魔王と救世の絆   作:インク切れ

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第35話 波導覚醒

波導を纏ったリオルの右手が、メガライボルトへと叩きつけられる。

「ライボルト、お返しよ! シグナルビーム!」

殴り飛ばされたライボルトの瞳が鋭い眼光を放ち、直後、激しい光を放つビームが発射される。

「リオル、防いで! 発勁!」

波導を纏ったままの右腕をそのまま突き出し、シグナルビームを食い止める。

大きく押し戻されるが、それでもリオルは吹き飛ばされることなく地に足をつけて耐えきった。

だが、

「パワーボルテージ!」

間髪入れずにライボルトの追撃が来る。

咆哮と共に、鬣に溜めた電撃を衝撃波として一斉に放出する。

「っ! リオル、躱して!」

咄嗟の横っ飛びでリオルは何とか衝撃波を躱し、

「真空波だ!」

「それなら火炎放射!」

リオルが素早く腕を振り、高速の真空の波を飛ばす。

だが今度は真空波を受けてもライボルトは怯まなかった。

すぐさま灼熱の業火を吹き出し、リオルに炎を浴びせて吹き飛ばす。

「ライボルト、シグナルビーム!」

さらにライボルトは再び激しく点滅する光線を発射し、宙を舞うリオルを狙う。

「まず……っ! 電光石火!」

空中で目を見開き、壁を蹴って高速で飛び出し、間一髪で光線を回避。

「サイコパンチ!」

着地したリオルの両手が念力を纏う。

「ライボルト、パワーボルテージ!」

「来るよリオル! 躱して、上からだ!」

稲妻が如き鬣から、電撃を乗せた衝撃波が放出される。

ライボルトの前方を薙ぎ払うかのように放たれた衝撃波を、しかしリオルは跳躍して躱し、上空から念力の拳をライボルトの額へと叩き込んだ。

「ライボルト、目覚めるパワー!」

殴り飛ばされたライボルトはすぐさま起き上がり、周囲へと無数のエネルギー弾を放つ。

「リオル、真空波!」

対して、リオルは腕を振って真空の波を放つ。

全てを打ち消すことは出来ないが、自分の方へ向かってくる球体だけを消すことができればそれで充分。

「電光石火!」

地を蹴り、目にも留まらぬ猛スピードでライボルトへ突っ込む。

だが。

「ライボルト、一発耐えなさい!」

リオルの高速の突撃を、ライボルトはしっかりと地面に足をつけて耐え切った。

鋭い眼光が、リオルを睨む。

「パワーボルテージ!」

「……! リオル、発勁!」

リオルが慌てて右手に波導を纏わせ、突き出した、その瞬間。

ライボルトの身体から強烈な電撃の衝撃波が周囲一帯に放出され、リオルの波導の右手を打ち破り、リオルを吹き飛ばした。

発勁で多少威力を抑えたが、それでもライボルトの主力技、その威力はかなりのもの。

「くっ、リオル、まだ行ける?」

リオルはフィールドに手を付き、起き上がって自信を鼓舞するように叫ぶ。決してダメージは小さくないが、それでもまだやれる。

「メガライボルトの威嚇を全く受けつけないその闘志と攻撃力……さすがね。ライボルト、火炎放射!」

「リオル、躱してサイコパンチ!」

ライボルトが灼熱の業火を噴射し、対するリオルは右拳に念力を纏わせ、炎を躱してライボルトへ殴りかかる。

「ライボルト、ジャンプ! シグナルビーム!」

ライボルトは真上に跳躍し、リオルの念力の拳を回避、上空から激しい光を放つ光線を発射する。

「リオル、躱して発勁!」

光線を躱したリオルは床を蹴って跳躍し、上空のライボルトへと波導を纏わせた右手を突き出す。

しかし。

 

「今よライボルト! パワーボルテージ!」

 

