魔王と救世の絆   作:インク切れ

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第73話 新しいバトルスタイル

「それじゃ、頑張ってねー!」

「しっかり鍛えられてきなさいね」

「うん。それじゃ、二人も楽しんできて」

翌日。

サヤナとエリーゼと別れ、ハルはワダンに指定された街の端の洞穴とやって来た。

「よし、来たな。それでは少し早いが、始めようか」

「おはようございます。今日はよろしくお願いします」

予定時刻より早く着いたのだが、既にワダンは洞穴の前で待っていた。

ワダンに連れられ、ハルは洞穴の中へと入っていく。

洞穴の壁には一定間隔でランタンのような照明が付けられているが、古いもののようで、切れかかっているものや既に消えてしまっているものもある。

少なくとも、天然の洞穴ではなさそうだ。

「ワダンさん、ここは……?」

「旧マデルトンネル、その跡地だ」

ハルの言葉にワダンは答え、

「この街には人工のトンネルがあってな。マデルトンネルと言って、カタカゲシティとノワキタウン、イザヨイシティを繋ぐトンネルだ。ここはその前身、カタカゲとヒザカリを繋ぐ予定だったトンネルだ」

「跡地……予定だった……? ってことは、繋いでないんですか?」

「ああ。開通作業の途中で、天然の洞窟と繋がってしまってな。工事を続けるかどうかで揉めたが、最終的には野生ポケモンの生態系を守るために俺が中止させた。繋げてしまえという声もあったがな。まぁつまり、ここはトンネルとしては使われていない、跡地というわけだ」

で、とワダンは続け、

「もう少し進むと開けた空間がある。そこを俺たちカタカゲジムのメンバーは訓練所として使っているのだ。今はそこに向かっている」

そこから少し進むと、ワダンの言った通り開けた場所に辿り着いた。

この広間だけは照明も明るく、特訓にも支障はなさそうだ。

「さあ、それでは始めるか」

「よろしくお願いします!」

ワダンの言葉に続いて、ハルが頭を下げる。

「さて、ではお前が来るに当たって、どんな特訓にしようかと考えていたのだが」

モンスターボールを取り出し、ワダンが口を開く。

「一般トレーナーと一対一で特訓を行うなど、俺としても滅多にあることではないからな。特別にメニューを組ませてもらった。地面タイプのエキスパートとして、お前に足りない知識、身につけておくといい技術を叩き込んでやろう」

ワダンはそこで一拍置き、

「まず。お前がこの特訓で使うポケモンは、ワルビルだけだ」

「えっ? ワルビル一匹ですか?」

「そうだ。さっきも言ったが、俺は地面タイプのエキスパートだ。マデル地方の中で、地面タイプについては誰よりも詳しい自信がある。そんな俺と特訓をするのだから、ワルビルを重点的に鍛えるのが合理的だとは思わないか?」

「……なるほど。たしかに、そう言われればそうですね」

ちょうどワルビルも先のジム戦で活躍できずに悔しがっていたところだ。ジムリーダーに直々に鍛えてもらえれば、いい経験になるだろう。

「それじゃワルビル、出てきて」

モンスターボールを取り出し、中からはワルビルが現れる。

「ワルビル。今日一日、君がワダンさんと一緒に特訓することになったんだ。地面タイプ使いのワダンさんとの特訓だから、きっと強くなれるよ。頑張ろうね」

ハルの言葉を聞いてワルビルはワダンの方を向き、敬礼のポーズを取る。

「ほう、やる気は充分のようだな。では、出てこい、サンドパン、サナギラス!」

ワダンの手にした二つのボールから出てくるのは、サンドパンとサナギラス。

なのだが、

「あれ? そのサンドパン、ジム戦のとは別個体ですか?」

サナギラスは同じ個体だが、このサンドパンはジムで見た個体より、少しだけだが大きい気がする。爪にはスポンジのようなパッドを取り付けられている。

「そうだ。ジム戦で使ったあのサンドパンの兄に当たるポケモンで、ジムバッジを七個以上持っているトレーナーに対して使う個体だ。こいつは砂かきの特性が発動して高速で動けるようになっても、軌道を変えて動くことができる」

「その爪につけているスポンジのようなものは?」

「これから行う特訓のためのものだ。こいつの爪は鋭いから、ワルビルに余計なダメージを与えないようにな」

さて、とワダンは続け、

「ジム戦をしていて、気づいたことがある。お前の手持ちポケモンは全員、自分から積極的に攻撃を仕掛けにいく戦法のようだな」

「……ええ、そうですね」

「ルカリオ、ファイアロー、エーフィの三匹は素早さが自慢のポケモンだから、そのままの戦法を極めていけば順当に強くなれるだろう。だが、ワルビルは別だ。決して遅いポケモンではないが、ワルビルというポケモンは進化してもそこまで素早くはならない」

「えっ、そうなんですか?」

「ああ。ワルビルは進化すると、ワルビアルというポケモンになる。攻撃力がさらに強化されるが、どちらかといえば中速のポケモンだ」

その代わりに、とワダンは続け、

「細身のワルビルと比べて頑強な体つきとなり、耐久力も大きく上昇する。お前のワルビルの特性は威嚇だから、物理攻撃を仕掛けてくる相手に対して強く出ていけるようになる。つまり、今のうちに新たな戦法を身につけておいた方がいい」

「新たな戦法……ですか」

正直なところ、ハルはそこまで戦法を深く考えたことはなかった。

相手の攻撃を躱したり捌いたりしながら、機動力で積極的に攻める。最も基本的となるその戦い方がたまたま手持ちのメンバーに合っていたので、今までそれで戦い続けてきただけだ。

