ワダンの叫びに呼応し、コートのボタンの代わりに付けられていたキーストーンが光を放つ。
同時に、体毛に隠されていたバクーダの前脚のメガストーンがキーストーンの光に反応する。
双方から発した七色の光が繋がり、一つの大きな光の束となってバクーダを包み込む。
光の中で、バクーダはその姿を変えていく。背中の二つのコブは一体化し、活火山のような形へと変わる。
体を守る体毛はさらに長さを増し、足元まで覆ってしまう。
額に漆黒の模様を刻み、バクーダがメガシンカを遂げる。
大地を揺るがす咆哮と共に、背中の火山が噴火し、辺りに爆炎を撒き散らした。
「これが……メガバクーダ……!」
バクーダの進化した姿、メガバクーダ。背中の火口からは、灼熱のマグマが溢れ出している。
「ただでさえ強かったあのバクーダが、メガシンカ……だけど、ここまで来たんだ。ルカリオ、絶対に! 一緒に勝つよ!」
ハルの声を聞き、ルカリオは、任せろ、と言わんばかりに頷く。
「ルカリオ、波導弾!」
「バクーダ、火炎放射!」
両手を構えたルカリオの掌を纏う波導が形を変え、力を凝縮した青い念弾となる。
バクーダを狙って再び一直線に波導弾が飛ぶが、対してバクーダも再び灼熱の炎を吹き出す。
だがその威力が尋常ではない。メガシンカ前と比べて格段にパワーアップした荒れ狂う炎は、競り合った末に波導弾を打ち破り、ルカリオに襲いかかった。
「っ!」
咄嗟にルカリオは波導を纏う両手を突き出す。
炎を浴びることになるが、地に足をつけたまましっかりと耐えきった。
「先程は適応力の特性を持つメガルカリオに押し負けたが、メガシンカすればこちらも火力は上昇する。加えてメガバクーダの特性は力尽く。技の追加効果がなくなるが、代わりに威力が上昇する。これで立場は逆転だ」
波導弾を打ち破ったバクーダは、足を踏みならして自身を鼓舞し、吼える。
(ルカリオの火力でも負けているのか……だったら、正面きっての勝負は危ないな)
これも敗北から学んだことだ。メガシンカしたとはいえ、当然ながら自分より強いポケモンはいる。
まして相手もメガシンカポケモン。なんの策もなく正面から打ち砕こうとしても、こちらが逆に砕かれてしまう。
ならば、どうするか。
「一つ伝えておこう。メガバクーダは、本来ならばバッジ四つの挑戦者には使わないポケモンだ。だが今のお前たちが本当に正しいメガシンカの力を身につけたならば、こいつを打ち破ることもできるはずだ。特訓の成果を、こいつとの戦いで証明してみせろ!」
「言われるまでもありませんよ。僕たちの力を、ワダンさんにお見せします!」
策はまだある。相手が格上だろうが、そんなものは知ったことではない。
誰が相手であれやることは一つ。戦って、勝つだけだ。
ハルの言葉に呼応し、ルカリオも威勢よく咆哮を上げる。
「ルカリオ、ボーンラッシュ!」
ルカリオが波導の力を放出し、周囲に無数の波導の球体が出現。
特訓で身につけた新たな技だ。ルカリオの周囲に浮かぶ波導球は一斉に小さい槍の形へと変わり、ルカリオが腕を振り下ろすと同時に発射され、四方八方からバクーダを狙う。
「弾幕か……バクーダ、弾き飛ばせ。ダイヤブラスト!」
バクーダの周囲に青白い光が迸り、次の瞬間、煌めく爆発を起こす。
無数の槍は爆風によってまとめて弾き飛ばされてしまうが、
「今だ、ルカリオ!」
爆煙の向こう側から、突如波導の槍を携えたルカリオが現れ、バクーダは額に槍の一撃を叩きつけられる。
放った槍とタイミングをずらし、ルカリオ自身も槍を手にしてバクーダに向かっていったのだ。
「バクーダ、火炎放射!」
だがワダンのバクーダの持ち味は被弾直後の反撃の速さ。すぐさま炎を吹き出し、反撃する。
「やっぱり……ルカリオ、ジャンプだ!」
それを見越していたハルもすぐに指示を出し、ルカリオは槍を地面に突き立て、棒高跳びのように大きく跳躍し、バクーダの放つ炎を躱す。
「ルカリオ、波導弾!」
「バクーダ、逃すな! 上だ!」
宙を舞いながらルカリオが波導の念弾を放出すると同時に、バクーダも背中の火口から炎を撃ち出す。
ルカリオの放った波導弾は炎の弾を貫通しバクーダを捉えるが、その直後、炎が弾け飛び、無数の火の粉がルカリオへと降り注ぐ。
