフキムシはどうでもいいな。だがこっちのアチャモは珍しいポケモンだぜ」
ハルとスグリが少しずつ忍び寄っていることにも気付かず、二人の黒ずくめの男は木の幹にもたれ掛かり、座り込んで話している。
「……コフキムシにアチャモ、間違いないよ。あいつらがサヤナのポケモンを奪ったやつだ」
「オッケー。それじゃ、サクッと片付けますか。ハル君、そっちから大声で出てって」
スグリはオンバットをボールへ戻し、作戦を開始する。
「お前たち! サヤナのポケモンを返せ!」
まず正面から、ボールを構えたハルが飛び出す。
「なっ!?」
「追っ手だと!?」
慌てて二人の男は立ち上がる。
「お、おい! 逃げるぞ!」
「落ち着け、相手はガキ一人だ。俺たちが二人で掛かれば……」
そしてごちゃごちゃ喋ってる二人の後ろから、
「一人じゃないし、お兄さんたち、もう逃げらんないよ」
逃げ道を塞ぐように、ボールを手にしたスグリが現れる。
「く、くそ! こうなれば!」
「ああ、力尽くだ!」
突然現れたとはいえ子供二人にビビっているあたり、やはり大した使い手ではないらしい。
ともあれ逃げることを諦めたのか、黒ずくめの二人もモンスターボールを取り出した。
「行け、フシデ!」
「やっちまえ、ポチエナ!」
ハルに相対する男は赤く丸っこいムカデのようなポケモンを、スグリに相対する男は黒い小型のオオカミのようなポケモンを繰り出す。
『information
フシデ ムカデポケモン
体は小さいが凶暴な性格で天敵の
鳥ポケモンにも毒の牙で噛みついて
反撃。触覚で獲物や外敵を察知する。』
『information
ポチエナ 噛みつきポケモン
動くものを見つけるとすぐに噛みつき
逃げる相手はしつこく追いかけるが
反撃されると尻尾を巻いて逃げる。』
「虫タイプなら、頼んだよ、ヤヤコマ!」
「こいつで充分っしょ。出てこい、ブイゼル!」
ハルとスグリも、それぞれ戦闘に入る。
「フシデ、糸を吐く!」
「ヤヤコマ、火の粉だ!」
フシデが白い糸を吐き出し、ヤヤコマを拘束しようとするが、ヤヤコマは無数の火の粉を吹き出し、その糸を燃やしてしまう。
「フシデ、ポイズンボール!」
「躱して疾風突き!」
糸が当たらないのを見ると、フシデは毒素を固めた球体を放つが、ヤヤコマはそれをひらりと躱し、高速で突撃する。
「くそっ……フシデ、受け止めろ! 虫食いだ!」
フシデが口を開いて迎え撃とうとするが、それよりも早くヤヤコマが嘴でフシデを突き飛ばした。
「くっ、フシデ、毒を浴びせろ! ポイズンボール!」
再びフシデが毒素を固めた弾を放つが、
「ヤヤコマ、エアカッター!」
ヤヤコマは翼を羽ばたかせて風の刃を飛ばし、毒の弾を切り裂いて壊し、さらにフシデ本体も切り刻む。
「一気に決めるぞ! ヤヤコマ、火の粉!」
連続攻撃を受けてフシデが数歩下がったところに、ヤヤコマは口から火の粉を吹き出し、フシデの体を焦がす。
炎を浴び、黒焦げになったフシデは、そのまま目を回して動かなくなった。
「ブイゼル、アクアジェット!」
ブイゼルが水を纏い、猛スピードで突撃を仕掛ける。
「ポチエナ、噛み付く!」
ポチエナは迎撃しようと口を開くが、その時には既にポチエナはブイゼルに突き飛ばされていた。
「速い……っ! ポチエナ、突進!」
「遅いっての! ブイゼル、瓦割り!」
立ち上がったポチエナが地面を蹴って突撃を仕掛けようとするが、その瞬間にブイゼルに脳天へ手刀を叩きつけられ、再びよろめく。
「くそっ! ポチエナ、噛み付く!」
「これで決めようか。ブイゼル、水の波動!」
ポチエナが口を開けたその瞬間、ブイゼルがその口の中に水の弾を叩き込んだ。
ポチエナの口の中で水が炸裂し、派手に吹き飛ばされ、ポチエナはそのまま戦闘不能になった。
「嘘だ……俺のフシデが、こんなガキに……?」
「こんなに早くやられるなんて……そんなバカな!」