「そうだ。スピードを武器に戦うポケモンは、自分より機動力の高い相手が極端に苦手だ。例えば、先日のジム戦。お前は俺のサンドパンがまっすぐにしか移動できないという弱点を突いたが、もし高速で自由自在に動けたとしたら? サンドパンより遅いポケモンしか連れていないお前は勝てていたか? ポケモンリーグまで行けば、それくらいの相手はわんさか出て来るぞ」

ハルは考える。

勝てなかった、とまでは言い切れないが、恐らくかなり苦しい戦いになっていただろう。ルカリオの波動弾を主体に攻めることになっただろうし、そこでルカリオが消耗していた場合、バクーダに負けていた可能性も決して小さくはない。

「そういう時に、耐えて戦う戦法が使えるポケモンがいると話は違ってくる。例えるならば俺のバクーダだな。相手の攻撃を耐え切り、即座に相手より重い一撃を放つ、受けのバトルスタイル。頑丈なポケモンは一発もらう覚悟でいれば、相手に大ダメージを与えることができる。ワルビルならそれができる、というか、俺はお前のワルビルならその方が戦いやすいと思っている。お前たちが望むのであれば、今日一日という短い時間ではあるが、新たなバトルスタイルをお前たちに叩き込んでやろう。どうする?」

ワダンに訊かれ、ハルはワルビルと顔を見合わせる。

ワルビルはニヤッと笑って、頷いた。

「はい! ぜひ、お願いします!」

ハルに続いてワルビルも威勢良く吼えると、それを見てワダンは小さく口元を緩め、

「よし、いいだろう。こういうのは実践練習が一番だ、早速始めるとしよう。サナギラス、砂嵐!」

サナギラスがその場で高速回転して風を起こし、砂を風に乗せて広間全体に砂嵐を巻き起こす。

「これからサンドパンが高速でこの周りを動き回りつつ、不定期にワルビルへ攻撃を仕掛ける。最初は回避でもいいが、慣れてきたら攻撃を受け止める、もしくは受け流すのだ。やってみるぞ。サンドパン、まずは1.5倍速だ!」

サンドパンが地を蹴り、駆け出す。

1.5倍速とはいえジム戦のサンドパンと同等の速度で動いて来るので、目で追うのは困難だ。しかもこのサンドパンは直線に動くだけではなく時折急カーブも交えるため、なおさらだ。

そうこうしているうちに、サンドパンが高速で襲い掛かり、防護パッドをはめた爪でワルビルを突き飛ばす。

「っ、ワルビル!」

ワルビルが体勢を立て直した頃には、サンドパンは既に再び周囲を駆け回っている。

鋭い爪には防護パッドをはめているため刺されたり切り裂かれることはないが、それでも受ける衝撃は大きい。

ワルビルがサンドパンを見失ったところへ、再びサンドパンが爪を突き立てる。

「目で追おうとするなよ。目で追ってしまうと見失った瞬間のリカバリーが効かない。ハル、ワルビルは砂の中で暮らすポケモンだろう。周囲を探る力は鍛えられているはずだ」

「なるほど……そうか。ワルビル! 地中にいる時の感覚で、周りの様子を探るんだ。だいたいでいいから、攻撃の来る方向をある程度予測して!」

ハルの言葉を聞き、必死にサンドパンを探していたワルビルは動きを止めてその場で周囲を警戒する。

風を切る音、砂嵐の乱れなど、僅かな要素からサンドパンの動きを追う。

「サンドパン、行け!」

直後、斜め後ろからサンドパンが襲い掛かる。

やはり攻撃を受けてしまうワルビルだが、今度は少し遅かったもののサンドパンの襲撃に気づき、回避しようとしていた。

「そうだ! その感覚だ。そして気づいただろう? 俺は先ほど最初は回避でもいいと言ったが、自分より相当速いポケモンが相手では回避は間に合わない。腹部のような弱点を避け、腕や肩などで相手を受け流すか受け止める。まずは受け流してダメージを軽減するところからやってみろ」

「はい! ワルビル、もう一度だよ。今度は受け流すことを意識してみて」

高速で周囲を駆け回るサンドパンに対し、再びワルビルはその場でサンドパンの場所を探る。

「行け!」

左からサンドパンが爪を構えて襲い掛かる。

ワルビルは咄嗟に腕を振るって爪を弾こうとしたが、先にサンドパンの刺突がワルビルを捉えた。

「っ、やっぱり速いな……!」

飛び抜けたサンドパンのスピードに歯噛みするハルとワルビル。

しかし、

「いや、なかなかいい調子だぞ」

対照的に、ワダンの表情は明るい。

「えっ?」

「気付かないか? 動きには追いつけていないとはいえ、ワルビルはこの短時間でサンドパンの襲撃位置をかなり正確に見定められるようになっている。ワルビル、お前なかなか筋がいいじゃないか」

ワルビル自身も自覚できていなかったようで、きょとんとした表情を浮かべる。

「攻撃に間に合っていないことを気にしているのなら、その心配は不要だ。今までとは違うバトルスタイルを覚えようとしているのだから、最初から上手くいかないのは当然だ。一朝一夕で身につくものでもない。だから今日はまずコツを掴め。最低限の必要なものを今日のうちに身につけて、あとは実戦の中で学んでいけ」

さて、とワダンは続け、

「それでは、もう一度行くぞ。サンドパン!」

「はい! ワルビル、構えて!」

洞穴の中、ハルとワルビルの特訓はまだまだ続く。

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