「ルカリオ、立て直して! もう一度波導弾!」
「ならばバクーダ、こちらももう一度火炎放射だ!」
着地して立ち上がったルカリオが波導の念弾を放出し、少し遅れてバクーダも炎を吹き出す。
再び双方の技が激突、しかし今度は波導の念弾が炎に押し切られ、ルカリオが炎を浴びてしまう。
「っ! 炎の質が違うみたいだな……!」
前回の戦いでは気が付かなかったが、背中からの炎と口からの炎は少し質が違うようだ。
背中の炎は少し弱いが、その代わりに弾けやすい。口からの炎は勢いが強い。どちらにしても、回避するのが得策だ。
「大地の力!」
「それなら、真下に発勁!」
バクーダがフィールドを揺らし、大地の力を呼び起こすが、対するルカリオは波導を纏った右手を地面に叩きつけ、強引に大地エネルギーを相殺し、打ち消した。
「バクーダ、目覚めるパワー!」
さらにバクーダは周りに水色のエネルギー球体をいくつも浮かべ、一斉に放つ。
「ルカリオ、躱してサイコパンチ!」
エネルギー球をいくつも飛び越え、掻い潜り、ルカリオは拳に念力を纏わせる。
バクーダの眼前へと飛び込み、念力の拳を叩き込むが、
「ダイヤブラスト!」
その直後、バクーダの周囲に青白い光が迸る。
次の瞬間には空気が爆発、煌めく爆風に巻き込まれ、ルカリオは吹き飛ばされた。
(くっ……分かってたことだけど、なんて打たれ強さだ。このままじゃ、先にルカリオが力負けする……)
「考える暇はやらんぞ。大地の力!」
思考を巡らそうとするハルだが、ワダンがそれを許さない。
バクーダがフィールドを揺らし、大地のエネルギーを呼び起こす。
「っ、躱して!」
飛び退いて大地エネルギーの奔流を回避するルカリオだが、躱したそばから再び大地が揺れる。
「……そうだ! ルカリオ、動き回るんだ!」
ハルの指示を受けて、ルカリオはフィールドを駆け回る。
バクーダもしつこく大地の力でルカリオを攻撃するが、俊敏に動き回るルカリオをなかなか捉えられない。
そして、
「……!」
ワダンが気付いた時には、既にフィールドは砂埃に覆われてしまっていた。
ハルもワダンも、相手どころか自分のポケモンすら見えない。当然、バクーダもルカリオを見失ってしまう。
「今だルカリオ! 発勁!」
そんな中、ルカリオだけは違った。
波導の力で相手の場所を正確に感知することができるルカリオにとって、砂煙など何の障害にもならない。
右手に波導を纏わせてバクーダへと一気に接近し、その脳天めがけて波導で強化された掌底を思い切り叩きつけた。
予期せぬ強烈な打撃を受け、バクーダが遂によろめく。
「ボーンラッシュ!」
さらにルカリオの右手を纏う波導が形を変える。
波導の槍を掴み取り、ルカリオはさらに連続攻撃を叩き込む。
「ぬぅ……バクーダ、吹き飛ばせ! ダイヤブラスト!」
ようやくバクーダが動き出す。
周囲を爆破し、煌めく爆風で砂煙を吹き飛ばすが、既にルカリオは離脱し、ハルの元へと戻っている。
「ようやく、打点を与えられましたよ。さすがに今の連続攻撃は堪えたみたいですね」
得意げな笑みを浮かべるハル。
圧倒的なタフネスを誇るバクーダだが、ここに来てようやく疲労を感じ始めたようだ。
「フン、ここからが正念場よ! バクーダ、気合いを入れろ! 勝負はここからだ!」
それでも、その戦意は衰えない。むしろ逆だ。
ワダンの声に応えてバクーダが咆哮し、背中の火口からマグマを噴出させる。
「火炎放射!」
「躱して波導弾だ!」
バクーダがめいいっぱい息を吸い込み、灼熱の業火を吹き出す。
その炎を跳躍して躱し、ルカリオは右掌を突き出し、青い波導の念弾を放つ。
「逃すな! もう一度火炎放射だ!」
上空のルカリオへと、バクーダの背中の火口から炎が噴射される。
しかし今度は先ほどとは違う。背中からの炎だが、その勢いは噴火でもしているかのように強い。
波導の念弾は炎に打ち破られ、さらにルカリオも炎を浴びて吹き飛ばされる。
「さらに大地の力!」
ルカリオの着地点を見定め、バクーダが大地を揺らし、その一点を狙って大地エネルギーを放出する。
「ルカリオ、軌道を変えて! ボーンラッシュ!」
