魔王と救世の絆   作:インク切れ

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Prologue
第0話 マデル地方へ


“かつて、このマデル王国は強大な力を持つ王と、それに付き従う72人の部下たちによって支配されていた。”

“世界を手中に収めんとする王は、部下を率いて国を治め、他国への侵略にも手を出した。”

“人々は王を恐れ敬った。不可思議な力を持つ王を人々は『魔王』と呼び、72人の部下たちを『悪魔』と呼んだ。王は国の支配者であると同時に、恐怖の象徴でもあった。”

“ある時、一人の英雄が立ち上がった。英雄は民を率いて王と戦った。”

“太陽が百度没し、百と一回没した時、王もついに戦場に没した。王政は崩壊し、マデル王国は革命によって滅び去ったのである。”

 

 

「どうだい、ハル君? それはこれから私たちが行くマデル地方の、五、六百年程昔の歴史の話さ」

大きな車を運転しながら、黒髪を少し長めに伸ばしてサングラスを掛け、南国風の派手な服の上から白衣を着た男が隣の少年に話しかける。

「これが、マデル地方の歴史ですか」

助手席に座る、ハルと呼ばれたその少年が、手にした本から一度目を話し、オレンジ色の髪を揺らして隣の男性を見上げる。その澄んだ瞳は、決して小さくはない不安と、その不安を覆い隠すような期待に溢れていた。

「そう。マデル地方はね、その王が支配したマデル王国の中で一番栄えていたと言われている場所、謂わばマデル王国の中心地だったところなんだ。続きを読んでごらんよ」

男性に勧められ、少年ハルは再び本に目を向け、パラパラとページをめくる。

 

 

“かつて、このマデル地方では『王』の名を冠する者により、大規模な紛争が起こされた。”

“紛争は長きに渡って続いた。『王』とその七人の部下たちは強大な力を振るい、圧倒的な力でマデル地方を侵略していった。”

“『王』の進撃を食い止められる力の持ち主はどこにも存在しなかった。人々の抵抗も虚しく、街は次々と『王』の手中に収められていった。”

“いよいよ『王』がマデル地方を我が物にしようとした、その時。突如、七人の『救世主』が現れた。”

“七人の『救世主』は『キズナ』と呼ばれる力でそれぞれのポケモンと結ばれ、その力で『王』の軍勢を圧倒した。『王』とその部下は瞬く間に追いやられ、姿を消した。”

“しかし、案ずることなかれ。その『王』、狡猾にして決して諦めることを知らず。遠い未来、『王』を冠するものはまたかならず現れる。忘れるなかれ、『王』の名を――”

 

 

「その話はね、今から百年程前、マデル地方で実際に起こったと言われている話さ」

ハルが本を読み終わったのを見て、男性が声を掛ける。

「とは言っても、百年前の話だからね。今となっては半分おとぎ話みたいな扱いだよ」

「そうなんですか……」

ハハハ、と笑う男性の横顔を見ながら、ハルはそう返す。

「でもミツイ博士、わざわざ送り迎えしていただき、ありがとうございます。親の仕事の関係で引っ越すことになってしまって」

「いやいや、気にすることはないさ」

ミツイ博士と呼ばれたその男性は、再びにこやかに笑う。

「しかし君も大変だね。初めてのポケモンを貰う14歳の誕生日、まさにその日になって、マデル地方まで引っ越すことになるなんて」

ハルの両親は、どちらも世界を飛び回る仕事をしているため、ハルは昔から祖父母や親戚の家を転々としながら生活してきた。

その関係で、父親の旧友であるミツイ博士が住んでいるマデル地方まで引っ越すことになったのだ。

「いいえ、慣れっこですから。でも、旅を始めるその日になって引っ越すことになるとは思ってませんでした」

この世界では、一定の年齢に達した人はポケモンを持ち、トレーナーとなることができる。地方によって年齢差はあるが、どの地方でも10代前半。マデル地方では、14歳だ。

ポケモンを貰ってどうするかは個人の自由だが、ポケモンと共に一人旅を始める者が多数。そして勿論、この少年、ハルもその一人だ。

「ハハハ、そんなこともあるさ。人生なんて何が起こるか分からないからこそ楽しいってものだよ。さぁ、僕の研究所まで、もうすぐだぞ」

 

 

ポケットモンスター、縮めてポケモン。この世界に住んでいる、不思議な生き物だ。

この世界には多くのポケモンが溢れている。陸に、海に、そして空にポケモンは生息し、そしてポケモンは人間と共存して生きている。誰もがポケモンを理解し、ポケモンと共に生きている。人間とポケモンは互いに助け合い、共闘し、親交を深め合いながら生きている。

そして、ポケモンが人間と共に生きるのなら、人間もまた、ポケモンと共に生きている。そして、その関係性を体現する人間を表すような言葉、それが、ポケモントレーナー。

この世界は様々なポケモンに溢れている。ポケモンの数だけ出会いがあり、ポケモンの数だけ物語がある。

 

 

「さぁ、着いたぞ!」

ミツイ博士の声と共に、車が止まる。

車を降りれば、そこはいくつかの民家が立ち並ぶ小さな町。

そして目の前には、白い綺麗な研究施設がある。

「この建物は僕の研究所。そしてここは、マデル地方の旅の始まりの地、ハツヒタウンだ」

 

 

 

これは、そんな物語の中の一つ。

ハルという少年の、小さな物語である。

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