魔王と救世の絆   作:インク切れ

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第42話 継承

「おかえり。警察の人たちから話は聞いたよ。今回の件に関しては、とりあえず解決だね」

マデルタワーにやってきた四人を、アリスの父、リデルが笑顔で出迎える。

ディントスのせいで、塔の外壁には穴が開きっぱなしだが。

「ただいま、父さん。見ての通り、キーストーンも無事に取り返したわよ!」

アリスは得意げな笑みを浮かべ、奪還したキーストーンを取り出す。

リデルはそれを見て小さく笑い、

「それで、ハル君の隣にいる二人は、お友達かな?」

視線をアリスの後ろにいる三人へと向け、声をかける。

「そうっすよ。スグリって言います。よろしくお願いします」

「私はサヤナです! ハルがメガシンカを使うって聞いたので、見学しに来ました!」

「そうかい。おっと、僕も自己紹介をしなくてはね。僕の名はリデル。アリスの父親でこの塔の管理人、そしてメガシンカについて調べている研究者さ」

「この子たちも、ディントス教の壊滅に一役買ってくれたの。いい子たちだし、見学くらいはいいでしょう?」

アリスに頼まれ、リデルは二人を見つめ、やがて、

「ああ、構わないよ。彼らがどんな子か、目を見れば分かるさ。是非、歓迎するよ」

快く見学を受け入れ、迎え入れる。

「さて、それじゃあハル君」

塔の中に入ると、アリスはキーストーンとメガストーンを取り出し、ハルの方へ向き直る。

「今度こそ、始めましょう。ハル君とルカリオに、メガシンカの継承を」

 

 

 

準備は整った。

「ハル君、キーストーンを」

「……はい」

アリスから差し出されたキーストーンに手を伸ばし、ハルはゆっくりとその輝石を手に収める。

「さて、ルカリオ。君には、こっちを」

リデルがルカリオに近づき、メガストーンの塡め込まれた腕輪をルカリオに取り付ける。

傍らでは、スグリとサヤナが固唾を飲んで見守っている。

「……さあ、これでよし。ハル君、ルカリオ。後は君たちの力を示すだけよ。君たちの絆の力を、私に見せて。それができれば、君たちはメガシンカの力を使えるようになる」

そう言って、アリスとリデルはハルたち二人から離れる。

「……ルカリオ。君は今、どんな感じなのかな。僕は何だか、とっても不思議な感じだよ。とっても不安なんだけど、それと同時に、すごい力を感じるんだ。不安なはずなのに、なぜだか失敗する気がしない。そんな不思議な気持ちなんだ」

ハルがルカリオに語りかける。ルカリオも小さく笑みを浮かべ、頷いた。

「うん。それじゃ、行くよ――」

覚悟は決まった。

キーストーンを握り締めた右手を、天高く掲げ。

ハルは、思い切り叫ぶ。

 

「僕と君の、絆の力に応えて! ルカリオ、メガシンカだ!」

 

刹那。

キーストーンを収めたハルの右手の中から爆発的な七色の光が噴き出した。

それに反応して、ルカリオの腕のメガストーンが眩い光を放つ。

ハルの右手から噴き出す光と、ルカリオの腕から放たれる光が互いに反応し、次々と一つに繋がっていく。

みるみるうちに七色の光はその規模を増し、ルカリオを包み込んだ。

例えるならば、光の卵。その中で、ルカリオの姿形が変化していく。

殻を破るが如く光を解き放ち、塔に響き渡る咆哮とともに、光の中から、姿を変えたルカリオが現れた。

より高まった波導の力はメガシンカエネルギーと混ざり合って体内を駆け巡り、その身に黒き模様を刻む。

頭部の房はより長く伸び、波導の集中する房の先や両手両足は真紅に染まり、鋼の棘が増え、体を覆う体毛も逆立ち、規模を増している。

響き渡った咆哮は、月に向けて天高く吼える大狼のようだった。

「……ルカリオ……メガシンカ、できたんだね!?」

ハルの口から、ようやく言葉が紡ぎ出される。

ルカリオもハルに応え、笑って頷いた。

「……うむ。間違いないね」

「これが、ルカリオのメガシンカなのね……」

確信したようにリデルは何度も頷き、アリスは驚きと喜びが入り混じったような表情を浮かべる。

「ハル君、すごい! 完璧よ! その姿こそがルカリオのメガシンカした姿、メガルカリオ!」

「やっぱりこの瞬間は、何度見ても気分がいいね。アリスが初めてメガシンカを成し遂げた時も、こんな気持ちだったなぁ」

まるで自分のことのようにアリスは喜び、リデルは蘇った記憶に思いを馳せる。

スグリとサヤナはあまりの驚きに、声も上がらずただただ呆然としていた。

「……ルカリオ! やった! 僕たち、メガシンカできるようになったんだよ! やったあああ!」

感極まってルカリオに抱きつきに行こうとするハルだが、鋼の棘に刺さりそうだったので慌ててルカリオに止められる。

「わわっ……そうだったね。じゃあ、これで!」

代わりに、二人で満面の笑みを浮かべ、ハイタッチを交わした。

「よし! 只今を持って、メガシンカの力をハル君に正式に継承します!」

にっこり笑ってアリスがそう宣言し、キーストーンを填めるブレスレットをハルへと渡す。

ハルがもう一度キーストーンを掲げると、光はルカリオを包み込み、ルカリオは元の姿へと戻る。

「……うぅ。なんだか、疲れが……」

ルカリオのメガシンカが解けた瞬間、ハルの体から力が抜け、ハルはその場へ座り込んでしまう。

「初めてメガシンカを使ったんだもの、仕方ないわよ。メガシンカはポケモンとトレーナーとの絆を一体化させることで使える力。つまり一種のシンクロ状態のようなものだから、トレーナーにもいくらかの負担がかかってしまうの。私はもう慣れちゃったから気にせず使えるけど、これに慣れないうちは一日に一回くらいにしておくといいわね」

