魔王と救世の絆   作:インク切れ

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第66話 正しい力

「ハル。ワダンさんに、何を言われたの?」

弱ったハルの心に、悪意のないサヤナの言葉が刺さる。

「……はぁ」

気付いた時には、ハルはその場に崩れ落ちていた。

ルカリオがそれに気づき、慌てて駆け寄ってくる。

「ハル……! ちょっと、大丈夫!?」

「うん……サヤナ、すごいね。ワダンさんに何か言われたなんて、一言も言ってないのに。たしかに、サヤナの言う通りだよ」

力なく、ハルは笑う。

「全部話すよ。ジムであったこと」

 

 

 

その後、バトルは中断。

ハルはジムリーダー・ワダンとのジム戦で起こったこと、それら全てをサヤナへと話した。

「……なるほどね」

ハルの言葉を黙って聴き終えると、サヤナは少しだけ安堵の表情を浮かべる。

「よかった。それなら、私でもなんとかしてあげられるかもしれない」

そう言うと、サヤナは座り込んでハルと目線を合わせ、言葉を続ける。

「ハルがジムに挑む前にね、私、ジムから出てきたでしょ?」

たしかにそうだった。赤いレンガのジムからサヤナが出てきて、バッジを見せてくれたのを思い出す。

「でもね。実はあの挑戦、一回目じゃなかったの。二日前、大会が終わった日の夕方、すぐにワダンさんに挑んで、負けちゃったの。そのあと昨日も負けて、やっと今日勝ったんだよ。三日間、毎日挑み続けたんだ」

「えっ……?」

それを聞いてハルは驚く。ハルにとっては、ジム戦で負けた時は勝てる見込みが見えるまで特訓してから再挑戦するものだと思っていたからだ。

「おかしいと思うよね。というか私も、本当なら特訓してから挑むつもりだったよ」

だけど、とサヤナは続け、

「私ね、最初に負けた日、バトルの後にワダンさんに言われたの。お前が負けたのは根性が足りないからだって。ポケモンとの気持ちがズレてるって。たしかに、ワダンさんに圧倒されて、気持ちで負けてたの。だめだ、勝てないって、そう思っちゃった。ワカシャモたちは頑張って立ち向かって、勝とうとしてくれていたのにね」

いつになく真剣な眼差しで、サヤナは語り続ける。

「だから根性見せてやろうと思って、毎日挑戦し続けることにしたんだ。昨日はまた負けちゃったけど、明日も来るって約束して、今日やっと勝ったんだよ。その後バッジを貰った時に、ワダンさんに言われたの。『この二日でお前が得た力は所詮付け焼き刃、だがこの二日でお前とお前のポケモンが見せた根性は本物だった。それを認めて、ジムバッジをくれてやる』ってね」

だから、とサヤナは続け、

 

「あの人はとっても厳しいし怖いけど、本当はチャレンジャーのことを大事に考えてくれてる。意味もなく、弱いなんて言わないと思うんだ」

 

ハッと気付いて、ハルは顔を上げる。

先程までのサヤナとのバトルを思い出す。ワダンとのジム戦を思い出す。パラレルとのバトルを、スグリとのバトルを、大会でのバトルを思い出す。

メガシンカを得て、自分でも気付かぬうちに思い上がってはいなかったか。

こんな力を使えるようになった自分は凄いんだ、そう思い込んで、調子に乗ってはいなかったか。

ジム戦に負けた後、ワダンは妙に“お前は”と強調していた。

実際ワダンの言う通りだったのだ。たしかにハルは弱い。気が弱く内気で、友人や仲間のポケモンたちの手を借りなければ何もできないようなただの少年にすぎないのだ。

それを忘れ、自分は強いと思い上がっているハルに対して、ワダンは、ハルが忘れてしまっていた大事なことを思い出させようとしてくれたのかもしれない。

思えばワダンは言っていたではないか。ポケモンとの絆を正しく理解しなければ、本当のメガシンカの力は発揮できないと。ハルはルカリオとの絆を、メガシンカの力を、正しく理解できていなかったのだろう。そして、ワダンはそのことを教えてくれたのだ。

