魔王と救世の絆   作:インク切れ

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第79話 演目:再臨の百面相

最悪の戦闘が始まった。

ハルが対峙するは、白き悪魔、魔神卿ダンタリオン。

「毒牙を刻め、モルフォン!」

そしてそのボールから現れるのは、大きな紫の翅を持つ毒蛾ポケモン、モルフォン。

だが、

「あれ……? そのモルフォンは……!?」

何となくだが、ハルにはそのモルフォンに見覚えがあった。

記憶を探る。このモルフォンの使い手は、ダンタリオンではない。確か、大会で何度か対戦した少女、リオンが使っていた個体だ。

「ほう、覚えていますか。イカした記憶力だぜ」

「お前……まさか、リオンさんからポケモンを奪ったのか!?」

激昂するハルだが、しかし、

「はい? 違いますよ。適当なトレーナーのポケモンを奪って自分のものにする? そんな手間のかかる上にローリターンなことしねえよ。最初から自分で育てた方がずっと強く、扱いやすくなるしな」

あまりにもあっさりと。

ダンタリオンは、ハルの言葉を一蹴した。

「な……だったら、何で」

「簡単なことですよ」

ハルの問いに対し、ダンタリオンは不気味に笑って言葉を続ける。

 

「リオンというあの少女の正体は俺だった。それだけのことじゃよ」

 

「は……?」

思わず、ハルは聞き返す。理解が追いついていない。

「儂が変装の達人だということを忘れたか? 変装した時の自分の名付けには拘りがありましてね。必ず自分の名前を形成する『ダンタリオン』の六文字から取った名を名乗ることにしているんじゃ。もっと言うと、リオンだけじゃあない。ヒザカリ大会でお前と戦った男、ダリ。あれも私だなぁ」

説明されてもハルには信じられないが、しかし理解はできる。

というか、そうでもしないとダンタリオンがこのモルフォンを持っていることへの説明がつかない。

「つまり、お前はずっと僕たちの情報収集をしていたのか……?」

想像するだけで恐ろしい話だ。

例えば、ポケモンセンターなどで軽く話を交わした相手が。

例えば、旅の途中何気なくすれ違った相手が。

もしかしたら、ゴエティアの魔神卿だったかもしれないというのだから。

「ま、そんなところです。つってもまぁ、この話をしてしまった以上、これからはお前たちに易々と接触することはできなくなってしまったがな。で、どうするんだい? 儂のモルフォンを相手に」

不気味な笑みを浮かべるダンタリオンの隣で、モルフォンがその無機質な瞳をギョロリと動かし、ハルに焦点を合わせる。

「どうするも何も……こうなったらもうやるしかない。頼むよ、ファイアロー!」

覚悟を決め、ハルが出したのはファイアロー。虫タイプが相手なら適任だ。

「一応言っておくけど、大会での実力を俺様の力だとは思わないことじゃな。あの時はだいぶ力を弱めていましたから。それでは……モルフォン、ヘドロ爆弾!」

先に動き出したモルフォンが、短い脚で毒液の塊を抱える。

その塊からマシンガンのように毒液の弾が発射され、立て続けにファイアローを狙う。

「ファイアロー、躱しつつニトロチャージ!」

ここは森の中だが、先程のメルヘルとの戦闘で周囲の木々が根こそぎ倒されてしまったので、ファイアローの飛行に支障はない。

飛び回って毒液を躱しながらその身に炎を纏い、モルフォンの抱えた毒の塊が無くなった瞬間を見計らって突撃、モルフォンを突き飛ばした。

「続けてアクロバットだ!」

さらにファイアローは体勢を崩すモルフォンとの距離を一気に詰め、飛びかかって翼を叩きつける。

しかしその直前、

「モルフォン、虫のさざめきです」

大きく開いたモルフォンの翅が振動したかと思うと、甲高いノイズと共に大気を揺るがす衝撃波が放出された。

耳をつんざく甲高いノイズによってファイアローは動きを止められてしまい、衝撃波を諸に浴びてしまい、

「っ……!」

「サイコショット!」

さらにモルフォンが続けて放ったサイコパワーの念弾を回避できず、直撃を受けてしまう。

「ファイアロー! 大丈夫!?」

予想外のダメージを負ったが、この程度ではまだファイアローは倒れない。一旦ハルの元へと戻り、勇ましく啼いて体勢を立て直す

「くっ……効果今ひとつなのに、なんて威力だ……」

「そりゃあな。こいつの特性は、色眼鏡ですからね。効果今ひとつの攻撃であろうと、それを一つ分だけ打ち消して攻撃ができる。単なるタイプ相性では、こいつを止めることはできんのう」

