ミツイの提案で始まった、初めてのポケモン。使用ポケモンは当然一匹。一対一のバトルだ。
「よし……! リオル、頑張るよ」
ハルの声に応えてリオルは頷き、進み出る。
「それじゃいくよ、私のポケモン! 頑張って、アチャモ!」
サヤナが繰り出したのはオレンジ色のひよこのようなポケモン。頭には三本の黄色い羽毛が跳ねており、非常に愛くるしい姿をしている。
『information
アチャモ ひよこポケモン
全身がふかふかの羽毛に覆われ
体内に炎を燃やす器官を持つので
抱きしめると暖かく心地よい。』
「リオルは格闘タイプ、アチャモは炎タイプ。ポケモンのタイプ相性に有利不利はないね」
ミツイがそう言ったとおり、ポケモンには、タイプと呼ばれる、ポケモンやポケモンの技に備わっている所謂属性のようなものがある。
例えば、炎タイプを持つアチャモは、水タイプの技に弱く、草タイプの技はあまり効かない。このタイプ相性を有利に活かすことが、ポケモンバトルで勝利するための第一歩となる。
「それじゃ、私から行くよ! アチャモ、火の粉!」
最初に動いたのはサヤナ。指示を受けてアチャモが嘴を開き、無数の火の粉を吹く。
「リオル、躱して!」
対するリオルは素早く横に移動し、まずはアチャモの攻撃を避ける。
「今度はこっちの番だよ! リオル、発勁!」
リオルの右手を、青く揺らめく波導が包む。
波導を纏った右手を構え、アチャモへと向かっていくが、
「アチャモ、つつく攻撃!」
リオルが突き出す右拳に、アチャモは嘴で応戦する。
硬い嘴を叩きつけて、突っ込んできたリオルを逆に押し返した。
「今だよ! 火の粉!」
体勢を崩したリオルへ、アチャモが放つ無数の火の粉が襲い掛かる。
回避が間に合わずに、リオルは火の粉を浴びてしまう。
「やるじゃないか、サヤナ。つつくは飛行タイプの技だから、格闘タイプの技である発勁に強く出られるんだね」
ミツイの解説を聞いて、サヤナは得意げな笑みを浮かべる。
「にひひー、そういうこと!」
「なるほどね……リオル、大丈夫?」
火の粉を受けてよろめいたリオルだが、すぐに体勢を立て直すと、ハルの言葉に応えて頷く。
「よし! リオル、電光石火!」
「アチャモ、もう一度火の粉!」
再びアチャモが火の粉を吹き出そうとするが、今度はリオルの動きがそれよりも早かった。
猛スピードでアチャモとの距離を詰め、そのまま体当たりして突き飛ばす。
「おおっ、ハル君も負けてないね。電光石火は先制技と呼ばれる技の一つだね、相手よりも先に攻撃できる便利な技なんだ」
今度はハルが優位に立つ番。よしっ、と小さく拳を握り締め、
「リオル、続けて発勁だ!」
リオルは再び右手に波導を纏わせ、突き飛ばされて転んだアチャモを追って追撃を仕掛ける。
「わわっ、アチャモ、立って! つつく!」
何とかアチャモは起き上がり、嘴を突き出して迎え撃つ。
だが慌てて技を使ったことによりアチャモの技の勢いが先程より弱い。
発勁の勢いこそ防がれたが、押し返されはしない。
「火の粉!」
しかしその後の動きはサヤナの方が早かった。
素早く息を吸ったアチャモが吐息とともに無数の火の粉を吐き出し、リオルを押し戻す。
「っ……! リオル、電光石火!」
「そうはいかないんだよ! アチャモ、つつく!」
降りかかる火の粉を耐え切り、リオルが飛び出す。
再び目にも留まらぬ速度で、一気にアチャモとの距離を詰める。
しかし火の粉で体勢を崩されたタイムラグにより、アチャモの迎撃が間に合ってしまう。
突撃を仕掛けたリオルだが、逆にアチャモの嘴を叩きつけられ、吹き飛ばされてしまった。
