第62話 赤煉瓦の港街
ミオと別れた後、ハルもハダレタウンから出発した。
次の目的地、カタカゲシティまではそこそこの距離があるが、その間の道にポケモンセンターが用意されているらしく、野宿になることはない。
道のりも長いとはいえ舗装された平坦な道なので、かつての山道に比べれば随分と歩きやすい。
すれ違うトレーナーたちと時々ストリートバトルも楽しみながら、ハルは道をまっすぐに進んでいく。
カタカゲシティ。
赤い煉瓦でできた建物や倉庫が立ち並ぶ、どことなくレトロな雰囲気の街並みだ。
また港町でもあり、街中には商店街があり、毎日人々で賑わっている。事前に調べた通り、ポケモンジムも存在している。
無数の赤煉瓦の倉庫は全て財団によって管理されているらしく、ここのジムリーダーはその財団の代表も務めているらしい。
また、街の郊外には非常に大きなテントの骨組みが立てられている。
「なんだろ、あれ……」
アルス・フォンを取り出し、インターネットにアクセスすると、どうやら近々このカタカゲシティでハーメルン・サーカスというサーカス団による公演が開催されるらしい。開催まではまだ二週間近くあるそうだが。
とりあえずハルはポケモンセンターに向かおうと足を進めようとしたところで、
「お兄はん、ちょいとよろしいか?」
背後から、そんな声が聞こえた。
近くにハルの他にお兄はんらしき人はいなかったため、ハルは自分のことだろうと思い、振り向く。
立っていたのは、ぶかぶかの青いピエロのような衣装に身を包んだ男だ。やや長めの青色の髪の毛先には軽くカールが掛かっており、衣服の首元と手袋にはフリルが付けられ、目の下や頬には紫色で雫や星の模様がペイントされている。
「僕ですか?」
「せやせや、お兄はんや。お兄はん、旅のトレーナーやろ?」
ハルが返事を返すと、ピエロのような格好をしたその男性は訛った喋り方でさらに質問を続けてくる。
「はい、そうですけど」
「そりゃあよかった。っと、自己紹介がまだでしたわ。私はハーメルン・サーカスの団員、ヘンゼル」
その男性はヘンゼルと名乗る。見た目からそうだろうと思ってはいたが、やはりサーカス団の一員のようだ。
「サーカス団の団員さんが、僕に何の用ですか?」
「いやいや、そんな大層な用事やあらへん。なに、旅のトレーナーはんに、このチケットを差し上げたろう思いましてなぁ」
そう言って、ヘンゼルと名乗った男は一枚のカラフルなチケットをハルへと差し出す。
「これは……?」
「二週間後に開催される、私らハーメルン・サーカスの公演、そのチケットや。ホンマは有料やねんけど、特・別・大・サービスで、先着十名様に無料で招待したろうっちゅーわけやな」
怪訝な表情のハルに対し、ヘンゼルは大袈裟に両腕を広げて笑みを浮かべる。
「え……いいんですか?」
「ええんよええんよ。元々私らは他の地方から進出してきたサーカス団、マデル地方ではまだまだ無名。ぎょうさんの人に私らのサーカス見てもらうためなら、これっくらいお安い御用や」
せやけど、とヘンゼルは続け、
「その代わり、一つ頼まれてくれへん? お兄はんの友人、知り合い、親戚の皆はん……まあ誰にでもええんやけどね、私らのサーカス開催を広めたってほしいんや。さっき言うた通り、私らはここじゃ無名。今回の公演はこっちじゃ最初の公演なんや、絶対成功させたい」
「……分かりました。友達はそんなに多くないですけど、声を掛けてみますね」
「おおきに。ほなそーゆーことで、頼むわー」
チケットを受け取るハルに対し、ヘンゼルは柔和な笑みを浮かべ、去っていく。
「サーカスか。まぁ他に予定が入らなかったら、行ってみることにしようかな……」
チケットをバッグの中に仕舞うと、ハルは改めてポケモンセンターを目指す。
ポケモンセンターに着き、少し休憩。
その間にカタカゲシティのパンフレットを読んだり、旅のトレーナーたちと軽く小話をして情報を得た後(少しだけサーカスの話もしておいた)、ハルはカタカゲジムを目指す。
今まで戦ってきた四人は全員とも比較的若いジムリーダーだったが、ここのジムリーダーはベテランのトレーナーでもあるそうだ。専門とするのは地面タイプのポケモン。
