魔王と救世の絆   作:インク切れ

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第28話 サオヒメの邪教徒

サオヒメシティ。

今までハルが訪れた街と比べると、非常に大きな街だ。

そもそも街の規模からして違う。多数の建物が立ち並び、デパートもあればバトルスタジアムもあり、マンションなど何軒もあって当たり前、挙げ句の果てには教会まであるらしい。もちろんポケモンジムもある。ただバトルスタジアムだけは改修工事中らしく、今は使えないようだ。

さらに街のはずれには昔から建てられているらしい古く大きな塔がそびえ立っており、観光の名所としても事欠かない。

「見たいところはたくさんあるけど……とりあえず、ポケモンセンターを目指そうかな」

街が大きいので、ポケモンセンターを探すところから始めないといけない。

アルス・フォンの地図アプリを開き、場所を確認する。

と、その時。

「あっ! ハルー! 久しぶり!」

聞き慣れた声が、ハルの耳に飛び込んでくる。

顔を上げると、街角から現れたサヤナが駆け寄ってきていた。

「サヤナ! 久しぶりだね、元気だった?」

「にひひー、すっごく元気だよ! ジムバッジも三つになったし……って」

サヤナは笑顔を浮かべたかと思えば、急に困ったような顔になる。

「そんな場合じゃないの。ハル、さっきからなんだか変な二人組が私をつけてくるんだよ。なんだか気味が悪くって……」

「……なんだって? 変な二人組?」

その時。

サヤナを追いかけてきたのか、曲がり角から見るからに異質な二人組が現れた。

 

「お待ちください」

「我々は救いの手を差し伸べようとしているのです」

 

黒い修道服を身に纏った、男女の二人組。

身長は同程度。女は赤、男は青の髪色。

「サヤナ、下がってて」

サヤナを庇うように、ハルは一歩進み出る。

「あなたたち、何者だ?」

「私の名はルニル。双子の妹でディントス教の司教です」

「私はグニル。双子の兄、同じくディントス教の司教です」

女はルニル、男はグニルと名乗る。どうやら兄妹関係のようだが、

「ディントス教……司教?」

なにやら聞き慣れない言葉が出てきた。この街の教会と関係しているのだろうか。

「ご存知ありませんか。教皇ディントス様が創始した、世界を救いへ導く神の命を受けて活動する者たちです」

「ディントス様にお仕えし、信仰すれば、必ずその者は救われる。信仰の証としてポケモンを一匹ディントス様に捧げ、ディントス様と『母なる君』を信仰する。それだけでよいのです」

表情の一つも変えず、ルニルとグニルはそう語る。

話が胡散臭くなってきた。サヤナが逃げてきたのも頷ける。

「やだよ! そんなことのために、大事なポケモンを手放すなんて!」

ハルの後ろに隠れたまま、サヤナは食ってかかる。

「だいたい、信仰ってなんなの? そんなことで本当に救われるんなら、今頃世界中のみんなが何かを信仰してるはずなんだよ! そんな怪しくて嘘くさい話、信じられないよ!」

サヤナの言い分ももっともだ。ハルもこういう類の話は基本的に信用できない。

しかし、

「……なんですって」

「我々へはともかく、ディントス様への侮辱は重罪です」

そういった言葉は、本物の信者にとってはご法度だ。

「我々にここまで言わせてもお気持ちを変えないなら、ディントス様を侮辱するというのなら」

「ディントス教司教として、容赦は致しません」

ルニルとグニルの二人が、怒りの形相を浮かべてボールを取り出す。

「神の道よ、ニダンギル!」

「神の命よ、ランプラー!」

ルニルが二本の剣と鞘のようなポケモン、グニルが炎の灯った黒いランプのようなポケモンを繰り出す。どちらもゴーストタイプのポケモンだ。

 

『information

 ニダンギル 刀剣ポケモン

 テレパシーで会話しながら複雑な

 連続攻撃を繰り出す。剣の達人でも

 全てを見切ることは不可能だ。』

 

『information

 ランプラー ランプポケモン

 死者の魂を求めて街の中に現れる。

 ランプのふりをして潜み死期の

 近い人間を探しあとをつけるのだ。』

 