「なっ……リオル!」
嘴に突き飛ばされたリオルは、そのまま目を回して地面に倒れてしまった。
「やったー! 初めてのバトル、大勝利!」
サヤナがアチャモと共に辺りを駆け回る一方、
「……負けちゃった。ポケモンバトルって、難しいね」
呟いたハルはその場に屈んで、倒れてしまったリオルを抱き寄せる。
「ごめんねリオル。もっと上手く君の力を引き出せるようにならないと……」
ハルがリオルの頭を撫でると、目を覚ましたリオルは、気にするな、とでも言うかのように首を振る。
「ほら、サヤナ、落ち着きなさい。ハル君も元気を出して。二人とも、初めてにしてはなかなかいいバトルだったぞ」
ミツイが手を叩き、二人を注目させる。
「勝ち負けも勿論大事だが、バトルで一番大事なことは勝敗じゃない。そのバトルから何を学ぶか、そしてそれを次にどう生かすかだ。そういう意味では、勝利にも敗北にも同じように価値がある。だからハル君、負けたからって気を落としすぎないように。サヤナも、勝って調子に乗りすぎないように。勝って兜の緒を締めよ、だ」
優しい笑みを浮かべながら、ミツイは二人に向けて言った。
「さて、それじゃあ一旦研究所に戻ろう。二人のポケモンを元気にしてあげないとね」
リオルとアチャモを回復させ、ミツイは二匹をそれぞれの持ち主へと返す。
「さあ、これで二人も晴れてポケモントレーナーだ。これからは自分のやりたいことをやるといいよ。マデル地方を巡ってポケモンと一緒に思い出作りをするもよし、ポケモンとの絆を深め合うもよし、自分が思う道を進んでいくといい……と言われても、ピンとこないかもしれないね」
そこで、とミツイは続け、
「私からアドバイスだ。二人とも、ポケモンジムは知っているね? ジムを回るといい」
ポケモンジムとは、トレーナーが目指すポケモントレーナーの最高峰、ポケモンリーグに至るまでの通過点にして、関門とも呼べる場所。ポケモンジムは各地の街にあり、そのジムを取り仕切るジムリーダーと呼ばれる存在がいる。そのジムリーダーに勝利することでジムバッジが貰え、これを八個集めることがポケモンリーグへの出場条件となるのだ。
「一口にポケモントレーナーと言ってもいろいろな人がいる。だからまずは、スタンダードにバトルの腕を磨いていくといい。そのうちいずれ、自分のやりたいことが見えてくるさ」
「はい、分かりました」
「分かったよ! パパ、ありがと!」
ハルはまだマデル地方のことすら何も知らないし、サヤナもポケモントレーナーについてはよく理解していない。だから、旅の中でそれを学ぶところから始める必要がある。そのために、やはりポケモンと共に戦い、腕を磨いていくことが大事なのだろう。
「とりあえず、今日はもう夕方だ。ハル君には研究所の部屋を貸してあげるから、二人とも今日はゆっくり休むといいよ」
そして次の日。
「さあ、いよいよ旅立ちだね」
研究所の前。青空の下、新しく旅立つハルとサヤナを、ミツイが見送る。
「とりあえず、ここから一番近い街は隣町のシュンインシティだ。歩いていくと少し掛かるけど、そこでポケモンを捕まえたり、ポケモンを鍛えながら進んでいくといい」
それじゃあ、とミツイは改めて二人を交互に見て、
「二人とも、頑張れよ」
そう告げ、二人を送り出す。
「よし! それじゃあハル、早速シュンインシティに行くよ!」
「えっ!? うわっ、サヤナ、ちょっと待ってよ!」
サヤナがハルの手を引いて走り出し、慌ててハルも後に続く。
ハルとサヤナ、新人トレーナーの二人が、新たに旅立つのだった。