魔王と救世の絆   作:インク切れ

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第36話 絆の波導の真実

「メガシンカを、継承……?」

ジム戦後、突如アリスから告げられた、継承という言葉。

「そうよ。私のご先祖様はね、古くからメガシンカの使い手なの。メガシンカが広く伝わる街には、継承者って言われる人たちがいてね。その継承者たちは、元を辿れば皆同じご先祖様の子孫なのよ。例えば、ここから少し離れたカロス地方にも、継承者の家系であるジムリーダーの女の子がいるわ」

さらにアリスは続け、

「継承者の使命は、優秀なトレーナー――それもポケモンと強い絆で結ばれたトレーナーを見極め、メガシンカの力を与えること。今のジム戦で確信したわ。君とルカリオには、その資格がある」

「僕が……ですか……?」

呆然とした様子で、ハルはそう返す。

「そうよ。さっきも言ったけど、君のルカリオの通常を遥かに凌駕する波導の力は君との絆があってこその力。メガシンカにはね、トレーナーとポケモンの強い絆の力が必要なの。だから普通のトレーナーにはそう簡単には扱えない。だけど君たちくらいの力があれば、きっとメガシンカを使うことができるはず」

「……」

ハルにはまだアリスの言うことが信じられない。

普通のトレーナーでは扱うこともままならない、メガシンカの強大な力。果たしてそんなものを、トレーナー歴もまだ浅いこの自分が、本当に使えるのだろうか。

「とにかく、私と一緒に、街の外れの塔――マデルタワーに来て。そこで父さんが待ってるわ」

「……はい」

アリスに連れられ、ひとまずハルはその塔へと向かう。

 

 

 

街の外れの古き塔、マデルタワー。

外観は物寂しい塔だが、その内装は石造の構造をそのままにきちんと整備されている。

「ただいま、父さん。ハル君を連れてきたよ」

「お、お邪魔します……」

アリスに続いて、恐る恐る塔の中へと入る。

「おかえり。そしてハル君といったかな、よく来たね。話はアリスから聞いているよ」

そこには白衣を着た大柄の男性が待っていた。二人に気づき、振り返る。

「僕の名前はリデル。アリスの父親で、この塔の管理者なんだ。僕はここで、メガシンカについての研究を行っているんだよ」

初老のその男性はリデルと名乗り、柔和な笑みを浮かべてハルを迎える。

「さて、アリスの話によると、君とルカリオがジム戦で強い絆の力を見せたと聞いた。アリスは人とポケモンを見る目は一流だから間違いはないと思うけど、僕も興味がある。君ほどの若いトレーナーにメガシンカの力を継承するのは、滅多にないことだからね。一度、君のルカリオを見せておくれ」

「はい。ルカリオ、出ておいで」

リデルに促され、ハルはモンスターボールを手に取り、ルカリオを出す。

「ほう……なるほど」

出てきたルカリオを、リデルはじっと見つめ。

そして、こう言った。

 

「久しぶりだね。リオルの時と比べて、随分とたくましくなったじゃないか」

 

「えっ……リデルさん?」

「父さん、ハル君のルカリオのこと、知ってたの!?」

驚いたのはハルだけではなかった。アリスも知らなかった様子で、驚きを隠せないでいる。

「あぁ。この子は昔、僕がアルスエンタープライズで働いていた頃、そこで保護されていた子でね。自分の研究拠点をこっちに移してからも、時々アルスの方に顔を出してはリオルに会っていたんだよ」

知らなかったのは当然だが、それでもハルには衝撃的だった。まさか、こんなところにルカリオの知り合いがいたとは。

「折角だ。彼の過去を君に話そう。君はトレーナーとして、このルカリオについて知っておく必要がある」

そして、リデルは語り出す。

 

 

