魔王と救世の絆   作:インク切れ

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第54話 決勝戦たるエキシビション

ハダレタウンポケモンセンター地下の交流所。

そのバトルフィールドに、二人のポケモントレーナーが立つ。

「大会に沿って、使用ポケモンは三匹。ポケモンの交代は自由。それでいいよね」

「うん。それじゃ、始めようか。僕たちの決勝戦をね」

中止となったハダレ大会、決勝戦進出トレーナー。ハルとスグリだ。

傍では、サヤナがじっとそのバトルを見守る。

「出てきて、ワルビル!」

「さぁ出て来い、オンバット!」

両者同時にポケモンを繰り出す。ハルが選んだのはワルビル、対するスグリの初手はオンバットだ。

(オンバットか……飛行タイプだから地面技が効かないけど、穴を掘るは別の技に繋げやすいし、他の技は普通に通る。そんなに不利ってわけではなさそうかな)

無論、不利ではないからといって警戒しなくていいわけではない。

何しろスグリのポケモンなのだ。実際、二回戦では体格で大きく勝るアーボックをほぼ封殺している。

「それじゃあ行こうか! オンバット、まずは龍の息吹!」

先手を取って動いたのはオンバット。息を吸い込み、龍の力を込めた強烈な息吹を放つ。

「ワルビル、躱して! シャドークロー!」

繰り出される息吹を躱し、ワルビルは両腕に影を纏わせて黒い鉤爪を作り上げ、オンバットへと飛びかかる。

しかし、

「遅い遅い、鋼の翼!」

軽やかな動きでひらりと影の爪を躱し、オンバットは翼を硬化させ、ワルビルの額へと翼を叩きつける。

「っ、ワルビル、燕返し!」

翼の一撃を受けるが、威力はあまり重くはない。ワルビルはすぐに腕を振り抜いて反撃しようとするが、しかし既にオンバットはワルビルとの距離を取っている。

「ワルビル、もう一度だ!」

「必中技ね……やりあってみるか! 鋼の翼!」

オンバットとの距離を詰め、立て続けに腕を振るうワルビルに対し、オンバットも硬化させた翼でひたすら受け流し、捌いていく。

「今だワルビル! 噛み砕く!」

だが次の動きはワルビルの方が早かった。

腕を振り抜くと見せかけて大顎を開き、オンバットへと噛み付いてその動きを封じ、牙を食い込ませる。

「まだまだ。オンバット、嫌な音だ!」

ワルビルに噛み付かれたオンバットのスピーカーのような耳が振動、直後、その耳から強烈なノイズ音が放出される。

少し離れているハルやスグリですら思わず耳を塞いでしまうその音波を至近距離のワルビルが耐えられるはずもなく、ワルビルの牙の拘束が緩んでしまい、

「オンバット、アクロバットだ!」

耳を塞いだままスグリが指示を出し、オンバットはワルビルの大顎から脱出、お返しとばかりに翼を叩きつける。

「ふぅ……オレのオンバットは火力があんまり高くないから、相手に捕まっちゃうと面倒なことになるんだよね。オレの耳にもダメージ入るからあんまり使いたくないんだけど、そのためにこの技を覚えさせてるんだ。とは言ってもこのオンバットを拘束できる相手なんて滅多にいないんだけど……やっぱりさすがだね、ハル君」

翼を脳天に叩きつけられたワルビルは頭を振って体勢を立て直し、低く唸って鋭い眼光でオンバットを睨みつける。

「なるほどね……確かにかなり強烈な音だったよ。ワルビル、落ち着いて。冷静に戦おう」

ワルビルをなだめ、ハルは次の指示を出していく。

「よし、ワルビル、穴を掘る!」

ワルビルは素早く地面に穴を掘り、地中へと姿を隠す。

当然ながら飛行タイプのオンバットに地面技は効かない、つまり、

「地中から別の技で強襲を仕掛けてくるつもりかな。オンバット、気をつけて」

パタパタと飛ぶオンバットは、いつ飛び出してくるか分からないワルビルを警戒して周囲を見渡す。

「……今だ! シャドークロー!」

オンバットの目線を見定め、ワルビルはその死角から飛び出し、両手に纏った影の爪で切り掛かる。

だが。

 

「オンバット、躱して龍の息吹!」

 

