魔王と救世の絆   作:インク切れ

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第17話 一つの別れ

「行くよリオル! 発勁!」

「気をつけろカポエラー……相手は格段にパワーアップしているぞ! 回し蹴り!」

燃え盛る青い炎が如き波導を右手に纏わせ、リオルは地を蹴って飛び出す。

カポエラーも素早く逆立ちして高速回転を始め、遠心力を乗せた強力な蹴りを放つ。

二者が正面から激突。だが、強化された波導の力を得たリオルの一撃が遂にカポエラーに打ち勝ち、カポエラーを叩き飛ばした。

「続けて電光石火!」

「……ブレイクスピン!」

全身に波導を纏ったリオルが突撃を仕掛けるが、カポエラーは再びその場で猛回転、突っ込んできたリオルを弾き飛ばす。

「その波導の力は大したものだ……しかし、カポエラーの回転を破ることができなければ、君に勝ち目はないぞ。カポエラー、もう一度ブレイクスピン!」

その回転速度を維持したまま、カポエラーが突っ込んでくる。

「っ、リオル、一旦躱して!」

大きく跳躍し、リオルはカポエラーの回転を回避する。

(この状態ならリオルの攻撃力は充分だ。あとはこの回転をなんとかするだけ、だけど、どうすれば……)

波導で強化されているとはいえ、リオルの体力は限界に近い。

できれば、もう一発も受けずにカポエラーを倒したい。

「着地を狙え……ブレイズキック!」

回転したままのカポエラーが足を擦り合わせて火花を起こし、炎を纏わせる。

「ここは躱せない……リオル、受け止めて! 発勁!」

向かってくるカポエラーに対し、リオルは波導を纏わせた両手を突き出す。

カポエラーの炎の蹴りを何とか食い止め、引き下がって距離を取る。

その瞬間。

(……! 今のは……!)

カポエラーがブレイズキックを使ったおかげで、ハルには突破口が見えた。

たった一つだけだが、カポエラーの回転を打ち破る手段を思いついた。

「リオル、真空波だ!」

「弾け……ブレイクスピン!」

リオルが波導を乗せた真空の弾を放ち、対するカポエラーは猛回転でそれを弾くと、

「そのまま回転で吹き飛ばせ!」

回転速度をさらに高め、リオルへと向かってくる。

(来た……!)

決めるなら、ここだ。ここを逃せば、もう後はない。

そしてリオルもそれを感じ取ったのか、ハルが指示を出すよりも早く、しかし、ハルが思っていた通りに跳躍する。

 

「リオル! カポエラーの真上から、サイコパンチだ!」

 

リオルの右手を纏う波導が、念力によってさらに強化される。

念力によって膨れ上がった波導の拳を、リオルはカポエラーの真上から、思い切り叩きつけた。

カポエラーが二度目のブレイズキックを使った時。足に灯った炎が、カポエラーの真上をカバーできていなかったのをハルは見逃さなかったのだ。

いくら回転で周囲からの攻撃を防ぐことができても、真上からの攻撃は防御のしようがない。

「な……っ、カポエラー……!」

効果抜群となるエスパー技の直撃を受け、カポエラーが吹き飛ばされる。

二度、三度と床をバウンドしてそのまま倒れ、目を回して動かなくなってしまった。

 

「……! カポエラー、戦闘不能! リオルの勝利っス! よってこのバトルの勝者、チャレンジャー・ハル!」

 

「……やったあああああ! リオル! 僕たち、勝ったんだよ!」

審判の声、そして自らのトレーナーの歓喜の叫びを聞いて、リオルもようやく状況を理解したようだ。

自身を覆う波導も収まり、ハルの元へと駆け寄り、ハイタッチを交わす。

「……ハル君といい、スグリといい。今年の新人トレーナーは粒揃いだな。いやはや、どうしたことだ。カポエラー……ご苦労だったな」

カポエラーを労い、ボールへと戻し、ヒサギは二人で喜び合っているハルとリオルへ歩み寄る。

それと同時に、アカメも駆け寄ってくる。

「ハル! なんなんっスか、今のリオルの能力! 凄かったっス、あんなの初めて見たっスよ! ねえ、ねえ!」

「えっ? いや、あの……」

「……アカメ、落ち着け。その気持ちは分かるが、ハル君もまだよく分かっていないとバトル中に言っていただろう」

バトルをしていたはずの二人よりもテンションが上がっているアカメをなだめ、ヒサギが進み出る。

「さて……君とリオルの力、とても素晴らしいものだった。しかし、それと同時に何とも不思議な力でもある……格闘タイプ専門の俺でも、初めて見るものだった」

「ヒサギさんでも、この能力は分からないんですね……」

「ピンチに陥った時に発生する力かと思ったが、そう結論付けるには疑問が残る。大会では発動しなかったからな……確かにリオルはピンチになると体から発せられる波導が強まるという特徴を持っているが、それとはまた別のようにも見える。ううむ……」

格闘ポケモンのエキスパートであるヒサギでも、この力についてはよく知らないようだった。

「やはりポケモンというのは、まだまだ謎の多い生き物だ」

やがてヒサギはそう締めくくると、ともあれ、と続け、

「決して最後まで尽きることのない、君と君のポケモンの闘志……見事だった。そう、闘志が尽きぬ限り、バトルの行方は最後まで決して分からない……俺はそう信じている。最後までバトルを諦めず、勝利を収めた君に、カザハナジムのジムバッジを渡そう。アカメ、あれを」

