魔王と救世の絆   作:インク切れ

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第51話 仮面の奥の狂気

バトルフィールドを後にし、ロビーへと戻る途中、ハルはスグリとすれ違った。

「おっ、ハル君お疲れ様。決勝進出おめでとう」

「スグリ君! ありがとう、先に決勝で待ってるよ……だけど」

「あぁ、次の対戦相手でしょ? 心配しなくていいってば」

スグリの次の相手は、正体不明の人物。それでかつかなりの実力者。

それでも当のスグリは、余裕そうな表情を浮かべ、

「あいつ、予選からずっと同じバクオング使ってるだろ? おかげで、あのバクオングのバトルスタイルはだいたい分かった。対策は万全だよ」

心配するハルを見て、ニヤリと笑う。

「あいつが初手でバクオングを出してきたら、絶対にオレが先手を取れる。賭けてもいいよ。そこから先は未知数だけど、予選と一回戦で使ったエレザードはこの先使う予定ないから、相手はオレの情報をほとんど仕入れられていないはずだぜ」

「そこまで言い切るなんて、さすがスグリ君

だね。だけど、油断は禁物だよ」

「分かってるってば。オレ、こう見えて油断はしないから。ま、見ててよ。それじゃ、そろそろ行ってくる。決勝で会おう」

それだけ言って、スグリは手を振り、控え室へと走り去ってしまった。

 

 

 

『さあ、間も無く準決勝、第二試合が始まります!対戦カードは、スグリ選手vsポケモントレーナー“R”選手!』

アナウンサーの紹介と共に、二者が進み出、フィールドを挟んで向かい合う。

「いよいよだね……」

「スグリ君、頑張って……!」

ハルは現在、観客席に戻っている。隣にはサヤナも一緒だ。

『まずはイカした実力派、スグリ選手! 一回戦の名勝負に見事勝利し、その流れに乗ってそのまま快進撃を見せています! 準決勝でも、その実力を余すところなく見せてくれるのでしょうか!』

次に、とアナウンサーは続け、

『お前は一体誰なんだ! 年齢、出身、その正体は一切不明! とにかく何にも分からない! 全てが謎の謎だらけ! “R”選手! ただ一つ分かることは、その確かな実力のみ! 先ほどのミオ選手と同じくポケモンを一匹しか見せていませんが、遂に他のポケモンを見られるのでしょうか!』

ここまで、ポケモントレーナー“R”と名乗るこの謎の人物は、バクオング一匹で勝ち進んできている。

「さあ、始めようか。悪いけど、決勝戦でハル君と戦う約束してるんでね。サクッと倒して、その悪趣味な仮面を剥いでやるよ」

「……」

スグリが挑発するが、“R”は相変わらず一切の返答をしない。

「……なんだ、つれないなぁ。まぁいいけどさ」

「……」

スグリがボールを取り出すのを見て、“R”もボールを手に取った。

『それでは、準決勝第二試合、スタートです!』

「両者、ポケモンを出してください」

審判の声に従い、双方がポケモンを繰り出す。

「出て来い、ニューラ!」

「バクオング」

スグリの一番手はニューラ。サオヒメシティで一度だけ見たポケモンだ。

そして“R”のポケモンは、予選からずっと変わらず、バクオングだ。

 

「それでは……試合開始ッ!」

 