空中でライボルトが大きく身を捻り、リオルの拳を回避。

刹那、鬣に纏わせた電撃を、衝撃波と共に一斉に解き放った。

この至近距離で、しかも空中で、衝撃波を躱す手段などなく、リオルは強烈な電撃を浴び、金属の床へと撃墜される。

「っ! リオル!」

床へ叩きつけられたリオルは、それでもまだ倒れてはいなかった。

起き上がろうと腕を震わせ、ライボルトから目は離さない。

「……やるわね、今のを受けてまだ耐えられるんだ」

アリスにしては意外だったらしく、少し感心した様子でリオルを見据える。

「それじゃ、完全に立ち上がるまで待ってあげる。ジムリーダーとして、君たちを試させてもらうわよ。ライボルト、攻撃の準備」

ライボルトの鋭い鬣が、電気を纏っていく。バチバチと弾けるような破裂音が響く。

「リオル……大丈夫? 無理は――」

そこまで言って、ハルは言葉を止める。

ようやく立ち上がったリオルが、ハルの方を振り向き、頷いたからだ。

その両手には、青い波導が揺らめく。リオルの戦意は、決して尽きていない。

「……そうだね。僕も諦めないよ。最後まで戦って、そして勝とう。アリスさんとライボルトに負けない僕たちの絆の力、見せてやるんだ!」

ハルの力強い言葉にリオルは小さく微笑み、ライボルトへと向き直り、吼える。

刹那。

 

リオルの全身を炎が如く波導が包み込み、その体が輝く光に包まれる。

 

「……! リオル、これは……!」

「……へえ。やっぱり君は、ポケモンとの仲がいいんだね」

リオルを包む光は、紛れもない進化の光。

小柄なリオルのシルエットが変化し、大柄な人型の獣人のような姿に変わっていく。

光が消えると、リオルは進化して別の姿になっていた。

リオルの面影を残しながら大きくなり、細身ながらもがっしりとした体つき。顔の後ろに四つの房が、胴体には薄橙の体毛が生え、腕や胸には鋼の棘を持つ。

 

『information

 ルカリオ 波導ポケモン

 あらゆる生命の持つ波導や心の内を

 感じ取る力を持つ。1km先の

 相手の居場所も正確に分かる。』

 

「リオル……いや、ルカリオ! 進化したんだね、おめでとう……って」

進化を遂げたルカリオがハルを右手で制する。

そうだ、喜ぶのは後だ。今は、バトルに集中しなければ。

何しろジム戦の最終局面。相手はアリスの切り札、メガライボルトなのだから。

「そうだね。進化した君の力、アリスさんに見せてやるんだ!」

そんなハルの思いを感じ取ったのか、ルカリオは微笑を浮かべ、小さく頷く。

対して、アリスも不敵に笑う。

「進化しただけじゃ、私には勝てないわ。私に勝ちたかったら、私とライボルトを上回る絆を見せてごらんよ」

「望むところです! ルカリオ! 勝負はここからだ!」

ハルに呼応し、ルカリオが天高く咆哮を放つ。

そして。

 

蒼き烈風と共に、ルカリオの体が膨大な波導に包まれる。

その両腕に、激しく揺らめく波導が宿る。

 

「……! これは……!?」

アリスの表情に浮かぶ驚愕。

そしてそれは、

「……すごい! ハル君、やっぱり君はすごいトレーナーだよ!」

次第に感激の笑みへと変わっていく。

「そのルカリオの膨大な波導の力、それは、君とルカリオの絆の力! ポケモンはトレーナーとの絆を得て、最大まで力を引き出せる。そのルカリオは、ハル君との絶対的な絆を得た上で、その力を使いこなせているのね……!」