「ハル、私も戦うよ!」

「ありがとう。二人でこいつらを追い返そう!」

ハルとサヤナも、同時にボールを取り出す。

「ゴーストタイプなら……ワルビル!」

「出番だよ、ワカシャモ!」

ハルは捕まえたばかりの初陣のワルビルを、サヤナはアチャモの進化系、ワカシャモを出す。

 

『information

 ワカシャモ 若鶏ポケモン

 破壊力抜群のキックと口から吹き出す

 灼熱の炎を武器に戦う。鋭い鳴き声で

 相手を威嚇しつつ集中力を高める。』

 

「先手は任せて! ワカシャモ、ニトロチャージ!」

「分かった! ならワルビル、こっちは穴を掘る!」

ワカシャモが炎を纏い、猛スピードで駆け出す。

一気に距離を詰め、ニダンギルを突き飛ばす。

「っ、速い……」

「ワカシャモ、続けて弾ける炎!」

怯んだルニルなど気にも留めず、ワカシャモはさらに火花を散らす炎の弾を発射し、ニダンギルへと追撃を仕掛ける。

「ランプラー、食い止めなさい。サイコキネシス」

グニルのランプラーも動き出す。強い念力を発生させ、ワカシャモを止めようとするが、

「させない! ワルビル!」

その足元からワルビルが飛び出し、ランプラーを殴り飛ばす。

さらにニダンギルも炎弾の直撃を受けてしまう。バトル開始早々、ハルたちが一気に流れを引き寄せる。

「くっ、なかなかの腕前のようですね。ニダンギル、切り裂く」

「勝負はここからですよ。ランプラー、シャドーボール」

ニダンギルが刀身を現してワカシャモに向かっていき、さらにその上からニダンギルを援護するように漆黒の影の弾が放出される。

「ワカシャモ、雷パンチ!」

ワカシャモが両手に電撃を纏い、真っ向からニダンギルを迎え撃つ。

ニダンギルの二本の刀身と、ワカシャモの両手が激突し、激しく競り合う。

「ワルビル、躱して噛み砕く!」

他方、ワルビルが影の弾を躱し、大顎を開いて動く。

狙い目はランプラーではなく、ニダンギル。

ワカシャモと競り合うニダンギルに横槍を入れ、大顎で噛み付き、牙を食い込ませる。

「ナイス、ハル! 後は任せて!」

「頼んだよサヤナ! ワルビル、投げ飛ばせ!」

大きく首を振り、ワルビルはニダンギルを上空へと投げ飛ばす。

「ワカシャモ、弾ける炎!」

打ち上げられたニダンギルに向けて、ワカシャモはすかさず弾ける炎弾を放つ。

しかし。

 

「ランプラー、吸収しなさい」

 

放たれる炎弾の前に、ランプラーが立ち塞がる。

ランプラーに当たった炎の弾は、飛び散る火花を含めて全てランプラーの中に吸収されてしまう。

「えっ?」

「なっ……」

驚くハルとサヤナを見て、グニルは僅かに笑う。

「ランプラーの特性、貰い火です。炎技を吸い取り、炎技の威力が上がる。炎弾と周りの火花を全て戴きましたので、今のランプラーの炎技は相当な威力。それでは、お見せしましょう」

グニルはそこで一拍置き、

「ランプラー、火炎放射」

ランプラーが灼熱の炎を吹き出すが、その威力がおかしい。大規模に膨れ上がった炎が、まずワカシャモを飲み込み、さらに少し後ろにいたワルビルへと迫る。

「ワカシャモ!?」

「っ……! ワルビル、躱して!」

咄嗟にワルビルは大きく跳躍し、炎を何とか躱す。

だが、

「ニダンギル、イビルスラッシュ」

密かにワルビルとの距離を詰めていたニダンギルが二連の斬撃を放ち、ワルビルを地面に叩き落とす。

「ぐっ……ワルビル、大丈夫?」

炎に呑まれたワカシャモ、斬撃を受けたワルビル、まだ共に戦闘不能ではないようだが、ダメージは大きい。

「我らは『母なる君』の偉大なる加護を受けています」

「貴方たちのような信仰を持たぬただのトレーナー如きに、負けるはずはないのです」

ルニルとグニルの口調が強まり、膨大な炎を灯すランプラーと刀身を構えたニダンギルがハルたちへと迫る。

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