魔王と救世の絆   作:インク切れ

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第117話 一回戦・ダークホース現る第六試合

その後第四試合、サヤナが手堅く一回戦を突破。

第五試合も終わり、続いては第六試合。すなわち、

『さあ、それでは参りましょう! まずはジムバッジ七つ、ハル選手! ゴエティアの乱入で一時期話題となりました、あのハダレ大会レギュラーカップの決勝進出者です! 噂によると、継承者アリスさんに認められたメガシンカ使いだとか! 今大会でもメガシンカを見せてくれるのでしょうか!』

ハルの出番だ。さすがに緊張を隠せないが、それも戦いの場に立てば緊張などあっという間に掻き消される。

『対するは、同じくジムバッジ七つ、ライタ選手! 今までの大会には不参加だったようで、イザヨイ大会で初参戦! 予選を危なげなく突破し、本戦に駒を進めたダークホースだ!』

対戦相手のライタは、緑色のニット帽を被った、怪獣のような緑のポケモンが描かれた黒い服の少年だ。

『予選の試合を見る限りでは、実力的にはほぼ互角といったところかな? どっちが勝つか最後まで分からない、手に汗握る熱いバトルを期待したいね』

『カリスさんの言葉で期待が高まります! 両者、どんな試合を見せてくれるのでしょうか!?』

実況と解説のコメントに呼応し、会場も沸き立つ。

とはいえハルがやることは変わらない。全力で戦って勝つ。

「それでは、ポケモンを出してください」

審判に従い、二人が同時にモンスターボールを手に取る。

「出てきて、ラプラス!」

「頼む、カブトプス!」

ハルが初手に選んだのはラプラス。バトルの経験はあるが、ジムや大会のような公式戦は初めてだ。

対するライタのポケモンは、カブトガニのような形状の頭部に刺々しい細身の体を持つポケモン。両手には鋭い鎌を持つ。

 

『information

 カブトプス 甲羅ポケモン

 水中では鎌を折り畳み獲物を切り裂く時

 に鎌を展開する。陸上への進出のため

 エラや足が変化し地上でも活動できる。』

 

太古の世界に生息し、化石から蘇った古代ポケモンだ。

『おっ、二人とも水タイプのポケモンか。水タイプ使いの僕としては嬉しい展開だね。タイプ相性だけを見ればライタくんの方が少しだけ有利だけど、さて、どうなるかな』

カリスの言う通りカブトプスは岩タイプを持つため、得意の岩技をラプラスに効果抜群でぶつけられる。

しかし岩タイプがあるということは、ラプラスの水技が半減されない。ハルが完全に不利とは言えない状況だ。

ともあれ、準備は整った。

 

「それでは、試合……開始ッ!」

 

