魔王と救世の絆   作:インク切れ

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第15話 秘められし闘志、カザハナジム

「ヒサギさーん! ジム戦の挑戦者が来たっスよー!」

大声で叫びながら、アカメが扉を開く。

奥の部屋は、先ほどバトルを行なった部屋より少し広い。バトルフィールドは硬い木製で作られており、フィールドの周りは畳で囲まれている。

壁には『全力』と書かれた大きな旗が掛けられている。

そして、フィールドの向かい側には、昨日大会の解説席に座っていた男。

ベージュ色のシャツの上に青いベストを着ており、茶色の短髪はぼさぼさ。解説の時もそうだったが、あまり表情を変えないポーカーフェイス。

カザハナシティジムリーダー・ヒサギだ。

「ご苦労だったな、アカメ……おや、君は昨日の大会にも出場していた」

「ハルといいます。ジムに挑戦しに来ました」

「なるほど……今日のチャレンジャーは君というわけか。改めて自己紹介をしよう。俺はジムリーダーのヒサギだ」

大会の時とは一人称が違う。公私で使い分けているのだろう。

「専門は格闘タイプだ。……」

「……」

妙な空気が流れる。

ヒサギがそれ以上何も話そうとしないし、ハルもどちらかといえば内気な性格なので、こういう時にどう話を切り出せばいいのか分からないのだ。

「……ああ、もう! また人見知り発動してるんっスか、ヒサギさん!」

やがて沈黙を破ったのは、アカメだった。

「っ……仕方ないだろう。俺は昔からこういう性格なんだ。お前も知っているだろう?」

「それはもちろん分かってますけど、ハルはまだジムバッジ一個、駆け出しの男の子っスよ? ずーっと無言で、それで怖がらせちゃったらどーするんっスか!」

「いや、それはそうなのだが……しかし……」

「もーっ、仕方ないっスねえ。審判はいつも通りあたしがやりますから、ヒサギさんはジム戦、ジム戦! ハルも準備万端なんっスよ! ほらほら!」

ヒサギの人見知りモードに見かねたアカメが勝手に話を進めていってしまう。大会での解説席で無愛想だったのは、実況の男性に対して人見知りが発動していただけだったのかもしれない。

「……すまない、お見苦しいところをお見せして。ハル君だったな……その、なんだ。バトルを始めようか」

「あ、はい……」

なんだか微妙な空気になっているが、ジム戦はジム戦だ。

ハルの二つ目のバッジを賭けた戦いが、いよいよ始まる。

 

 

 

「それじゃ今から、チャレンジャー・ハルとジムリーダー・ヒサギさんの試合を始めるっス。使用可能ポケモンはお互いに二体まで、先に相手のポケモンを二体倒した方の勝利。戦闘不能以外でのポケモンの交代ができるのはチャレンジャーだけっスよ」

ルールはシュンインジムと全く同じ。一般的なジム戦のレギュレーションだ。

「それでは両者、最初のポケモンを出してくださいっス!」

アカメの言葉に続き、両者がポケモンを繰り出す。

「出てきて、ヤヤコマ!」

「来い、アサナン……」

ハルの初手は再びヤヤコマ。

対してヒサギのポケモンは、人型の子供のようなポケモンだ。特徴的な頭の形をしている。

 

『information

 アサナン 瞑想ポケモン

 一日に木の実を一つだけ食べ毎日

 瞑想の修行をする。極限まで精神力を

 鍛えた個体のみが進化に到達する。』

 

「アサナン……格闘タイプとエスパータイプを持ってるのか」

「なるほど、初手はセオリー通りに飛行タイプか……悪くはないな」

両者のポケモンが出揃った。

ヤヤコマは勇ましく鳴き、対するアサナンは何も声を発さず、わずかにヤヤコマを見上げる。

 

「それでは、ジムリーダー・ヒサギと、チャレンジャー・ハルの試合、開始っス!」

 

アカメの掛け声とともに試合が始まる。

しかし、ヒサギのアサナンが攻撃の気配を見せない。

「……それなら遠慮なく、こっちから行きますよ! ヤヤコマ、電光石火!」

先に動き出したヤヤコマが、猛スピードでアサナンへと突っ込む。

対して。

「アサナン……猫騙し!」

ヤヤコマがアサナンの眼前まで迫った、その瞬間。

パチン! と。

アサナンは、ヤヤコマの目の前で勢いよく手を叩く。

「えっ……?」

予想だにしていなかったアサナンの動きに戸惑うハル。

突然の衝撃にヤヤコマも驚いたのか、動きが止まってしまう。

「発勁!」

そしてそんな隙をジムリーダーが見逃すはずもない。

アサナンが掌をヤヤコマへ叩きつけ、弾き飛ばしてしまう。

「……猫騙しはバトルに出た最初のタイミング以外では成功しない技。その代わりどんな先制攻撃技よりも確実に早く発動し、相手を怯ませて動きを止める効果を持つ。序盤の流れを掴むのに最適」

