魔王と救世の絆   作:インク切れ

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第72話 エリーゼの相棒

「行ってきなさい、ハッサム!」

「出てきて、ルカリオ!」

 

今日は、サーカスの日の前日。

ハルがカタカゲジムを突破してから、ハルとサヤナ、エリーゼの三人はカタカゲシティを観光して回っていた。

カタカゲ博物館ではサヤナがはしゃぎすぎて職員の人にやんわりと注意されたり、商店街ではこれまたサヤナが迷子になりかけたり、港の市場では引き上げられた大量のヨワシとバスラオを見てエリーゼが震え上がっている横でちゃっかりサヤナがウデッポウという青いエビのようなポケモンをゲットしたりしていた。ハルは終始サヤナに振り回されていた。

しかしサーカスまでは一週間もあり、さすがに見るものはなくなってくる。

明日にはサヤナとエリーゼはサーカス、ハルはワダンとの特訓が控えているということで、今日は外出はしない代わりに、三人で交代でポケモンバトルでもしようかということになった。

そして、今はハル対エリーゼ。

「それにしてもハル、まさか私のハッサムと戦ってみたいなんて。手加減はいたしませんわよ、全力で掛かってきなさいな」

「もちろんです。エリーゼさんのハッサムと一度戦いたいと思ってたんです!」

しかし、ポケモンセンター地下の交流場とはいえ、周りには他のトレーナーもいる。

ハルがメガシンカを使えることはあまり知られたくはないので、今回はメガシンカは無しだ。

「それじゃあ、行くわよ! ハッサム、バレットパンチ!」

ハッサムが翅を羽ばたかせ、地を蹴って飛び出した。

初速から一気にトップスピードを叩き出し、一瞬でルカリオとの距離をゼロまで詰める。

ルカリオに体当たりをかまして体勢を崩し、直後、ハッサムが繰り出すマシンガンの如き連続パンチがルカリオを襲う。

「シザークロス・“斬”!」

さらにハッサムの鋏が赤い刃のオーラを纏う。

本来シザークロスは二本の鋏や刃で相手を切り裂く技だが、このハッサムは二本分のエネルギーを右手の一本に集中させたのだ。

連続打撃の締めに赤い刃を振り抜き、ルカリオを切り裂き、吹き飛ばした。

「っ、なんて攻撃の速さ……! ルカリオ、大丈夫!?」

幸い、どちらの攻撃も効果は今ひとつ。ルカリオは起き上がると両手で頬を叩き、気合を入れ直して頷く。

「さあ、ハル。体が震えてるんじゃなくて? カロスで《紅の弾丸(クリムゾンバレッジ)》と呼ばれた私とハッサムの力は、まだまだこんなものじゃないわよ!」

「へへっ、武者震いですよ。どこまで通用するか、楽しみなんです! ルカリオ、今度はこっちの番だ! ボーンラッシュ!」

ルカリオが両手を突き合わせると、その手に纏った揺らめく波導が槍の形を作り上げる。

波導の槍を携え、ルカリオが駆け出す。

「シザークロス・“断”!」

ハッサムが突き出した鋏が再び赤いオーラを放つが、そのオーラは刃ではなく、今度は大きな鋏の形を取る。

「っ……!?」

巨大な鋏を構えたハッサムが、正面からルカリオの槍の一撃を挟んで受け止める。

そのまま鋏を閉じ、波導の槍を両断してしまった。

「“斬”!」

鋏を纏うオーラが形を変え、一本の赤き刃となる。

しかし、

「ルカリオ、波導弾!」

ルカリオの持つ槍は、波導が形を変えたもの。手を離れようと、ルカリオなら自由自在に操ることができる。

折られた槍は形を変えて二つの波導の念弾となり、ハッサムの左右から飛来する。

刃でルカリオを迎撃するよりも早く、双弾がハッサムを捉えた。

「続けて発勁だ!」

予期せぬ攻撃に体勢を崩したハッサムへ、ルカリオが波導を纏った右手を突き出す。

ハッサムの腹部へ掌底を叩きつけ、その身を吹き飛ばした。

「へーえ、やりますわね。ハッサム、負けてられないわよ!」

立ち上がったハッサムは無言で頷き、ふたたび鋏を構える。

「ハッサム、燕返し!」

「ルカリオ、ボーンラッシュ!」

ハッサムが翅を震わせて飛び出し、対するルカリオは波導の槍を作り上げる。

槍を構えて迎え撃つルカリオに対し、一気に距離を詰めたハッサムはルカリオの眼前で僅かに跳躍、翅を羽ばたかせて滞空。

さらに四肢をまるで四本の剣かのように振るい、滞空し回転しながら流れるように四本の斬撃を立て続けに放ってくる。

波導の槍を振るい、ハッサムの連続攻撃を捌き続けるルカリオだが、相手の手数は四本でこちらの得物は一本。

さすがに捌ききれず、ハッサムの鋏に殴り飛ばされてしまう。

「バレットパンチ!」

翅を激しく振動させたハッサムが滞空したまま飛び出していく。

自分で殴り飛ばしたルカリオへ一瞬のうちに追いつき、弾幕が如き連続パンチを放つ。

「ルカリオ、波導弾!」

恐ろしいスピードの連続パンチが降り注ぐが、威力自体はさほど高くない。

バレットパンチを耐え切り、ルカリオは右手をハッサムへと突き立てて波導を凝縮した念弾を発射、ゼロ距離から波導を炸裂させた。

「よっし、なんとか引き剥がした! ルカリオ、発勁だよ!」

ルカリオが右手に波導を纏い、再び駆け出す。

吹き飛ばされてまだ体勢の整わないハッサムへ右手を振るい、掌底を叩きつける。

対して、

「……! ハッサム、そろそろ本気を見せますわよ!」

発勁をまともに受け、それでもまだハッサムは起き上がる。

首を振って体勢を整え、ハッサムはエリーゼの言葉に頷き、大きく跳躍する。

 

「ハッサム、剣の舞!」

 

滞空したハッサムが体内に力を溜め込む。

それを解き放つと当時、ハッサムの背後に二本の剣の形をした青い光が浮かび上がる。

一瞬だけ剣の形をとった青い光は、すぐに形を変え、オーラとなってハッサムを纏い始めた。

「っ……! やばい……!」

剣の舞は、自身の攻撃力を飛躍的に上昇させる技だ。

単純かつ強力、それ故に隙が大きい技でもあるのだが、ハッサムはルカリオの攻撃を躱した直後、さらに手の届きにくい上空で使うことにより、ルカリオの追撃をある程度カバーした。

「さあ、覚悟はいいかしら? ハッサム、燕返し!」

身体中を纏っていた青いオーラを四肢に集中させ、ハッサムが急降下する。

「ルカリオ、来るよ! 波導弾だ!」

上空のハッサムを見上げ、ルカリオが両手を構え、波導の念弾を撃ち出すが、

「弾いてしまいなさい!」

鋏の一振りで波導弾を弾き飛ばし、ハッサムはルカリオに急接近、青く輝く四肢を広げて高速回転し、まるで四本の刃でルカリオを切り裂くような連撃を放ち、締めに鋏で殴って吹き飛ばす。

