魔王と救世の絆   作:インク切れ

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第41話 『母なる君』

「魔神卿……だって……?」

突如現れた純白の修道服の女性、『母なる君』こと、ヴィネー。

その言葉に真っ先に反応したのは、ハルだった。

つまり。

「ディントス教は、ゴエティアの下部組織だったってことなの……!?」

流石に驚愕を隠しきれないアリス一同。そしてそんなことは気にも留めず、ヴィネーは宙に浮いたまま、ディントスを見下ろす。

「……ふぅ。このキャラ付け疲れますし、ここからは普通に喋りますね。さて、ディントス。どうやらキーストーンを奪われてしまったようですね。貴方には期待していたのですけど、残念です」

突然口調が軽薄になったが、相変わらず何を考えているか分からない声で、ヴィネーはディントスにそう告げた。

「申し訳ございません、ヴィネー様! しかし、キーストーンはまだこやつらが握っております! 貴方様が直接手を下せば、まだ取り返せるはず!」

「残念ですけど、これだけの人数を同時に相手にして勝つだけの力は今の私にはありません。生憎、キーストーンを受け取り次第帰る予定でしたので、シンボラーともう一匹しかポケモンを連れてきていないのですよ。もしシンボラーがやられてしまうと、帰れなくなってしまいます」

ディントスの叫びに対しても、ヴィネーは淡白にそう返すのみ。

「しかし……どういたしましょう。キーストーンの回収に来たのですが、取り返されてしまったものは仕方がない。もしかして、私が来る直前でした? タイミングが悪かったですね。ディントス達を連れて帰ろうにも、私は今回単身で出向いていますから、全員を引き連れて帰るだけの力もありません。シンボラーの念力で持ち上げるのが最善でしょうが、私を含めて三人を運ぶのが限界です。つまり、私が助けられるのは二人ですね」

うぅむ、とヴィネーは少し悩む仕草を見せる。

だが、そこで、

「ごちゃごちゃ言ってんじゃないわよ。相手がゴエティアなら、ますます放って置けないわ! ライボルト、パワーボルテージ!」

アリスとライボルトが動いた。鬣に取り込んだ電気を衝撃波と共に、ヴィネーとシンボラーに向けて解き放つ。

しかし。

「あ、そういうのいらないので。シンボラー、サイコキネシスです」

ヴィネーの背後に浮かぶ異形のポケモン、シンボラーが強い念力を発し、サイコパワーの壁を展開する。

壁にぶつかった電撃の衝撃波はあっさりと反射され、逆にライボルトへと直撃した。

「くっ……!」

「今回は私からも手を出すつもりはないので、しばらく大人しくしててください。よし、決めました。シンボラー、もう一度サイコキネシスです」

連れて帰る者が決まったようで、シンボラーは再び念力を操作し、ヴィネーが選んだ二者に念力を掛ける。

 

「行きますよ、ルニル、グニル。キーストーンが手に入らないのなら、もうこの場所に用はありません」

 

司教の二人組、ルニルとグニルが、サイコパワーを受けて宙に浮かび上がった。

「えっ……?」

驚くアリスやハルたちだが、一番驚いていたのは他でもない、教皇ディントスだった。

「……!? 『母なる君』――いや、ヴィネー様! 私は!? この私はどうなるというのですか!?」

「ああ、ディントス。貴方はここまでよくやってくれました。ですが、言い忘れていたことがあります。この二人、実は貴方の部下ではなく、私の直属の部下なんですよ」

それに、とヴィネーは続け、

「こちらとしても貴方には力を貸したつもりなんですよ? 教祖という地位を与え、元々私の部下であるルニルとグニルを貸し与え、勢力拡大に当たってお告げの言葉という形で色々と入れ知恵もしましたよね? ですが貴方はその力の上に胡座をかいて好き勝手に振る舞い、その挙句に私の一番の目的であるキーストーンの確保に失敗した。救う要素がありません」

「確かに今回はしくじりましたが、しかし! もう一度チャンスを戴ければ! 今度こそ、今度こそキーストーンを見つけて参ります! 私こそが、ヴィネー様の一番の信仰者なのですから!」