「やっぱりバクオングで来たか。それじゃ、先手はいただくよ! ニューラ、冷凍パンチ!」

ニューラが地を蹴り、走り出す。

その動きは高速かつ不規則。軌道を読ませずバクオングへ近づき、バクオングの額へと冷気を纏った拳を浴びせる。

「バクオング、気合玉」

目を細めて少し後退したバクオングだが、すぐさま反撃に出る。

掌を開いて気合の念弾を作り上げ、ニューラへと投げつけようとするが、

「遅い遅い! ニューラ、瓦割りだ!」

既にニューラはバクオングの背後へと回り込んでおり、後ろから鋭い爪を構えて腕を振り下ろし、手刀を叩き込んだ。

「地震」

「ニューラ、離れろ!」

バクオングが空気を吸い込んだのを見て、ニューラは咄嗟にバクオングから距離を取る。

直後にバクオングが空気を揺さぶり、大地を揺らす爆音を放つも、ニューラは大きく跳躍し、地震の衝撃波を回避した。

「気合玉」

「躱して、地獄突きだ!」

口を開いたバクオングが口内に気合の念弾を作り上げ、咆哮と共に発射する。

だがニューラは容易くそれを躱し、再び不規則な動きでバクオングに接近、バクオングの喉元を狙い、鋭い爪を思い切り突き刺した。

バクオングの表情に苦痛が生まれ、直後、バクオングが激しく咳き込む。

「っし、これを狙ってたんだ。地獄突きは追加効果でしばらくの間相手の音の技を封じる。ハイパーボイスは使えなくなるし、あんたのバクオングだと地震も使えないかもね。試してみたら?」

スグリの説明通り、地獄突きは本来は声を出す技を封じる効果を持つ。だがこのバクオングは大声によって地面を揺らしているため、地震も封じた可能性がある。

「悪いけど、対策はバッチリだよ。ニューラ、冷凍パンチ!」

先ほどまでの不規則な動きとは一転、今度はニューラは猛スピードで一直線にバクオングへ近づき、氷を纏った拳を繰り出す。

バクオングの額を氷の拳が殴り飛ばすが、しかし。

「バクオング、噛み砕く」

殴打を受けたバクオングがすぐさま動いた。大きく口を開き、ニューラが離れるよりも早く腕に噛み付き、ニューラを捕まえてしまう。

「っ……!」

「気合玉」

ニューラを捕らえたまま、バクオングは掌に気合の念弾を作り上げる。

機動力の高いニューラと言えど、動きを封じられてはどうしようもない。

さらに気合玉は格闘タイプの技。悪と氷タイプを併せ持つニューラには二重の効果抜群、耐久力には難のあるニューラが耐えられるはずもない。

ないのだが、しかし、

 

「ニューラ、身代わり!」

 

バクオングが気合玉をニューラへと叩き込んだ、その瞬間。

まるで風船か何かのようにニューラの体が膨れ上がったかと思うと、破裂してその姿を消してしまう。

刹那、

「瓦割りだ!」

バクオングの眼前に現れたニューラが、バクオングの額へと手刀を打ち据えた。

さすがに一撃ではバクオングは沈まないが、気合玉で確実に仕留めたと判断し油断したのか、バクオングの反応が遅れてしまう。

身代わり、これはその名の通り自身に対する攻撃を代わりに受けるデコイを作り出す技。

自身の体力を使ってデコイを作るため使える回数には限りがあるが、どんな攻撃でも受け流すことができるのだ。

「ニューラ、もう一度!」

よろめくバクオングに対し、ニューラはさらにもう一発腕をバクオングの脳天目掛けて振り下ろし、

「冷凍パンチ!」

反撃が来るよりも先に、冷気を纏った拳をバクオングの腹部へと突き刺した。

ニューラの拳が刺さった腹部から、バクオングが徐々に凍りついていく。

「噛み砕く」

「遅い! 地獄突き!」

半身を凍りつかせつつも何とかバクオングが大顎を開くが、そんな遅い動きでニューラを捉えられるはずもない。

バクオングの噛みつきは難なく回避され、直後、鋭利な鉤爪の一刺しがバクオングの喉笛を穿ち抜いた。

バクオングの体がぐらりと傾き、そのまま横倒しにフィールドに倒れる。

「……バ、バクオング、戦闘不能! ニューラの勝利です!」

ニューラの鋭い猛攻を受け続け、猛威を振るってきたバクオングはあまりにもあっさりと戦闘不能にされてしまった。

『な、なんということでしょう! スグリ選手、ここまで暴れてきたバクオングを多彩な戦略でいとも容易く撃破! こんな展開を想像していた人など、いるのでしょうかぁぁぁ!』

