魔王と救世の絆   作:インク切れ

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第76話 演目:愉快な兄妹

「ほなパンプジン、いこか」

「ブチ引き裂け、オーロット!」

ヘンゼルが繰り出すのは、カボチャに似た胴体から細い体を生やしたようなポケモン。長い腕のような髪が生えている。

グレーテルのポケモンはサーカスでも使用していた樹木のようなポケモン。

 

『information

 パンプジン カボチャポケモン

 何種類かのサイズが存在することが

 確認されている。細かい差異はあるが

 現在は四種類に分類されている。』

 

『information

 オーロット 老木ポケモン

 根を通じて森の木々を操り森の

 ポケモンや植物の成長を促す。森を

 荒らす者に対しては容赦しない。』

 

パンプジンとオーロット、どちらも草・ゴーストタイプのポケモンだ。

「草タイプなら……ワカシャモ、頼んだよ!」

「悪人相手なら容赦はしませんわ。ハッサム!」

サヤナとエリーゼ、両者共にエースポケモンのワカシャモとハッサムを出す。

「ハッサム! バレットパンチ!」

真っ先にハッサムが動く。

翅を羽ばたかせて僅かに滞空、直後猛スピードで一瞬のうちにパンプジンとの距離を詰め、弾幕が如き連続パンチを放つ。

「ワカシャモ、オーロットに火炎放射! 牽制して!」

それを援護する形で、ワカシャモも灼熱の炎を放つ。

「来るわよ、迎え撃ちなさい! シャドークロー!」

ハッサムを止めようとしていたオーロットだが、慌てて両腕に影を纏わせ、ワカシャモの炎を真正面から受け止める。

「シザークロス!」

怒涛の拳で体勢を崩したところへ、ハッサムは赤いオーラを纏った両腕を振るい、パンプジンを切り裂く。

だが。

「させへん。パンプジン、ギガドレイン」

するり、とパンプジンの腕のような髪が伸び、ハッサムの両腕を掴む。

ハッサムの攻撃が食い止められてしまい、さらにパンプジンの髪が淡く発光、ハッサムへと光を侵食させ、少しずつ体力を吸い取っていく。

「それなら吹き飛ばしなさい! “射”!」

体力を吸われるといえど、草技はハッサムにほとんどど効かない。ハッサムの鋏を纏う刃のオーラが放出され、パンプジンを吹き飛ばす。

しかし、

「ふふふ、それじゃあかんのよね」

吹き飛ばされたパンプジンは即座に起き上がり、何食わぬ顔でヘンゼルの元へと戻ってくる。

「私のパンプジンは特大サイズやさかい、物理攻撃は効かへんなぁ」

図鑑説明にもある通り、パンプジンというポケモンは四種類のサイズがあり、それぞれ優れた能力が異なる。

その中でもヘンゼルの持つ個体は特大サイズ。四種類の中で動きは一番鈍いものの、耐久に、特に物理耐久に最も優れたサイズだ。

「さ、グレーテル、見せたり」

「任せなさい! オーロット、ハッサムへ鬼火よ!」

オーロットが前進し、両手を掲げて火の玉を作り出す。

次の瞬間、火の玉がリング状に変化、リングを掴んだオーロットが炎のチャクラムをハッサムへと投げつける。

「っ!? ハッサム、躱しなさい!」

弧を描いて左右から迫り来る炎のチャクラムに対し、ハッサムは一発目を屈み、二発目を跳躍して躱すが、

「まだ終わっとらんで? 火炎放射!」

刹那、パンプジンの胴体の口から炎が吹き出し、ハッサムへと襲い掛かる。

「炎技っ!?」

「ワカシャモ! 炎を受け止めて!」

炎がハッサムを飲み込む直前、ワカシャモがその間に割り込み、火炎放射を食い止めた。

しかし、

「隙だらけ! オーロット、岩雪崩!」

根っこのような足を地面に食い込ませ、オーロットが無数の岩を浮かび上がらせる。

効果今ひとつとはいえ炎を受けて動きを止めたワカシャモは、次々と岩の殴打を浴びてしまう。

「ワカシャモ! 大丈夫!?」

「好き勝手させませんわ! ハッサム、剣の舞!」

体勢を立て直すワカシャモの傍ら、ハッサムが力を体内に溜め込む。

ハッサムの周囲に一瞬だけ青い剣の形をした光が浮かび上がると、その光はオーラとなってハッサムの身を纏う。

「ハッサム! シザークロス・“斬”!」

「ワカシャモ、ハッサムを援護して! ニトロチャージ!」

ハッサムの右手が青い巨大な剣を模した光を纏う。

剣を携えてハッサムが飛び出し、それを援護する形でワカシャモも炎を纏って駆け出す。

