魔王と救世の絆   作:インク切れ

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第67話 リベンジ・オブ・カタカゲジム

「お願いします!」

 

「またお前か。今回は一週間前よりもマシなバトルができるんだろうな」

 

ワダンに敗北してから、一週間。あれからハルはサヤナに協力してもらい、特訓に励んできた。

そして今。

ハルは赤い煉瓦のポケモンジム、カタカゲジムを再び訪れ、岩場のバトルフィールドを挟んで、ワダンと対峙していた。

「もちろんです。ワダンさん、先週はありがとうございました。今度こそ、僕たちはあなたに勝ってみせます」

「フン、口だけならなんとでも言える。一週間の成果はバトルの中で見せてみろ」

ハルとワダン、双方がモンスターボールを手に取る。

「それでは只今よりジムリーダー・ワダンと、チャレンジャー・ハルのジム戦を行います。使用ポケモンはお互い三匹――」

「いや、四匹だ」

トウナのルール説明を、ワダンが遮る。

「えっ、四匹ですか? しかし、ジムのレギュレーションでは……」

「こいつは一週間特訓をしてきたんだ、こっちが前回と同じではジムバッジを渡す資格があるかどうか正確に判断できん。だから少しレベルを上げる。お前もそれで構わないな、ハル?」

ハルとしても予想していなかった展開だ。しかし、

「ええ、もちろんですよ」

だからどうした。

自信をつけて再び帰ってきたチャレンジャーは、その程度では動じない。

寧ろ、手持ちの全員を活躍させられるチャンスだ。

「そう来なくてはな。ではバトルは四対四、その他のルールは前回と同じだ。始めるぞ」

両者が、同時にポケモンを繰り出す。

「出番だ、サナギラス!」

「出てきて、ルカリオ!」

ワダンの一番手は、前回と同じサナギラス。

対するハルは、初手からエースのルカリオを選んだ。

「二人とも準備は整いましたね。それでは、試合開始です!」

審判トウナの声を引き金に、ハルにとっては二度目となるカタカゲジム戦が始まった。

「ルカリオ! 早速行くよ!」

ハルの言葉に呼応し、ルカリオが威勢良く吼える。

それを見て笑みを浮かべ、キーストーンのあるブレスレットを付けた右手を天高く掲げ。

ハルは、勢いよく叫ぶ。

 

「僕と君の、絆の力に応えて! ルカリオ、メガシンカだ!」

 

