魔王と救世の絆   作:インク切れ

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第75話 演目:再誕の儀式

「――さあ皆様。お次に披露いたしますのは、お手元のパンフレットにも載せていない、今回の公演限定の秘密のショーでございます」

大盛り上がりの舞台の最中。

メルヘル団長がステージに上がり、そう告げると、ステージを照らす明るいライトが妖しく薄暗い紫色へと変化する。

「さて、我々ハーメルン・サーカスを昔から応援してくださっている心優しきファンの方々はご存知でしょう。グリムという人の名を。この私、メルヘルは当サーカス二代目の団長。初代団長、グリムさんは、それはそれは偉大なお方でした。ハーメルン・サーカスを作り上げ、ここまで大きなサーカス団に発展させたのは、偏にグリム団長のお力があってこそ、そう言い切っても過言ではありません」

マイクを持ち、まるで演説でもするかのように、メルヘルは語る。

会場がにわかにざわつき始める。この後に一体何が起こるのか、誰にも想像がつかない。

そんな観客席を見据えて、メルヘルは怪しげな雰囲気の混ざった笑みを浮かべて、次の言葉を放つ。

 

「これより、初代団長――グリムの、再誕の儀式を行いましょう!」

 

観客席がどよめく。

「ヘンゼル君! 例のものを!」

それもそのはず。初代団長であるグリムは、既にこの世を去ってしまった故人であるはずなのだ。ハーメルン・サーカスのファンならば、誰もが知っていることだ。

もちろん、サヤナとエリーゼも例外ではない。

「どういうこと……? グリムさんって、確かもう死んじゃってる人なんだよね……?」

「ええ。何かしらのトリックでそれっぽく見せるだけなんでしょうけど……それにしてもこの空気感、なんだか嫌な予感がするのよね……」

名状し難い何か不気味な雰囲気に会場全体が包まれていく中、青いピエロが紫の宝石の結晶のようなものをステージ上へと持ってくる。

「皆様、この大きな結晶が見えますでしょうか。グリム団長は自らの死の間際、この結晶の中へと自らの魂を封印したのです。自分がいなくなってもサーカス団は無事にやっていけるのか、不安を抱えていらっしゃった。死ぬに死に切れなかったのでしょう。ですが」

そこでグリムは一拍起き、

「本日の公演には、それはそれは多くのお客様が来てくださった。この素晴らしい光景を、グリムさんにも是非見ていただきたいのです。グリムさんがこの場に留まれる時間はそう長くはないでしょうが、それでも! 大盛況のサーカスを見ていただくため、この場で、グリム団長を再誕させていただくのです!」

ざわついていた会場が、次第に静寂の波に飲まれていく。

「この結晶からグリム団長を再誕させるためには、猛々しい炎の力が必要となります。我らの熱い想いを炎へと変え、この結晶へと注ぐのです! それでは、グレーテル君!」

メルヘルの呼び声を受けて、今度は無数のカエンジシを引き連れた女性団員が現れる。

女性の指示を受けて、カエンジシたちはその結晶へと一斉に炎を吹き出す。

強烈な炎を何重にも浴びて、次第に結晶の形が歪む。

その末に。

遂に炎に耐え切れず、結晶が砕け散った。

ガラスを砕いたような音が響き渡る。固唾を飲んで見守る観客たち。

そして。

 

「――誰か、儂の名を呼んだか……?」

 

炎が消えると、そこには先ほどまではいなかった老人が立っていた。

そこまで背は高くないが、お洒落に着飾っており、その顔には柔和な笑みが浮かんでいる。

次の瞬間。

会場から、爆発音が如き大歓声が沸いた。

「えっ? えっ!?」

初めてサーカスを見るサヤナには何が何だか分からない様子だが、

「……そんな、まさか」

その隣では、恐る恐るエリーゼが口を開く。

「ど、どういうこと?」

「……信じられないけれど。ステージに立っているあの老人こそ、グリム団長なのよ」

「うそっ……えっ、本当に?」

「ええ……どういう原理でこのショーが成り立っているのか、全く分からないけれど……だけど、あそこまで滑らかな動きが出来る作り物なんて見たことない。立体映像でもなさそうだし、声もそっくりだし、誰かの変装とも……」

原理は全く不明だが、故人であるはずの人間が本当に現れてしまった。

言いようのない疑惑はあれど、古くからのファンともなれば感激しないわけがない。

「……おや、メルヘル。久しぶりじゃのう。この光景を見るに、今はサーカスショーの真っ最中かの?」

そんな観客席の様子はよそに、グリムはきょとんとした様子で尋ねる。

「はい、グリムさん! あなたがいなくなった後でも、これだけ多くの人たちが、サーカスを見に来てくださったのです!」

メルヘルが答えると、グリムはにこりと笑い、

「ほう、それはよいことじゃ。では、元団長として、私も一つ、サーカスに参加させてもらおうかのう」

グリムの言葉に、大盛り上がりの会場はさらに湧き上がる。

そして、そんな会場の様子を見てグリムは微笑みながら、二つのボールを取り出す。

その瞬間。エリーゼがサヤナの腕を掴んだ。

グリム団長の言葉が、響く。

 

「この僕が見せるのは、永遠なる幻影と奈落のショー! 出でよ――」

 

 

 