「っ、やば……!」

「焦ることあらへん、防御は私に任せりゃええ。パンプジン、ギガドレイン」

「そうね……! オーロット、あんたも! シャドークロー!」

ハッサムの気迫にグレーテルが思わず怯むが、ヘンゼルは至って冷静。

パンプジンが淡く光る髪を、オーロットが黒い影を纏った腕を構え、ハッサムとワカシャモを迎え撃つ。

だが、

「うおおっ……!」

攻撃力が倍増したハッサムの一撃は凄まじい。

パンプジンがハッサムの鋏を掴むも、勢いを殺すことができずにそのまま押され、近くの木へと思い切り叩きつけられた。

「兄さん! ……チッ、ナメてんじゃないわよクソガキ! オーロット、投げ飛ばせ!」

対して、グレーテルのオーロットがすかさず反撃に出る。

シャドークローで炎を打ち消して逆にワカシャモを捕らえ、両腕で投げ飛ばして地面に叩きつけ、

「ハッサムを狙って! ニードルルート!」

すぐさま六本の根のような足を地面に差し込むと、ハッサムの足元から鋭い六本の木の根が飛び出し、ハッサムを突き刺す。

「ハッサム、構わないで! そのまま燕返し!」

見たところ草タイプの技、効果は今一つ。ハッサムは僅かに動きを止めるが、即座に剣を振るうように両腕を振り抜く。

しかし、

「上出来やでグレーテル。パンプジン、鬼火」

その僅かな隙をヘンゼルは見逃さなかった。パンプジンの胴体の口から、青い火の玉が放出される。

「あっ……まずっ……!」

直後に、パンプジンはハッサムの鋏に叩き飛ばされる。

しかし至近距離で放たれた火の玉を躱すことができず、ハッサムが鬼火を受けてしまう。

「しまった……ハッサム、一旦戻ってきなさい!」

鬼火を受けた、つまりハッサムは火傷の状態異常を受けてしまった。

「よーっしゃ! どうよ、鬼火を使えるのはオーロットだけじゃないのよ!」

「よしよし、これで剣の舞を使った分は帳消しやね。もう一回積ませる隙は与えへんからな」

火傷を負ったポケモンは、少しずつダメージを受けていき、さらに攻撃力が半減してしまう。

「エリーゼさん、大丈夫!?」

「心配しないで、サヤナ。攻撃力が元に戻っただけよ。私のハッサムはこの程度でやられたりしないわ」

それより、とエリーゼは続け、

「サヤナも気をつけなさい。こいつら戦闘慣れしてる、思っていたよりやるみたいだわ。油断せず落ち着いて戦うのよ」

そう告げ、二人は兄妹へと向き直る。

「さあ、続けるわよ! オーロット、ニードルルート!」

オーロットが足を地面に突き刺すと、ハッサムとワカシャモの足元からそれぞれ三本ずつの鋭い根が飛び出す。

「ワカシャモ、躱して!」

「ハッサム、燕返し!」

大きく跳躍してワカシャモは根を躱し、ハッサムはその場で回転して瞬時に根を切り刻み、

「火炎放射!」

「シザークロス・“射”!」

空中からワカシャモが灼熱の炎を、地上からハッサムが鋏の形をした青いエネルギー弾を発射する。

「私が防ぐ! オーロット、岩雪崩!」

オーロットがパンプジンの前に立つ。六本の足を地面に食い込ませて無数の岩を浮かび上げ、前方に岩の壁を作って攻撃を防ぐ。

ワカシャモの炎はなんとか防ぎ切ったが、さすがにその後のハッサムの攻撃には耐えられず、岩の壁が崩れ去り、

「ニトロチャージ!」

すぐ近くまで接近していたワカシャモが炎を纏った突撃を仕掛け、オーロットを突き飛ばした。

エリーゼもそれに続き、追撃の指示を、

「ハッサム、こちらも行きましょう! シザー――えっ?」

出そうとしたところで、不意にエリーゼの言葉が止まる。

なぜなら。

狙いを定めようとした、オーロットの後ろにいたはずのパンプジンがどこにもいないからだ。

 

「パンプジン、ゴーストダイブ」

 

刹那。

ヘンゼルが笑みを浮かべたと同時、ハッサムの背後、虚空から突如パンプジンが現れ、黒い影を纏った腕のような髪でハッサムを襲う。

「っ!? ハッサム!?」

完全に不意をついた、攻撃の予兆すら見えない奇襲。さすがのハッサムでも対応できずに殴り飛ばされてしまう。

「油断しよったな? ゴーストダイブは異次元に姿を隠し、少し間を置いてから攻撃する技。攻撃担当のはずやったオーロットが何の考えもなしに防御に出るわけあらへんがな。ま、私もさっき防御は任せろ言うたさかい、勘違いしとったんやろけど……防御しかできへんってわけやないで?」