「カブトプス、アクアジェット!」

バトル開始と同時、いち早くカブトプスが水を纏って飛び出す。

「速いっ……ラプラス、冷凍ビーム!」

冷気を溜め込むラプラスだが、冷凍光線を放つよりも先に水を纏ったカブトプスが衝突する。

水技なのでダメージは少ないが体勢を崩されてしまい、冷気の光線は狙いが外れ、カブトプスには当たらない。

さらに、

「ふむ。お前のラプラスの特性は、“貯水”ではないな」

アクアジェットの反応を見て、ライタが呟く。

「っ、なるほど……それを確かめたかったんだね」

ラプラスは二つの特性を持つポケモンだ。一つは急所への攻撃を防ぐ“シェルアーマー”、そしてもう一つが、水技を無効化して自身の体力を回復する“貯水”だ。

だからライタは先制技のアクアジェットを利用し、真っ先にラプラスの特性を確認したのだ。水タイプのカブトプスにとって、相手に水技が通るかどうかは重要だ。

「その通り。これで水技も気兼ねなく撃てるさ。さあカブトプス、続けてストーンエッジ!」

続けてカブトプスはその場で両腕の鎌を床に突き刺す。

すると大地が揺れ、地面から無数の尖った岩の柱が出現し、ラプラスへ迫り来る。

「ラプラス、渦潮で防いで!」

対してラプラスは天を仰いで美しい歌声と共に周囲に渦巻く大波を巻き起こす。

激しい大波が岩の柱を食い止め、さらにカブトプスへと波が迫る。

しかし、

「カブトプス、波に乗ってラプラスに近づけ!」

カブトプスはなんと自ら渦潮の中に飛び込み、渦潮の中を泳ぎつつ一気にラプラスへと接近、さらに、

「リキッドブレード!」

水を纏わせた両鎌を纏わせ、ラプラスを斬りつける。

「ラプラス、凍える風!」

だがラプラスも負けてはいない。リキッドブレードをその場で耐え、吐息と共に放つ凍える冷気をカブトプスへ浴びせる。

『凍える風が決まった! 効果は今ひとつですが、スピードで攻めていたカブトプスにはやや苦しいか!?』

『凍える風は文字通り、冷気で相手を凍えさせて素早さを下げる技だね。それでもカブトプスの方がまだ素早そうだけど、バトルの展開にどう影響するかな?』

氷の吐息を直に浴び、カブトプスが押し戻される。水を纏っていた鎌が凍りついてしまっている。

「この程度ならば……カブトプス、氷を砕け! ストーンエッジ!」

凍った鎌を床に叩きつけ、カブトプスは強引に氷を砕くと、再び鎌を床に突き刺して無数の岩の柱を突き出させる。

「ラプラス、冷凍ビーム! 岩の柱を避けるんだ!」

対するラプラスは自身の周囲の床へと冷気の光線を放つ。

海上を泳ぎ進むように凍りついた床の上を滑り移動し、岩の柱をなんとか回避するが、

「逃すな! カブトプス、辻斬り!」

カブトプスが地を蹴って飛び出す。

素早さが落ちているとはいえそれでも素早くフィールドを駆け、すれ違いざまに鋭い鎌でラプラスを切り裂く。

「カブトプス、もう一度だ!」

ラプラスの背後を取ったカブトプスが、再び鎌を構えて地を蹴る。

「ラプラス、食い止めるよ! 泡沫のアリア!」

対してラプラスは後ろを振り向き、息を吸う。

フィールドに美しい歌声を響かせ、それと同時に周囲へと無数の水のバルーンを放出する。

カブトプスは両腕の鎌でバルーンを迎え撃つが、さすがに二本の腕で無数の水のバルーンを捌き切ることはできず、やがて破裂したバルーンから噴き出す水を受けて吹き飛ばされてしまう。

「ちっ……カブトプス、一旦戻って来い。立て直すぞ」

カブトプスもまだやられはしない。体勢を立て直すと跳躍し、ライタの元まで引き下がる。

(さすがにイザヨイ大会本戦、一回戦から強敵だな……カブトプスの動きにも隙が少ないし、トレーナーも分析力に自信があるみたいだ。気をつけて戦わないと)

