魔王と救世の絆   作:インク切れ

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第68話 躍動、砂塵の猛者たち

ワルビルの黒い影の爪と、サンドパンの毒の爪が、双方を突き刺す。

しかし、ワルビルの爪が捉えていたのは、硬い棘に守られたサンドパンの背。対してサンドパンは、的確にワルビルの腹部を捉えていた。

刺し違えた結果、一歩及ばず、ワルビルがその場に崩れ落ちた。

「ワルビル、戦闘不能! サンドパンの勝利です」

ハルがワルビルに駆け寄ると、目を覚ましたワルビルは悔しそうに唸る。

「ワルビル、大丈夫。充分頑張ってくれたね、君の頑張りは無駄にはしない。あとは任せて、休んでて」

ワルビルの頭を撫で、ボールへと戻すと、ハルは次のボールを取り出す。

(エーフィとヒノヤコマならどっちも素早さに自信があるけど……いや、ヒノヤコマの出番はまだだな)

空を飛びながら戦うヒノヤコマはできれば砂嵐が収まってから出したい。飛びながら戦うため、風の影響を強く受けてしまうのだ。

「よし……ここはエーフィ、君の出番だ!」

結果、ハルの選んだポケモンはエーフィ。ワルビルよりも素早さが高いので、ある程度ならサンドパンについていけるだろう。あくまでも、ある程度なら、だが。

「なるほど。俺のサンドパンのスピードにどこまで対応できるか、見せてもらうぞ」

「望むところです。僕のエーフィなら、やってくれますよ!」

「そうだといいのだがな。では行くぞ! サンドパン、ポイズンクロー!」

「エーフィ、横にジャンプ! からのスピードスター!」

ワダンが指示を出した瞬間に、ハルも回避を指示する。

それでもギリギリのタイミングだったが、エーフィは猛スピードで襲い来るサンドパンの毒爪を回避。

勢い余って後方へすっ飛んでいくサンドパンに対し、尻尾を振り抜いて無数の星形弾を放つ。

(……! もしかして……!)

ここでハルは気付く。ここまでのサンドパンの動きを思い出す。

サンドパンの動きの癖を、遂に見つけた。

「サンドパン、ミサイル針!」

背中から無数の棘を発射し、サンドパンは星形弾を全弾撃破、さらに、

「ドリルライナー!」

腕を突き出して高速回転しながら一直線に突撃を仕掛け、今度はエーフィを突き飛ばす。

「続けろ! 瓦割りだ!」

エーフィに激突した反動で跳躍し、サンドパンは再び上空から突撃、一気に距離を詰める。

だが。

「今だエーフィ! マジカルシャイン!」

エーフィの額の珠が白く輝いたかと思うと、その周囲へと純白の光が放出される。

止まることも躱すこともできず、サンドパンは純白の光に飲み込まれてしまう。

「サイコショットだ!」

光に飲まれて吹き飛ばされるサンドパンへ、エーフィはさらにサイコパワーの念弾を発射。

起き上がった瞬間のサンドパンの腹部へ、念力の弾が直撃した。

再びサンドパンは吹き飛ばされて壁に激突。スピードの代償か、耐久力、特に特防は低いようで、床に倒れてそのまま動かなくなった。

「サンドパン、戦闘不能! エーフィの勝ちです」

勝利宣言を受けてもエーフィは騒いだりはせず、その代わりにクールに微笑を浮かべる。

「サンドパン、戻れ」

サンドパンをボールに戻し、ワダンはハルへと向き直る。

「どうやら、俺のサンドパンの動きの癖に気付いたみたいだな」

「ええ。あのサンドパン、速すぎるせいで途中で曲がれないんじゃないですか?」

最初にエーフィがサンドパンの攻撃を躱した時に気付いたのだ。

回避はギリギリ、軌道を変えれば爪がエーフィに届く距離だったが、サンドパンは一直線に後方へと飛んでいった。

思い返せば、ワルビルと戦っていた時も、常にサンドパンは一直線に突っ込んできていた。速すぎるために隙が無いと思っていたが、落ち着いてよく見れば意外なほど分かりやすい弱点があったのだ。

「やるじゃないか。だが、次のポケモンはそう簡単にはいかないぞ」

そう告げ、ワダンが三つ目のボールを手に取る。

「出番だ、フライゴン!」

ボールから現れたのは、昆虫の面影を残した美しい細身のドラゴンポケモン。両眼が赤い膜で覆われている。

 

『information

 フライゴン 精霊ポケモン

 美しい歌のような羽音を立てて

 羽ばたき砂を巻き上げて身を隠す。

 砂漠の精霊とも呼ばれている。』

 

