「それでは、我々も始めるとしましょうか」
こちらは、アリスとミオ。
相手となるのは、フクロウのような顔をした巨漢、魔神卿アモンだ。
しかし、
「そうですな……ポケモンは一匹で充分。この一匹で、あなた方二人を相手取って差し上げましょう」
アモンが手にしたモンスターボールは一つ。たった一匹で二人と戦うつもりのようだ。
「あら、随分と舐められたものね。あんまり甘く見てると、痛い目見せるわよ」
「誤解があるようですが、舐めてかかっているわけではありませんぞ。元より私の好みは多勢に無勢な戦闘で、どちらかといえば集団戦は不得手でしてな。少数で大軍勢をねじ伏せる戦いこそ、私の得意分野なのです」
「……なにが研究者よ。立派な戦闘要因じゃない」
「ほほほ。参謀を任されている研究者とは言いましたが、戦闘が苦手とは一言も言っておりませんぞ?」
冗談めかして笑うアモンに対し、アリスは軽く溜息をつき、
「とにかく、そっちがその気ならこっちは遠慮なく二人で戦わせてもらうわよ。ミオ君、準備はいいわね」
「はいぃ。いつでも行けますよぅ」
アリスとミオ、それに対峙するアモンの三人が、ポケモンを繰り出す。
「輝け、ライボルト!」
「頼んだよぅ、キルリア」
アリスのポケモンはライボルト、ミオのポケモンはかつて使用していたラルトスの進化系、エスパータイプのキルリア。
そして、
「一仕事頼みますぞ、ローブシン!」
アモンのポケモンは、巨大な鉄柱を両手に持った、筋肉隆々の老人のようなポケモン。
『information
ローブシン 筋骨ポケモン
コンクリートの柱は杖代わりだが
バトルでは武器として使用する。
遠心力を利用して柱を振り回す。』
見た目通りというか、格闘タイプのポケモンのようだ。
しかしこのローブシン、通常のサイズより一回り大きい。二メートル並のサイズを誇っている。
「なるほどなるほど、ライボルトに加えて、ローブシンに有利を取れるエスパータイプのキルリア。いいでしょう、どこからでも掛かってきなさい」
「それじゃ、遠慮なく行かせてもらうわよ! ライボルト、火炎放射!」
手始めに挨拶がわりの灼熱の炎を吹き出し、先制攻撃を仕掛ける。
「ローブシン、柱で防御を」
しかしローブシンが両手を突き出し、柱を盾のように構える。
コンクリート柱を突破できず、炎は防がれてしまう。
「僕も行くよぅ。キルリア、マジカルリーフ」
そこにキルリアが怪しい光を放つ無数の葉を飛ばすが、
「弾き飛ばせ」
今度は柱を軽々と振り回し、ローブシンは光る葉の刃を容易く弾き飛ばしてしまう。
「その程度では我がローブシンには傷一つ付けられませんぞ。もっと本気でガンガン来なされ。まずはそのライボルトをメガシンカさせてはどうですかな?」
「言ってくれるじゃない。それならお望み通り、メガシンカで相手をしてあげるわ」
アモンの誘いに敢えて乗り、アリスはブレスレットを掲げる。
「行くわよ! ライボルト、メガシンカ!」
アリスのキーストーンの光に、ライボルトのメガストーンが反応する。
七色の光に包まれ、雷鳴と共にライボルトがメガシンカを遂げる。
「覚悟なさい! ライボルト、パワーボルテージ!」
天を貫く咆哮共に、ライボルトが全身に溜めた電撃を衝撃波と共に解き放つ。
「ローブシン、アームハンマー!」
コンクリート柱を掴んだまま、ローブシンが筋肉隆々の鉄腕をまっすぐに振り下ろす。
強烈な電撃の衝撃波に徐々に押されながらも、一歩も引かずに競り合いを続けるが、
「チャンスだよキルリア、サイコショック」
その隙を逃さず、キルリアがサイコパワーを無数の棘の形に実体化させて乱射する。
念力の棘がローブシンに突き刺さり、その体勢を崩したところに電撃の衝撃波が襲い掛かり、ローブシンは吹き飛ばされた。
「なるほどなるほど、飛躍的に火力が上昇しましたな。さすがはメガシンカの力です」
起き上がったローブシンは顔をしかめ、効果抜群の攻撃を放ったキルリアの方を振り向くが、
「ローブシン」
アモンのなだめるような言葉を聞くと、すぐさま体勢を立て直す。
「焦るでない、ローブシン。二匹を同時に相手取ろうとしては行けませんぞ。エスパーとフェアリータイプを持つキルリアは厄介ですが、実力はライボルトの方が上。キルリアの攻撃は気を配るのみに留め、ライボルトだけを狙うのです」
アモンの言葉にローブシンは頷き、ライボルトの方へと向き直る。
「悪人の割に、信頼関係はよく築けているのね」