ラプラスも体勢を整え、一旦仕切り直し。

「よし……ラプラス、冷凍ビーム!」

「迎え撃て! カブトプス、辻斬り!」

ラプラスがツノの先から凍える冷気の光線を放ち、対するカブトプスは両鎌を構えて飛び出す。

冷凍光線がカブトプスに命中するが、それでもカブトプスの動きは止まらない。右腕の鎌で冷凍ビームを防ぎつつラプラスへ接近し、左の鎌を振り抜きラプラスを切り裂く。

「だったらラプラス、渦潮!」

切り裂かれて呻くラプラスだが、それでもすぐに反撃に出る。歌声と共に、周囲へと渦巻く大波を巻き起こす。

「その技はカブトプスには効かないぞ。もう一度波に乗れ!」

至近距離で渦潮に飲み込まれたかに見えたが、カブトプスはやはり波に乗って渦潮の中を泳ぎ、ほぼノーダメージで渦から脱出してしまう。

『カブトプス、再び見事な遊泳で渦潮から脱出! 激しい渦と波をものともしません!』

『カブトプスは見た目に反して泳ぐのが得意なポケモンだ。だけどあのパワーの渦潮の中を泳ぎ回ることができるとは、よく鍛えられているね』

渦潮から抜け出したカブトプスは、再び鎌を携え突撃する。

「好き勝手させないよ! ラプラス、凍える風!」

大きく息を吸い込み、ラプラスは吐息と共に凍える冷気を放出してカブトプスを迎え撃つ。

「甘いぜ。カブトプス、ストーンエッジ!」

急停止したカブトプスが鎌を床に突き刺す。

鋭く尖った岩の柱が地中より出現、凍える息吹を遮断しつつ、さらにラプラスの足元から岩の柱を突き出してラプラスを傷つけ、

「さらに辻斬り!」

床から鎌を引き抜くと地を蹴って一気に接近、すれ違いざまに両腕の鎌を振り抜く。

「くっ……ラプラス、大丈夫!?」

体が大きいため被弾は多いが、それでもラプラスは首を上げ、ハルの声に応えて頷く。

ハルの手持ち六匹の中で、ラプラスは最も耐久力に優れている。ワルビアルが特訓してきた受けのバトルスタイルを自然に使いこなせる程度には丈夫なポケモンだ。

ただしそのワルビアルに比べるとスピードは遅く、攻撃力も控えめ。ワルビアルのような力押しが得意なわけではないため、的確に技を当てていかないとジリ貧になってしまう。

尤も、これはラプラスの課題というよりはハルの課題だ。多彩な攻撃手段を持つラプラスの技をどれだけ有効に活かせるかは、トレーナーであるハルの腕にかかっている。

「そろそろこっちの番だよ。ラプラス、冷凍ビーム! 薙ぎ払って!」

ラプラスがツノから冷気を放出し、前方を薙ぎ払うように凍える冷気の光線を放つ。

「アクアジェットで躱せ!」

対するカブトプスは水を纏って飛び出す。

冷気の光線を掻い潜りつつ猛スピードでラプラスへ接近し、

「リキッドブレード!」

体を覆っていた水を両手の鎌に集中させ、鎌を振りかぶる。

「ラプラス、凍える風!」

「させるか! カブトプス、跳べ!」

ラプラスが冷気を放つが、その直前にカブトプスは跳躍、凍える冷気を躱して今度こそ鎌を振り下ろす。

「そうはいかないよ! 躱して、泡沫のアリア!」

だがその直後、ラプラスが床上を滑るようにカブトプスの鎌を回避する。

「っ!?」

驚くライタがラプラスの足元を見ると、いつの間にか床が凍っている。

先程の薙ぎ払い冷凍ビームと、直前の凍える風により、ハルはラプラスが攻撃を回避できるように床を凍りつかせておいたのだ。

狙いを外したカブトプスの鎌が床に突き刺さる。氷は砕けるが、肝心のラプラスを捉えることができず、さらに鎌が床に刺さったせいで即座に回避することができない。

鎌を引き抜いたカブトプスへ無数の水のバルーンが襲い掛かる。着弾したバルーンは次々と破裂して水を噴き出し、カブトプスを吹き飛ばした。

「今だ、冷凍ビーム!」

さらにラプラスはツノから冷気の光線を放ち、追撃を仕掛ける。

「チッ、カブトプス、防御だ! リキッドブレード!」

水を纏った両手の鎌を交差させ、カブトプスは防御の姿勢を取って冷気の光線を迎え撃つ。

鎌が凍り付いてしまうが、それでもカブトプスは冷気の光線を正面から受け止め、吹き飛ばされずに踏み止まった。

「カブトプス、反撃だ! ストーンエッジ!」