ハルのキーストーンから、ルカリオのメガストーンから、七色の光が飛び出す。

二つの光はそれぞれ繋がって一つとなり、ルカリオを包み込み、その姿を変えていく。

波導の力とメガシンカのエネルギーがルカリオの体内を駆け巡り、その体に漆黒のラインを刻んで、ルカリオはメガシンカを遂げる。

天を貫く咆哮とともに眩い光が弾け飛び、メガルカリオが姿を現す。

「……サナギラス、砂嵐!」

そんなルカリオを見て、手始めにワダンはサナギラスへと砂嵐の指示を出す。

サナギラスは高速回転して風を起こし、その風に大量の砂を乗せ、フィールド全体に砂嵐を吹かせる。

対して、

「ルカリオ、発勁!」

ルカリオが地を蹴り、一直線に飛び出す。

次の瞬間にはサナギラスとの距離を詰めており、青い波導を纏った右手を思い切り叩きつけ、サナギラスを吹き飛ばす。

「波導弾だ!」

さらにルカリオは両掌を構え、波導の念弾を放出する。

標的を狙って高速で、かつ正確に飛ぶ波導の念弾が、サナギラスに直撃した。

念弾が炸裂して再び吹き飛ばされ、宙を舞ったサナギラスはフィールドの岩に激突。

そのまま地面に落ちたサナギラスは、あっさりと目を回して動かなくなった。

つまり、

「なっ……えっと、サ、サナギラス戦闘不能。ルカリオの勝利です……!」

開始早々、ジムリーダーの初手のポケモンが戦闘不能になってしまったのだ。

トウナが驚きを浮かべたままサナギラスの戦闘不能を告げるが、

「……! 俺のサナギラスを、こうもあっさりと……」

何より一番驚いていたのはワダンだ。前回のバトルでは全く表情を変化させなかったワダンだが、さすがに驚愕を隠しきれない様子だ。

それもそのはず。効果抜群の攻撃とはいえ、先発のポケモンが砂嵐しかできずにたった二発でいきなりやられてしまうとは想像していなかったのだろう。

「……まあ仕方ない、こんなこともあるさ。サナギラス、戻れ」

倒れたサナギラスをボールに戻し、ワダンは次のボールを手に取る。

「ルカリオ、君の出番はまた最後にやって来る。それまで、しばらく休んでてね」

そして、ハルもルカリオをボールへと戻し、交代させる。

「どうですか、ワダンさん! 挨拶がわりに、この間とは違うってところ、見せたつもりですよ」

「なるほど……どうやら口先だけではないようだな。少なくとも前回よりは楽しめそうだ。まず、そこに関しては認めてやろう」

ハルの言葉を認めた上で、だが、とワダンは続け、

「だからといって、俺に勝てるかどうかは別だ。いくら特訓を重ねてきたとはいえ、その力が俺に通用しなければ、ジムバッジは手に入らないぞ」

「分かっていますよ。この一週間の特訓の成果、見せてやります。絶対に勝ちます!」

一週間前とは比べ物にならない、自信に満ちた笑顔でハルはそう返し、二番手のポケモンを繰り出す。

「出てきて、ワルビル!」

ハルがここで選んだのは、砂嵐下でも安定して動けるワルビルだ。

対して。

ワダンの表情は、既に平静を取り戻している。

「サナギラスがあっさり退場したのは、場合によってはメリットとも取れる。サナギラスが早めに退場したことにより、この砂嵐は後続のポケモンのバトルにおいて、より長く持続するということになるからな」

つまり、とワダンは続け、

「策はまだいくらでもある。それを見せてやろう」

そう告げ、こちらも二匹目のポケモンを繰り出した。

「出番だ、サンドパン!」

ワダンの二番手は、背中にびっしりと硬い棘を生え揃わせた砂色のネズミのようなポケモン。両手の鋭い爪が目を惹く。

 

『information

 サンドパン ネズミポケモン

 棘だらけの背中を丸めてぶつかり

 外敵を攻撃する。交戦した相手に

 無数の深い刺し傷の痕を残す。』

 

前回は出してこなかったポケモンだ。地面タイプのポケモンのようだ。

「地面タイプなら、相性の有利不利はない。ワルビル、強気に行くよ! シャドークロー!」

ワルビルが両手に影の力を集めて黒い鉤爪を作り上げ、サンドパンへと向かっていく。

対して、

「サンドパン、ポイズンクロー!」

サンドパンが爪を構えると同時、高速で飛び出した。

気付けば既にワルビルの目の前まで迫っており、ワルビルが影の爪を振るよりも早く、毒を帯びたサンドパンの爪がワルビルを切り裂いた。

「っ、速い……! ワルビル、気をつけて。相手の動きをよく見るんだ」

ワルビルはすぐに体勢を立て直し、周囲を見渡すが、既にサンドパンは素早く離脱してワダンの元へと戻っている。

「サンドパン、ドリルライナー!」

「ワルビル、躱して燕返し!」

サンドパンが両手を突き出し、ドリルのように回転を始めたかと思うと、突然そのまま飛び出してくる。

咄嗟にサンドパンの突撃を躱すと、ワルビルは腕を構えてサンドパンを追う。

しかし、

「サンドパン、ミサイル針!」

突如、サンドパンが体を丸めて棘だらけのボールのような姿になる。

硬い棘でワルビルの攻撃を弾き返し、直後、背中から無数の棘を一斉に発射する。

棘は次々とワルビルに突き刺さり、ワルビルは呻き声を上げ、膝をついてしまう。

「サンドパン、瓦割り!」

丸めた体を勢いよく元に戻し、サンドパンは体勢を崩すワルビルへと飛び掛かり、腕を振り上げて上空から迫る。

「まず……っ! ワルビル、穴を掘る!」

咄嗟にワルビルは地中へ潜り、身を潜める。

サンドパンの手刀は床に打ち付けられ、ワルビルには届かず、一拍置いてワルビルがサンドパンの足元から飛び出して強襲を仕掛ける。

「いいぞワルビル! 続けて噛み砕く!」

サンドパンを殴り飛ばし、ワルビルはさらに大顎を開いて牙を剥く。

しかし、

「サンドパン、ポイズンクロー!」

立ち上がったサンドパンは再び高速で動き出す。

大顎を開くワルビルのすぐ横を目にも留まらぬ速さで駆け抜け、すれ違いざまに毒を帯びた鉤爪でワルビルを切り裂いた。

(くっ……あのサンドパン、さすがに速すぎないか? 見た目はそんなに速そうなポケモンでもないのに、スピードだけで見ればスグリ君のジュプトル以上だ。もしかして、何か秘密があるのか……?)

思考を巡らせる。不可解な現象には、必ず理由がある。

能力や技の他に、ポケモンの強さに直結するもう一つの要素は何か。

(もしかして……特性か!)

