アルスエンタープライズって何?って思った人は第1話をチェックだ!
轟音と共に、地響きが起こる。
塔の壁の一角が吹き飛ばされ、外壁に大穴が開けられた。
「っ……!」
「何事……!?」
よろめきながらも、開けられた大穴を見上げる三人。
そして。
「これはこれは、継承者親子よ。手荒な訪問、失礼するよ」
穴の空いた壁の淵に立つのは、黄金の祭服に身を包み、十字架を模した杖を持つ男。歳はリデルと同じくらいだろうか。
「あんた……!」
「ディントス教のご教皇様が、こんなところに何の用かな」
対して、アリスとリデルは素早くボールを手に取る。
「教皇……ってことは、まさか」
「いかにも。我が名はディントス、『母なる君』の元に、世界を平和に導く者。平和の礎のため、メガシンカの力を、キーストーンを戴きに参った」
ディントスと名乗ったその男が、パチンと指を鳴らす。
するとディントスの左右に見覚えのある男女が姿を現わす。ディントス教司教、ルニルとグニルだ。
「ハル君、下がってて。こいつらは私たちで追い返す! ライボルト、出てきなさい!」
「ここは僕たちに任せてくれ、ハル君。アリス、援護するよ。トゲデマル!」
アリスのボールからライボルトが、リデルのボールからは灰色の丸っこい体の背中に針を持つネズミポケモンが現れる。
『information
トゲデマル 丸まりポケモン
背中の針は体毛が変化したもの。
雷の日になると体毛を逆立てて電気
を吸い寄せ頬の電気袋に貯めておく。』
トゲデマルという、電気と鋼タイプを併せ持つポケモン。
「やはり、ただでは得られぬな。ならばこちらも! 神道を示せ、ギルガルド!」
対してディントスが繰り出すのは、剣の姿をしたポケモン。布状の両腕で大きな円盾を構えている。
『information
ギルガルド 王剣ポケモン
王の素質を持つ人間を見抜く力を
持つ。強大な霊力で人やポケモンの
心を操り思いのままに従わせる。』
「容赦しないわ! ライボルト、メガシンカするわよ!」
アリスのブレスレットのキーストーンの光に、ライボルトのメガストーンが反応する。
光が一つに繋がり、ライボルトの姿を変えていく。
「覚悟しなさい! ライボルト、パワーボルテージ!」
メガシンカを遂げたライボルトが、鬣に溜め込んだ電撃を衝撃波と共に放出する。
しかし。
「ギルガルド、キングシールド!」
ギルガルドの構えた盾から、霊力の結界が展開される。
電撃を乗せた衝撃波は、結界に触れると同時に消滅してしまう。
「こちらも行くぞ。聖なる剣!」
刹那、ギルガルドが盾を手に取り、体を現す。
一気にライボルトとの距離を詰め、刀身の体を振り下ろす。
「させんっ……! トゲデマル、アイアンヘッド!」
その瞬間、ギルガルドとライボルトの間へとトゲデマルが割り込んだ。
硬化させた体で、何とか聖なる剣を食い止める。
「ライボルト、火炎放射!」
「甘いな。ギルガルド、キングシールド!」
吐息と共にライボルトが灼熱の業火を吹き出すが、ギルガルドは素早く盾を構え直し、再び霊力の結界を張る。
ギルガルドには効果抜群となる炎技だが、やはり結果は同じ。結界に触れた瞬間に、炎は消滅してしまう。
「ならばトゲデマル、アイアンヘッド!」
ライボルトの炎の後ろから、トゲデマルが追撃を仕掛ける。
結界が解かれた瞬間、トゲデマルの頭突きがギルガルドの額に直撃、体勢を崩し、
「父さん、ナイスよ! ライボルト、パワーボルテージ!」
その隙を逃さず、ライボルトが電撃の衝撃波を放出、ギルガルドに強烈な電撃を浴びせて吹き飛ばす。
だが。
「やってくれるではないか。ギルガルド! ヘビーブレード!」
ギルガルドの瞳がギョロリと蠢き、盾から身を抜いて再び刀身を現す。
電撃をもろに浴びたとは思えない反撃速度でライボルトとの距離を一気に詰め、力任せに剣の体を振り下ろす。
「っ! ライボルト、躱しなさい!」
咄嗟にライボルトが飛び退いた直後。
先ほどまでライボルトが立っていた床を、ギルガルドの刀身が叩き割った。
「聖なる剣!」
刀身を光らせ、さらにギルガルドは返す刀で近くにいたトゲデマルを叩き飛ばす。
「ぐっ、トゲデマル……!」
「甘く見ないでもらいたいわね! ライボルト、火炎放射!」
