ワルビルを倒され、ハルが二番手に選んだのはエーフィ。
対するスグリのポケモンは、同じく二番手のフローゼルだ。
「さあ、オレのフローゼルにどこまで着いてこられるかな! フローゼル、冷凍パンチ!」
握り締めた拳に冷気を纏わせ、フローゼルが二股の尻尾をスクリューのように回転させて勢いよく飛び出す。
一気にエーフィとの距離を詰め、冷気の拳で殴りかかるが、
「エーフィ、躱してシャドーボール!」
素早さならエーフィも負けていない。
フローゼルの拳を軽やかに躱し、即座に額の珠から黒い影の弾を放ち反撃する。
「フローゼル、躱してアクアジェット!」
しかしフローゼルも影の弾を跳躍して躱すと、水を纏い猛スピードで突っ込む。
弾丸のように飛び出すフローゼルの突撃は、回避の隙すら与えずエーフィを突き崩し、
「冷凍パンチ!」
さらに冷気を纏った拳を突き出し、今度こそエーフィを殴り飛ばす。
「っ、エーフィ! 大丈夫!?」
床に倒れたエーフィだが、即座に起き上がり、ハルの声に応えて頷く。
(くっ、あのアクアジェット、速すぎないか……?)
大会で見たスグリのメンバー五匹の中でも、このフローゼルとジュプトルのスピードは頭一つ抜けている。
特に厄介なのがアクアジェットだ。元々の素早さに先制攻撃の特性も加わり、初速から圧倒的なスピードを叩き出してくる。
「だったらこれだ! エーフィ、スピードスター!」
ハルの導き出した答えはやはり必中技。エーフィが尻尾を振り抜き、必中の無数の星形弾を放つ。
しかし、
「エーフィも必中技持ちかぁ。ま、でも……」
スグリがニヤリと笑い、フローゼルが掌を開く。
「フローゼル、リキッドブレード!」
開いたフローゼルの掌から水が噴き出し、水の剣を作り上げる。
剣を手に取り、フローゼルは横薙ぎに振るう一太刀で星形弾を両断、さらに剣を構えたままエーフィとの距離を詰めていく。
「なら、エーフィ、サイコショット!」
エーフィの額の珠が輝き、念力の弾が放出される。
フローゼルの突き出す剣と激突、競り合った末に爆発を起こし、爆風で水の剣を打ち消した。
「冷凍パンチ!」
爆煙の中を潜り抜け、冷気を纏わせた拳を構えたフローゼルがエーフィへと襲い掛かる。
「今だ! エーフィ、マジカルシャイン!」
飛び掛かるフローゼルをその視界に捉え、エーフィの額の珠が白く輝き出す。
刹那、その珠から眩い純白の光が放出され、突っ込んできたフローゼルを飲み込み、逆に吹き飛ばし、スグリの元へと押し戻してしまう。
「続けてスピードスターだ!」
尻尾を振り抜き、エーフィは即座に必中の星形弾で追撃を仕掛けるが、
「甘い甘い! フローゼル、リキッドブレード!」
立ち上がったフローゼルは既に水の剣を手にしている。
星形弾を両断しながら一気に突き進み、剣を横薙ぎに振るってエーフィを切り裂く。
「エーフィ、躱して!」
フローゼルが剣を立て続けに振るうが、対するエーフィは軽快なステップで次々とフローゼルの斬撃を躱していく。
「……フローゼル――」
「今だエーフィ! シャドーボール!」
スグリが何か言おうとしたが、ハルとエーフィの方が速かった。剣を振った直後のフローゼルの隙を狙い、エーフィは黒い影の弾を放出。
反応が遅れ、フローゼルがシャドーボールを受けて押し戻される。
「遅かったか……気をつけろフローゼル、剣撃が単調になってる。ハル君が相手なら一撃振ったら離脱でいいから、隙を見せるな」
頭を振って体勢を立て直し、フローゼルはスグリの指示を受けて頷き、再び構える。
「フローゼル、冷凍パンチ!」
「エーフィ、シャドーボール!」
拳に冷気を纏わせるフローゼルに対し、エーフィは再び漆黒の影の弾を放出する。
シャドーボールがフローゼルの拳とぶつかり、腕を覆う冷気を掻き消した。
「サイコショット!」
さらに続けて、エーフィはサイコパワーを一点に集め、念力の弾を放出。
しかし。
「今だフローゼル! 噛み砕く!」
待ってましたとばかりに、フローゼルが大口を開けて牙を剥く。
噛み砕くは悪タイプの技、念力の弾を容易く食い破り、その奥にいるエーフィへと噛み付き、牙を食い込ませる。
「っ、しまった……エーフィ、マジカルシャイン!」
もがくエーフィの額の珠が白く輝くが、
「フローゼル、アクアジェット!」
牙を離して水を纏い、フローゼルがエーフィを突き飛ばし、その反動で離脱。
直後に白い光が放出されるが、フローゼルは既にマジカルシャインの範囲外に逃れている。