ワルビルが飛び出してくるのが見えていなかったはずなのに、オンバットは正確にワルビルの影の爪を躱すと、すぐさま龍の力を帯びた息吹を放つ。

「っ!? ワルビル、防いで!」

外したシャドークローで咄嗟に防御の構えを取り、ワルビルは何とかオンバットの攻撃を防ぎ切った。

「忘れちゃってるかな? 超音波を自在に操れるオンバットは、人や他のポケモンには聞こえない精密な超音波を使って、隠れた相手の場所を探り当てられるんだ。サヤナちゃんのポケモンが盗まれた時、こいつが犯人を探してくれたでしょ?」

スグリの言葉でハルは思い出す。確かあれは、シュンインの林での出来事だったか。

「そんなわけで、こいつの前では隠れても無駄だよ。さあオンバット、鋼の翼!」

「ワルビル、燕返しで迎え撃って!」

翼を硬化させて飛び掛かってくるオンバットに対し、ワルビルは剣のように腕を振り抜き迎え撃つ。

腕を掻い潜り接近するオンバットだが、必中攻撃の燕返し、その連続打撃を躱すことはできず、ラリアットの如く振り抜いた腕を叩きつけられ吹き飛ばされてしまう。

「今だワルビル! 噛み砕く!」

「っ、やっぱダメか。オンバット、嫌な音!」

大顎を開き、ワルビルはオンバットを追って牙を剥く。

対して、吹き飛ばされながらもオンバットは耳から喧しいノイズ音を放つ。

強烈なノイズを前にワルビルの動きは止められてしまい、

「今だオンバット、アクロバット!」

一瞬にして進路を切り替え、オンバットはワルビルへと一気に迫り、翼を振り下ろす。

「っ、ワルビル、シャドークロー!」

立て直したワルビルは咄嗟に影の爪を振るいながら振り向き、どうにかオンバットの翼を防ぐ。

(っ、さすがスグリ君のポケモン、動きの切り替えが早い! まるで隙を見せてこないな……なんとか隙を作り出さないと)

スグリのポケモンは素早いだけでなく、技と技、動きと動きの切り替えが非常に早い。

僅かな隙を正確に見定めていかなければ、ろくにダメージも与えられずに押し切られてしまう。

(ん……待てよ? 確かさっき……)

そこでふとハルは先ほどのスグリの言葉を思い出す。

一つ策が浮かんだ。試してみる価値はありそうだ。

「よし、ワルビル! 必中技で攻めるよ! 燕返し!」

ワルビルが地を蹴って飛び出す。剣を振り抜くように腕を振り、オンバットを狙うが、

「だったら動きを止める! オンバット、龍の息吹!」

しかしオンバットは素早く浮上して龍の力を込めた息吹をワルビルのすぐ手前、床へと放った。

床に着弾した龍の息吹は爆風と砂煙を起こし、ワルビルの攻撃を防ぐと、

「もう一度だ!」

動きを止めたワルビルの一瞬の隙を突き、再び龍の息吹を放ってワルビルを逆に押し戻す。

「っ、ワルビル!」

「さあ休んでる暇はないよ。鋼の翼!」

さらにオンバットは翼を鋼の如く硬化させ、再びワルビルへと飛んでいく。

「迎え撃つ! ワルビル、燕返し!」

オンバットの鋼の翼に対し、ワルビルは両腕を一瞬で素早く振り下ろし、逆にオンバットを押し返す。

「まだまだ! オンバット、アクロバット!」

押し返されたオンバットはその勢いすら利用し、軽やかにワルビルの背後まで回り込む。

しかし。

「燕返し!」

両腕を床につけ、ワルビルが屈む。

オンバットが翼を振り下ろすよりも早く、尻尾を振り上げ、オンバットを打ち上げた。

「チャンスだ! ワルビル、噛み砕く!」

ようやく出来た隙をワルビルは逃さない。

大顎を開いて牙を剥き、オンバットへと襲いかかる。

「っ、やるじゃんか! オンバット、嫌な音!」

だが予期せぬ反撃を食らっても、スグリは動じない。

オンバットも大きく打ち上げられながらもすぐさま下を向いてワルビルを視界に捉え、スピーカーのような耳を震わせる。

 

「今だワルビル! 叫べ!」

 

