魔王と救世の絆   作:インク切れ

56 / 121
短めの回です。


第53話 もう一人の悪魔

『ロノウェ、ストップ。撤退指示が出てるはずだよね』

スピーカーを通して、会場内に女性の声が響き渡る。

いきなりスピーカーからロノウェの仲間らしき女性の声が聞こえたことに会場は困惑するが、問題はそこではない。

会場の全員、その声に聞き覚えがあったのだ。

それもそのはず。

この声は、先程までずっと実況席に座り、この大会を進めていた女性アナウンサーの声色と同じ声なのだから。

名前は確か、タロスと名乗っていたか。

思考が追いつかないハルたちが実況席を見上げれば、いつのまにか実況席には黒装束の者たちはいなくなっており、その女性アナウンサーがマイクを片手にロノウェに話しかけていた。

『今回はここまで。気づいてるでしょ、パイモンから撤退の指示が出てるよ。すぐにゴエティア本部まで戻って来いって』

ざわつく会場は完全に無視。まるでロノウェしか見えていないかのように、その女性アナウンサーはマイク越しにロノウェに話し続ける。

しかし。

「なんだって……?」

ハルは気づいた。いや、ハルだけではない。おそらく、会場の全員がはっきりと耳にしているはずだ。

女性アナウンサーの、絶対に聞き逃すことができない一言を。

「『ゴエティア本部』だと!? それじゃああいつも、ゴエティアのメンバーなのかよ!?」

会場のどこかで怒鳴り声が上がる。

それに呼応し、観客席全体が混乱に呑まれていく。

『もぉ……うるさーい! ストップストップ! 今から自己紹介するから、ちょっと静かにしててもらえるかな!』

そんな会場の様子を見て呆れたように一息つき、女性アナウンサーは一喝してその場を支配する。

静まり返った会場に、マイク越しの声が響く。

 

『それじゃあ、今大会最後の大事件を! 私はゴエティアに使える悪魔が一人、魔神卿アスタロト! 名前だけでも覚えて帰ってね!』

 

刹那、実況席の窓ガラスが粉々に砕け散り、そこから始祖鳥のようなポケモンに乗った女性アナウンサー――アスタロトが飛び出す。

 

『information

 アーケオス 最古鳥ポケモン

 飛ぶよりも走る方が得意。

 空から獲物を探して襲い掛かり

 逃しても走り回って捕らえる。』

 

アーケオスは悠々と羽ばたきながら下降し、ロノウェの元へと降りてくる。

「逃げるつもりかよ。ジュプトル、リーフ――」

「邪魔しないで」

スグリがジュプトルに指示を出そうとするが、アスタロトの一言でそれよりも早くアーケオスが口から青いオーラを込めた息吹を放ち、ジュプトルを押し返す。

そしてアーケオスに乗ったアスタロトがロノウェへと手を差し出す。

「さ、ロノ、帰るよ」

「ぐぅぅぅぅ……! アス、俺ぁ暴れ足りねえぜ……! 帰る前に、あいつだけでも叩きのめさせろ! そうじゃねえと気が済まねぇ!」

「もー、ダメだってば。あんた、パイモンたちに内容も告げずに独断でこの作戦実行したんでしょ? これ以上暴れすぎると余計に怒られちゃうよ。私まで巻き込まれるの嫌なんだから、勘弁してよね。ほら、早く。掴まって」

「チッ……」

不満そうな表情を浮かべたロノウェは分かりやすく舌打ちするが、渋々エレキギターを背負ってアスタロトの手を取り、アーケオスに掴まる。

大人二人の体重を支えながらも、アーケオスは軽々と飛び立つ。

龍の息吹の砂煙が晴れた時には、既にアーケオスは会場の天井付近まで浮上していた。

悪鬼が如きロノウェの眼光が、スグリを睨む。

 

「貴様ぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁ! 次に会うときは、必ずぶっ潰してやるからなぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁッ!」

 

会場全体に。

憤怒の形相を浮かべたロノウェの怒号が、天地を揺るがし轟き渡る。

「必ずだぁ! 覚えてろぉぉぉぉぉぉぉぉぉぉぉ!」

その直後。

魔神卿二人を連れたアーケオスは甲高く鳴き、天井をぶち破り、飛び去っていった。

 

 

 

その後。

程なくして警察が到着したが、ロノウェとアスタロトは飛び去ってしまい、会場の注目が魔神卿の二人に集まっていた間にロノウェの部下と思われるあの黒装束の者たちも姿を消してしまっていたため、ゴエティアの手掛かりはほとんど掴むことはできなかったようだ。