「ハッサム、後ろ! 来てるわよ!」

波導弾は必中技なので、一度弾いても弧を描いて戻ってくる。

しかし、再度飛来する波導の念弾をハッサムは鋏で受け止め、今度こそ砕いてしまう。

「シザークロス!」

両腕に青い刃のオーラを構えたハッサムが突撃する。

「迎え撃ってもやられるか……! ルカリオ、躱して!」

剣の舞を積まれている以上、迎撃は得策ではない。

咄嗟にルカリオは大きく横っ飛びし、ハッサムの斬撃を躱すが、

「逃がさないわよ! “射”!」

ハッサムの瞳が、ルカリオを捉える。

距離を取ったルカリオに両腕を向け、ハッサムの鋏を纏う青い刃のオーラが、刃の形をしたエネルギー弾となって発射された。

「なっ……まさか!?」

遠距離攻撃にまで使えるとはさすがに想定外だった。

完全に不意を突かれたルカリオに、光の刃が突き刺さる。

「今よハッサム! バレットパンチ、からの――」

その隙を逃さず、ハッサムは一瞬でルカリオとの距離を詰める。

青い光を纏った弾幕の如き連続パンチがルカリオに降り注ぎ、

「――シザークロス・“斬”!」

ハッサムの右鋏から、巨大な青い刃のオーラが飛び出す。

とどめの一撃、ハッサムは右腕を思い切り振り下ろし、青き光の大刀をルカリオへと叩きつけた。

「ルカリオっ!?」

吹き飛ばされて地面に叩きつけられ、そのままルカリオは目を回して倒れてしまった。

「ルカリオ、戦闘不能ー! ハッサムの勝ちだよ!」

審判をやっていたサヤナが、ハッサムの勝利を告げる。

「……よし、こんなところですわね。ハッサム、上出来ですわ。ボールで休む?」

エリーゼがボールを取り出すが、ハッサムは首を横に振る。まだ大丈夫ということらしい。

「ルカリオ、お疲れ様。さすがにエリーゼさんのエースは強かったね……だけど、いい経験になったね」

目を覚ましたルカリオは少しだけ悔しそうな表情を浮かべるが、それも束の間、すぐに笑みを浮かべ、頷く。

「いつかあのハッサムを超えられるくらい、僕たちも強くならなきゃね。戻って、休んでてね」

ルカリオをボールに戻し、立ち上がると、エリーゼが近づいてきていた。

「さすが、エリーゼさんのエースポケモンですね。いい経験になりました、ありがとうございました」

「……ど、どういたしまして。ヒザカリ大会では負けましたけれど、何回も負けてあげるほど優しくはなくてよ?」

ハルの言葉にエリーゼは少し顔を赤らめるが、すぐにいつもの調子を取り戻す。

「そういえばエリーゼさん、カロス地方を旅してたんですか?」

「そうよ。カロス地方で始めてポケモントレーナーになって、バッジを八個集めて、ポケモンリーグにも参加したわ。ベスト8まで進んだかしら」

「ええっ!? もしかして初出場でベスト8!?」

サヤナが驚きの声を張り上げる。

「そうよ。ルーキー唯一の本戦進出だったから、少しは話題になったかしら。ハッサムと私の髪が赤いから、《紅の弾丸(クリムゾンバレッジ)》なんて呼び名も付けられたし」

得意げにエリーゼは笑うと、

「このハッサムは私の最初のポケモンなの。ハダレタウンの大会でスグリには話したけれど、マデルではこっちで捕まえた五匹で旅をしていますのよ。ハッサムは五匹のコーチ役で、ジム戦や大会では使わないようにしていますの」

たしかに、小規模の大会でこの実力のポケモンを使えば、なんの苦もなく優勝してしまうだろう。