どうやら男たちはこれ以上ポケモンを持っていないらしい。
相手は子供とはいえ、ポケモンを引き連れている以上腕ずくで抑えるわけにもいかない。
「さぁて、そろそろ観念してもらおうかな」
「サヤナのポケモンを、返してもらうぞ」
ハルとヤヤコマ、スグリとブイゼルに囲まれ、追い詰められる二人組。
その時だった。
ズドォン!!! と。
轟音が響き、林に何かが落ちてきた。
「うおっ……!」
「な、なんだ!?」
スグリが飛び退き、ハルも後ずさりする。
木々がなぎ倒され、砂煙が上がる中、
「……いつも言ってるんだけどさぁ、もう少し安全に着地できないかなぁ? ぼくは別に怪我しないけど、誰か押し潰しちゃったらどうすんのさ? ま、どーでもいいけど」
砂煙の中から声が聞こえる。
少年のものにしては高いが、少女のものにしては低い。そんな声だった。
やがて砂煙が晴れると、そこには一人と一匹。
まずはポケモン。鋼の円盤のようなボディに、二本の鉄腕がくっついている。
『information
メタング 鉄爪ポケモン
腕を後ろで折りたたみ時速100キロ
で空を飛ぶ。鋼の体はジェット機に
激突しても傷つかないくらい頑丈だ。』
鋼のポケモン、メタングが無機質な赤い瞳を光らせ、周囲を見回す。
そして、メタングの上に腰掛ける人影。
着地の衝撃でずれた金色の王冠を欠伸をしながら被り直し、長い黒髪を腰のあたりまで垂らし、肩を露出させた丈の長い赤いマントのようにも見える服を着ており、足はなぜか裸足。体つきも身長も少年にも少女にも見え、性別が分からない。
「見ーつけたっと。ったく面倒くさいな、なんでこんなところにいるんだよ。あ、それ没収ね」
悪態をつきながら謎の人物は黒ずくめの二人からサヤナのボールを取り上げ、ハルとスグリの方に向き直ると、
「君たち、これを取り戻しに来たんでしょ? これ別にいらないから君たちに返すけど、代わりにこいつら引き渡してくんない?」
何気ない様子で首を傾け、二つのモンスターボールを手の中で弄び、そう尋ねる。
「……その前に」
スグリがブイゼルを連れたまま、一歩踏み出す。
「取引を持ちかける前に、自己紹介の一つくらいしたらどうなのさ」
「あらぁ? 気の強いやつがいたもんだ。こんな胡散臭い男に会話を求めるなんてさ。そういうの嫌いじゃないけど、関わる相手は選んだ方がいいよ」
スグリに詰め寄られても、この人物――どうやら男らしい――は顔色一つ変えない。
「ゴエティア。その名前を聞けば、分かるんじゃないかな? ぼくたちに関わらない方がいいってことくらいは」
「なっ……ゴエティアだって?」
刹那。
スグリの表情から、余裕が一瞬にして消えた。
だが目の前のスグリなど気にも留めない様子で、謎の少年はハルの顔を見つめる。
「んー? 君はこっちの地方の人間じゃないのかな? マデルの人間なら絶対に分かるはずなんだけど」
歴史の勉強が足りないなぁ、と少年はケラケラと笑い、
「じゃあこっちなら分かるかな? 百年前、マデル地方に大紛争を起こし、最終的には七人の英雄によって打ち倒された組織。それが、ゴエティアなのさ」
「……! それって……」
ハルも思い出した。引っ越しの日に、ミツイの車の中で読んだ歴史書に書かれていたものだ。
「ぼくたちの組織の名は、まさに『ゴエティア』。百年前の、いや、六百年も前に栄えたマデル王国の王の思想を理解し、崇拝する者たち」
ニヤリと。
王冠の少年は、顔いっぱいに悪戯な笑みを浮かべ、
「かつての王には悪魔と呼ばれる72の部下がいた。此度、王の下に集いしはその中の七人。我ら七人の悪魔、魔神卿が王を支え、再びこの世界を支配するんだ。そして、ぼくはその中の一人」
ようやく、その名を明かす。
「ぼくはパイモン。ゴエティアの王に仕える七人の悪魔、魔神卿のうちの一人だよ」
そう、名乗った。