オンバットがノイズを放つ動作を見たワルビルは、大きく口を開いたまま力いっぱいの咆哮を放つ。

何の技でもない、ただの咆哮。

しかし突然の轟音を受け、オンバットの放つ音波の波が崩れた。

「はぁ……?」

「今だワルビル! 噛み砕く!」

波を崩されて上手くノイズ音を出せなかったオンバットへ、今度こそワルビルは大顎を開いて襲い掛かる。

オンバットに頑丈な牙を食い込ませ、大きく首を振り、そのまま地面へと投げ捨てた。

「っ、オンバット……!」

耐久力が低いのか、オンバットは床に叩きつけられた衝撃も重なり、戦闘不能になってしまった。

「いやぁ、やられたなぁ。オンバット、戻れ。よくやった」

少し悔しげな表情を浮かべ、スグリは倒れたオンバットをボールに戻す。

「やるじゃん、ハル君。オレから先手を取るなんてさ。ところでさ、さっきの何?」

「あぁ、あれね。さっきスグリ君がオンバットは精密な超音波を使うって言ってたから、超音波を生み出す瞬間に横から音の波を崩したらどうなるんだろうって、ふと思いついたんだ。試してみようと思っただけで、こんなに上手くいくとは思わなかったけど……」

「えっマジ? あれたまたまだったの?」

「え? あ……うん……」

恥ずかしそうに笑うハルに対し、スグリは彼としては珍しくぽかーんとした顔になるが、

「ってかオレもオンバットにこんな弱点があったなんて知らなかったよ。おかげで特訓メニューが一つ増えちゃったな」

すぐにいつもの余裕たっぷりな笑みを取り戻し、次のボールを手に取る。

「そんじゃま、切り替えていきますか! 出番だ、フローゼル!」

スグリが二番手に選んだのはフローゼル。スグリの手持ちの中でも古参のメンバーで、ディントス教司教の二人組を一蹴するほどの高い実力を持つポケモンだ。先程ガマゲロゲと戦っていたが、その疲れは微塵も見せない。

(ここでフローゼルが来るか……タイプ相性は不利だけど、ワルビルも消耗してるし、ここで引かせるよりは少しでも削って次に繋げた方がいいかな)

難しいところではあるが、ハルの出した答えはワルビル続投だ。

「ワルビル、相性は不利だけど、もう少し頑張って。頼んだよ」

ハルの言葉を受けて、ワルビルも任せろと言わんばかりに拳を掲げ、吼える。

「それじゃあ行こうか。フローゼル、アクアジェット!」

フローゼルが動く。水をその身に纏ったかと思うと、目にも留まらぬ猛スピードで突撃を仕掛ける。

迎撃する隙すら与えず、一瞬のうちにワルビルを突き飛ばした。

「くっ、速い……! ワルビル、穴を掘る!」

吹き飛ばされたワルビルは着地と同時に穴を掘り、地中へと姿を隠す。

姿の見えない地中から、密かにフローゼルとの距離を詰めていく。

しかし、

「フローゼル、構えろ。出てきた瞬間に冷凍パンチだ」

フローゼルが握り締めた拳を、冷気が覆う。

直後、ワルビルがフローゼルの足元から飛び出すも、フローゼルは素早く飛び退いてワルビルの強襲を回避。

見事なカウンターのタイミングで冷気を込めた拳を叩きつけ、ワルビルを殴り飛ばした。

「な……っ!? ワルビル!」

吹き飛ばされて地面に倒れ、ワルビルは戦闘不能となってしまう。

「っ、なんてスピードなんだ……ワルビル、お疲れ様。休んでてね」

ワルビルを労い、ボールへと戻す。結局フローゼルには削りを入れられなかったが、先鋒のオンバットはしっかりと倒してくれた。

「どう、この素早さ。見るのと戦うのじゃ全然違うっしょ? スピードは武器だ。相手を撹乱するのにも、攻撃を当てるのにも、スピードは大事なんだよ」

不敵に笑い、さらにスグリは続ける。

「さあハル君、次は誰で来る?」

「それじゃ、次は君の出番だよ。出てきて、エーフィ!」

ハルが二番手に選んだのはエーフィ。フローゼル程ではないかもしれないが、エーフィも素早さには自信がある。

しかし。

(……そうだよね。フローゼルを出せば、絶対にそう来ると思ってたよ)

ハルはまだ気づいていない。

ここまで、ほぼスグリの思惑通りに試合が進んでいるということに。

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