トゲデマルが吹き飛ばされたが、そのすぐ近くでライボルトが大きく息を吸い込み、その口内に炎が揺らめく。
しかし。
「ニダンギル、イビルスラッシュです」
刹那、ルニルのニダンギルがライボルトの頭上から二刀の斬撃を繰り出す。
「なっ……!」
完全に不意をついた一撃で、ライボルトの動きが止められてしまう。
「今ですランプラー、サイコキネシス」
グニルのランプラーが念力を発生させる。その狙いは戦っているポケモンではなく、キーストーンが入った小箱。
「っ! トゲデマル、キーストーンを!」
咄嗟にトゲデマルが飛び出し、小箱を取り戻そうと動くが、
「下がっていたまえ。ギルガルド、聖なる剣!」
ギルガルドの刀の一撃により叩き落とされてしまい、キーストーンの入った小箱はディントスの手中に収まってしまう。
「これさえ手に入れば、こんなところに用はない。それでは、さらばだ」
そう言うが早いか、ディントスはギルガルドに飛び乗る。
ルニルとグニルもランプラーの念力で浮かび上がり、そのまま塔から飛び去っていった。
「ハル君、それに父さん、ごめんなさい。奴らを撃退するよりまず先に、キーストーンを隠すべきだった。冷静な判断が出来なかったわ……」
頭を下げるアリスの表情には、隠しきれない後悔と怒りが浮かんでいた。
「お前だけの責任ではないよ、アリス。僕としたことが、目の前の敵に気を取られすぎた。ハル君、せっかく来てくれたのにこんな騒動に巻き込んでしまって、すまなかったね」
アリスに比べるとリデルは幾分か落ち着いてはいるが、それでもその口調からは後悔の念が感じられた。
「しかしあのディントス教。何が狙いかは知らんが、いつの間にかあのような邪教に成り下がりよって」
そこで、ハルがふと口を開く。
「……あのディントスって人、何者なんですか?」
「何者、か」
リデルは苦い顔を浮かべ、少しの間押し黙るが、
「……僕の昔からの友人だよ。腐れ縁ってやつだね」
やがて、ゆっくりと語り出す。
「昔はあんなに落ちぶれてはいなかった。まっすぐに真剣に世の人々を救うために、使われていなかったこの街の教会を買い取り、ディントス教を設立した。祈りを捧げ、慈善活動を行っていたんだがね。少し前、突然『母なる君』などと言ったよく分からん存在に心を奪われ、狂信し、過激な宗教活動を行うようになったんだ。その件で僕と大喧嘩して、それ以降顔を合わせてもいなかったんだがね」
そこまで話し、はぁ、とリデルは深いため息を吐く。
「そうだったんですか……」
「だが、最近のディントス教信者の言動を聞くと、奴の行動原理は人々を救う、だけではないように思える。何か、秘密がある。裏の目的があって盛んに活動をしている。そして今のディントス教の奥には何か必ず、闇が潜んでいる。そんな風に僕には見えるんだ」
それが分かれば、ディントス教のその闇を暴く手がかりになるかもしれない。
「……とにかく、このまま黙ってはいられないわ。ディントスの本拠地に殴り込んで、キーストーンを取り返すしかない」
「それしかあるまいね。奴らが何を企んでいるのかは分からないが、キーストーンを悪用されるとなればこちらも何か手を打たねばなるまい」
「キーストーン奪還作戦よ。ジムトレーナーを総動員して、教会に攻め込む。力尽くでも取り返すわ」
「ううむ、もう少し策を考えた方が……と言いたいところだが、奴らが力押しを仕掛けてきた以上、こちらも力でぶつかるしかないだろうね。とはいえ、マデルタワーを空けてしまってメガストーンまで奪われてしまうと話にならないからね。僕はここに残ろう。代わりにアルスの研究員の中で腕の立つ者を何人か、応援に寄越してもらうよ」
父親にありがとうと頭を下げ、アリスはハルの方を振り返る。
「ハル君、必ずキーストーンを取り戻して、君にメガシンカを継承させる。それまで、少しだけ待って――」
「アリスさん、僕も行きます」
そしてアリスの言葉を遮り、ハルも進み出る。
「目の前でキーストーンが奪われたとなったら、僕も黙ってはいられません。僕のために用意してくれたものなんでしょう? だったら、僕にも手伝わせてください」
「……ハル君、本気なの? 奴ら、多分勝つためには手段を選ばないわよ」
「本気です。というか、我慢なりません。あいつらへの怒りを、ぶつけてやります」
アリスの目をまっすぐに見つめ、ハルはそう返す。