対して、宙を舞うルカリオは波導の槍を掴み、それを地面へ叩きつける。
その反動によって着地点をずらし、大地の力を回避、さらに、
「発勁だ!」
ルカリオの右手が、波導の力に覆われる。
バクーダが迎撃を仕掛けるよりも早く、ルカリオの渾身の右手の一撃がバクーダへと叩き込まれた。
「ダイヤブラスト!」
だがバクーダもただでは引き下がらない。
歯を食いしばり、大地を踏みしめて根性で耐え抜き、周囲の空気を一斉に爆発させてルカリオを吹き飛ばす。
「どれだけ熱く激しい戦いも、いずれは終わりがやって来る。そろそろ体力も限界だろう。次の攻撃で、このバトルを終わらせてやろう!」
拳を握り締め、ワダンが叫ぶ。
それに対して、ハルも自信に満ちた笑みと共に言葉を返す。
「いいですよ。でも」
そこでハルは一拍置き、
「終わるのは僕とルカリオじゃない。ワダンさんと、バクーダです!」
刹那。
ルカリオを覆う青い波動が、爆発的に展開された。
全身が激しく燃え盛る炎が如き青い波導に包まれ、両腕を覆う波導もさらに勢いを増す。
アリスに教えられた、ハルとルカリオの絆の力が最高潮に達した時に発生する絆の力。その力は、メガシンカを得た今でも健在だった。
いや、違う。
一週間前のままのハルでは、この力を発現させることなどできなかっただろう。
ルカリオとの絆を取り戻したハルだからこそ、再びこの力を使うことができたのだ。
「……バクーダ、火炎放射!」
「ルカリオ、波導弾!」
体内の炎の力を一点に集めて凝縮し、バクーダは紅蓮の爆炎を放出する。
対するルカリオも体を纏う波導の力を全て掌に溜め込み、巨大な波導の念弾を撃ち出した。
双方の全力の一撃が、正面から激突した。
青い波導と赤い炎が轟音と火花を散らし、激しく競り合う。
そして。
その末に遂に均衡が崩れ、波導の念弾が紅蓮の爆炎を打ち破った。
遮るものがなくなった波導弾は、そのまままっすぐに突き進み、バクーダに直撃、蒼き爆発を起こした。
「バクーダ……!」
爆発に巻き込まれ、バクーダの巨体がぐらりと傾き、そのまま地面へと崩れ落ちた。
バクーダの体を七色の光が覆い、元の姿へと戻す。
つまり。
「バクーダ、戦闘不能。ルカリオの勝利です! よって勝者、チャレンジャー・ハル!」
「……よっしゃああああ! ルカリオ、やったー! ワダンさんに、勝ったんだ!」
宿敵を打ち破ったルカリオへ、ハルは駆け出す。
メガシンカが解けて元の姿へ戻ったルカリオも振り向き、駆け寄るハルと笑顔でハイタッチを交わした。
「やったよ! バクーダを倒したんだ! 頑張ったね!」
ハルは歓喜のあまり気付かなかったが、ルカリオは気付いた。
今までメガシンカを使った時と違い、ハルとルカリオ、二人とも叫んで騒げるくらいの元気が残っている。これも、成長の証ということか。
「どうしたことだ……たった一週間だというのに、ここまで伸びるとはな。バクーダ、戻れ。ご苦労だったな」
ワダンが屈み込むと、目を覚ましたバクーダは少しだけ悔しそうな表情を見せるが、すぐに小さく微笑む。
バクーダをボールへ戻し、ワダンはハルへと歩み寄る。
「ハル。どうやらこの一週間で、お前が忘れていたもの、思い出したようだな」
「はい、ワダンさんのおかげです。ありがとうございました」
ワダンの言葉に、ハルは笑顔で礼を言う。
「フン、俺は何もしていない。俺がやったことといえば、お前を打ち負かしたことだけだ。その言葉は俺じゃなく、お前のポケモンと友人にかけてやるんだな」
相変わらず無愛想でぶっきらぼうだが、その言葉には一週間前にはなかった温かみが感じられた。
「さて、悔しいが負けは負けだな。お前の実力を認め、こいつをやらなければな」
そう言ってワダンは懐から小さな箱を取り出し、それを開く。砂の舞う竜巻のような形をし、真ん中にアルファベットのGの文字を刻んだ、白と茶色を基調したバッジだ。
「カタカゲジム制覇の証、ガイアバッジだ。受け取れ」
「はい、ありがとうございます!」
かくして、ハルはワダンへのリベンジを果たし、ハルのバッジケースには五つ目のバッジが填め込まれた。
このガイアバッジは、ハルとルカリオにとって、正しい力を得たことを表す特別な記憶となるのだった。