冷凍ビームを耐え抜いたカブトプスは両手の鎌を地面に突き刺し、鎌を覆った氷を砕くと同時に、尖った岩の柱を地面から出現させる。

「ラプラス、泡沫のアリア! ストーンエッジを防ぐんだ!」

ラプラスが美しい歌声と共に無数の水のバルーンを放つ。

バルーンから噴き出す水流で、立て続けに襲い来る岩の柱を全て防ぎ切る。

「リキッドブレード!」

ストーンエッジが防がれたのを見るや、カブトプスは鎌に水を纏わせ、すぐさま追撃に出る。

「来た……! ごめんラプラス、ここは一発耐えて!」

回避は間に合わないと判断、ラプラスは真っ向からカブトプスの斬撃を迎え撃つ。

振り下ろされる二本の水の鎌は、幸い効果は今ひとつ。ラプラスはその場でしっかりと耐え切り、

「冷凍ビーム!」

お返しとばかりに一声あげると、ツノの先から凍える冷気の光線を放つ。

「カブトプス、もう一度、そのまま防御!」

水を纏った鎌を再び構え、カブトプスは至近距離から冷凍ビームを受け切る。

再び鎌は凍りついてしまうが、カブトプスはしっかりと耐えた。

しかし、

「今だ! ラプラス、渦潮!」

その次の動きはラプラスの方が早い。

美しい歌声と共に周囲に波を巻き起こし、渦巻く大波がカブトプスを飲み込む。

「効かないと言ったはずだ。カブトプス、波に乗れ!」

この距離では渦潮を避けられないが、カブトプスなら渦潮の中でも泳いで脱出ができる。

だが。

「……なにっ? カブトプス、どうした!?」

先程までと比べてカブトプスの様子がおかしい。渦巻く大波の中を上手く泳ぐことができず、次第に波に飲まれていく。

『おーっと!? どうしたことだカブトプス!? さっきまで見事な遊泳を見せたカブトプスが、波に溺れていきます!』

『なるほど。ハル選手はこの瞬間を狙っていたんだね』

カリスがすかさず解説を挟む。ハルが狙っていたこととは、

『いくら泳ぎが上手いカブトプスでも、体の一部を凍りつかせてしまえば普段通りには泳げない。ハル選手はカブトプスが冷凍ビームをリキッドブレードで防御したのを見て、それを逆手に取った。上手な戦い方じゃないか』

ハルが注目したのは二点。一つは、激しい攻防の中でカブトプスが氷技をリキッドブレードで防いだ時、鎌が氷漬けになっていたこと。そしてもう一つは、カブトプスはリキッドブレードでラプラスの氷技を余裕で受け切ることができるということ。

だからリキッドブレード敢えてラプラスに耐えさせ、直後に冷凍ビームを放った。そうすれば、ライタは間違いなく防御を指示すると考えたのだ。

大波にに飲み込まれたカブトプスが渦の中で激しく掻き回される。

「ラプラス、泡沫のアリア!」

波から解放されたカブトプスだが渦に巻き込まれて目を回しているようで、足取りがおぼつかない。

そんなカブトプスが無数の水のバルーンを回避できるはずもなく、次々とバルーンの直撃を受け、破裂した水を浴びて吹き飛ばされる。

「っ、カブトプス――」

「冷凍ビーム!」

床に落ちたカブトプスへ、ラプラスはとどめの凍える冷凍光線を放つ。

まだ起き上がるとするカブトプスへ冷凍ビームが直撃。半身を凍りつかせ、カブトプスは今度こそ動かなくなった。

「カブトプス戦闘不能! ラプラスの勝利!」

『決まったーッ! ハル選手とラプラス、機転を利かせた渦潮で見事カブトプスを撃破! ハル選手、先手を取りました!』

アナウンサーの実況と共に、会場から歓声が湧く。

「カブトプス、戻れ。よく頑張った、後は休んでいろ」

カブトプスをボールへ戻すと、ライタはハルの方へ向き直る。

「やるじゃないか。まさか、あれほど効かないと豪語した渦潮にやられるとはな」

「ふふっ、ありがとう。カブトプスがリキッドブレードでラプラスの冷凍ビームを受け止めて、鎌が氷漬けになってたのを見て、もしかしたらって思ったんだ」

ハルの言葉を聞き、ライタは感心するように頷く。

「やるじゃないか。だが、次はそうはいかないぞ」

再び険しい表情になったライタが、次なるボールを手に取る。

「頼む、エンニュート!」

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