「はい、準備できてるっスよ。どうぞ!」

ヒサギはアカメから小さな箱を受け取り、中からバッジを取り出した。

拳を模したような、アルファベットのBの形をしたバッジだ。

「俺の格闘ポケモンたちに打ち勝ち、カザハナジムを制覇した証……その名もブレイクバッジ。このジムにぴったりな名前だろう? さあ、受け取ってくれ」

「はい、ありがとうございます!」

リオルの力についてこそ分からなかったが、これでハルは見事、二つ目のジムバッジを手に入れることができた。

「それと、ハル君。君は次の行き先はもう決めてあるのか?」

「あ、いえ……これから決めようと思ってました」

ヒサギに尋ねられ、ハルは首を横に振る。

「そうか……ならば、サオヒメシティに向かうといい。あそこのジムリーダーなら、君のリオルの力がなんなのか、もしかしたら分かるかもしれない」

「えっ!? 本当ですか!?」

「……かもしれない、だがな。だが可能性はあるし、あそこはマデル地方の中でも大きな都市だ。旅の拠点にもなるし、ジム戦もできる。マデル地方を旅するのならば、リオルのことを抜きにしても、立ち寄っておく価値はある街だ」

「そうっスねえ……あたしも久しぶりに、サオヒメデパートに買い物に行きたいなぁ……」

ヒサギの話に続き、アカメも頷く。彼女の場合は私欲が強そうだが。

ハルはアルス・フォンを取り出して地図アプリを開き、場所を確認する。

「サオヒメシティは隣街ではない。進む道路次第で、一つか二つ別の街を経由していくことになるな」

「どっちの道にもジムのある街があるから、己を鍛えつつ、進んでいくといいっスよ!」

「分かりました、色々とありがとうございます」

「ああ。それでは、頑張れよ。どれだけ失敗しても、最後まで諦めない……その闘志だけは忘れないようにな」

「ここから先も、応援してるっスよー! ふぁいとー!」

微笑むヒサギと手を振るアカメに頭を下げ、ハルはジムを後にする。

「……ヒサギさんって最初は人見知りなのに、ジム戦が終わった相手にはやけに世話焼きで饒舌になるっスよねぇ」

ハルを見届けた後、アカメがぼそりと呟く。

「仕方ないだろう……人見知りとはそういうものだ」

「ま、あたしはヒサギさんのそういうところも、好きっスけどね!」

「……お前は時々、人をからかっているのか尊敬しているのかよく分からなくなるな」

悪戯っぽくニヤッと笑うアカメに、やれやれといった様子でヒサギは首を振った。

 

 

 

その日の夕方。

サヤナに呼び出され、ハルは街のはずれ、カザカリ山道の麓まで来ていた。

「どうしたの、サヤナ? ポケモンセンターに戻ったらどこにもいないし、探したんだよ?」

「ごめん、ハル。ちょっと、一人で考え事をしてたんだ」

「そっか……ならいいんだけど、でももうすぐ日が暮れるよ? ヒザカリタウンへ向かうのは、明日にした方が……」

「ううん。呼び出したのはね、その話じゃないんだ」

そう言って顔を上げるサヤナの表情は、いつになく真剣味を帯びていた。

「ポケモントレーナーってね、ポケモンを貰ってから一人で旅をする人が多いんだよ。そりゃもちろん、全部のことを一人で出来るようにならないといけない、ってわけじゃないけど、一人前のトレーナーになるには、ある程度は一人でできるようにならないといけないんだよね」

だから、とサヤナは続ける。

 

「私たち、ここで別れよう」

 

「えっ……?」

あまりにも唐突で、思わずハルは聞き返してしまうが、構わずサヤナは続けた。

「私、シュンインシティでポケモンを盗られたでしょ? あの時、私一人じゃ何もできなかった。ハルとスグリ君、イチイさんが近くにいてくれたからなんとかなったけど、本当はあの時からずっと考えてたの。もっと一人で何でもできるようにならなきゃって」

それに、とサヤナは続け、

「一番最初のバトルだけはハルに勝ったけど、その後はなんだかずっとハルの背中を追いかけてる気がするの。ジムだって先を越されたし。このまま一緒に旅をしていても、私はずっとハルに頼ってばっかりだと思う。だけど、それじゃダメなんだよね。だから」

「ここで……別れるんだね」

「……うん」

サヤナの目を見る。真剣で、覚悟を決めた、そんな目をしていた。

正直なところ、ハルとしてもサヤナがいてくれた方が安心できる。引っ越してきたハルにとってはマデル地方は知らない地、そんな場所を旅するのは不安も大きい。

だけどもしかしたら、それはサヤナも同じなのかもしれない。

ハルよりもマデル地方のことは知っているだろうが、そんなに遠くの街まで行ったことはないだろう。だとすれば、サヤナにとっても知らない地の旅となる。

そう考え。返事を、紡ぎ出す。

「……分かった。それじゃ、一旦お別れだね」

ハルもそう告げた。

しかし、言葉にせずとも、二人には分かっている。

ここで別れることは、永遠の別れではない。また、会える日が来るということを。

「……にひひー、心配しないで。一日だけだけど、私の方が先輩なんだからね! それじゃ、しばらくさよならだね、ハル。次に会うときは私、もっと強くなってるからね!」

「うん、僕も頑張るよ。次に会ったときには、またポケモンバトルしようね」

 

 

 

そして翌日。

サヤナはジム戦のためにカザハナシティに残り、ハルは次の街に向けて出発。

これからはいよいよ、ハルとサヤナの一人旅が始まる。


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