急いでハルは図鑑を取り出し、サンドパンを調べると、

「特性“砂かき”……?」

「ほう、気付いたか」

ハルがサンドパンのスピードの答えに辿り着いたのを確認し、ワダンが口を開く。

「俺のサンドパンの特性は砂かき。天候が砂嵐の状態である時、素早さが約二倍に上昇する」

「なっ……二倍!?」

素早さが高いというのは、単純かつ強力。これはスグリと何度も戦ったハルがよく知っている。

しかも、通常の二倍だ。元が大して速くないポケモンであろうと、倍になれば大抵のポケモンを抜き去るスピードになるだろう。

「言ったはずだぞ。策はまだいくらでもある、とな」

超然と立つワダンの姿には、先鋒をいきなり失った焦りなど全く感じられなかった。

(やっぱりワダンさんは強い……! サナギラスを倒したくらいじゃ油断はできないと思っていたけど、予想以上だな……!)

厳しい戦いを強いられそうだが、それでも、今度こそハルは勝つ。

目の前の強敵相手に、冷静に対抗策を探る。

「サンドパン、ドリルライナー!」

「ワルビル、受け止めて! シャドークロー!」

サンドパンが両手を突き出して高速回転を始めたかと思うと、次の瞬間にはワルビルの懐へと飛び込んでくる。

ワルビルは黒い影の鉤爪を両手に纏わせ、何とかサンドパンの攻撃を食い止めるが、反撃しようとするとサンドパンは即座に離脱してしまう。

(ワルビルの威嚇の特性のおかげで、攻撃力は負けてない。あのスピードさえ何とかできればいいんだけど……)

砂嵐が切れるまで逃げ回るという方法もあるにはあるが、圧倒的な素早さを誇るサンドパンから逃げ回るというのは現実的ではない。

となれば、

「何とかサンドパンの動きを見切るしかないか……! ワルビル、頼んだよ!」

ハルの呼びかけに応え、ワルビルは両手を振り上げて吼える。

「続けるぞ! サンドパン、ミサイル針!」

「ワルビル、穴を掘る!」

サンドパンが背中から無数の棘を放出するが、対するワルビルは素早く地中に潜って無数の鋼の棘を躱し、地中から密かにサンドパンとの距離を詰めていく。

しかし、

「それはもう見たぞ。躱してポイズンクロー!」

足元がわずかに揺れたその瞬間、サンドパンは横っ飛びでその場から離れる。

ワルビルの奇襲は外れ、直後にサンドパンが毒を帯びた爪で逆にワルビルを切り裂く。

「ワルビル! 大丈夫!?」

鋭い爪の斬撃を受けても、ワルビルはまだ起き上がる。

しかし、

「ワルビル……?」

ワルビルの調子がおかしい。立ってはいるのだが、その足が少し震えている。

ハルのワルビルは相手がどれだけ強くとも恐れ慄くような性格ではない。つまり、何か異変が起きている。

そして、その異変はすぐに分かった。

「これは……毒の状態異常か……」

何度も毒を帯びた爪の攻撃を受けたことによって、ワルビルは毒を食らってしまったのだ。

「サンドパン、好機を逃すな! 瓦割りだ!」

毒で動きが鈍ったその隙をワダンが見逃すはずもなく、サンドパンがワルビルへと飛び掛かる。

ワルビルの脳天を狙い、手刀を振り下ろす。

「ワルビル、受け止めて! 噛み砕く!」

上空を見上げ、ワルビルは大顎を開く。

間一髪、サンドパンの手刀が叩き込まれるよりも早く、ワルビルは鋭い牙でガッチリとサンドパンを捕らえた。

「いいぞ! そのまま投げ飛ばせ!」

ワルビルの最大の武器である、頑丈な顎。

ようやくその顎による一撃を決めたワルビルは、そのまま首を大きく振ってサンドパンを思い切り投げ飛ばし、フィールドに置かれた岩へと叩きつけた。

「一気に行くよ! ワルビル、シャドークロー!」

ようやく生まれたチャンス。右腕に黒い影を纏わせ、ワルビルは岩へ叩きつけられたサンドパンへ襲い掛かる。

しかし、

「まだ終わらんぞ。サンドパン、ポイズンクロー!」

起き上がったサンドパンもただではやられない。回避は間に合わないと見るや、腕を伸ばし、毒を帯びた爪を突き出す。

刹那。

双方の爪の一撃が、相手を突き刺した。




《ポイズンクロー》
タイプ:毒
威力:70
物理
毒を帯びた爪で切り裂く。急所に当たりやすく、一定の確率で相手を毒状態にする。クロスポイズンの相互互換。

※威力はあくまでも目安です。
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