観客全体も驚愕のどよめきに包まれている。無理もないだろう。

「スグリ君、すごい……!」

「さすがはスグリ君だね……地獄突きで音技を封じたのも、瓦割りを誘導するためだったのか」

驚いているのは、勿論サヤナとハルも例外ではなく、

「あんなトレーナーに負けたんなら、悔いは無い……今の試合運び、お見事ですわ」

ハルの後ろに座るエリーゼもただただ感心するのみ。

会場の全員が愕然とする中、

「ここまでの試合は全部見てきてる。分析も完璧。言ったよね、対策はバッチリだってさ」

バトルフィールドに立つスグリのみが、不敵な笑みを浮かべていた。

だが、しかし。

「バクオング、戻れ」

一番驚いていてもおかしくない“R”の口調には、相変わらず一切の変化がない。

淡々とバクオングを戻し、次のボールを手に取る。

と、そこで。

「……そろそろ、もういいか」

唐突に。

“R”の仮面の奥から、声が響く。

ポケモンの指示以外で、ようやく“R”が口を開いたのだ。

「あん?」

怪訝な表情を浮かべるスグリを気にも留めず、

「ここまで何とか頑張ったんだがな。もうダメだ。そもそも、俺様が無言で戦うこと自体、ハナから無理があったんだ。もうダメだ、我慢の限界だ!」

仮面の奥から聞こえる声が勢いを増していく。

単調で冷淡だったその口調に、激情が宿っていく。

「ちょうど一匹やられたし、もういいだろ! そろそろ正体現すぜ! さぁカメラ! 俺様を中心に写せ!」

ただならぬ雰囲気に会場の目が“R”に釘付けになる中、真っ黒なローブから腕が飛び出し、顔を隠す仮面を掴んだ。

「お前は一体誰なんだ! 年齢、出身、その正体は一切不明! とにかく何にも分からない! 全てが謎の謎だらけ! その正体はぁ!」

どよめいていた会場が、“R”の叫びを受けて、静寂に包まれる。

仮面とローブを脱ぎ捨て、遂に、ポケモントレーナー“R”が、その正体を現した。

 

「俺様は破壊と破滅を呼ぶ者! ゴエティアの悪魔が一人、魔神卿ロノウェ! 災厄の呼び声、貴様らの脳に深く刻み込んでやるぜ!」

 

深い緑色の髪を立たせ、真っ赤な単眼が描かれた黒いバンダナを巻き、濃いビジュアル系メイクを纏った恐怖を煽る顔。

服もチェーンを付けたバンドマン風の真っ黒な服装で、背中には黒と赤を基調としたエレキギターを背負っている。

「こうなったら容赦はいらねーなぁ! 出番だ、野郎ども!」

背中のエレキギターを手に取り、搔き鳴らし、“R”――ロノウェと名乗った男が叫ぶ。

それと同時に、どこからか大勢の黒装束の人間が次々と現れ、瞬く間に観客席を包囲してしまう。

『……ちょ、ちょっと、何よ! わああっ!?』

女性アナウンサーの金切り声が響く。どうやら実況席にも黒づくめの群勢が入り込んでいるらしい。

突然の出来事に会場がざわめき出すが、

「うるっせえぞお前らぁ! よく聞け! この会場はゴエティアが制圧した! 電波は全てこっちで遮断してっから、助けも求められねえぜ! シケた顔したオーディエンス、お前らの手持ちのポケモン全てを! ゴエティアに差し出しな!」

“R”を名乗っていた時とは打って変わり、ロノウェはテンション爆上げで叫ぶ。

しかし。

「さあ、次のポケモンを出しなよ」

そんな会場の様子など気にも留めず、スグリはロノウェへと言葉を投げる。

「……あぁ?」

「ポケモンを差し出せってさぁ、そういうのはこの会場にいる全員より強いことを証明してからやることじゃないの? オレに勝って、ハル君に勝って、初めて成り立つ命令じゃないの、それ。それとももしかして、負けるのが怖くて会場の雰囲気を変えた、とか?」

魔神卿を相手にして、スグリは一歩も引かない。

そしてそんなスグリを見据えるロノウェは、やがて口を釣り上げて大きく笑う。

「ほーぉ? ちったぁ面白えこと言うじゃねぇか! よっしゃ、その話乗った! この話の続きをするのは、お前とハルをぶっ倒したその後だ! ヒャッハァ! テンション上がってきたぜぃ!」

ギュイイイイイイイン!!! とエレキギターを掻き鳴らし、ロノウェは雄叫びを上げる。

「だが後悔すんなよ? ゴエティア魔神卿に楯突いたことを! この俺様を挑発したんだ、どうなっても知らねえぞ?」

「御託はいいから、かかって来なよ。勝つのはオレさ」

スグリのその言葉を聞き、再びロノウェは引き裂くような笑みを浮かべると、ボールを取り出す。

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