魔王と救世の絆   作:インク切れ

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第58話 潜入! ゴエティア研究所

時間は少し遡る。

アリスがハダレタウンへ到着する、その少し前の出来事。

 

「どーしたんだ、迎えに来たのか? 昼にはそっちに戻るっつったろ」

薄暗い部屋の中に、男の声が響く。

「いやぁ、ちょっと伝えなきゃいけないことがあってね。メッセージ送ってもよかったんだけど、せっかくだから顔出そうかなって」

男に返答する声は、少年にも少女にも聞こえる若い声。

「ほー。つーかちょうどいい、お前に聞きたいことがあったんだ。あのヴィネーんとこの教皇気取り、結局捕まったんだってか?」

「そうなんだよ、事前にぼくが忠告しておいたのにね。まぁヴィ姐はまだいくつもプランを用意してるらしいし、副産物もたんまり手に入れたみたいだし、別に落胆もしてなかったけど」

「ヴィネーに関してなら心配ねえよ。あいつぁなかなかの切れ者だ。教皇気取りの失敗なんて想定内だろ」

少年の言葉に男はぶっきらぼうにそう返すが、そんな男の態度は気に留めず、少年は続ける。

「てか、ちょうどいいや。その伝えなきゃいけないことなんだけど、まさにその教皇に関係する話なんだよ」

「あぁ?」

「ヴィ姐の話によると、あの教皇にここの拠点の存在を知られちゃったかもしれないって。ヴィ姐に見捨てられた以上ここのことを隠しておく義理もないだろうし、万が一のこともあるだろうから、早めに撤退しておいた方がいいかもね」

「……くそ、マジかよ。前の拠点が気に入らないからって作り直してようやくこの間完成した研究所だろ、ここ。ついてねぇな……つーか、なんでヴィネーはあの教皇を処分してねえんだ」

「そのことに関してはぼくも聞いたんだけどねえ、タイミングを逃したんだって。教皇からキーストーンを受け取ったら処分する予定だったって。まぁヴィ姐が着いた時には既にとっ捕まってたみたいだから、仕方ないね」

まるで他人事かのように少年はくすくすと笑う。

男の方は苛立ちを隠そうともせず、

「つーことは、 サオヒメのジムリーダーにはまず知られるな。下手すりゃお前のお気に入りとかいうガキにも知られてるかもってことか。チッ、面倒くせえな。外敵をぶっ殺して解決ってわけにいかねえのは最高に面倒くせえよ」

「おぉこっわ。さすが、ゴエティアの直接戦闘専門なだけのことはあるねぇ」

ケラケラと笑う少年を男は睨み、

「悪りぃが加減はできねえぞ。お前の考えはよく分かるが、最優先は王の目的よりも組織の維持だ。もし奴らが攻めてきて、組織の危機を感じれば、その時はお前のお気に入りだろうと容赦なくぶっ殺す。いいな」

刹那。

一瞬にして、その場の空気が張り詰める。

「……そういう言い方は気に食わないね。魔神卿の代わりはちょっと待てば用意できるってことは分かった上で言ってるんだよね、それ」

「どのみち組織がなくなれば王の目的は達成できねえ。それよりは危険な芽を潰し、何年かかってもゆっくりと王の目的を達成させるのが合理的ってもんじゃねえのか。つーか何だその口の利き方は? お前なんかが俺を殺そうってか?」

「王はそれを待ってくれるほど気の長いお方じゃないでしょ。目覚めた時には準備万端にしておかないと。てか、そこまで言うなら本当に殺ってやろうか? たとえ戦闘専門だからって、ぼくに勝てるとでも?」

「魔神卿の代わりはいくらでもいるんだよなぁ? 俺とお前、シケた内輪喧嘩で二人退場だ! なんとも面白え話じゃ――」

 

「やめなされ」

 

部屋の奥、暗闇から声が響く。

二メートルを超えるほどの大男が、闇の中から姿を現した。

「二人ともゴエティアの貴重な戦力なのですぞ。あなた方二人のうち片方でも失うのはゴエティアにとっては大きな損失になる、私はそう思いますがな」

落ち着いた物腰で、その大男は一触即発の二人の間に割って入る。

大きな手で二人を制し、

「私に任せていただきましょう。二人は先に撤退、証拠隠滅の準備を。もしその間に侵入者が現れれば、私が打って出る。私なら組織の危機を最低限に抑え、かつ御主のお気に入りがやって来た場合でも傷つけずに問題を解決できる。それで、よろしいですかな」

