魔王と救世の絆   作:インク切れ

121 / 121
第118話 一回戦・毒炎蝕む第六試合

ライタが二番手に繰り出したのは、黒く細い二足歩行のトカゲのようなポケモンだ。胸部や尻尾にピンク色のラインが走っている。

 

『information

 エンニュート 毒トカゲポケモン

 生み出す毒ガスは他の生物にとっては

 危険な猛毒。しかしオスのヤトウモリ

 にとっては魅力的なフェロモンとなる。』

 

炎と毒タイプを持つポケモンのようだが、ハルの見たことのないポケモンだ。

体格的にはスグリの持つエレザードに似ている。身軽そうな見た目からしても、素早いポケモンのように思える。

試合前にライタの予選の動画も確認したが、動画に出ていたポケモンは出して来ないようだ。

「ごめんねラプラス、疲れてるだろうけど、もう少し頑張って。相手が炎タイプなら、水技は効果抜群だよ」

カブトプス戦での被弾が多く、さらに対戦経験もまだ少ないため疲労している様子のラプラスだが、それでも頷き、一声あげて自身を鼓舞する。

「準備はいいようだな。それじゃ行くぞ! エンニュート、火炎放射!」

バトル再開、先手を取ったのはライタ。

エンニュートの体のピンクの毒腺が炎を帯びたかと思うと、口から灼熱の炎を吐き出す。

「ラプラス、泡沫のアリア!」

ラプラスも火炎放射に対して、歌声と共に無数の水のバルーンを放ち迎え撃つ。

バルーンは破裂して水を噴き出し、瞬く間に焔を打ち消していくが、

「エンニュート、ベノムショック!」

既にエンニュートはそこにはいない。

いつの間にかラプラスの横へ回り込んでおり、口から毒々しい色の液体を光線のように放出する。

「っ、やっぱりスピード系か! ラプラス、渦潮!」

体格から予想した通り、このエンニュートはかなり素早い。

ラプラスが波を呼び起こし、周囲に渦巻く大波を発生させるが、

「エンニュート、退け!」

エンニュートは素早く飛び退いてラプラスから距離を取り、大波を躱す。

「ラプラス、冷凍ビーム!」

渦潮を回避されたラプラスはすぐさまツノに冷気を集め、凍える冷気の光線を撃ち出す。

「エンニュート、躱して近づけ!」

だがエンニュートは素早い。冷気の光線を飛び越え、潜り抜け、一気にラプラスへ接近すると、

「気合玉だ!」

漲る力を一点に集めて、渾身の力を光弾に変えて放出。

至近距離からの気合の光弾はさすがに回避することができず、ラプラスは気合玉の直撃を受けてしまう。

「しまった……ラプラスっ……!」

効果抜群となる格闘技を叩きつけられ、カブトプス戦でのダメージも溜まっていたラプラスはここで力尽きて倒れてしまう。

「ラプラス戦闘不能! エンニュートの勝利です!」

『エンニュート、速いッ! フットワークでラプラスを翻弄し、渾身の気合玉を炸裂させた! さあライタ選手、追いつきました! この互角の戦いの行方はどうなるのでしょうか!』

それでも、ラプラスの初めての公式戦にしては大健闘だった。四天王カリスに“よく鍛えられている”と言わしめた、一番手のカブトプスを倒したのだから。

「ラプラス、いい戦いっぷりだったよ。あとは任せて、休んでてね」

ラプラスの頭を撫でてボールへ戻し、ハルは次のボールを手に取る。

「素早い炎・毒タイプなら、ここは君の出番だ。出てきて、ワルビアル!」

ハルの二番手はワルビアル。炎と毒タイプを併せ持つエンニュートには、地面技がよく通る。

尤も、あの素早いエンニュートに地震攻撃を当てることができれば、という話だが。地震は非常に強力な地面技だが、身軽なポケモンには当てるのが意外と難しい。宙に浮かび上がられたり跳躍されたりするとそれだけで避けられてしまう。

「地面タイプか。あまり相手にしたくはないが……予選動画に映っていたポケモンだな。となれば、やってやれないことはない。エンニュート、勝つぞ」

(そうか、ワルビアルの試合を見られているのか……)

