サヤナとのバトルから、一夜明け。
ハルは、朝からサオヒメシティジムを訪れていた。
濃い紫の塗装の建物を黄色や水色のネオンライトで派手に飾った、鮮やかなジムだ。
「失礼します!」
ドアを開き、ハルはジムの中へと足を踏み入れる。
サオヒメシティのバトルフィールドは今までとは違い、床が黒い金属で作られている。
さらに壁には建物の外装と同じようにネオンライトが張り巡らされ、バトルフィールドを明るく照らす。
そして、フィールドを挟んで向かい側に立つのは、
「おお、ハル君! 来てくれたんだね!」
鮮やかな金髪の毛先を水色に染め、青白いグラデーションのかかった服に真っ白なスカートの女性。
ジムリーダー、アリスだ。
「君がいつ来てくれるのかって、楽しみにしてたよ。本当はここで私がジムリーダーだってネタばらししたかったんだけどねー。ディントス教の司教に邪魔されなければ、それができてたんだけど」
とにかく、とアリスは続け、
「ここに来たってことは、バトルの準備はできている。そういうことだよね?」
「もちろんです。僕たちの力で、今度こそアリスさんに勝ってみせます」
「そうこなくちゃね。カザカリ山道で出会った時から、君がどれくらい成長しているのか、見せてもらうわよ」
真剣な眼差しのハルを見て、アリスもそんなチャレンジャーの実力に期待するかのように笑みを浮かべる。
いよいよ、四つ目のジムバッジを賭けたジムバトルが始まる。
「それでは、只今よりジムリーダー・アリスとチャレンジャー・ハルのジム戦を行います! 使用ポケモンはお互いに三匹ずつ、先に相手のポケモンを全て倒した方の勝利となります。戦闘不能以外でポケモンの交代を直接行えるのはチャレンジャーのみとなります」
ルールはヒザカリジムと同じ。
ただし前回と違うのは、ハルのポケモンの数だ。今までは使用ポケモン数が手持ちポケモンと同じだったのだが、今回は誰か一匹、お留守番のポケモンを選ぶ必要がある。
(うーん……順当に行くなら、今回はヒノヤコマはお休みかな)
アリスは電気タイプの使い手。飛行タイプを持つヒノヤコマは、できれば出したくはない。
「それでは、両者ポケモンを出してください!」
審判の女性がそう告げる前から、既にアリスはボールを手に取っていた。初手は決まっているようだ。
ハルも一番手のポケモンを決め、ボールを取り出す。
「よし! 出てきて、エーフィ!」
「まずはこの子ね。輝け、マルマイン!」
ハルが選んだのはエーフィ。
対するアリスのポケモンは、大きなモンスターボールをひっくり返して顔をつけたようなポケモンだ。
『information
マルマイン ボールポケモン
電気を溜め込むほど素早く動く
ことができる。猛スピードで相手の
周りを転がり近づいて爆発する。』
奇天烈な見てくれだが、れっきとした電気タイプのポケモンのようだ。
「お? そのエーフィ、もしかして?」
「はい。あの時のイーブイが進化したんです」
「そっかぁ、エーフィになったのね。エーフィはよく懐いたトレーナーの下でしか進化しない姿だから、君にぴったりの進化だね」
だけど、とアリスは続け、
「進化したエーフィのその力、君はちゃんと引き出せているかな? せっかくだから、私が見てあげよう」
「望むところです。強くなった僕たちの力を、見せてやりますよ!」
両者、気合い充分。準備は整った。
「それでは、ジムリーダー・アリスとチャレンジャー・ハルの試合を、開始します!」
「さあ! マルマイン、シグナルビーム!」
バトルが始まると同時、マルマインが激しい光を放ち、その額からカラフルな光線が発射される。
「エーフィ、スピードスター!」
対してエーフィは二股の尻尾を振るい、無数の星形弾を放って光線を防ぐ。
「それなら、マルマイン!撹乱しなさい!」
電気を帯びたマルマインが動き出す。
見た目からは想像もつかない圧倒的なスピードでマルマインはエーフィの周囲を駆け回り、
「十万ボルト!」
エーフィがマルマインの動きを捉えられなくなった一瞬の隙を見て急停止し、強烈な電撃を放つ。
「っ、後ろ! エーフィ、躱して!」
ハルの指示を受け咄嗟に跳躍し、エーフィは間一髪で電撃を回避すると、
「サイコショット!」
動きを止めたマルマインに対して念力の弾を放ち、その丸いボディを吹き飛ばす。
「続けて! シャドーボールだ!」
「させないわよ。躱して急接近なさい!」
立て続けにエーフィが漆黒の影の弾を放つが、マルマインは再び電気を帯びて高速で金属の床の上を駆ける。
「近寄らせませんよ! エーフィ、マジカルシャイン!」
エーフィの額の弾が白く輝き、周囲に向けて純白の光が放出される。
「マルマイン! 戻って!」
慌ててマルマインは方向転換し、光から逃れる。このマルマイン、かなりのスピードを誇っているようだ。
「私のマルマイン程じゃないけど、なかなか素早さのあるポケモンね。ならマルマイン、電磁波!」
エーフィがマジカルシャインを終えた瞬間を狙い、マルマインは微弱な電磁波を放つ。
しかし。
「えっ?」
エーフィに当たった電磁波はまるで鏡に映る光のように弾かれ、逆にマルマインが電磁波を受けた。