「もう一度アクアジェット!」
フローゼルが再び水を纏ったかと思うと、次の瞬間にはエーフィの眼前に迫り、そのままエーフィを突き飛ばす。
「このまま押し切る! リキッドブレード!」
「そうはさせないよ! マジカルシャイン!」
エーフィの額の珠が白く輝き、フローゼルの広げた掌から水が噴出する。
フローゼルの水の刃が振るわれ、エーフィを一の字に切り裂く。
直後、額の珠から純白の光が放出され、フローゼルを覆い尽くし、光に飲み込んだ。
「エーフィ!?」
「フローゼル……!」
純白の光の前に飲み込まれてフローゼルは吹き飛ばされるが、それでもまだ低く唸り、肩で息をつきながら何とか立ち上がる。
そして。
一方のエーフィの体がぐらりと傾き、そのまま地面へと倒れる。
目を回し、戦闘不能となってしまった。
「エーフィ……お疲れ様。休んでてね」
エーフィの方が被弾が多かったため、この結果は当然だろう。エーフィを労い、ボールへと戻す。
ハルが最後のボールを手に取るが、そこで。
「さて、ハル君。この試合、実はここまでオレの想定通りなんだよね」
ハルをまっすぐに見据え、スグリがそう告げる。
「えっ……?」
「大会の試合を見てて気づいた。ハル君の手持ちってさ、水タイプに弱いじゃん。ワルビルとヒノヤコマは水技が効果抜群、エーフィとルカリオにも等倍で一貫する上に、水タイプに対して効果抜群になる技を誰も覚えてないよね」
実際、その通りだ。ハルの手持ちの四匹の中で、電気技もしくは草技を覚えたポケモンはいない。
「だからオレが立てた作戦はこうだ。今回の軸はフローゼル。初手はオンバットに任せてエンジンを掛け、ルカリオ以外の三匹に効果抜群を取れる水タイプのフローゼルで一気に駆け抜ける。最後の一匹はほぼ間違いなくルカリオだから、メガルカリオをフローゼルと最後のポケモンの二匹掛かりで仕留める。ここまで順調、作戦通りなんだよ」
たしかにスグリの言う通りだ。ここまで、ハルはスグリのポケモンのスピードを生かしたバトル展開を捉えきれていない。
だが。
「……やっぱり、スグリ君はすごいね。常に僕の先を進んでる、そんな気がする」
だからといって。
「だから僕は、スグリ君に勝ちたいんだ。新しい力を得た今なら、スグリ君にだって追いつける。いや、追いついてみせる」
それは、決して諦める理由にはならない。
理由は単純。バトルはまだ終わっていないからだ。ハルにはまだ、ポケモンが残っている。
「これで最後だ。出てきて、ルカリオ!」
ハルの手にしたボールから、最後のポケモン、エースのルカリオが現れる。
「最後はやっぱり、ルカリオだよね。フローゼル、気をつけろ。今までの相手とは一味違うぞ」
フローゼルもダメージは決して小さくないが、闘志は充分。
スグリに呼応して唸り、相手となるルカリオを見据える。
「行くよッ! ルカリオ、ボーンラッシュ!」
「来い! フローゼル、リキッドブレード!」
ルカリオが掌から波導を生み出し、フローゼルが掌から水を噴き出す。
波導の槍を手にしたルカリオと、水の剣を手にしたフローゼルが、正面切って衝突する。
お互いの獲物が激突し、その力はほぼ互角。
しかし、
「……!」
その直後、ダメージの蓄積によるものか、フローゼルが僅かにふらつく。
「ルカリオ、発勁!」
その隙をハルが見逃すはずもない。手にした槍は形を変えて右手を覆う波導となり、ルカリオが掌をフローゼルへと叩きつける。
腹部に掌底を叩き込まれたフローゼルが吹き飛ばされる。重力に従って床に落ち、そのまま目を回して戦闘不能となった。
「ここまでか……フローゼル、よく頑張った。休んでな」
フローゼルをボールに戻したスグリは、即座にボールを手に取った。
どうやら、既に最後のポケモンは決まっているらしい。
ボールを突き出し、スグリの最後のポケモンが現れる。
「さあ、最後はお前だ! 出て来い、ジュプトル!」
やはりと言うべきか、スグリの選んだポケモンはジュプトル。
決勝の締めに相応しい、エース同士の対決だ。
「やっぱり、最後はジュプトルだったか……だけど、相手にとって不足はない。ルカリオ、絶対勝つよ!」
「ジュプトル、ハル君のルカリオはメガシンカが使える。メガシンカポケモンを倒せば、オレたちの士気も上がるってもんだぜ。本気で行くぞ」
お互いのトレーナーの言葉に応え、お互いのエースポケモンがフィールドに立ち、対峙する。