ぼそぼそと小さな声でヒサギは説明する。

「なるほど……だけど、もう使えないってことですよね。ならヤヤコマ、ここから立て直すよ! 疾風突き!」

再び翼を広げて飛翔し、ヤヤコマは嘴を突き出して突撃する。

「アサナン、バレットパンチ!」

アサナンが拳を握りしめる。

ヤヤコマの突撃にも負けないスピードで弾丸の如く拳を突き出し、ヤヤコマを迎え撃つ。

「エアカッター!」

高速の突きが防がれるも、ヤヤコマは翼を羽ばたかせて空気の刃を飛ばし、今度はアサナンを切り裂いた。

「なるほど、なかなかやるな……それならばアサナン、雷パンチ!」

体勢を立て直したアサナンの右拳の周囲から、バチバチと電気の走る音が響き、その直後に拳の周りに電撃が迸る。

そのままアサナンは地を蹴って跳躍し、電撃を纏った拳を突き出す。

「電気技……! ヤヤコマ、躱して!」

飛行タイプのヤヤコマに電気技は効果抜群。慌ててヤヤコマは大きく横に飛び、アサナンの拳を躱すが、

「逃がさん……バレットパンチ!」

空中だというのにアサナンは瞬時に方向転換し、素早い連続パンチをヤヤコマへ浴びせる。

「エスパータイプを併せ持つアサナンは念力によって宙に浮くことができる。他のポケモンとは違い、空中でもある程度動きを制御できるぞ」

ただしそう長い間浮いていられるわけではないようで、アサナンは一旦着地し、再び拳を構え直す。

「よし、反撃だ! ヤヤコマ、火の粉!」

ヤヤコマが嘴を開き、無数の火の粉を吹き出すが、

「アサナン、発勁!」

対するアサナンは力を込めた右手を思い切り振り抜き、火の粉を一蹴、さらに、

「雷パンチ!」

再び拳に電撃を起こし、ヤヤコマへと向かっていく。

「ヤヤコマ、躱してエアカッター!」

「そうはさせん……連続で雷パンチ!」

殴りかかってくるアサナンを躱して、ヤヤコマは翼を羽ばたかせ、風の刃を飛ばす。

しかしアサナンは電撃の拳で空気の刃を全て破壊し、またも空中で方向転換すると、今度こそ電撃の拳をヤヤコマへと叩き込んだ。

「しまった……ヤヤコマ!」

拳の一撃を受け、ヤヤコマが地面に叩き落とされる。

ここで追撃が来たらもう避けられないが、空中浮遊が限界だったのか、アサナンは一旦着地した。

「危なかった……ヤヤコマ、まだいける?」

効果抜群の一撃を食らったが、ヤヤコマは何とか立ち上がり、翼を広げる。

直後。

 

ヤヤコマの体が、青白い光に包まれる。

 

「えっ……な、なに!?」

見たこともない初めての現象に戸惑うハル。

「……! 進化か……!」

対照的に、ヒサギの表情は小さく変化した。僅かに笑みを浮かべたのだ。

光に包まれたヤヤコマが、そのシルエットを変化させていく。やがて光が収まった時、そこにいたのはヤヤコマと違う、というより、ヤヤコマを成長させたような姿のポケモンだった。

体つきに大きな変化はないが一回り大きくなり、翼もより大きくなった。目つきが鋭くなり、後頭部の羽毛が尖っているように見える。

「これは……? もしかして……!」

「君は進化を見るのは初めてか。そう、これはポケモンの進化だ。図鑑を確認してみるといい」

ヒサギに促され、ハルはポケモン図鑑を取り出す。

 

『information

 ヒノヤコマ 火の粉ポケモン

 体内に炎袋を持っており火力を

 強めることで速く飛ぶことができる。

 最高速度に達するには時間がかかる。』

 

「ノーマルタイプが消えて、炎タイプになってる」

「……技も見てみるといい。進化すると新しい技を覚えることがあるぞ」

ハルはもう一度図鑑を確認する。ヒサギの言う通り、ヒノヤコマは新しい技を覚えていた。

火の粉と電光石火が、より強力な技へと変化している。

「……凄いよ、ヒノヤコマ! さあ、勝負はここからだよ! 進化した君の力を見せてやろう!」

「これは面白くなってきたぞ……さあ、どこからでもかかってこい」

あまり表情の変わらないヒサギだが、その口調は明らかに先ほどまでよりも戦いを楽しんでいる。

「それじゃ、行きますよ! ヒノヤコマ、ニトロチャージ!」

ヒノヤコマが力強く鳴くと、翼から炎が吹き出し、全身を纏う。

そのまま、ヒノヤコマはアサナンへと突撃していく。

「アサナン……雷パンチ!」

アサナンも真っ向から迎え撃つ。ヒノヤコマの突撃に合わせて、電撃を纏った拳を突き出す。

二者が激突。激しく競り合った末、お互いに一度引く。

「アクロバット!」

しかしその次の動きはヒノヤコマの方が早かった。素早くアサナンの懐に突っ込み、翼でアサナンを叩き飛ばす。

「ッ、アサナン……」

「ヒノヤコマ、もう一度ニトロチャージ!」

再びヒノヤコマは炎に身を包み、よろめくアサナンへと襲い掛かる。

「回避はできないか……アサナン、雷パンチだ!」

体勢を崩しながら、それでもアサナンは電撃を纏わせた拳を突き出す。

再び、両者が正面からぶつかり合う。

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