魔王と救世の絆   作:インク切れ

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第65話 銷魂

「ハル! おかえりー……って、どうしたの!?」

ポケモンセンターのロビーに戻ると、先に待っていたサヤナが出迎えてくれた。

しかし、ハルの暗く沈んだ表情はさすがに予想外だったようで、驚きを隠せずにいる。

「ああ、サヤナ……ありがとう。ワダンさんってすっごく強いんだね。負けちゃったよ……」

まったく正気のない顔と声で、ハルはそう返し、崩れるようにソファに腰掛ける。

よっぽどひどい負け方をしたのだろうか、サヤナはそう考えるが、いまいちその場面を想像することができない。

なんせサヤナの盗まれたポケモンを取り返してくれたり、メガシンカの力を得たりと、サヤナにとってハルはポケモントレーナーとして常に自分より一歩先を進んでいると思っていたのだ。そのハルが、ここまで落ち込むような負け方をするだろうか。

たしかにサヤナからしてもワダンは強かった。自分でも勝ったからハルなら勝てる、とは言ったが、ハルとて負けてしまう可能性もなくはない。

しかし、だからといってここまで落ち込むだろうか。サヤナの知っている限り、ハルは負けて悔しがることはあっても、ひどく落ち込むことはなかったはずだ。

そして、

「はぁ……」

ハルもハルで、どうしようもないくらいに消沈していた。

バトルの後、最後にワダンから突きつけられた言葉が、ずっとハルの脳内でぐるぐると渦巻いている。

“お前は、弱い”。思えばその通りかもしれない。ゴエティアの魔神卿と交戦した際には手も足も出なかったどころか、その部下であるパラレルにすら勝ててはいない。ディントスにだって、アリスの助けがなければ勝てていたかも分からないのだ。

メガシンカを得てスグリに勝ち、喜んでいた少し前の自分が、大変に滑稽に思えた。

「……ねえ、ハル?」

そんな様子を見かねてか、サヤナがハルの前に屈み込み、顔を覗き込む。

「ハルがなんでそんなに落ち込んでるのか、私には分からないけど、いつまでも凹んでたって、何も始まらないよ」

すっかり元気をなくしたハルの目を見据えて、サヤナはにっこりと微笑む。

「でも、何をしたらいいのか……」

「何があったのかはともかく、負けちゃったってことは、相手の方が強かったってことだよね。だったら、やることは一つしかないよ」

ハルの手を取って、サヤナは立ち上がる。

「そう、特訓するしかないよね! にひひー、ハルは忘れてるかもしれないけど、私はハルより一日先にポケモンを貰った先輩なのだ! 先輩トレーナーとして、私がハルの特訓に付き合ってあげるよ!」

 

 

 

ポケモンを回復させた後、ハルは半ば無理やりサヤナに連れられ、バトルフィールドが用意されているいつものポケモンセンター地下の交流場へと移動する。

「とりあえずハルも乗り気じゃないだろうけど、最初は一対一からね! それじゃ、いっくよー! ワカシャモ!」

サヤナが繰り出したのはワカシャモ。

「……出てきて、ルカリオ!」

バトルということで、空元気でも気合を入れなければ始まらない。

無理やりに大きな声をあげ、ハルはルカリオを出す。

「それじゃルカリオ、行くよ――」

と、ハルがそこまで言って、右腕を掲げようとしたところで。

 

――お前は、弱い。あのアリスの目が節穴なのかと疑うほどにな――

 