ハルの公開されている予選の試合は、ワルビアルの勝利した試合。それをチェックされているのであれば、相手は多少なりとも対策を練ってくるだろう。

「ワルビアル、タイプ相性では有利だけど、相手はなかなかの強敵だ。それにどうやら技や戦法も知られてる。油断しないで、堅実に戦っていこう。僕たちならきっと勝てるよ」

エンニュートとワルビアルは互いのトレーナーの言葉に応えて頷き、それぞれの相手を見据える。

「それじゃバトル再開だ。俺から行くぞ! エンニュート、火炎放射!」

再びライタが先手を取る。エンニュートがトカゲのように屈んで四つん這いになり、口から灼熱の炎を吐き出す。

「ワルビアル、ストーンエッジで防いで!」

対するワルビアルは地面を踏みつけ、地中から尖った岩の柱を突き出す。

立て続けに出現する岩の柱が炎を阻み、さらにエンニュート本体をも狙うが、

「エンニュート、躱してベノムショック!」

四つん這いの姿勢からエンニュートは思い切り横っ飛びで岩の柱の軌道から離れる。

そして着地すると即座に二本の足で地を蹴って飛び出しワルビアルに接近、鮮やかな紫色の毒液を放つ。

「くっ、ワルビアル、こっちも仕掛けるよ! ドラゴンクロー!」

ミオとの戦いで覚えている。ベノムショックは毒状態の相手に対して威力が二倍になる技だが、元の威力は控えめ。

追加効果の毒状態も発動しなかった。ワルビアルは両腕に青く輝く竜爪のオーラを纏わせ、素早く反撃に出る。

「もう一度躱して、さらに竜の波動!」

エンニュートは素早く飛び退き、ワルビアルから距離を取る。

振り抜いた竜爪は空を切り、直後、エンニュートが青く輝く光線を放つ。

光線は竜の顔のように形を変え、青い牙を剥いて襲い掛かる。

「ワルビアル、そのまま受け止めて!」

ワルビアルの竜爪もまだ生きている。光の竜爪で正面から竜の波動を受け止め、相殺して打ち消した。

「まだ終わっていないぞ! 火炎放射!」

竜の波動を防がれたエンニュートだが今度は灼熱の炎を吐き出し、立て続けに攻撃を仕掛ける。

「ワルビアル、まだ来るよ! ストーンエッジ!」

ワルビアルが床を踏みつけ、地中から尖った岩の柱を出現させる。

眼前に岩の柱を突き出して炎を防ぎ、さらに続けて岩を呼び出し、エンニュートを狙う。

「エンニュート、躱して近づけ!」

だがエンニュートは岩の柱の隙間を縫って駆け巡り、巧みにストーンエッジを躱しながら確実にワルビアルとの距離を詰めてくる。

「ベノムショック!」

岩の柱の合間から姿を現し、エンニュートが毒液を浴びせ掛ける。

ほぼゼロ距離に近い位置からの攻撃に対応できず、ワルビアルは毒液を正面から浴びてしまう。

「続けて火炎放射!」

「そうはさせない! 噛み砕く!」

チャンスだとばかりにエンニュートは息を吸い、灼熱の炎を吐き出す。

だがそれよりも早く、ワルビアルの大顎がエンニュートに食らいつき、頑丈な牙がその動きを封じる。

「っ!?」

ライタが予想外の反撃に驚く。ライタとしては、ベノムショックで体勢を崩したところに大技の火炎放射を撃ち込みたかったのだろう。

しかしワルビアルは怯まなかった。威力の上がっていないベノムショック程度では、ワルビアルは崩されない。

「僕のワルビアルの打たれ強さを甘くみてもらっちゃ困るよ! 床に叩きつけて、ドラゴンクローだ!」

牙を食い込ませて締め上げ、ワルビアルは首を振ってエンニュートを床に叩きつける。

さらに光の竜爪を纏わせた拳を突き出し、エンニュートを殴り飛ばした。

「ぐっ、やるな! だが俺のエンニュートはまだやられちゃいないぞ! 竜の波動!」

宙を舞い不安定な体勢のまま、エンニュートの瞳はワルビアルを捉える。

紫の眼を青く煌めかせ、エンニュートが青く輝く竜の波動を放出する。

「受け止めて! ドラゴンクロー!」

咆哮と共にワルビアルの両腕が青く輝く竜爪を纏う。

光の竜の大顎を巨爪で受け止め、振り払い、

「ストーンエッジ!」

床を踏みつけ、尖った岩の柱を立て続けに呼び出すが、

「そのストーンエッジはもう見切った! エンニュート、躱してベノムショック!」

エンニュートは岩の柱すら足場として利用し、飛び回りながらストーンエッジを全ていなして、上空から毒液を放出する。

「見切られたならそれでいい! ワルビアル、跳んで! ドラゴンクロー!」

ここまでエンニュートを迎え撃ち続けていたワルビアルが、遂に自ら動く。

地を蹴って飛び出し、輝く竜爪を突き出して毒液を蹴散らし、さらにその奥のエンニュートを切り裂く。

「っ、火炎放射!」

竜爪に切り裂かれ、それでもエンニュートの反撃は止まらない。

口から吐き出した灼熱の炎がワルビアルを襲い、赤い体を黒く焦がしていく。

「畳み掛けるぞエンニュート! 龍の波動!」

ようやく着地したエンニュートが再び口を開き、輝く青い光線を発射する。

光線は牙を生やして竜の顔となり、ワルビアルへと牙を剥く。

「っ、ワルビアル、防いで! ストーンエッジ!」

身体を焦がされてよろめくワルビアルだが、それでも炎を振り払うと自身を鼓舞して吼え、地面を思い切り踏みつける。