「っ……なるほど。そのエーフィ、隠れ特性のマジックミラーを持っているのね」
「そうですけど……隠れ特性? なんですか、それ?」
「あら、知らなかったの? ポケモンの中にはね、稀に通常の特性とは違う特性を持つ個体がいるのよ。エーフィの特性は普通の個体はシンクロというものだけど、隠れ特性としてマジックミラーを持っている子がたまにいるのよ」
「あ、そうだったんですか……」
ハルはエーフィの特性がマジックミラーであるということは把握していたのだが、それが珍しい特性だとは知らなかった。もしかすると、そのせいでゴエティアの下っ端に狙われていたのかもしれない。
とにかく、エーフィは電磁波を跳ね返した。マルマインは電気タイプなので麻痺状態にはならないが、補助技を跳ね返せるとなれば有利に立ち回ることができる。
しかし。
「なるほどねぇ。だったら、この手で行くわ」
アリスが、次の手に出る。その表情に、焦りはない。
「マルマイン、躱してボルトチェンジ!」
素早い動きでマルマインは念力の弾を躱し、電撃の輪をエーフィへと放つ。
電撃がエーフィに命中すると、その輪はブーメランのようにマルマインの元へと戻る。
そして、電撃の輪に囲まれたマルマインは、そのままアリスの持ったモンスターボールの中へと戻ってしまう。
「えっ……?」
予想外の展開に驚きを隠せないレオ。
ジムのルールとして、ジムリーダーのポケモンの交代は禁止であるはずだ。
しかし、
「言ったでしょ? ポケモンの“直接の”交代は挑戦者のみ。だけどボルトチェンジは使用後に控えのポケモンと入れ替わる技。ジムのレギュレーションは、技による交代は可能なのよ」
得意げな笑みを浮かべて、アリスは次のボールを手に取る。
「電気タイプ使いとしての戦術の一つってことで、大目に見てよね。それじゃ……輝け、エレブー!」
そして繰り出されるアリスの二番手は、黄色い体に黒い無数の稲妻模様を刻んだポケモン。
『information
エレブー 電撃ポケモン
無人の発電所などに現れる。大量
発生すると電気を食べ尽くし街に
大規模な停電を引き起こしてしまう。』
現れたエレブーは腕を振り上げ、雄叫びを上げるとともにツノや腕からバチバチと電気を放出する。かなり気性の荒そうなポケモンだ。
「それじゃ、仕切り直しよ! エレブー、雷パンチ!」
右腕を振り回して膨大な電撃を纏わせ、エレブーが殴り掛かってくる。
「エーフィ、躱してスピードスター!」
跳躍して電撃の拳を躱し、エーフィは上空から無数の星形弾を飛ばすが、
「もう一度雷パンチ!」
再びエレブーは雷の拳を振るい、腕の一振りで星形弾を打ち消してしまう。
「続けて冷凍パンチ!」
さらにエレブーは地面を蹴って大きく飛び、右拳に冷気を込めて空中のエーフィへ飛びかかる。
「エーフィ、シャドーボール!」
エーフィも額から黒い影の弾を飛ばし、エレブーを迎え撃つ。
影の弾がエレブーの拳を覆う冷気を打ち消すが、
「炎のパンチ!」
すかさず左拳に炎を灯し、エレブーは炎の拳を振り下ろして、エーフィを叩き落とした。
「っ、エーフィ!」
エーフィが黒い金属の床に叩きつけられ、嫌な音が響き渡る。
「エーフィ、大丈夫!?」
ハルが声を掛けると、エーフィは痛そうな表情を浮かべながらも立ち上がり、頷く。
「この間と比べて、耐久力も上がってるねえ。だけど私のエレブーは立て続けの攻撃を得意とするアタッカータイプ。殴り合いでの勝負ならならこっちに分があるわよ」
アリスの言葉に続くように、エレブーも両手を振り回しながら雄叫びを上げる。
「生憎、僕のエーフィは正面から殴り合えるだけじゃありません。勝負はここからですよ! エーフィ、サイコショット!」
立ち上がったエーフィが、額の珠にサイコパワーを溜め込み、念力の弾を発射する。
「エレブー、弾き飛ばして! 雷パンチ!」
対するエレブーは電撃を纏わせた腕をバットのように振るい、念力の弾をエーフィへと打ち返す。
「シャドーボール!」
しかし既にエーフィはそこにはおらず、エレブーの横まで回り込んでいる。
放たれた黒い影の弾がエレブーに直撃し、エレブーが押し飛ばされる。
「スピードスター!」
体勢を崩すエレブーへ、エーフィはさらに必中の無数の星形弾を飛ばす。
「エレブー、炎のパンチ!」
体勢が整わないまま強引にエレブーは炎を灯した拳を突き出し、飛来する星形の弾を纏めて打ち破る。
「今だエーフィ! マジカルシャイン!」
直後、エーフィが空中へ飛び上がり、額から純白の光を放つ。
真っ白な光がエレブーを覆い尽くし、吹き飛ばす。
「っ、やるじゃない! エレブー、ここからよ! 立て直して!」
吹き飛ばされて地面に落ちるが、エレブーは即座に起き上がると、怒りを込めて大きく叫ぶ。
「連続攻撃を受けても疲れも見せないか……エーフィ、気をつけて行くよ」
エーフィはハルの言葉に応えて頷き、怒りの形相でこちらを睨むエレブーをじっと見据える。
諸事情あって更新が大変遅れてしまい、申し訳ございません。
また今日から執筆再開していきますので、よろしくお願いいたします。