心の底から楽しそうな表情を浮かべ、アリスは叫ぶ。

「ライボルト、すごいよ! この子、私たち以上かもしれない! この子たちになら、もしかしたら……!」

最高の笑顔で、アリスはハルの方に向き直る。

「君の輝きと私の輝き、どっちが強いか勝負! さあ! その絆の力を! 私たちに見せてよ!」

「絆の力……それが、この力の源なのか」

曖昧で、まだよく分かっていないが、ようやく一つ掴めた、リオルの時からの特別な力。

それは、ハルとルカリオの絆によって生み出される力だったのだ。

「ええ! 僕とルカリオは、絶対に負けません! ルカリオ、発勁!」

ルカリオの右手から、爆発するように青い波導が噴き出す。

地を蹴り、ルカリオは一気にライボルトとの距離を詰め、波導の右手を叩き込む。

「すごい、格段に威力が上がってる……! ライボルト、パワーボルテージ!」

すぐに体勢を立て直し、ライボルトは電気を溜め込み、衝撃波と共に電撃を放出するが、

「新技、見せますよ! ルカリオ、ボーンラッシュ!」

ルカリオの右手を纏う波導が形を変え、長い骨、いや、槍のような形状へと変化する。

地面タイプの技、ボーンラッシュなら、電気技を打ち消すことができる。波導の槍を構えてルカリオが突撃、電撃の衝撃波を打ち破り、さらにライボルトへと矛先を向ける。

「躱しなさい! シグナルビーム!」

立て続けに繰り出される槍の連続攻撃、しかしそれを全て見切り、躱し、ライボルトは瞳から激しく点滅する光線を放ち、ルカリオを押し戻す。

「火炎放射!」

「発勁で防いで!」

さらにライボルトが灼熱の業火を吹き出すが、ルカリオは波導を纏った右手を振り抜いて炎をなぎ払い、

「サイコパンチ!」

念力を纏った拳を構え、一気にライボルトとの距離を詰め、殴り飛ばす。

「ルカリオ! ここで決めるよ!」

「へーえ! ならライボルト、こっちもこれで終わらせましょう!」

両者が、最後の技を繰り出す。

ルカリオが体を纏う全ての波導を一点に集め、ライボルトは体の全ての電気エネルギーを溜め込んでいく。

 

「ルカリオ、波導弾!」

「ライボルト、パワーボルテージ!」

 

ルカリオの構えた両手から、全ての波導を凝縮した巨大な波導の念弾が撃ち出される。

ライボルトも体内のあらん限りの電撃を全て、衝撃波と共に解き放つ。

波導の念弾と電撃の衝撃波が、正面から激突。

轟音を立てて双方が競り合い、その末に。

遂に波導の念弾が、衝撃波を打ち破った。

最早遮るものがなくなった波導弾は、そのまま一直線に飛び、ライボルトを捉えた。

「……すっごい」

感極まったアリスが小さく呟いた、その直後。

ライボルトが倒れ、その体を七色の光が包み、元の姿へと戻す。

 

「ライボルト、戦闘不能。ルカリオの勝利です! よってこのバトルの勝者、チャレンジャー・ハル!」

 

「勝った……勝った! アリスさんとライボルトに、勝ったんだ!」

バトルに勝ち、波導の力を収めたルカリオへと、ハルが駆け寄る。

主人に笑顔で応えるルカリオだが、やはりギリギリの戦いだった様子。ハルへ歩み寄ろうとしてふらつき、それを見たハルが慌てて肩を貸す。

「僕たち、メガシンカポケモンに勝ったんだよ! よく頑張ったね! 進化もおめでとう!」

「……こんな熱いバトル、久々ね。ライボルト、負けちゃったけど、貴方も満足なんじゃない? ここまで熱いバトルができて」

アリスに毛並みを撫でられ、しかしライボルトは不満そうに小さく唸る。

「……そうね、貴方は負けず嫌いだものね。いつかまたあの子とバトルしなきゃね。次に戦う時は、勝ちましょう」

ライボルトを労ってボールへと戻し、アリスは立ち上がり、ハルとルカリオへ歩み寄る。

「お見事ね。私とライボルトの絆を、君とルカリオの絆の力が上回った。あの力を発揮できたのがその証よ」

「ありがとうございます。やっとこの力について、一つ知ることができました」

ハルと同時に、ルカリオもアリスに礼を言う。

「それじゃ、これを」

アリスは微笑み、小さな箱からバッジを取り出す。

Lの文字の周りを青い無数の火花が飛び散る、黄色の稲妻を模した模様のバッジだ。

「サオヒメジム制覇の証、ライトニングバッジ。大事にしてね?」

「はい、ありがとうございます!」

ハルのバッジケースに、閃光が如く煌めく四つ目のバッジが填め込まれた。

「……それと」

と、そこでアリスがさらに口を開く。

「このあと時間あるかしら? よかったら、この街の外れの塔に来てほしいのだけれど」

「……? いいですけど、何かあるんですか?」

ハルの疑問に対し。

アリスは、こう答えた。

 

「そこで君に継承したいの。私とライボルトを超える絆を持つ君とルカリオに、メガシンカの力をね」

 

『information

 ジムリーダー アリス

 専門:電気タイプ

 異名:煌めく絆の閃光(スパークスピリット)

 家系:継承者』


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