虫タイプにも見えるが、持つタイプはドラゴンと地面。

「ドラゴンタイプか……しかも最終進化系……」

ドラゴンタイプは聖なる生き物とも言われる。その最終進化系ともなれば、それ相応の実力を持つポケモンであることは間違いない。

「だけど、相手にとって不足なしだ。エーフィ、頑張るよ!」

ドラゴンに有利なフェアリー技のマジカルシャインがあるため、不利な戦いを強いられることはないだろう。

エーフィはフライゴンから目線を離さず、しかししっかりとハルの言葉に頷く。

と、そこで砂嵐が勢いを失くし、次第に吹き止んでいく。

「さあワダンさん、これで砂嵐にはもう頼れませんよ」

「フン、俺の手持ちは全員が砂嵐に全面的に頼るわけではない。天候を変えられた時のことも想定しているから、砂嵐がなくなろうが戦況は変わらん。それを教えてやろう」

「それじゃ、教えてもらいましょう! エーフィ、サイコショット!」

エーフィの額の珠に念動力が溜め込まれ、サイコパワーの念弾が放出される。

フライゴンへと飛んでいくが、肝心のフライゴンは回避する様子すら見せない。

しかし。

 

「フライゴン、見せてやれ」

 

ワダンの指示を受けたフライゴンが、巨大な翅を大きく羽ばたかせる。

砂嵐が収まってフィールドに落ちた大量の砂が、美しい歌声のような音と共に再び宙に舞い上がる。

羽ばたきによって風を自在に操り、砂を風に乗せ、大量の砂がフライゴンを覆い隠してしまう。

そして念力の弾は砂の壁に阻まれ、フライゴンへ届かなかった。

「なっ……!?」

予想外すぎる動きにハルは驚きを隠せなかった。

高い特殊攻撃力が持ち味のエーフィのサイコショットが、簡単に食い止められてしまった。

「このフライゴンは砂嵐がなくなった時のためのポケモンだ。砂嵐が収まった後だろうが、こいつは地面に落ちた砂を存分に生かして戦うことができる。言ったはずだぞ、策はまだいくらでもある、とな」

砂嵐が収まったら収まったで砂に頼らない戦法を仕掛けてくるのだと思っていたが、これはハルにとって完全に予想外だった。まさか、吹き終わった砂嵐を再利用するとは。

羽ばたきを調節して砂嵐の壁から姿を再び現したフライゴンは、特に声を上げることもなく、赤い膜の奥からエーフィをじっと見据えるのみ。

「……もう少し試してみる必要があるな。エーフィ、スピードスター!」

エーフィは二股の尻尾を振り抜き、今度は無数の星形弾を発射するが、

「フライゴン、もう一度だ」

再びフライゴンは強く羽ばたいて風を巻き起こし、砂嵐の壁に身を隠してしまう。

必中の星形弾ですら、砂の壁を超えて進むことはできず、風に巻き込まれて打ち消されてしまう。

「これもだめか……それなら……」

次の策を考えるハル。

しかし。

それを待ってくれるほど、ワダンもフライゴンも甘くはない。

 

「フライゴン、ドラゴンビート!」

 