ワダンの言葉が、呪縛のようにハルの頭の中を渦巻き、締め付ける。

「――いや、だめだ」

上げようとした腕を、キーストーンを下げる。

「ルカリオ、このままで戦うよ」

ルカリオは波導によって相手の心を読み取ることができるポケモン。

ハルの心の内を知った上でか、それともただ指示に答えただけか。ルカリオはハルの言葉に逆らうような様子は一切見せず、ただ静かに頷いた。

「それじゃ、始めるよ! ワカシャモ、火炎放射!」

先に動いたのはワカシャモ。手始めに大きく息を吸い込み、灼熱の業火を吹き出す。

「ルカリオ、波導弾!」

対するルカリオは右手を突き出し、掌から波導を生み出し、青い波導の念弾を放つ。

互いの技の威力はほぼ互角で、競り合った末に消滅する。

「それじゃ、接近戦だ! ワカシャモ、ニトロチャージ!」

ワカシャモが甲高く鳴き声を上げると、その体が炎を纏う。

炎に身を包んだまま、ワカシャモは高速の炎弾の如く勢いよく飛び出し、一瞬のうちに距離を詰め、ルカリオを突き飛ばした。

「続けて! キャノンパンチ!」

「それなら……こっちはサイコパンチだ!」

ミサイル砲のように勢いをつけ、ワカシャモはさらに殴り掛かってくる。

対してルカリオも拳を握りしめ、念力を纏わせて、ワカシャモを迎え撃つべく念力の拳を突き出す。

双方の剛拳が激突するも、念力を纏っていた分ルカリオの方が強い。次第にルカリオが優勢になり、ワカシャモを押し返した。

「ルカリオ、ボーンラッシュ!」

波導の形を槍の形状に変え、槍を携えたルカリオが駆け出す。

「ワカシャモ、来るよ! 下がって火炎放射!」

バックステップで距離を取り、ワカシャモが息を吸い込み、吐息と共に灼熱の炎を吹き出す。

掻い潜りながら接近しようとするルカリオだが、鞭のようにしつこく振るわれる炎の迎撃を躱し切ることができず、炎を浴びてしまう。

「チャンスだよ! キャノンパンチ!」

炎を受けてルカリオが動きを止めたところへ、拳を振りかざしたワカシャモが飛び出し、襲い掛かる。

「っ、ルカリオ、躱して波導弾!」

ミサイルのような拳の一撃を何とか躱し、ルカリオは両掌を構え、波導を生み出して青い波導の念弾を放つ。

ワカシャモの拳は地面に叩きつけられ、狙いを外したところに必中の波導の念弾がワカシャモを捉え、吹き飛ばす。

「ルカリオ、発勁!」

右手に揺らめく波導を纏わせ、ルカリオが地を蹴って飛び、一気にワカシャモとの距離を詰めていく。

しかし。

 

「ワカシャモ、オウム返し!」

 

ルカリオがワカシャモの懐まで飛び込んだ次の瞬間、ワカシャモが波導の念弾を掌に作り上げ、それを直接掌底打ちの要領でルカリオへ叩きつける。

自らが扱う波導の力と同等の力を叩き込まれ、フィールドとほぼ平行に、ルカリオが派手に吹き飛んで行った。

「オウム返しは最後に使った相手の技をそっくりそのまま使う技だよ! 波導弾は格闘タイプの技、ルカリオには効果抜群だよね」

ポケモントレーナー“R”――ロノウェのバクオング戦でも見せた技だ。あの時は、バクオングに効果抜群となる気合玉を返していた。

「やるね……ルカリオ、まだここからだよ。頑張って」

波導弾を受けても、まだ戦闘不能にはなっていない。

ルカリオは立ち上がると、再び構え直す。

しかし、

「……ねえ、ハル。何をそんなに焦っているの?」

唐突に、サヤナの声色が変わった。

「ん……どうしたの、サヤナ? 僕は別に、何も……」

「嘘だ。ハル、絶対焦ってるって。前と比べて、戦い方がなんだか違うもん」

「…………」

今度こそハルは何も言い返すことができなかった。

ワダンのバクーダに手も足も出ずに散っていった先程の光景が、鮮烈に蘇る。

「ハル、明らかに無理してる……ううん、ハルだけじゃない。ルカリオもだよね。そりゃ、私が無理やり特訓に誘ったからってこともあると思うけど、それだけじゃないよね」

さらにサヤナは言葉を続ける。

「今までのハルはさ、ポケモンのことを何よりも一番に考えて、ポケモンと一緒に戦う、そんな感じのトレーナーだった。けど、今はなんだか違う。っていうか、ハダレタウンの大会の時から、ちょっとおかしかった気がするんだよね。私、頭よくないから、正しい表現の言葉が浮かばないんだけど……ポケモンよりも自分が一番だって、そんな風になってる気がするんだよ」

「そんなことは……」

そんなことはない。ハルはそう言い返そうとした。

だが、できなかった。サヤナの言葉には、今の自分の言葉に比べて遥かに重みがある。

「ねえ、ハル」

そんなハルに、サヤナがさらに詰め寄る。

 

「ハル。ワダンさんに、何を言われたの?」

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