魔王と救世の絆   作:インク切れ

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第57話 不穏去ってまた不穏

あくる日の早朝。

ポケモンセンターの宿舎で目覚めたハルは、まだ昨日のバトルの余韻に浸っていた。

「本当に、スグリ君に勝ったんだなぁ……」

何しろ、スグリと初めて戦った時からずっと背中を追いかけていた。

ライバルとはいえ、常に自分の一歩先を行く存在。いつか追いつきたいと願い、ひたすらに特訓を続けてきた、そんな存在。

そのスグリ相手に、遂に自分は勝ったのだ。しかも事実上とはいえ、大会の決勝戦という大舞台で。

ここまで歩んできた道は間違っていなかった。自分は強くなっている。確実に成長している。その証のようにも感じられた。

「ここから先も、もっと強くなって行かなきゃな。よし、今日も頑張るぞ」

そう呟き、ハルはベッドから起き上がり、身支度を開始する。

 

 

 

朝食を終え、ハルはポケモンセンターのロビーへと戻り、ソファに座ってアルス・フォンを片手に次の目的地を確認していた。

「確か、ここから一番近いのはカタカゲシティだったっけ」

ここハダレタウンは、サオヒメシティとカタカゲシティを繋ぐ中継地点。

ジムもあるということなので、ハルは地図アプリを開き、カタカゲシティを目的地に設定する。

すると。

「ハル君、おはよぉ。昨日はお疲れ様だよぅ」

背後から声を掛けられ振り返ると、そこに立っていたのはミオだった。

「おはよう、ミオ! ミオも今日出発なんだね」

「うん。それにしても昨日は大変だったねぇ。ハル君の決勝戦、見たかったなぁ」

ゴエティアの事件が起こったせいで会場にいた観客たちは早々にハダレタウンから去ってしまっており、しかもスグリと戦ったのはちょうど昼過ぎでポケモンセンターは空いていたため、二人の試合を見ていたのはサヤナだけだった。

「ところで、ミオはこの後どこに行くの?」

「んー、特には決めてないよぉ。通ったことのない道を通って、気の向くままにって感じかなぁ。ハル君はぁ?」

どうやらミオはかなり自由気ままな旅をしているようだ。彼らしいといえばらしいが。

「僕はカタカゲシティに行くんだ。五つ目のジムに挑戦する予定だよ」

街の名前を出すと、ミオの表情がぱあっと明るくなる。

「おぉ、カタカゲシティ! 僕の生まれたところだねぇ。商店街とか市場がある賑わいの街だから、きっと楽しいと思うよぅ」

「あ、そうなんだね! 商店街か、立ち寄ってみようかな」

話しているうちに準備も済み、ハルは立ち上がる。

二人でポケモンセンターを出て、ミオと別れようかというところで。

「ハル君にミオ君! 久しぶりじゃない!」

聞き覚えのある声に呼び止められた。

見上げるとそこに立っていたのは、サオヒメジムリーダー、アリスだった。

「あれ、アリスさん?」

「お久しぶりですぅ。ジム戦以来ですねぇ」

ミオも知り合いらしい。口ぶりからして、ジムに挑戦したことがあるのだろう。

「昨日は大変だったみたいね。ゴエティアが乱入したって、ニュースでも報道されて大騒ぎになってたわよ。二人ともレギュラーランクよね? 無事で何よりだわ」

「ええ……一時はどうなることかと思いましたよ」

「たしか、ロノウェとアスタロト、でしたかねぇ」

アスタロトは手出しはしてこなかったが、それでもアーケオスの龍の息吹はなかなか強烈だった。

「ディントス教の件といい、最近ゴエティアの事件も増えてるわね……そうだ、ディントス教といえば」

そうアリスは続け、

「この間、ハル君も一緒にディントス教壊滅に協力してくれたでしょ? あの後、教会を捜索して奪われたポケモンを取り返したのよ。一部はヴィネーに持っていかれてしまっていたけど、それでも半数は残ってた。だけどおかしなことにね、そのうちの何匹かが何をしても目を覚まさないのよ」

「……はい? 目を覚まさない?」

ハルが聞き返すと、アリスは苦い顔で頷く。

「そうなの。原因は不明、眠っているというより昏睡状態に近いのかしら。カゴやラムの実を与えても効果なし、生きたまま動かなくなってるような感じ。そっちが手詰まりだから、先にこっちに来たんだけど……」

「アリスさん。そういえばぁ、なんでこんなところに?」

「あっ、そうだったわ。二人とも、ちょっとこっちに来てくれる? あんまり大声では話せない話があるの」

脱線していた話を戻し、アリスは二人を物陰へと連れて行く。

「実はね……」

二人の耳元に口を寄せ、アリスは囁く。

 