ダンタリオンが最初に言っていた通り、大会の時と比べてもこのモルフォンは明らかに強い。

「ちなみに、このモルフォンは儂の手持ちの中では最弱。この子にすら勝てないようでは、ゴエティアに楯突くなんて無謀もいいところだぜ」

このパワーで最弱。やはり魔神卿はつくづく恐ろしい。

しかし、

(それでも勝てない相手じゃないかもしれない。その証拠に、ファイアローの攻撃だってちゃんとダメージが通ってる。相手の隙を突き、でも深追いはしない。これを徹底していけば……!)

少なくとも、以前カザカリ山道で戦った時よりは余程手応えを感じる。かつてのゾロアークのような、規格外の存在ではない。

「負けてたまるか! ファイアロー、ニトロチャージ!」

ファイアローがその身に炎を纏い、先程よりも速い速度で飛び出していく。

一度ニトロチャージを当てたため、スピードが上がっているのだ。

「モルフォン、サイコショット」

だがモルフォンもその速度に対応し、サイコパワーを集めて念弾を発射する。

ファイアローに正面から念弾をぶつけ、体を纏う炎を引き剥がすと、

「ヘドロ爆弾です!」

短い脚で毒液の塊を抱え、無数の毒液の弾幕を放つ。

「躱してもいいけど……ここは突っ込む! 鋼の翼!」

飛翔するファイアローが大きく翼を広げ、その翼が硬質化する。

毒技は鋼タイプに無効化される、つまり鋼の翼を打ち破ることができない。ファイアローは弾幕の中に果敢に飛び込み、翼で毒液を蹴散らしながらまっすぐにモルフォンへと迫る。

「正面突破とは……ですがモルフォン、サイコショット!」

そのファイアローに対し、モルフォンも真っ向からサイコパワーの念弾を放って迎撃を仕掛ける。

しかし、

「それはどうかな! アクロバット!」

激突の直前、ファイアローは急旋回して念力の弾を避けつつ、モルフォンの背後へと回り込む。

間髪入れずに翼を振るい、モルフォンへと叩きつける。

「なるほどなるほど……しかし鱗粉にご用心、痺れ粉!」

だが翼を叩きつけられた衝撃で、モルフォンの大きな翅から薄い色の鱗粉がばら撒かれる。

風に乗って飛ぶ鱗粉がファイアローにまとわりつき、それを吸い込んだファイアローの動きが鈍ってしまう。

「痺れ粉、ってことは麻痺を受けたか……ファイアロー、大丈夫?」

せっかくニトロチャージで上げた素早さを落とされてしまったが、ダメージはない。体に迸る痺れに少し顔をしかめるも、ファイアローはハルの言葉に頷く。

「少しでもスピードを取り戻したい……ニトロチャージ!」

「ふふ、当たりませんね。モルフォン、ヘドロ爆弾!」

炎を纏って突撃を仕掛けるファイアローだが、やはり麻痺の影響で動きが鈍っている。

モルフォンには難なく躱されてしまい、逆にファイアローへと毒液弾の弾幕が襲い掛かる。

「このスピードじゃ避けるのは無理だな……鋼の翼!」

回避を諦め、ファイアローは翼を鋼の如く硬化させ、毒弾から身を守る。

「動きを止めたな? 虫のさざめき!」

ファイアローの動きが止まったのを見るや、モルフォンはすぐさま大きな翅を広げる。

翅を振動させて周囲の空気を揺るがし、甲高いノイズと共に衝撃波を放射する。

「そう来るなら……」

対して。

ハルが拳を握りしめ、ファイアローの鋭い瞳がモルフォンを捉える。

「……今だ! ファイアロー、ブレイブバード!」

ファイアローの体が、激しく燃え盛るオーラを纏う。

そのままファイアローは翼を広げて飛翔、全力の突貫を仕掛ける。

ワダンのフライゴンのドラゴンビートさえ貫く力を持ってすれば、虫技など障害にはならない。ノイズの壁を強引に打ち破り、守りを捨てたファイアローの渾身の一撃がモルフォンを貫き、大きく吹き飛ばす。