「そういえば、アリスがメガシンカを使うようになって間もない頃、使いすぎで疲れ果てて倒れたこともあったねえ」

「あ、あれは舞い上がって調子に乗ってただけだから! そんなこと言うと、ハル君が怖がっちゃうでしょ!? ハル君、私みたいに一日に十回も使ったりしなければ、ぶっ倒れたりはしないからね!」

「じゅ、十回も使ったんですか……」

「若気の至りってやつよ。十年くらい前の話だから、ちょうどハル君と同じくらいの歳だったかしらね……」

父親からの横槍に赤面しながらも、それから、とアリスは続け、

「メガシンカは一バトルにつき一匹まで。例えば父さんみたいにたくさんのメガストーンを集めたとしても、一回のバトルでは一匹しかメガシンカさせられないからね。あと、メガシンカするとそのバトル中は例えボールに戻してもバトルが終わるまではメガシンカした姿のままで戦うことになるから、それも覚えておいてね」

「はい、ありがとうございます」

ようやく力が戻り、ハルはゆっくり立ち上がる。

「その感じだと、今日はサオヒメシティで休んでいったほうがいいわね。ジムがある街でここから一番近いのはカタカゲシティだけど、少し遠い道のりになるの。その間にハダレタウンって街があるから、そこを目指すといいわ。確か、近いうちに結構大きな規模のバトル大会が開催されるはず。ジム戦前の腕試しに、ちょうどいいんじゃないかしら」

アリスに進言され、ハルはアルス・フォンを取り出して地図アプリを開く。ハダレタウンはここからカタカゲシティへと続く道のちようど通り道だ。

「バトル大会か……ありがとうございます。メガシンカの力も、早速そこで使ってみたいと思います」

「えっ!? バトル大会!?」

そしてそのワードに反応したのが、ハル以外にあと二人。

「出る出る! 私も出たい! ね、ハル、ハダレタウンまでは私と一緒に行かない?」

「そんじゃ、オレも行こうかな。例えハル君がメガシンカを使えるようになっても、まだオレの方が上だってことを証明しなきゃいけないからね」

サヤナのテンションがみるみるうちに上がっていき、スグリもハルの顔を見てニヤリと笑う。

「あ、あはは……そうだね……」

とりあえず、次に行く街は決まった。

今日はサオヒメシティでゆっくり休み、明日はハダレタウンに向けて出発だ。

 

 

 

そして。

ハルがメガシンカの力を得たことを知ったのが、もう二人。

「……やっぱりねえ。ハル君、君はやっぱり、ぼくが見込んだ通りのトレーナーだよ」

円盤のような鋼のポケモンに座り、ディントスが開けた塔の穴を通じて、離れた場所から双眼鏡のような機械を構える少年と、異質な鳥もどきポケモンが発するサイコパワーでその背後に浮く女性。

「ヴィ姐、だから言ったのにー。あのディントスとかいうやつ、ああいうタイプは役に立たないって言ったじゃんか。結局、キーストーンを取り戻されちゃってるしさ」

「いいのですよ、パイモンちゃん。キーストーンこそ手に入りませんでしたが、“副産物”は充分手に入りました。それに、ディントスの失敗に備え、他にもプランはいくつも用意してありますしね」

「ふぅん、さすがはヴィ姐。ダンとかいうバカとは違うね」

「あらあら、パイモンちゃん。ダンちゃんは慎重派なのですよ。あの子の用心深さが活きる場面もあれば、パイモンちゃんの思い切りの良さが活きる場面もある。二人とも優秀な子なのですから、喧嘩ばかりしていてはだめですよ?」

「へーえ。ぼくにはあいつの優秀さは理解できないけどねぇ」

全く考えを改める様子もなく、少年はそう返す。

女性もそんな返事が来ることは分かっていたのか、あらあら、と笑うのみ。

「そういえばパイモンちゃん。以前、規律違反の下っ端二人を連れ戻してきてってお願いした気がするんですけど、あの件、どうなりました?」

「ん? ……あぁ、あいつらね。ぼくのバルジーナが美味しくいただいたよ。その様子だと忘れてたみたいだし、別によかったよね?」

「ええ。それならそれで問題ありません。ふと思い出しただけですし、処分する手間も省けましたし」

さて、と女性は続け、

「そろそろ行きましょうか。ディントスを失った以上、この街にはもう用はありません。私は次のプランに本腰を入れなければ」

「そーだね。ぼくもやりたいことは終わったし、帰るとしますか」

姿を隠すことすらせず、しかし、誰にも気づかれないまま。

二人の魔神卿もまた、サオヒメシティを去っていく。

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