地面から出現した無数の岩の柱は全て砕かれてしまうが、それでも何とか竜の波動は防いだ。防いだが、

「ベノムショック!」

まだ追撃は終わっていない。疲れているはずだろうに全くスピードを衰えさせず、エンニュートが真っ正面から毒液を浴びせ掛ける。

「くっ……! ワルビアル、噛み砕く!」

毒液を振り払い、ワルビアルが大顎で食らいつこうとするが、既にエンニュートはそこにはいない。

「っ!?」

「火炎放射!」

慌ててハルが周りを見回す。

次の瞬間、上空が明るく輝いたかと思うと、飛び上がっていたエンニュートの灼熱の業火が襲いかかってきた。

「しまっ……ワルビアル!」

咄嗟にハルが叫ぶが、遅い。灼熱の炎がワルビアルを包み、火だるまに変えてしまう。

ワルビアルが呻き、炎を振り払おうとするが、揺らめく炎はまるでエンニュートの毒霧のようにワルビアルにまとわりつき、脱出を許さない。

「勝負あったな! エンニュート、これで仕留めろ! 気合玉!」

上空のエンニュートが手を叩き、両手に気合の念弾を作り上げる。

そのまま重力に従って落下し、気合玉を掴んだ掌を直接ワルビアルへと叩きつける。

 

「……今だワルビアル! 今度こそ、噛み砕く!」

 

その、直前。

力を振り絞ったワルビアルが上空を見上げて大顎を開く。

今まさに気合玉を叩き込もうとしたエンニュートへ噛み付き、硬い牙を食い込ませた。

「なにっ!? え、エンニュート!?」

ライタが驚愕を浮かべたその時には、エンニュートは既にワルビアルの強靭な大顎に捕らえられてしまっていた。

『おーーっと! これはお見事ッ! ワルビアル、起死回生の反撃が決まった! 素早いエンニュートの動きを封じたあッ!』

動きを止められたことにより、エンニュートが掌に掴んだ気合玉も霧散し、消えてしまう。

「……危なかった。正直、ヒヤッとしたよ。だけど、最後の最後で助かった。ワルビアルは接近戦が得意なポケモンだよ。確実に仕留めるために近づいたんだろうけど、そのおかげでチャンスができたんだ」

これが最後のチャンス。だがハルもワルビアルも、それを逃すほど甘くはない。

「ワルビアル! 叩きつけて、地震だ!」

首を振るってエンニュートを地面に叩きつけ、ワルビアルは渾身の力を込めて大地を踏みつける。

フィールド全体が激しく揺れ、同時に衝撃波が地を這い、地に伏したエンニュートを吹き飛ばした。

「エンニュート……っ!」

攻撃と素早さに優れる反面、エンニュートは耐久力は低い。さらに炎と毒タイプを併せ持つため、地面技には非常に弱い。

そんなエンニュートが、力自慢のワルビアルの地面技をまともに受ければどうなるか。結果は明白だった。

なす術もなくエンニュートは吹き飛ばされ、そのまま地に落ちて目を回し、動かなくなった。

 

「エンニュート戦闘不能! ワルビアルの勝利! よって勝者、ハル選手!」

 

『決着が付いたーっ! ハル選手のワルビアル、起死回生の大逆転! ライタ選手のエンニュートの猛攻に打ち勝ち、ハル選手が二回戦へと駒を進めました!』

『どっちに転んでもおかしくない、見応えのある試合だった。休まず徹底的に攻撃を続けるライタ君の試合運びも上手だったが、その中で僅かなチャンスを見逃さなかったハル君の判断、見事だった。グレイト! 素晴らしいね』

会場が歓声に包まれ、カリスも解説席から両者を称える。

「ワルビアル、よく頑張ったね! カッコよかったよ!」

ハルが駆け寄り、好物のオボンの実を差し出す。疲れ果てた様子のワルビアルは、それでも勝ち誇った笑顔を見せると、オボンの実を一口で飲み込んだ。

「エンニュート、ナイスファイトだった。また一緒に鍛え直そう」

一方、ライタもエンニュートを労い、ボールへと戻す。

「完敗だ。最後の噛み砕くは見事な一撃だった。悔いはない……とは言いたくないが、いいバトルだった」

「こちらこそ。僕だって、一瞬負けを覚悟した、最後までどうなるか分からなかったよ。ありがとうね」

ハルの言葉に、ライタはフッと笑う。

「だが覚えておけ。次に戦う時は、俺が勝つからな」

それだけ告げると、ライタは軽く手を振り、フィールドを去る。

その背中を見送ると、ハルもワルビアルをボールに戻し、フィールドを後にした。

まずは、一回戦突破だ。

  1. 目次
  2. 小説情報
  3. 縦書き
  4. しおりを挟む
  5. お気に入り登録
  6. 評価
  7. 感想
  8. ここすき
  9. 誤字
  10. よみあげ
  11. 閲覧設定

▲ページの一番上に飛ぶ
X(Twitter)で読了報告
感想を書く ※感想一覧 ※ログインせずに感想を書き込みたい場合はこちら
内容
0文字 10~5000文字
感想を書き込む前に 感想を投稿する際のガイドライン に違反していないか確認して下さい。
※展開予想はネタ潰しになるだけですので、感想欄ではご遠慮ください。

評価する
※参考:評価数の上限
評価する前に 評価する際のガイドライン に違反していないか確認して下さい。