「さて、そろそろ再開するか」

「はい! ワルビル、いける?」

食事休憩を終え、再び立ち上がるワダンとハル。

ワルビルも短く声を上げて頷き、ハルに続いて立つ。

と、そこへ唐突にアルス・フォンの着信音が響く。音を鳴らしているのはハルの端末のようだ。

「出ていいぞ」

「すいません、ありがとうございます。誰からだろう……ん、サヤナ?」

こんなトンネルの中でも電波が届くことに少し感心しつつ、ハルは画面を操作して通話を繋げる。

「もしもし、サヤナ? どうしたの? サーカスは――」

何気なくそう尋ねるハルだが、

『ハル! 大変なの! ワダンさんと一緒に、すぐに戻ってきて!』

ハルの言葉は遮られた。

明らかにサヤナの様子がおかしい。少なくとも、サーカスが終わったという報告ではなさそうだ。

「えっ!? どうしたの、何かあった?」

『緊急事態なの! いや緊急事態なんてレベルじゃないの! とにかく、今すぐに戻ってきて! あのサーカス団は――』

サヤナがそこまで言ったところで、通話の向こうから爆発のような音が聞こえた。

「ちょっ……サヤナ!?」

『っ、ごめんハル、時間がない! とにかくお願い!』

それだけ告げられ、通話は切れてしまう。

何が何だか分からず焦るハルだが、

「落ち着け、ちゃんと聞こえていたぞ。どうやら、街で何かが起こっているようだな」

その様子を見ていたワダンの冷静な言葉で、何とか落ち着きを取り戻す。

「すぐに戻ってきてほしいって言ってました。サーカスが何かって、伝えようとしてたように聞こえましたけど……」

ハルの言葉を聞いてワダンもアルス・フォンを取り出し、画面を操作するが、やがて首を横に振る。

「そのようだな。俺も今サーカスを見に行ったジムトレーナーに連絡しようとしたが、全く繋がる様子がない。さてはあのサーカス団、何かしでかしたな」

と、なれば。

「ハル、特訓は中止だ。今すぐにカタカゲシティに戻るぞ」

「了解です! 急ぎましょう、あまり時間がなさそうです」

それぞれのポケモンをボールへ戻し、ハルとワダンは薄暗いトンネルを走り出す。

 

 

 

何が起こったかが分からなかった。

エリーゼに突然腕を掴まれて引っ張られ、とにかく走り、テントの外に飛び出した次の瞬間、そのテントが膨張して風船のように膨らみ、中にいる人間を閉じ込めてしまう。

さらに地響きと共にテントの下から荷車が現れ、テントを乗せてゆっくりと街から出ようとしている。

「えっ……な、何!? 何なのこれ!?」

「……こいつらはサーカス団なんかじゃない。ハーメルン・サーカスを騙った、人攫いの集団! サヤナ、ハルに連絡を! 急いで! 私はこいつらを止める!」

「人攫い!? わ、分かった!」

慌ててサヤナはアルス・フォンを取り出し、ハルへと通話を掛ける。

『もしもし、サヤナ? どうしたの?』

幸い、ハルはすぐに通話に出てくれた。

まだ喋っている途中のハルに構わず、サヤナは叫ぶ。

「ハル! 大変なの! ワダンさんと一緒に、すぐに戻ってきて!」

『えっ!? どうしたの、何かあった?』

サヤナの異変に気付いたようで、ハルの口調が変わる。

「緊急事態なの! いや緊急事態なんてレベルじゃないの! とにかく、今すぐに戻ってきて! あのサーカス団は」

人攫いの集団なの、と続けようとしたサヤナ。

しかし、突如爆発音が響き、サヤナとエリーゼからテントを遮るように二人の人影が現れる。

「くっ……サヤナ! こっちに!」

「う、うん! っ、ごめんハル、時間がない! とにかくお願い!」

最低限のことは伝えられた。通話を切り、サヤナは急いでエリーゼの隣へ走る。

現れたのは一組の男女だった。青いピエロ姿の男と、蝶を模したようなゴシックな衣装の赤髪の女。名前は、ヘンゼルとグレーテルだったか。

敵意がだだ漏れ、明らかに戦う気だ。テントから逃れたサヤナとエリーゼの足止め、もしくは口封じのために出てきたのだろう。

「さてさて……お姉はん、よう気付きよったなぁ。私らがただのサーカス団やあらへんことに」

青いピエロ、ヘンゼルが柔和な、それでいてどこか不気味な笑みを浮かべる。

「というか、どうしてメインターゲットがサーカスに来ていないのよ。兄さん、もしかしてチケットを渡す相手を間違えたんじゃないでしょうね」

ヘンゼルとは対照的に苛立ちを募らせた様子で、女性団員グレーテルはヘンゼルへと言葉をぶつける。

「まさか。私がそないなミスするアホなわけあらへんがな。ちゃーんと上から指示された通りの相手に渡したで」

「そうよね……あっ! まさかあのクソ団長、あの時!」

「こーら。口が悪なっとるで、グレーテル」

何か心当たりを思い出したのか急にキレ始めたグレーテルを、ヘンゼルが諌める。

「はぁ……何事も予定通りにはいかないわね。クソが、面倒くさいったらありゃしない」

「ま、そう言うなや。こうなったもんは仕方あらへん。さて、すんまへんけど」

そこまで言って、兄妹はエリーゼとサヤナに向き直る。

「何でお姉はんが私らの正体に気付いたんかは分からへん。せやけど、流石に私らとしても目撃者のお姉はんらを見逃すわけにはいかへんのや。分かるな?」

「だからしばらく、もしくは永遠に。大人しくしててもらうから」

怪しい笑みを浮かべるヘンゼルと、不機嫌そうなグレーテルが、ボールを取り出す。

「お断りですわ。さっさとあなたたちを倒して、テントに閉じ込められた人たちを助けなければなりませんので」

「そうだよ! そこを通してもらうんだからね!」

観客を閉じ込めたテントがゆっくりと去っていく中、ハーメルン・サーカスの二人組と、エリーゼ&サヤナのコンビが対峙する。

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