現在、ハルはヒザカリタウンバトル大会・二回戦の真っ最中。
対戦相手の電池のような形の虫ポケモンを相手に、リオルで優位に立ち回っている。
『information
デンヂムシ バッテリーポケモン
体内に電気エネルギーを蓄積。
天敵の鳥ポケモンに襲われても
頑丈な殻と電気で身を守るのだ。』
「リオル、発勁!」
「デンヂムシ、スパーク!」
体勢を崩したデンヂムシへとリオルは波導を乗せた右手を構えて突撃、対するデンヂムシは咄嗟に電気を体に纏わせて迎え撃つ。
電撃に阻まれるも力押しで打ち破り、リオルの掌がデンヂムシを捉えた。
「リオル、電光石火!」
吹き飛ばされるデンヂムシをさらに追い、リオルが猛スピードで駆ける。
「くっ、デンヂムシ……」
「一気に決めるよ! サイコパンチ!」
デンヂムシに次の指示が出るよりも早く、デンヂムシに追いついたリオルが念力を纏わせた拳を振り下ろした。
「しまった……!」
拳を叩きつけられて地面に激突し、デンヂムシは目を回して倒れてしまった。
『決着がついたーッ! ハル選手、二回戦も終始有利に試合を進め、準決勝へと駒を進めました!』
『ハル君、強いねえ。ジム戦でもあのリオルにやられちゃったし、この勢いのまま決勝まで行けるかな?』
実況と解説の声を聞きながら、ハルはリオルを労い、ボールに戻すと、対戦相手に一礼してフィールドを後にする。
そして、問題の準決勝。
フィールドに向かおうとするハルは、とても緊張していた。
『さあ、二回戦の二試合目、この試合に勝って決勝に進むのはどちらか? まず一人目はハル選手! ここまでの二試合とも、スピードを生かしたバトルを展開し、見事勝利を収めています!』
しかし緊張といっても、フィールドの盛り上がりに、ではない。
対戦相手にだ。
『そして、そのハル選手と対戦するのは、現在バッジ四つ、エリーゼ選手! 一回戦、二回戦とも、あっという間に試合を決めてしまいました!』
『エリーゼちゃん、まだ戦ってないんだよねぇ。大会が終わったら、明日にでもジムに来てくれないかなぁ』
解説ではなくなっているサツキのコメントはさておき。
そう。ハルの相手は、カザカリ山道でハルを助けた、あのエリーゼなのだ。
魔神卿ダンタリオン相手に互角とまでは行かずとも、ある程度やりあえる実力の持ち主。間違いなく格上だ。
アルス・フォンで一、二回戦の様子を見ることができたのだが、両試合ともハッサム無しで余裕の勝利を収めていた。
(……どのみち、格上と当たることは覚悟してた。こうなりゃ当たって砕けろだ。やれるところまで、やってやる!)
入場の合図を受け、二人のトレーナーがフィールドに立つ。
「あら、久しぶりね。二回戦に上がって来たのね」
「ええ。あの時はありがとうございました」
カザカリ山道では急いでいてちゃんとしたお礼ができなかったので、ハルはこの場で改めてお礼を言う。
とはいえ、それとバトルは別だ。審判の準備も整い、いよいよバトルが始まる。
「それでは両者、ポケモンを出してください」
審判の声と共に、二人は同時にボールを取り出す。
本来なら、ここはリオルで行くべき場面。格上が相手となる以上、自分のエースをぶつけるのは当然だし、ハルもそれは分かっている。
しかし。
エリーゼと戦うに当たって、ハルはどうしても戦わせたいポケモンがいた。
「出てきて、イーブイ!」
「行ってきなさい、コモルー!」
ハルが選んだポケモンは、まさにカザカリ山道で助けられたイーブイ。元気になってバトルもできるようになったところを見せたかったのだ。
対するエリーゼのポケモンは、白い殻に全身を包んだポケモンだ。殻からわずかに四肢が突き出している。
『information
コモルー 忍耐ポケモン
エサも食べずに殻の中でひたすら
進化の時を待ち続ける。全身を覆う
殻は鉄のように硬いが動きは鈍い。』
見た目からは少し分かりづらいが、ドラゴンタイプのポケモンのようだ。
「あら? もしかして、そのイーブイは」
「はい、あの時のイーブイです。傷が治った後、仲間になってくれました」
イーブイもエリーゼのことを覚えているらしく、笑顔を見せた後、バトルの構えに入る。
『それでは、準決勝第一試合、スタートです!』
アナウンサーの声と共に歓声が起こり、バトルスタート。先に動いたのはエリーゼだ。
「コモルー、焼き尽くす!」
コモルーが殻の隙間から口を開き、勢いよく炎を吹き出す。
「イーブイ、穴を掘る!」
それを見てイーブイは素早く床下に潜る。
炎を躱しつつ、コモルーに近づき、足元から飛び出す。
しかし、