大会本部は警察の捜査を優先させることにしたため、ハダレタウン大会レギュラーランクは結局中止。ハル対スグリの決勝戦は、お流れとなってしまった。

ちなみに本物の女性アナウンサー、タロスは、倉庫室の奥に仕舞い込まれた段ボールの中から身包み剥がされて簀巻きにされた状態で警察に発見された。衰弱していたが、すぐに病院に搬送され、幸い命にも別状はないらしい。

「他のレギュレーションでは、ゴエティアの介入はなかったみたいだね」

ハルとサヤナ、エリーゼは会場のロビーへと戻り、アルス・フォンに映るニュースを眺めている。

「でもまさか、ゴエティアの人たちが二人も大会に紛れ込んでいたなんて……無事に出られたからよかったけど、考えてみるととっても怖い事態だったよね……」

「本当に。奴らの強さは私も思い知らされていますし、撤退してくれたのが幸いでしたわね」

ちなみにスグリだが、正体を現した魔神卿ロノウェと直接交戦したということで警察の事情聴取を受けており、この場にはいない。

「ハルとスグリ君の決勝戦、見たかったなぁ。絶対熱いバトルを見られると思ってたのにー」

「私も残念ですわ。私が認める二人のポケモントレーナーの試合を見られる、またとない機会でしたのに」

さて、とエリーゼはアルス・フォンを仕舞い、代わりにモンスターボールを手に取る。

「それじゃ、私はそろそろ次の街へ行くわね。スグリに挨拶できないのは残念だけど、ちょっと予定もあるから。スグリにはよろしく伝えておいてくれるかしら?」

「はい、また会いましょう! 次に会う時には、バトルもしましょう」

「私もバトルしようね! エリーゼさん、ばいばーい!」

二人の返事を聞いてエリーゼは微笑み、ボールからハッサムを繰り出す。

ハッサムも一礼すると、エリーゼは手を振り、先に会場を出て行った。

 

 

 

その後ハルとサヤナもポケモンセンターに戻り、しばらく待っていると、

「お待たせ。ふー、やっと終わったよ」

警察に話を聞かれていたスグリが、ようやく戻ってきた。

「スグリ君、お疲れ様。大変だったね」

「でもスグリ君、すごかったね。私が手も足も出なかったバクオングに圧勝するし、その後本気を出してきたガマゲロゲも笑いながら倒しちゃうし、さすがって感じだったよ」

ロノウェとアスタロトのインパクトがあまりにも強かったので忘れそうになるが、実際スグリの試合は見事だった。

しかし、

「あー……あれね。余裕に見えてた? 正直、あいつが本性現してからはかなり焦ってたよ」

当のスグリは苦笑いを浮かべる。

「えっ? そうなの?」

「うん。あれはヤバい……バクオングは予定通りだったけど、ガマゲロゲを倒せたのは、あいつが鈍足だったのとたまたまタイプ相性が有利だったってだけ。あいつのテンションが上がるとポケモンも強くなるって言ってたけど、あれ多分本当だよ。弱みを見せちゃいけないと思ったから、かなり虚勢張ってたし、実はかなり冷や汗かいてた。マジで撤退してくれてよかったよ」

普段は余裕たっぷりなスグリにすらここまで言わしめるのが、ゴエティアの魔神卿。もしも撤退指示とやらが出ていなかったと考えると、背筋が凍る。

「まぁ、何はともあれみんな無事でよかった。それじゃ気を取り直して……ハル君、始めようか」

「うん。地下の交流場だね」

「……えっ? えっ? 何か始まるの?」

何か示し合わせた様子のハルとスグリに、何も聞かされていないサヤナが尋ねると、

「実はね、スグリ君が警察に向かう前に約束してたんだ」

「そそ。ここまで進んだのにここで終わりなんて消化不良っしょ。だから」

スグリがそこで一拍置き、さらに続ける。

 

「今から始めるのさ。オレとハル君で、事実上の決勝戦をね」

  1. 目次
  2. 小説情報
  3. 縦書き
  4. しおりを挟む
  5. お気に入り登録
  6. 評価
  7. 感想
  8. ここすき
  9. 誤字
  10. よみあげ
  11. 閲覧設定

▲ページの一番上に飛ぶ
X(Twitter)で読了報告
感想を書く ※感想一覧 ※ログインせずに感想を書き込みたい場合はこちら
内容
0文字 10~5000文字
感想を書き込む前に 感想を投稿する際のガイドライン に違反していないか確認して下さい。
※展開予想はネタ潰しになるだけですので、感想欄ではご遠慮ください。