「……っ、分かった。ごめんよ、ついカッとなっちゃって」

「そこまで言うんならお前に任せる。……俺も血が上っちまったし、お互い様だ」

大男に仲裁されて頭を冷やし、二人は撤退の準備を始める。

そこで。

「あぁ、そうだ。喧嘩のお詫びに、最近雇った部下を護衛につけておくね。それと」

少年がニヤリと笑い、男を呼び止める。

「なんだ」

「撤収用のポケモンとして、メタングも貸してあげるよ。空飛べるポケモン持ってなかったでしょ」

そう言って、少年は男にモンスターボールを投げ渡す。

「ありがとさん……と言いてえところだが、お得意の悪戯じゃねえだろうな」

「さっき怒られた手前そんなことするわけないじゃん。護衛と合わせて、喧嘩したお詫びってことで」

「ほう。そんじゃ、ありがたく使わせてもらうぜ」

「いいっていいって。そんじゃ、ぼくは先に帰るよ。ばいばーい」

少年がボールを取り出し、その中からは骨で着飾った鷲のようなポケモンが現れる。

少年はそのポケモンに飛び乗ると、先に拠点を出て行った。

「それじゃあ、頼んだぜ。俺は先に証拠隠滅と撤退の準備をしておく」

「ええ。ここは私に任せておきなされ」

大男に言葉をかけ、残った男もまた、暗闇の奥へと消えていく。

 

 

 

そして、時間は現在。

「それじゃ、行くわよ」

アリスが一歩踏み込もうとしたところで、

「アリスさん、お待ちになって」

イチイがそれを呼び止める。

「どうしたの?」

「私、少し考えたのですけれど……四人いるなら、一人ここで見張りをつけるのはどうでしょう。仮に増援が呼ばれることになった場合のことを考えると、ここで足止めできる人がいた方がよさそうだと思いまして」

「……そうね。ゴエティアの増援が来ることを考えるなら、入り口で足止めしている間に父さんたちを呼ぶ方が安全ね」

イチイの提案にアリスは頷き、

「そうしましょう。イチイ、お願いできるかしら」

「もちろんですわ。ハル君やミオ君はアリスさんといた方が安全でしょうし、ここは私にお任せくださいな」

「何かあったら、すぐ私と父さんたちに知らせてね。頼むわよ」

「お任せくださいな。三人も、お気をつけて」

イチイが一歩下がり、

「それじゃあ。改めて、突入よ」

アリスとハル、ミオの三人が、ゴエティアのアジトへと潜入する。

入り口は薄暗いが、少し進むとすぐに明るい広間に辿り着く。

通路は一つ。進むべき道はそこだけだ。

常に周囲を警戒しながら、三人は通路を進んでいく。

だが、

「侵入者だ!」

「怪しいやつめ!」

通路を塞ぐような、挟み撃ちの形で、無数の黒装束の集団が姿を現す。

「早速来たわね。怪しいのはどっちって話よ。ハル君、ミオ君。後ろをやって。前は私一人で片付ける」

そう言って、アリスはライボルトを繰り出す。

「了解です!」

「任せてください」

ハルとミオもそれぞれエーフィ、トゲチックを繰り出し、現れた集団を相手取る。

それを見た黒装束の者たちもボールを取り出し、それぞれのポケモンを繰り出すが、

「ライボルト、パワーボルテージ!」

「エーフィ、マジカルシャイン!」

「トゲチック、エアスラッシュ」

ライボルトが電撃の衝撃波を解き放ち、ルカリオが波導の槍を振り回し、カビゴンがいくつもの影の弾を撃ち出す。

有象無象のポケモンたちは瞬く間に薙ぎ払われた。中にはポケモンすら出す暇もなく吹き飛ばされた者もいた。

「造作もない。下っ端なんてこんなもんよ。さっさと魔神卿クラスを出してちょうだい」

倒れた黒装束の山を乗り越え、アリスたちはさらに奥へと進んでいく。

 

 

 