そして、もう一つ。

リデルの言葉が、ハルの脳内に蘇る。

 

――ハル君がそれを意識しすぎた結果、逆にルカリオと波長がずれてしまう可能性もある。君はそのまま、まっすぐ成長していけばいい――

 

ハルのルカリオは、膨大な波導の力をその身に秘める体質を後天的に得ている。そして、その力はトレーナーであるハルと波長が合うことによって制御されている。

で、あれば。

ハルとルカリオの思いがずれた結果、ルカリオが暴走してしまう可能性もあったのだ。

先程、サヤナはルカリオも焦っていると言った。ルカリオ自身も、そのことを危惧していたのだろう。

それでも、トレーナーであるハルと共に進むべく、ハルのずれた波長と自身の波長を無理に合わせようとしていたのかもしれない。

「ハル、元気出してよ」

そんなハルに、サヤナが微笑む。

「私は分からないけど、もしかしたらハルは本当に弱いのかもしれない。だけど、ハルとルカリオは最高の名コンビだと私は思ってるよ。さっきのバトルだって、ハルが自信を無くしてもルカリオはハルの力になろうと全力で戦ってた、そんな風に私には見えたよ」

サヤナの言葉に続けて、ルカリオも小さく鳴き、ハルの瞳をまっすぐに見つめる。

「……ごめんね、ルカリオ」

ルカリオの顔を見上げて、ハルは囁く。

「メガシンカを使えるようになって、僕は勘違いしていたんだ。メガシンカを使える僕は凄いんだ、とっても強くなったんだ、って。けど、本当はそうじゃなかった」

ようやく、全てに気付いた。

強いのは、ハルでもルカリオでもなかった。

「僕たちが強くなれたのは、ルカリオ、君がいたからだったんだ。いいや、君だけじゃない。ヒノヤコマにエーフィ、ワルビルたち。サヤナ、スグリ君、アリスさんにリデルさん、エリーゼさん、ミオ……挙げていったらキリがないけど、僕の周りのみんなのおかげで、僕は成長していけるんだ。そんな大事なことを忘れていたなんてね」

ハルの言葉を聞いているうちに、サヤナは気付いた。

ハルの瞳に、いつもの明るい光が戻ってきた。

「ルカリオ。やっと思い出したよ。もう大丈夫、絶対に忘れない。だから、これからも僕と一緒に旅して、遊んで、戦ってほしい」

ルカリオの目を見つめ返し、ハルはそう告げた。

それを聞いたルカリオも小さく微笑んで頷き、手を差し出す。

この手を取って立ち上がれ。そして共に来い。ここから先、共に強くなろう。ルカリオの心の内の言葉が聞こえたように、ハルには感じられた。

だからハルは、迷わずルカリオの手を取った。一時は失った自信を、気力を、再び取り戻し、ルカリオの手を借り、立ち上がった。

「やったー! やっといつものハルに戻ったよ!」

「サヤナも、ありがとう。多分サヤナがいなかったら、当分落ち込んだままだったよ。それに、一番大事なことにずっと気付けないままだったかも」

「にひひー、友達として、先輩として当然のことをしただけだよー! ハルが元気ないと私も楽しくないしね!」

さて、とサヤナは続け、

「ハルは元気になったけど、それでもワダンさんが強いのは変わらない。だったら特訓をしなくちゃね。バトルの続きをしよう! リベンジ達成できるように、引き続き、私が特訓に付き合ってあげるよ!」

「うん、ありがとう。僕もルカリオも、他の仲間たちだって、次こそ勝ちたい。サヤナの力を借りるよ」

それを聞き、サヤナは満面の笑みを浮かべる。

「任せといてー! それじゃあワカシャモ、さっきのバトルの続きだよ!」

「ルカリオ、もう大丈夫。まだ本調子とはいかないかもしれないけど、だいぶよくなったよ。こっちも全力で行こう!」

そして。

バトルフィールドに、再びハルとルカリオ、サヤナとワカシャモが立つ。

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