「いや、しかし――」
それでもまだ否定的なリデル。
だが、
「なるほど……よし。分かったわよ」
リデルが言い終える前に、アリスが、首を縦に振ってしまった。
「本当ですか……!」
「ええ。ハル君にも、力を貸してもらうわ」
ハルの瞳から強い意志を感じたのか、アリスは笑顔で頷く。
「おい、アリス! いいのかい、もしものことがあったら……」
「もしものことなんて起こらないわ。私はこの街の代表、ジムリーダーよ。ディントス教を壊滅させ、キーストーンを取り戻し、無事にハル君にメガシンカを継承してみせる。任せておいて」
まだ戸惑っていたリデルだが、やがて、やれやれと首を振る。
「お前は昔からいつもそうだった。一度スイッチが入ると、絶対に折れない。しかし……そうやっていつも結果を出してきたね。分かった。アリス、お前を信じて、任せよう」
父親の返事を聞き、アリスはにっこりと笑う。
「父さんならきっとそう言ってくれると思ってたわ。なんてったって、私はあなたの娘だもの。……よし! そうと決まれば早速、作戦会議よ! ジムに戻って、準備を整えましょう!」
「アリスも、ハル君も。くれぐれも気をつけるんだよ。アルスの方には、話を通しておくからね」
アリスに連れられ、ハルは再びサオヒメジムへと向かう。
ディントスの手から、メガシンカの証を取り戻すために。
ジムに戻ると、二人の人物が待っていた。
「アリスさん! ジム戦のリベンジに来ました……って、ハルも一緒だったんだね」
まず一人目はサヤナ。そして、
「よっ、ハル君。久しぶり」
黒いパーカーを羽織った、実力派の少年、スグリだ。
「あら、サヤナちゃんじゃない」
「スグリ君! 久しぶりだね、元気だった?」
どうやら、スグリもサオヒメシティに来ていたらしい。
ハルとアリスがタワーに行っている間に、サヤナと遭遇したようだ。
「ごめんね、サヤナちゃん。ジムなんだけど、しばらく開けないのよ」
「えっ? そうなんですか?」
頭を下げるアリスに、きょとんと首を傾げるサヤナ。
対して、
「……ジムリーダーはいるけど、ジムは開けない。ということは、何か問題が起こったってことっすよね」
スグリは的確に状況を把握していた。
「……ええ、そうなのよ。サヤナちゃんはもう知ってるわよね、ディントス教。あいつらを、壊滅させるの」
「かいめつ?」
再び、サヤナはきょとんとした顔になる。
「そうよ。奴らはついに一線を超えた。私とハル君の目の前で、キーストーンを奪っていたのよ。ジムリーダーとして、これ以上は看過できないわ。私たちの手で、ディントス教を制裁するの。だから、しばらくジムは――」
「だったら、私も手伝います」
アリスが全て言い終える前に。
サヤナは、そう返した。
「えっ?」
「私もポケモン取られかけてるし、他に被害を受けた人もたくさんいるんだよね。私は偶然ハルやアリスさんに助けられたけど、他に私みたいな怖い思いをする人がいてほしくない。ハルもそこにいるってことは、一緒に戦うんでしょ? だったら、ちょっと不安ではあるけど、私も協力するよ」
明るく、しかし真剣なサヤナの瞳。カザハナシティで別れた時のことを、ハルは思い出す。
「……助かるわ。ありがとう、何かあったら、私が守るから」
そして、
「あの。だったら、オレも行きましょうか?」
黙って聞いていたスグリが、唐突に口を開く。
「す、スグリ君まで……」
「実はオレもさっき、修道服の団体に狙われたんすよ。ま、オレ強いから、ソッコーで返り討ちにしてやりましたけど。面倒ごとは嫌いだけど、話聞く限り、あいつら悪いやつなんでしょ? それなら性格上、そういうの気に食わないんで、手伝いますよ」
そう言って、スグリはニヤリと笑う。
「……ありがとう、二人とも。予定メンバーに加えてあなたたち二人が加われば、最早負ける可能性はゼロにも等しいわ。それじゃ、作戦会議よ。さ、ジムに入って」
そして、アリスは三人をジムに連れ、さらにジムトレーナーを総動員させ、教会突撃の段取りを立てていく。
着々と、ディントス教壊滅の作戦会議は進んでいった。
《ヘビーブレード》
タイプ:鋼
威力:90
物理
重い剣の一撃を全力で振り下ろし叩き割る。相手の光の壁やリフレクター、オーロラベールを破壊できる。
※威力はあくまでも目安です。