「けれど、ルカリオもなかなかの腕前でしたわよ? 本当は剣の舞を使わずに勝つつもりでしたけれど、ハルのルカリオ、メガシンカがなくても充分戦えるようですわね。特にあの断たれたボーンラッシュを即座に波動弾に変える動き、あれはお見事でしたわ」

「ありがとうございます。あれ実は、サヤナとの特訓で身につけたんですよ」

今までは、体から離れた波導をルカリオは上手く扱えなかった。

ワダンに勝つためのサヤナとの特訓で、体からある程度離して波導を扱うことができるようになったのだ。そのうちの一つとして、ジム戦でも複数の波導の槍を放つボーンラッシュを成功させている。

「さて、今日はこんなところかしら。ハル、明日はワダンさんとの特訓があるのでしょう? 遅れてはダメよ」

「ええ、頑張ってきます。エリーゼさんとサヤナは、サーカス楽しんできてくださいね。土産話楽しみにしてますよ」

「もちろん! にひひー、写真撮影オッケーだったらいっぱい撮ってきてあげるよー! ハルも頑張ってね、どんな特訓だったか後で聞かせてね!」

正直、二人がサーカスに行くとなるとハルも少しばかり寂しいが、後悔はしていない。

それに、ジムリーダーとの特訓などそうそうできるものではないのだ。ある意味では、サーカスよりもレアなイベントかもしれない。

(滅多とないジムリーダーとの特訓だ。あのワダンさんの特訓だけあってなかなかハードなものだろうけど、せっかくの機会だ。頑張るぞ!)

期待に胸を弾ませながら、ハルはポケモンセンターの宿舎へと戻る。

 

 

 

そして、ポケモンセンターの宿舎のまた別の一室。

「あぁぁぁ、よかったぁ……」

だらりと無造作にベッドへ横たわる少女、エリーゼ。普段の様子をよく知っている者がこの光景を見れば、愕然とするだろう。

「ハルも随分と強くなってるわねぇ……多分剣の舞を使わなくても勝ってるとは思ったけど、焦っちゃったわ……ねえハッサム、私が焦ってたのハルたちに伝わってないわよね……?」

本当に不安そうな表情を浮かべ、エリーゼは傍のハッサムに尋ねる。

やれやれといった様子で、ハッサムがエリーゼの言葉に頷く。

ポケモンバトルにおいて、トレーナーとポケモンの一体感は非常に重要になる。トレーナーとの気持ちにズレがあると、ポケモンもその全力を発揮できない。

しかしエリーゼのハッサムは違う。主であるエリーゼの焦りが見えても、常に冷静にいつも通りの力を発揮できるようになった。

明確な強みだが、これは実力の証・特訓の賜物というだけではなく、普段はクールに振舞っているが実は恥ずかしがり屋で照れ屋なエリーゼの性格にハッサムが慣れてしまったからでもあるのだが。

早い話が、エリーゼが焦るのなんていつも通りのことなのだ。

「ならいいんだけど……とりあえず、クールなお姉さんのイメージは崩れてなさそうだし。ていうか、人に感謝されるのって照れるわね……」

カロスを旅していた時とは違い、エリーゼはもうルーキーではない。

つまり、ハルやサヤナのような後輩トレーナーから尊敬の眼差しを向けられることに慣れていないのだ。

「まぁ、とりあえずちゃんと先輩トレーナーとしての実力を見せられてよかったわ。明日はサヤナと一緒にサーカスだし、ちゃんと見ててあげないとね。あの子すぐはしゃぎ出すから……」

ふぅ、とエリーゼは一息つき、

「それじゃ、そろそろ寝ましょうか」

頷くハッサムをボールに戻し、エリーゼは部屋の照明を落とす。

一日は終わり、そしてまた次の日がやって来る。

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