「……おかしい」

通路を進んでいる中、ふとアリスが呟く。

「えっ?」

「気づかない? ここまでの道のり、完全に一本道よ。まるで誘われているみたい」

アリスに言われて、ハルは通路を見渡す。

よく見ると、通路の壁には固く閉ざされた扉がいくつか見られる。確かにそう言われれば、不必要な扉は全て閉ざし、侵入者を誘導する作りに見えなくもない。

「それに、最初の襲撃以降、人が全く見当たらないわ。ここまで人の気配を感じないと、逆に不気味ね」

「とは言っても、進むしかないですよねぇ……」

「……そうね。二人も警戒を怠らないでね」

閉ざされている扉をどうこうしても仕方がないため、とにかく進むしかない。

やがて、三人は少し開けた大広間へと辿り着く。

続く道は一つしかない。下っ端構成員が襲ってくる様子もないので、先に進もうとした、その時。

「待って」

不意にアリスが立ち止まり、二人を制する。

「どうしたんですか?」

「……誰か来る。向こうからよ」

そう告げるアリスの目は、じっと部屋の向こう、通路の奥に広がる暗闇を見据えている。

その時、ハルとミオにも聞こえてきた。

通路の向こうから、人の足元が聞こえる。何者かがこちらへと近づいてくる。

緊張の一瞬。三人が様子を伺う中、足音の主が暗闇からゆっくりと姿を現わす。

 

「よくぞ参られた。せっかくのお客様です、総力を持って歓迎致しましょうぞ」

 

現れたのは、一人の男。だが、

「……!」

「なんだ、こいつ……」

まずハルたちが圧倒されたのは、何よりその男の容姿。

端的に言えば、ものすごく大きい。二メートルを超えるほどの大男だ。

そしてその巨体に違わず、筋骨隆々とした体つき。青い羽毛で着飾った派手な服を着ているが、服の上からでもその頑強さが見て取れる。

またその顔つきもも随分と特徴的だ。丸い目が大きく、青い髪の毛はオールバックにしており、口はあまり大きくない、例えるならばフクロウのような顔をしている。

「誰。名を名乗りなさい」

「そう慌てなさるな。客に対しては自分から名乗るくらいの礼儀は持ち合わせているつもりですぞ」

凄むアリスの言葉を軽くいなし、その大男は口を開く。かなり野太く低い声だ。

「御察しの通りでしょうが、私は王に使えるゴエティアの悪魔が一人、魔神卿アモン。ゴエティアでは後方支援として、研究や実験、及び情報処理やメカニックを担当させていただいておりますぞ」

その男――アモンは丁寧に名を名乗る。そんな気はしていたが、やはりこの男は魔神卿のようだ。

しかし、それにしても。

「……その見た目で、研究員とはね」

「てっきりガチガチの戦闘員が来たかと……」

「この人が薬品とか機械をいじってるの、想像できないねぇ」

三人の思考は完全に一致していた。

「ほほほ、よく言われます。ですが私はこう見えてもゴエティアの研究者長にして、参謀を努めさせていただいておりますぞ。パイモンには時々頭が固いと言われますがな」

三人の思わず漏らした言葉に、アモンは冗談めかして笑う。

「さて――ここで私が三人まとめて相手取ってもよろしいのですが。しかし生憎、我らがゴエティアにはもう一人、あなた方との戦闘を望む者がおります。ああ、魔神卿の一員ではないので、ご安心を。さあ、おいでなさい」

アモンがそう呼ぶと、扉の奥からもう一つ、人影が現れる。

人影の正体は少年だった。黒い髪は肩くらいまで伸ばしており、男にしては長め。身長もそこそこ高く、白いシャツの上から真っ黒な丈の長いコートを羽織っている。

不機嫌そうな表情を浮かべており、その目つきも悪く鋭い。

「さて、自己紹介を」

アモンに促され、その少年は口を開く。

「俺の名はパラレル。強さだけを求めて生きる、何者にも交わらぬ者……とはいえ今は訳あって、魔神卿パイモンに雇われた部下という立ち位置だがな」

ぶっきらぼうに少年は自身の名を名乗り、

「……お前、ハルだな」

いきなりハルを睨み、そう呟く。

「え? あ、そうだけど……」

突然指名され、目つきの悪い目で睨まれ、少し後ずさりするハル。

「そうか。それなら話が早い」

パラレルはさらにそう呟き、突然、ハルを指差した。

 

「ハル! お前に、一対一のバトルを申し込む!」

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