「ディントスが教えてくれたのよ。ハダレタウンに、ゴエティアの活動拠点があるって」

 

「えっ……!?」

危うく大声で叫びそうになるハルだったが、何とか声を抑える。

「それ……本当なんですかぁ?」

「間違いないわ。下調べは済んでるし、場所も把握してる。ハダレタウンに来たのは、そこを潰すため。応援としてジムトレーナーとイチイを呼んでるわ……イチイって分かるかしら?」

「ええ。シュンインジムのジムリーダーですよね」

イチイはハルが一番最初にジムバッジを手に入れたシュンインシティのジムリーダー、草タイプの使い手だ。

「魔神卿が一人なら、ジムリーダー二人掛かりで戦えばさすがに負けない。そんなわけだから、二人とも、早めにこの街を――」

「あの、アリスさん」

アリスの言葉を遮り、ハルが口を開く。

 

「その作戦、僕にも参加させてくれませんか」

 

「えっ……?」

思わず、アリスは聞き返す。

自身を見つめるハルの目は、本気だ。その瞳の中に、怒りに似た感情をアリスは僅かに感じ取った。

「スグリ君との決勝戦をゴエティアに邪魔されて、このままじゃ黙っていられなくて。どうしてもとはいいませんが、よければ協力させてください」

「……本気みたいね。分かった。ハル君くらいの実力があるなら、協力してもらっても大丈夫そうね。その代わり、私の指示には従ってもらうわよ」

「はい。ありがとうございます」

そして。

「……あの、僕も行きましょうかぁ?」

ハルに続き、ミオも進み出る。

「えっ? ミオ?」

「僕も、ゴエティアみたいな悪い人たちを放ってはおけないですよぅ。ハル君と互角に戦えるくらいには強いですしぃ」

だがハルと違い、ミオはゴエティアとほぼ関わったことがない。

ゴエティアを許せない気持ちはハルも同じなのでミオの思いも分かるのだが、わざわざ危険に巻き込むのも避けたい。

しかし、

(アリスさんの性格的に……オッケー出しそうだなぁ……)

そんなハルの予感は、

「……そうね。ハル君とやり合った仲だし、準決勝進出者なら力になってくれそうね」

ものの見事に的中してしまった。

「それじゃ、話を戻すわよ。ゴエティアの拠点なんだけど……ハダレタウンは昔の遺跡が残っているけど、多くは立ち入りは禁止されているでしょ? その中の一つを改造して、隠れた研究施設として使用しているらしいの。場所もディントスから聞いてるわ」

確かに、この街の遺跡は観光スポットとなっているが、中に入ることは許されていない。管理者の目さえ欺いてしまえば、拠点とするには絶好の場所だろう。

「さっき言ったとおり、魔神卿は基本一人。仮に二人いても、ジムトレーナーや父さんが準備してくれてるから安心して。あと言うまでもないと思うけど、バラけるのは危険よ。よっぽどのことがない限り固まって行動するからね」

あらゆる場合を想定して、しっかりと対策はしているらしい。

とはいえ、ゴエティアの拠点に直接殴り込みに行くのだ。魔神卿からの手厚い歓迎を受けてもおかしくはない。

「二人とも、ポケモンの調子は万全ね」

「はい。昨日休ませたので、バッチリです」

「僕も大丈夫ですよぅ。存分に戦えますねぇ」

「よし。それじゃあ、イチイが到着次第出発よ」

 

 

 

「お待たせいたしました。あら、ハル君! お久しぶりですわね」

数分後、イチイが到着。

ミオは初対面なので軽く挨拶を交わし、ハルとも少し話をした後、アリスがイチイへ二人が作戦に加わることを説明。

イチイは少し心配がっていたが、アリスが必ず守ると約束してどうにか納得。

アリスに連れられ、ハルとミオ、イチイは、ゴエティアの拠点がある場所、ハダレタウン外れの旧遺跡群地帯へと向かう。

「ここだわ」

遺跡の前で、アリスが立ち止まる。

三人が辿り着いたのは、巨大な遺跡に隠れた地下へと続く遺跡への入り口だ。

確かにここなら、なかなか外からも気づかれないだろう。

「ポケモンセンターで父さんとジムトレーナーが待機してる。バラけるのは危険、四人で固まって行動するわよ。いいわね」

「了解です」

「はぁい」

「分かりましたわよ」

三人の返事を聞いて、アリスは頷き、

「よし。それじゃあ、突入よ」

アリスとハル、ミオ、そしてイチイ。

ゴエティアの拠点を制圧すべく、突発の精鋭部隊が結成された。

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