五年ほど前、僕はアルスエンタープライズで働いていたんだけどね。ある時、とある警察官が傷ついて倒れたリオルを抱えてきた。

話を聞くに、どうやら密猟者に狙われていたらしい。リオルというポケモンは珍しいからね、そういう輩からすれば、垂涎の的だったんだろう。

……っと、すまないね、ルカリオ。嫌なことを思い出させてしまって。だけど、昔の話にも耳を塞がずに向き合えるなんて、本当に成長したね。

話を戻そう。その警察官が言うには、密猟者に襲われていたそのリオルが突如、通常ではあり得ないほどの波導の力を放出し、密猟者は逆に大怪我を負い、その場で逮捕されたらしい。そしてリオルも波導の力が暴走し、力尽きて気を失ってしまったそうなんだ。

とにかく、リオルはアルスエンタープライズに預けられた。基本的に、そういったポケモンは警察ではなく、保護施設のある研究所に保護されるんだ。

だけど、そこからが大変だった。リオルというポケモンは波導によって他の生き物の感情を読み取ることができる――っと、これはハル君には釈迦に説法だったね。

だけど、そのリオルは波導が暴走してしまったことにより、波導の力が増幅してしまった。

そう、してしまったんだ。波導の異常な増幅によって、他者の感情に過剰に敏感になってしまったんだ。

望んでいなくても人の心の奥深くまで勝手に読み取るようになってしまい、ほんの少しでも悪意や暗い感情を感じ取ると、完全に心を閉ざしてしまう。しかもそれが本人の自覚していない感情であったとしてもだから、本当に大変だった。かくいう僕も心を開いてもらえるまで、一年以上の時間が掛かったからね。

 

 

リデルから語られる、ルカリオの過去。

アリスも知らないことばかりのようで、ハルと同じ様子で、父親の話をじっと聴き続ける。

 

 

そのうち、研究所内の人間の中には、少しずつリオルと打ち解けられた人も増えてきた。決して多くはなかったけどね。

その頃僕はこの塔に研究拠点を移したんだけど、それからも時間を作ってリオルの様子を見に行っていた。この話はさっきもしたね。

そして預けられて四年が経ち、僕たちはそろそろリオルを保護施設から外の世界に出してやる必要があると考えた。リオルのトレーナーになってくれる人を探し始めたんだ。

だけどリオルが心を開くトレーナーは全然現れなかった。

当然といえば当然なんだよ。リオルは何年もかけてようやく僕たちに心を許してくれただけであって、過剰な波導の力を制御できるようになったわけではないんだからね。

名の知れた熟練のトレーナーたちを何人も呼んだけど、誰一人としてリオルは首を縦に振らなかった。トレーナー本人ですら自覚していない心に潜む暗いものが見えてしまい、怯えてしまう。ましてや経験豊富なトレーナーたちだからね、そういうものがいくつもあったっておかしくない。

熟練のトレーナーは諦めて、初心者トレーナーや初めて旅に出る者たちにも協力してもらった。結果はやはり同じ。初心者として必ず滲み出てしまう不安感を、過剰に受け取ってしまうみたいだったんだ。

それが続いて一年、さすがにリオルにも負担が掛かっているような気がしてね。次のトレーナーがダメだったら、もう保護施設でずっと面倒を見ようと思っていたんだ。

そんな時、ミツイ博士から連絡が来たんだ。初心者用ポケモンの手配数を間違えてしまった、何とかならないかってね。

ミツイ博士もリオルが一応心を開けていた一人だったから、彼にリオルを預けた。

預けたとはいえ、結果は同じだろうと思っていたけどね。リオルはすぐに戻ってきて、それ以降は保護施設で暮らしていくことになる。そう思っていた。

……察しがついたみたいだね、ハル君。

その晩、ミツイ博士から連絡が来てね。なんと、その初心者トレーナーとリオルはすぐに打ち解けてしまったというんだ。

本当に、本当に驚いた。ミツイ博士も驚愕していたよ。そしてその子の名前を聞いた。

そのトレーナーとは。

ハル君、まさに、君のことなんだ。

 

 

リデルの話を聞き終わった後も、ハルはしばらく呆然としていた。

先に口を開いたのは、アリスだった。

「……なるほどね、納得がいったわ。あのルカリオの通常を遥かに凌駕する波導の力。あれは、過剰に増幅した波導の力を、ハル君との絆によって制御した力、ということなのね」