「ほほほ、お分かりいただけますかな? こう見えても自分のポケモンには愛着を持って育てておりますぞ。ポケモンの力を最大まで引き出すためには、強い信頼関係は不可欠ですからな。それに、ポケモンに良いも悪いもない。善悪に左右されるのはポケモンではなく人間でございます」
「ふぅん、まともな思考はできるみたいね。だったらなぜ、ゴエティアみたいな反社会組織で活動しているのかしら」
「我ら魔神卿は、ゴエティアの王に仕えることがその定めだからですよ。下部構成員については知ったことではありませんが、我ら魔神卿は魔神卿であるというだけでゴエティアとして活動することになるのです。詳しいことは話すつもりもありませんがな。さて、バトルを続けましょうか」
アモンはそこで話を区切ってしまい、今度はローブシンから攻撃を仕掛けてくる。
「ローブシン、ストーンエッジ!」
ローブシンが柱を床に叩きつけると、ライボルトを狙って次々と巨大な剣にも似た岩柱が突き出てくる。キルリアには目もくれず、完全にライボルトだけを狙った攻撃だ。
「ライボルト、躱して! 火炎放射!」
左へと横っ飛びし、ライボルトは岩柱の軌道から逃れると、吐息と共に灼熱の炎を吹き出して反撃。
「ならばローブシン、アームハンマー!」
対するローブシンは柱を掴んだ鉄腕を振り下ろし、襲い来る業火を吹き飛ばしてしまう。
「サイコショックだよぅ」
攻撃後の隙を見て、再びキルリアが実体化させたサイコパワーの棘を放つが、
「横から来ますぞ。跳躍して回避し、冷凍パンチを!」
ローブシンが地を蹴る。
見た目に反する大ジャンプを見せ、ローブシンは無数の棘を躱し、急降下の勢いをつけて冷気を纏わせた拳をライボルトへと突き出す。
「食い止めなさい! 火炎放射!」
天を仰ぎ、再びライボルトは口から灼熱の炎を吐く。
拳の冷気は炎に巻かれて消えてしまうが、ローブシン自身の急降下の勢いまでは止められず、結果ライボルトは拳の一撃を浴びて殴り飛ばされてしまう。
「追撃せよ。ストーンエッジ!」
「させないよぅ。マジカルシャイン」
ローブシンが柱を振り上げると同時、キルリアが純白の光を放出する。
「ならばローブシン、目標変更! 防御ですぞ!」
ローブシンが柱を地面に叩きつけると、ローブシンを囲む形で無数の巨大な岩の剣が出現する。
無数の岩に守られ、純白の光はローブシンには届かない。
「岩ごと砕け! ライボルト、パワーボルテージ!」
ライボルトが電撃を帯びた衝撃波を解き放ち、岩の剣を粉砕する。
しかし、
「残念、そこにはおりませんな。ローブシン、アームハンマー!」
岩柱の奥に、既にローブシンの姿はない。
アリスが咄嗟に上を見上げれば、ローブシンが上空から柱を携えてライボルトへと襲い掛かってくる。
「しまっ――」
「マジカルリーフ!」
ローブシンが渾身の力を込めてコンクリートの柱を振り下ろす、その直前。キルリアの放った怪しい光を放つ無数の葉がローブシンの腕に命中、攻撃の軌道が僅かに逸れる。
コンクリートの柱はライボルトのすぐ横の床に叩きつけられ、
「チャンスよ! パワーボルテージ!」
再びライボルトが鬣から溜め込んだ電撃を放出し、ローブシンに衝撃波を浴びせ、吹き飛ばした。
「危ないところだったわ……ミオ君、ありがとう。助かったわよ」
「これくらいなら、お安い御用、ですよぅ」
アリスが礼を言うとミオはにんまりと笑い、すぐに二人はアモンの方へと向き直る。
「ほっほう、なかなか優れた腕前のようで。ローブシン、焦ることはありませんぞ。数的不利をとる以上、多少の被弾は想定内。少しずつ追い詰めていけばよいのです」
吹き飛ばされたローブシンは再び立ち上がり、首を振って体勢を整え、ライボルトを睨む。
(動きは遅いし、攻撃も大振り。それなのに、なかなか隙を見せないわね……魔神卿、イチイから話は聞いていたけど、厄介な相手ね)
ミオと二人で戦っているためまだ戦いやすいが、もし一人で戦っていたらかなり攻めあぐねていただろう。トレーナーであるアモンとの連携も上手く取れている。
「来ないのであればこちらから向かいましょうか。ローブシン、ストーンエッジ!」
ローブシンが柱を軽く振り回し、床へと叩きつけると、再び立て続けに岩の剣が柱の如く突き出てライボルトを狙う。
「ふん、少し様子を伺ってただけよ! ライボルト、パワーボルテージ!」
「援護しますよぅ。キルリア、サイコショック」
ライボルトも鬣から電撃を乗せた衝撃波を解き放って応戦し、キルリアが実体化させたサイコパワーの棘で援護射撃を放つ。
双方の攻撃が正面からぶつかり合い、激しく火花を散らす。
キバ系の技の表記は“牙”で統一させていただきます……ご了承くださいませ……