「次で五人目、今度はベテランのジムリーダーか。強い相手には間違いないよね……だけど今の僕にはメガシンカがあるんだ。絶対に勝つぞ」
アルス・フォンに表示される地図を頼りに進み、ハルはジムと思われる場所に辿り着く。
街並みに合わせて赤レンガで造られているが、他の家や倉庫と比べてより大きな建物だ。
入り口の扉の上にはジムのマークがあるし、ここで間違いないだろう。
そして、着いたと同時に、
「あっ、ハルじゃん。来てたの?」
「あれ、サヤナもここに?」
丁度、ジムからサヤナが出てきた。ハダレタウンで一旦別れたのだが、どうも行き先は同じだったようだ。
「ここから出てきたってことは、サヤナもジムに挑戦してたってことだよね」
「そうだよー! にひひー、めでたく五個目のジムバッジ、ゲットだよ!」
そう言ってサヤナは満面の笑みと共にバッジケースを取り出す。填め込まれている五つのバッジのうち、三つはハルも持っているバッジだった。
「ハルもここに来たってことは今から挑戦だよね。ここのジムリーダーさんちょっと怖いし、すっごい強かったよ。まぁ私でも勝てたんだから、ハルもきっと勝てると思うけどね。じゃあ私、ポケモンセンターで待ってるから! 結果報告楽しみにしてるね!」
サヤナは手を振り、先に戻っていった。
怖い人と言われて少し緊張するが、やることは公式のジム戦、ポケモンバトル。気持ちを切り替え、ハルは扉をくぐる。
「失礼します」
ジムの内部は広いが、造りは至って普通のジムだ。
中央に広がるバトルフィールドは、ゴツゴツとした岩場のフィールド。ところどころに岩山が作られている。
そして、
「何だ、また挑戦者か。今日は客が多いな」
フィールドを挟んで向こう側に立つのは、かなり背の高い男性だ。
歳は三十代後半から四十代前半といったところか。引き締まった体つきで、髪は黒い短髪。白いシャツの上から丈の長い橙色のコートを羽織っている。表情はどことなくしかめっ面で無愛想だ。
「さっきまでジム戦をしてたんだ。ポケモンを回復させる。ちょっと待ってろ」
その男はそれだけ告げると、ハルの返事を待たずに一旦奥の部屋へと引っ込んでしまう。
しばらくして回復を終えたのか、再び奥の部屋から男が現れる。
「待たせた、ジムの挑戦だな。俺の名はワダン。お前は」
「あ、ハルです……」
威圧的なワダンの雰囲気に少し押されている気がするが、とにかくハルは自己紹介する。
しかしハルの名を聞くと、ワダンは首を傾げ、
「ハル……? それにその腕輪。なるほど、サオヒメのアリスがメガシンカを継承した話は聞いていたが、お前がそのトレーナーか」
どうやら、ワダンはハルがメガシンカを使用することを知っているようだ。
「メガシンカの力は強大かつ単純だ。ポケモンとの間に絆があれば扱える。だがそれを正しく理解、使用しなければ、本当の力は発揮できん。お前にそれが理解できているか、このジム戦で俺が見極めてやろう」
さて、とワダンは言葉を続け、
「それでは始めようか。トウナ! 引き続き審判を頼む」
ワダンが呼ぶと、作業服のような服装をした女性が奥の部屋から出てくる。
「かしこまりました。それでは只今よりジムリーダー・ワダンと、チャレンジャー・ハルのジム戦を行います……えっと、ハルさん。ジムバッジ数は?」
「四つです」
そういえばまだジムバッジの話はしていなかった。トウナと呼ばれた女性の審判は少し顔を赤らめ、
「……失礼いたしました。では使用ポケモンはお互い三匹、先に相手のポケモンを全て倒した方の勝利です。戦闘不能以外でのポケモンの交換を行うことができるのはチャレンジャーのみとなります」
ルールは単純、今までと同じだ。先に三匹倒せば勝ち。
「さあ、始めるぞ。準備はいいな」
「はい、よろしくお願いします」
五個目のバッジを賭けた、ハルのジム戦が始まる。
『information
ジムリーダー ワダン
専門:地面タイプ
異名:
兼業:カタカゲ財団代表』
サーカス団の名前サイト名と被っちゃってますが大丈夫なんですかね……
問題があれば後々別の名前に変更します。