砂嵐の壁が収まった時、既にフライゴンはそこにはいなかった。

「っ!? どこだ!?」

刹那、歌声のような羽音が響く。真上だ。

先ほどまでの美麗な佇まいから一転、フライゴンは高速で空中を旋回しながら翅を羽ばたかせ、美しい歌声のような音波と共に衝撃波を放つ。

フライゴンを一瞬とはいえ見失ったことで対応が遅れ、エーフィは音波をまともに受けて吹き飛ばされてしまう。

「っ……速いのか、こいつ! エーフィ、シャドーボール!」

「フライゴン、躱して大地の力!」

起き上がったエーフィが額の珠から黒い影の弾を放出するが、フライゴンはそれをひらりと躱し、長い尻尾で地面に触れる。

刹那、フィールドが揺れ、エーフィの足元とその周囲から光と共に大地のエネルギーが溢れ出し、力の奔流がエーフィを巻き込んで吹き飛ばし、大きく打ち上げた。

「虫のさざめき!」

さらにフライゴンは開いた巨大な翅を細かく振動させて空気を揺らし、ノイズと共に衝撃波を放つ。

「だったらマジカルシャインだ!」

エーフィの額の珠が白く輝き、そこから純白の光が周囲へと放出される。

光は衝撃波を打ち破り、さらにフライゴンを巻き込んで吹き飛ばした。ドラゴンタイプのフライゴンには、効果抜群だ。

だが、

「ドラゴンビート!」

効果抜群の一撃を受けてもフライゴンはすぐに立て直し、翅を羽ばたかせて美しい歌声のような羽音と共に音波を放つ。

空中でマジカルシャインを放ったエーフィはまだ着地していないため回避ができず、音波の直撃を受けて地面に叩き落とされてしまう。

「エーフィ! 大丈夫!?」

それでもエーフィは起き上がって頷き、上空のフライゴンを睨む。

さすがはドラゴンタイプの最終進化系だ。砂嵐の壁を作り上げる特殊能力だけでなく、効果抜群の攻撃を受けてもすぐさま反撃に出られる耐久力も持ち合わせている。

おまけにフライゴンの技は特殊攻撃技ばかり。遠距離から華麗かつ苛烈な連続攻撃を仕掛けてくるため、隙を見つけてもそう簡単には攻め込むことができないのだ。

「休んでいる暇はないぞ。大地の力!」

フライゴンが尻尾で軽く床を撫でると、エーフィの周りの床が揺れ始める。

「っ、エーフィ、躱してシャドーボール!」

大地エネルギーが放出される前にエーフィは前進し、大地の力を躱しつつ、額の珠から黒い影の弾を放出する。

しかしフライゴンは即座に砂を巻き上げ、再び砂嵐の中へと身を隠してしまう。

「……そうだ、真上はどうなってる? エーフィ! 上からサイコショットだ!」

ハルが閃き、エーフィもそれを感じ取ったのか、エーフィは大きな岩の上に飛び乗り、そこからさらに跳躍してフライゴンの上を取る。

「……チッ、フライゴン! 上だ!」

フライゴンの姿を、エーフィはその目にはっきり捉える。例えるならば台風の目、風の塊の中心には風は届かない。

上からの襲撃に気付いたフライゴンが慌てて上空を見上げた瞬間、サイコパワーの念弾がその顔面へと直撃した。

「よし、いいぞエーフィ! 続けてスピードスター!」

フライゴンが体勢を崩し、風のバランスが乱れて砂の壁が崩れる。

エーフィはさらに尻尾を振って無数の星形弾を飛ばし追撃を仕掛ける。

「フライゴン、ドラゴンビート!」

しかしフライゴンの反撃も早い。翅を羽ばたかせて美しい歌声のような羽音と共に音波を放ち、星形弾を全弾破壊する。

「サイコショット!」

「虫のさざめき!」

額の珠にサイコパワーを溜め込み、念力の弾を放つエーフィに対し、フライゴンは巨大な翅を振動させて衝撃波を飛ばす。

念弾と衝撃波がぶつかり合うも、エスパー技は虫技には不利。衝撃波に押し切られて念力は打ち破られ、エーフィも衝撃波を浴びて押し戻されてしまう。

「フライゴン、ドラゴンビート!」

さらにフライゴンが翅を大きく羽ばたかせるが、

「タイプ相性なら、こっちだって! マジカルシャイン!」

エーフィも同時に純白の光を放つ。

音波を一方的に打ち消し、純白の光にフライゴンを飲み込んだ。

再び、効果抜群の一撃がフライゴンを捉える。

「よし! エーフィ、シャドーボール!」

さらにエーフィの額の珠が漆黒に染まる。黒い影の弾を作り出し、フライゴンへと発射する。

しかし、

「フライゴン、ギガドレイン!」

遂にフライゴンが動く。

ここまで遠距離から流れるように滑らかに攻撃を繰り返していたフライゴンが、初めてエーフィの方へと突っ込んできた。

影の弾を躱し、風のように一気にエーフィとの距離を詰め、淡く光る尻尾を伸ばし、瞬く間にエーフィを雁字搦めに縛り上げる。

「っ、エーフィ!?」

淡い光がエーフィへ侵食し、その体力を吸収していく。

離れようともがくエーフィだが、フライゴンの尻尾の拘束は相当硬く、抜け出せる様子はない。

「ドラゴンビート!」

尻尾を振ってエーフィを空中に放り投げ、フライゴンは巨大な翅を羽ばたかせて歌姫の歌の如き美しい音波を放つ。

音波に巻き込まれてエーフィは吹き飛ばされ、岩場に激突して地面に落ち、そのまま倒れてしまう。




《ドラゴンビート》
タイプ:ドラゴン
威力:110
特殊 音技
龍の勇ましい咆哮もしくは羽ばたきと共に強烈な音波を放つ。威力は高いが、龍の声で相手を刺激することにより低確率で相手の攻撃力を上げてしまう。

※威力はあくまでも目安です。
※前話の後書きに《ポイズンクロー》を追加しました。
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