「残念ですが」

取り乱すディントスに対し、ヴィネーは冷淡に結論を突き付ける。

「これは交渉や相談ではない。決定事項の報告です。というか、貴方も散々口にしていたではありませんか。『母なる君』は資格のある者にしか救いを与えない。貴方には資格が無かった。それだけのことです」

見下すように、冷酷に。

ヴィネーはそう告げて、不気味に笑う。

「しかし……! それでは私はこの後、どうすれば……!?」

「さあ? 貴方はもう私の配下ではありませんから、お好きなようにされては? 私に刃を向けようが大人しく捕まろうが、どちらでも構いませんが」

そう言われても、頼みの綱のギルガルドとシャンデラには既に戦う力は残っていない。

現実を突きつけられ、ようやく全てを諦めたのか、ディントスは小さくため息をついたかと思うと、その場に膝から崩れ落ちた。

「貴方がまだ適切な判断が出来る人間でよかったです。もし私に攻撃しようとしていたら、今頃貴方の首が飛んでいるところでしたよ。もちろん、物理的にね」

くすくすと笑うヴィネーの手元には、いつの間にかモンスターボールが握られていた。

「……待ちなさい! ゴエティアの魔神卿を、このまま逃がすわけがないでしょ!」

飛び去ろうとするヴィネー達三人へ、アリスが叫ぶが、

「おやおや、さっきので懲りたと思ったのですけど。別にジムリーダーの貴女を叩き潰して差し上げるくらいのことはやっても許されると思うんですけど、今日の私は戦う気分ではないんですよ。それに、貴女はともかく、後ろの男の子を傷つけるとパイモンちゃんに怒られてしまいますからね。というわけで、今回はここで撤収させていただきます。シンボラー、テレポート」

ヴィネーが指示を出し、シンボラーが念力を強める。

刹那。

ヴィネーとシンボラー、ルニルとグニルの姿が、どこかへと消え去った。

 

 

 

次の日。

ハルとアリス、サヤナとスグリは、再びジムに合流していた。

ヴィネーが撤収したその後、警察が到着し、ディントスや残された信者たちは一人残らず身柄を拘束された。

気力を抜かれてしまったようで、ディントスは抵抗一つせずに大人しく連行されていった。

「全てを分かってしまうと、ディントスも可哀想な男ね。好き勝手に利用されて、最後は見捨てられるなんて」

昨日警察に同行し、取り調べの様子も見ていたアリスが、どこかやるせなさそうに呟く。

「警察はディントスから話を聞き出して、ゴエティアの捜査に利用するみたい。なんだか憑き物が落ちたみたいに大人しく取り調べに応じていたわよ。まるで人が変わったみたいだったわ」

おそらく、今のその姿こそがディントスの本当の姿なのだろう。

その身に余る力をヴィネーから与えられ、力に溺れておかしくなっていたのかもしれない。

「ヴィネーに操られていたようなものだし、充分に反省の色が見られれば早めに釈放されるかもね。更生したら父さんとも仲直りして、今度こそ真面目に世のために活動してほしいな」

さて、とアリスは顔を上げ、

「とにかく、キーストーンも無事取り返した。今度こそ、ハル君にメガシンカを継承するわよ!」

すぐに笑顔を取り戻し、ハルの方を向く。

が、

「……えっ!? ハル? 継承って、どういうこと!?」

ハルが返事を返すより先にサヤナに横槍を入れられてしまう。

「え? あ、えっと……」

「あっ、そう言えば二人には言ってなかったわね。ハル君とルカリオの絆の力をより高めるために、ハル君にメガシンカの力を継承するのよ。サヤナちゃんにスグリ君も、よかったら見に来る?」

「行く! ハル、すごいじゃん! メガシンカを使えるようになるなんて!」

「是非、オレも見に行きます。にしても、ハル君がメガシンカを? 知らない間に追い抜かれちゃったかな?」

「いやいや、そんなことないよ。スグリ君にはまだまだ勝てないし……」

そんな会話をしながら、アリスに連れられ、ハルたちは再びリデルの待つメガシンカの塔、マデルタワーへと向かう。

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