「僕はそれを見てはいないからなんとも言えないけど、恐らくね。同時に、ハル君と出会えたことで、過剰な波導の力を抑制することにも成功している。事実、バトル以外で勝手に波導が漏れ出したことはないみたいだしね」

やがて、ハルもゆっくりと言葉を紡ぐ。

「……だけど、どうして? 初めて旅立つことになって、僕は少なからず不安を抱えていました。リデルさんの話の通りなら、リオルがそれに気づかなかったはずは……」

「それに関しては、あくまでも僕の想像だけどね」

ハルの問いに、リデルはにこりと笑って答える。

「その不安を覆せるほどの“何か”を、君の中に感じたんじゃないかな。例えば、不安を持ちながらも、リオルを大事にしたい、リオルと一緒に成長していきたい、そんな強い気持ち。あるいは、今まで接してきた誰よりもポケモンのことを想う温かい心。もしかしたら、単にとても波長が合っていた、それだけかもしれない。波導を感情の波として見分けるリオルにとっては、波長が合うというのはこの上なく大事なことでもあるからね」

だけど、とリデルは続け、

「本当のことは明らかにしない方がいいかもしれないね。ハル君がそれを意識しすぎた結果、逆にルカリオと波長がずれてしまう可能性もある。君はそのまま、まっすぐ成長していけばいい」

リデルの言葉に、ルカリオも静かに頷く。

「……ルカリオ。君にそんな過去があったなんて、知らなかった。だけど、知ることができてよかったよ」

ルカリオに向き直り、ハルは素直に思いを告げる。

「正直、僕はまだトレーナーになって間もないし、難しいこともいっぱいで、全てを理解できたわけじゃない。ただ、一つだけ確実に言えることがあるんだ」

ルカリオの瞳を、じっと見つめる。

 

「ルカリオ。君に会えて、本当によかった。これからも一緒に頑張ろうね」

 

ハルの言葉に、ルカリオはフッと笑う。そして頷き、右手を差し出す。

ハルもすぐにその意図を理解し、ルカリオと改めて握手を交わす。

「……さて、もう言うまでもないだろうけどね。この子たちなら、メガシンカの力を扱えるだろう。アリス、キーストーンを」

「……いい話じゃないの。分かった、ちょっと待ってね……」

少しだけ涙ぐんでいた様子のアリスだが、部屋の隅から小さな白い箱を持ち出し、それを開く。

アリスのブレスレットに填められているものと同じ、丸い宝玉が入っていた。

近くで見てみると、不思議な輝きを放っていることがわかる。石の中に、遺伝子を思わせるような謎の模様が刻まれている。

「これが……キーストーン……」

「そう。そして、メガシンカに必要なものはもう一つあるわ」

アリスがリデルの方を振り向き、リデルが大きな箱を持ち出してきた。

箱の中から、もう一つの丸い宝玉を取り出す。

こちらの宝玉は橙色に輝く。その内部には、同じ様に赤と青の遺伝子模様が刻まれている。

「これが、ルカリオのメガシンカに必要なものだね。メガストーン、ルカリオナイト。キーストーンとは違い、メガストーンはポケモン毎に対応するものなんだ」

そう言いながら、リデルは大きな箱を開いてみせる。

中には様々な色を放つ、無数の宝玉が飾られていた。

「僕はメガストーンマニアでもあってね、使いもしないメガストーンをいくつも集めているんだ。メガシンカを継承するトレーナーが来た時のため、かつ、自分のコレクションとしてね」

「さあ、受け取って。そして、ここでメガシンカを試してみて。ちゃんとメガシンカ出来れば、その時はハル君、君にメガシンカを正式に継承するよ」

「……はい」

覚悟を決め、ゆっくりとハルはキーストーンに手を伸ばす。

だが、その時。

 

ズドォォォォン!! と。

轟音が響き、塔の外壁の一角が吹き飛ばされた。

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