「コモルー、噛み砕く!」
突き上げられたコモルーはその場に踏みとどまり、イーブイに噛み付いてその動きを止める。
『エリーゼ選手のコモルー、攻撃してきたイーブイを逆に捕らえました!』
『コモルーの殻は硬いからねぇ。真正面からぶつかっていっても、イーブイじゃ打ち負けちゃうよ!』
「っ、イーブイ!」
「コモルー、投げ飛ばして龍の息吹!」
牙を食い込ませてダメージを与え、上空に投げ飛ばし、龍の力を込めた風の塊のような息を放ってさらに追撃を仕掛ける。
「くっ、イーブイ、スピードスター!」
咄嗟にイーブイは無数の星型弾を放つ。
体勢が整っていないため相殺はできず、龍の息吹を受けてしまうが、息吹の威力は弱めた。
「イーブイ、大丈夫?」
着地したイーブイはぶるぶると首を振って体勢を整え、ハルの言葉に頷いて構え直す。
「よし! イーブイ、電光石火!」
イーブイが地を蹴って飛び出す。
目にも留まらぬ速さで一気に距離を詰め、コモルーへ突撃する。
「コモルー、もう一度噛み砕く!」
「イーブイ、躱してスピードスター!」
横から突っ込んでいったイーブイに対し、コモルーはそれに動じず口を開く。
しかしハルはそれを予測して先に指示を出し、イーブイは素早く離れ、無数の星型弾をコモルーへと放つ。
コモルーの牙は空気を噛むだけに終わり、直後、コモルーの額へと星型弾が命中した。
「コモルー、焼き尽くす!」
首を振って体勢を立て直し、コモルーは炎を噴射する。
「イーブイ、躱して足に噛み付く!」
イーブイはすばしっこく動き回って炎を躱すと、コモルーの足元に近づき、口を開く。
しかし。
「コモルー、鉄壁!」
コモルーが足を殻の中へ引っ込め、硬い殻をさらに硬化させる。
イーブイが歯を突き立てるが、あまりに硬い殻には食い込むどころか傷一つ付けられず、逆に弾き返されてしまう。
「なっ!?」
「今よコモルー、龍の息吹!」
イーブイの動きが止まったところに、コモルーは龍の力を込めた息吹を放ち、イーブイを吹き飛ばした。
「イーブイ!」
吹き飛ばされたイーブイがフィールドに落ちる。まだ戦闘不能にはされていないが、それでも直撃を受けている。ダメージはかなり大きい。
『エリーゼ選手のコモルー、またもイーブイの攻撃を弾いた!』
『あのコモルー、攻撃力は並程度だけど、防御力がかなり高いよ。しかもそれだけじゃなくて、エリーゼちゃんは技の使い所がよく分かってる。イーブイの攻撃に合わせてイーブイを捕まえたり、逆に鉄壁で弾いたり、相手の動きを見た上でコモルーの長所を生かして最善手を的確に選んでる。それと比べるとハル君はさっきのスピードスターはよかったけど、単調な攻め方が目立ってるかな。トレーナとしてのレベルはやっぱりエリーゼちゃんの方が上に見えるなぁ。物理攻撃が主体のイーブイは鉄壁を持ってるコモルーとの相性も悪いし、ハル君にとっては厳しいバトルだね』
サツキの解説の通り、トレーナーとしてのレベルはやはりエリーゼの方が上。それはハルも自覚していることだ。
ここに来て、ハルはやはり苦戦を強いられる。
「さあ、休ませないわよ。コモルー、龍の息吹!」
「っ、イーブイ、躱してスピードスター!」
コモルーが龍の力を込めた息吹を放ち、イーブイは跳躍してそれを躱し、無数の星型弾を放つ。
しかし、
「無闇に空中に飛ぶのは危ないわよ。コモルー、焼き尽くす!」
宙に飛ぶイーブイを狙って、コモルーは星型弾に重ならない角度で炎を吹き出した。
コモルーならスピードスターを耐えると踏んで、確実に仕留めるための手段だろう。
「しまった……! イーブイ、もう一度スピードスター!」
だが間に合わない。
コモルーにスピードスターが命中するのとほぼ同じタイミングで、イーブイへと炎が迫る。
空中にいるイーブイには、炎を躱す術はない。
「イーブイ!」
灼熱の炎が、イーブイを飲み込む。
その直前。
イーブイの体が、青白い光を放つ。
眼前まで迫っていた炎が、薙ぎ払われた。
『おおっと!? この光は!?』
『進化の光だねえ! さあ、進化先は何かな!? このタイミングってことは……!』
アナウンサーと解説のサツキの声に合わせ、観客席にもどよめきが走る。
「イーブイ……!」
「ここで、進化ですって……?」
会場が盛り上がるのも当然だ。
イーブイといえば、実に八種類の進化先を持つポケモンなのだから。
そうこうしているうちにも、光に包まれたイーブイの姿は変化していく。
丸っこいシルエットは細くしなやかに、四肢はすらりと長く伸びていく。
ようやく光が収まった時、そこに立っていたのは――