「一気に決めるよ! ニトロチャージ!」

反動ダメージを根性で耐え抜き、さらにファイアローは翼から火の粉を吹き出し、モルフォンを追う。

炎を纏ったファイアローがモルフォンに激突、そのまま太い木の幹へとモルフォンを激突させた。

「おっと……?」

ダンタリオンがそちらを振り向けば、戦闘不能となったモルフォンが力なく地面へと落ちていくところだった。

「おやおや、やられちまったのか? モルフォン、休んでなされ」

悔しげというよりは、モルフォンがやられたのが不思議な様子のダンタリオンだが、とにかく戦闘不能となったモルフォンをボールへと戻す。

(よし……確かに強かったけど、こっちの力が通用してる。パイモンのスピアーに比べればずっとマシだ。この調子で戦うことができれば……!)

とはいえ、油断は禁物だ。ダンタリオンの言った通りならば、モルフォンは彼の手持ちの中では最弱なのだ。

相手は魔神卿、この先何を仕掛けてくるか分かったものではないのだから。

「なるほどな。カザカリ山道で戦った時と比べれば、成長しているみたいですね」

モルフォンの入ったボールをしまうと、ダンタリオンはすぐさま次のボールを取り出した。

「本当はあいつを使いたいんだが、今は連れてないから……仕方ない、この子にしようかしら。ちょっとつまらなくなるかもしれんがな」

真っ白な化粧の奥で不敵な笑みを浮かべるダンタリオンが、次なるポケモンを繰り出す。

「奈落に落とせ、ゲンガー!」

 

『information

 ゲンガー シャドーポケモン

 獲物の影に潜り込んで魂を狙う。

 強い寒気に襲われたら魂を狙われ

 ている証拠だが逃れる術はない。』

 

現れたのは、紫色のポケモン。

以前姿を見せたゴーストの進化系のようだが、揺らめくガス状の体を持っていたゴーストとは違いはっきりとした容姿を保っている。

「あのゴーストが進化したのか……だけど、ゲンガーと断定するには早いな」

そう、ダンタリオンは厄介なポケモンを所持している。ゾロアークだ。

ゾロアークとゲンガーの相性は非常に噛み合っている。ゾロアークに打ちたい格闘技やフェアリー技はゲンガーに効きが悪く、ゲンガーに打ちたいエスパー技やゴースト技はゾロアークに通らない。おまけに覚える技も、シャドーボールやヘドロ爆弾、気合玉など、同じ技が多い。

「ファイアロー。君の技なら、相手がどっちだとしてもいいダメージを与えられる。ごめんよ、麻痺して辛いだろうけど、もう少し頑張ってくれるかい……?」

身を案じるハルに、ファイアローは元よりそのつもりだ、と言わんばかりに一声上げて頷く。

「……よし! ファイアロー、鋼の翼だ!」

翼を硬化させ、ファイアローが飛び出す。

本物のゲンガーならば持っているであろう毒技を牽制しながら、距離を詰めて翼を振るう。

「ゲンガー、シャドーボールです」

対するゲンガーの両掌に影の力が集まり、漆黒の球体が出現する。

放たれる二つの影の弾は、一つは速く、一つは遅い。

高速で射出される一発目を躱すが、

「な……っ!?」

弾速の遅い二発目が、徐々に大きくなっていく。

膨れ上がったシャドーボールを躱しきれず、ファイアローに黒い影が炸裂し、吹き飛ばされてしまう。

「私のゲンガーは器用ですから、この程度造作もないわい。あぁ、ちなみにゾロアークもシャドーボールを覚えるポケモンだぜ」

「どっちだろうと、僕のファイアローなら関係ない! ファイアロー、ブレイブバードだ!」

翼を広げたファイアローの体が、激しく燃え盛るオーラを纏う。

輝く光を身に纏い、ファイアローは低空飛行で渾身の突撃を放つ。

しかし、

「打ち破ってやるよ。ゲンガー、ヘドロウェーブ!」

ゲンガーを中心として、その周囲に夥しい量の毒液が溢れ出す。

捨て身でまっすぐに突っ込んでいったファイアローの一撃をもってしても、この毒液を貫くことはできなかった。紫毒の波に飲まれ、押し流されてしまう。

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