柔和に見えるヘンゼルの笑みの中に、明確な悪意が混じったのをサヤナとエリーゼは感じ取った。

「あんたら、ぼちぼち強えし、特にハッサム相手じゃパンプジンもオーロットも実力は劣っとるけど、連携でいえば私らの方が上手みたいやな。ダブルバトルやったら、勝機は充分あると見たで」

「ふんっ、当然じゃない? こっちは兄妹なんだから。どんだけ一緒にいたと思ってんのよ」

ヘンゼルは相変わらず余裕たっぷりに笑い、グレーテルも無愛想にそう続ける。

「っ……エリーゼさん」

「大丈夫。サヤナ、焦っちゃダメ。聞いてたでしょ? 相手もハッサムの方が格上なのは認めてる。冷静に、落ち着いて戦うのよ」

「……分かった。私たちなら、勝てるよね! こっちだって、連携を見せてやろうよ!」

一瞬だけ不安げな表情を浮かべたサヤナだが、すぐさま持ち前のポジティブを取り戻す。

「ええ。幸い向こうの技も全部見えた。一度は奇襲を食らったけど、二度は通用しませんわよ! ハッサム、シザークロス・“斬”!」

凄まじい気迫と共に、ハッサムが地を蹴って飛び出す。

両腕を纏うはずのオーラを右鋏に集中させ、巨大な光の刃を携え、一気にパンプジンとの距離を詰める。

「あくまでも私を狙うみたいやねぇ。パンプジン、ギガドレ――」

パンプジンが淡く緑色に光る髪を構え、真正面からハッサムを迎え撃つ。

しかし、

「外れ! サヤナ!」

「おっけー! ワカシャモ、火炎放射!」

ぶつかり合う直前、ハッサムは大きく跳躍。

その代わりに、灼熱の業火がパンプジンへと襲い掛かる。

「っ!? パンプジン、火炎放射!」

慌ててパンプジンが胴体から炎を放つが、威力の差は歴然。

ワカシャモの放つ炎の前にあっさりと打ち破られ、パンプジンは炎に焼かれていく。

「クソガキが、調子に乗ってんじゃないわよ! オーロット――」

「貴方の相手は私ですわ! ハッサム、燕返し!」

オーロットがワカシャモを止めようとするも、その前にハッサムが立ち塞がる。

刀のように四肢を振り抜き、オーロットに連続の斬撃を与え、

「ぐっ……!?」

「さあ、サヤナ! 出番よ!」

「任せて! 火炎放射!」

ワカシャモが再び大きく息を吸い込んで灼熱の炎を放ち、オーロットを炎に飲み込んだ。

「オーロット……!」

渾身の一撃。

紅蓮の業火に焼き尽くされ、オーロットは戦闘不能になってしまっていた。

だが。

「甘く見んなや? ゴーストダイブ」

刹那、炎のどさくさに紛れて虚空へと消えていたパンプジンがワカシャモの頭上から出現。

黒い影を纏った二本の髪でワカシャモを力任せに殴り飛ばし、近くの木へと叩きつけた。

「しまった……ワカシャモ!」

ダメージが溜まっていたこともあり、ワカシャモも戦闘不能になってしまう。

「チッ……オーロット、戻ってなさい」

「ワカシャモ、お疲れ様。よく頑張ったね」

両陣営共に一人ずつやられ、ここからはシングルバトル。

実力的には、ハッサムの方が上。

しかし、

「お姉はんのハッサムの体力、どんなもんや?」

妹がやられても全く焦る様子を見せず、ヘンゼルは不敵な笑みを浮かべる。

「何を言いだすかと思えば。まだまだ余裕ですわよ。二人の連携は確かに厄介でしたけど、貴方一人ごときなら大した敵ではないわ」

「ほぉ、それはそれは。せやけど、そりゃホンマの話か?」

「どういう意味よ」

エリーゼが返すと、ヘンゼルはハッサムを指差し、

「お姉はんのハッサムは火傷してるねんで? 私がここから小賢しく時間を掛けながら粘るだけで、そっちが勝手に倒れてくれるんや。さっきも言うたけど、私のパンプジンは防御に優れとる。おまけにゴーストダイブで時間も稼げるんや」

つまり。

「私は適当に時間を引き延ばす、それだけで勝てるいうことなんやけど」

「っ……」

エリーゼの表情が僅かに強張る。実際ヘンゼルの言うことは間違っていないのだ。

一対一になった以上、剣の舞を使う隙は与えてくれないだろう。パンプジンの防御力と時間稼ぎを上回る火力で、一気に倒してしまわなければならない。

「さ、どっちが勝つにしてももうちょいでバトルは終わりや。せっかくのクライマックス、楽しもうやないか」

妹を倒されてもなお柔和な、しかし悪魔の如きヘンゼルの笑み。

その奥に潜む狂気が、少しずつエリーゼを浸食していく。

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