魔王と救世の絆   作:インク切れ

83 / 121
第80話 演目:奈落よりの使者

ゲンガーの仕掛けたヘドロウェーブに、なす術なくファイアローは飲み込まれてしまう。

「ファイアロー……!」

倒れた木々を溶かし腐らせ、毒液が流れ去っていく。

後には、木々の残骸と戦闘不能になったファイアローが残されているのみ。

「ファイアロー、よく頑張ったね。ゆっくり休んでて」

急いでファイアローをボールへと戻す。全身に毒を浴びているので心配だが、まずは目の前のダンタリオンをどうにかしなければならない。

(毒タイプのポケモンでないと、あれだけの量の毒を操るなんてできないはず。あのゲンガーは恐らく本物だ。それにしても、なんて攻撃力なんだ……ファイアローのブレイブバードを正面から打ち破るなんて)

先ほどのモルフォンと比べても、その火力の差は歴然だ。ゾロアークではなく、このゲンガーがエースの可能性もある。

「だけど、やるしかないんだ。ゴーストポケモンが相手なら、君だ! ワルビル、頼んだよ!」

ハルが二番手に選んだのはワルビル。ゴーストと毒タイプのゲンガーを相手にするには最適なタイプ相性だ。

特訓の成果を生かしたいところではあるのだが、このゲンガーは火力が高すぎる上に特殊技が主力なのでワルビルの威嚇の特性も意味をなさない。一発耐えて反撃、が通用する相手ではないだろう。

「ワルビル、相性は有利だけど、あのゲンガーはかなりの火力があるよ。気をつけて」

ハルの言葉に頷き、ワルビルは大顎を開いて牙を剥き、ゲンガーを威嚇する。

「悪タイプで来たか。それじゃ、見せてやろうかな。ゲンガー、気合玉だ!」

ゲンガーが動く。

体内の気を一点に集めて巨大な光の弾を作り出し、ワルビル目掛けて投げつける。

「格闘技か! ワルビル、穴を掘る!」

ワルビルに有利な格闘技を隠しもしないのは、余裕の表れか。

とにかくワルビルは素早く地面に潜り、気合玉を躱しつつ地中に潜む。

「ゲンガー、もう一度気合玉です。出てきた瞬間を狙え」

ゲンガーの右掌から、再び光の弾が出現する。

それを構えたまま、ゲンガーは周囲を見渡してワルビルの気配を探る。

「今だワルビル! 燕返し!」

「後ろですか。ゲンガー!」

ワルビルが背後から飛び出し、刀のように腕を振り下ろすと同時、ゲンガーも振り向きざまに手にした気合玉を突き出す。

燕返しは飛行タイプの技、格闘技の気合玉には強いはずなのだが、競り合った末に打ち破られ、吹き飛ばされたのはワルビルだった。

「押し流せ。ゲンガー、ヘドロウェーブ!」

「っ、ワルビル! 躱して噛み砕く!」

裂けた口を大きく開いて笑い、ゲンガーが溢れ出す毒液の波を周囲へ放出する。

対してワルビルは大きく跳躍して毒液を回避、そのまま上空からゲンガーへと牙を剥いて飛び掛かる。

自慢の大顎でゲンガーに噛み付き、牙を食い込ませ、首を大きく振ってゲンガーを投げ飛ばす。

「ワルビル、一旦戻って! 深追いは危険だ」

さらに追撃を仕掛けようとするワルビルを、ハルは一旦引かせる。

「おやおや、いい判断力じゃの。そのまま突っ込んできたら気合玉でぶっ飛ばしてやろうと思ってたんだがよ」

ダンタリオンの言葉に続き、ゲンガーもふわりと浮き上がってその場に戻ってくる。

「まぁでも今のはそれなりに効きましたよ。反撃しないといけないな。ゲンガー、シャドーボール!」

両腕を突き出し、ゲンガーは両掌から二つの漆黒の影の弾を放つ。今度は二つとも弾速の速い弾だ。

「ワルビル、躱してシャドークロー!」

シャドーボールを何とか躱し、ワルビルも両腕に黒い影の爪を纏わせ、ゲンガーへ飛び掛かる。

だが。

「蹴散らせ。ヘドロウェーブ」

口を吊り上げて笑うゲンガーの周囲へ、夥しい毒液の波が放出される。

ワルビルのシャドークローなど障害にもせず、毒の波が容易くワルビルを飲み込む。

「しまった……」

「終わらせます。気合玉!」

押し流されて横たわり、それでもなお起き上がろうとするワルビルに対し、ゲンガーは容赦なくとどめの一撃を放つ。

ワルビルの額へと巨大な光の弾が直撃、光の炸裂と共にワルビルは吹き飛ばされて木の幹に激突、地面に落ちてそのまま戦闘不能になってしまった。

「くっ……強い……! ワルビル、よく頑張ったね。休んでて」

ワルビルをボールに戻し、即座にハルはボールを持ち替える。

(ここはルカリオしかない。エーフィじゃシャドーボールで致命傷を受けてしまう。格闘技は効かないけど、サイコパンチとボーンラッシュならどっちも効果抜群のダメージを与えられる)

ルカリオも気合玉を効果抜群で受けてしまうのだが、やはりここはもうルカリオしかいない。

「カラマネロとの連戦で苦しいだろうけど、ここは君しかいない。頼むよ、ルカリオ!」

手にしたボールからルカリオが飛び出す。カラマネロ戦でのダメージはまだ残っているが、その疲れは微塵も見せず、凛として立ちゲンガーと対峙する。

「ルカリオ、今回の相手は強敵だ。全力で掛かるよ!」

ハルの言葉に、ルカリオは頷いて応える。こちらも準備はできている。

「僕と君の、絆の力に応えて! ルカリオ、メガシンカだ!」

ハルの持つキーストーンと、ルカリオのメガストーンが反応する。

七色の光に包まれ、咆哮と共にルカリオはメガシンカを遂げる。

「ククク。メガシンカの力、見せてもらうかのう。ゲンガー、気合玉!」

「望むところだ! ルカリオ、波導弾!」

ゲンガーが気合を溜め込んだ光の弾を放ち、ルカリオは右掌から青い波導の念弾を撃ち出す。

二者の放つ念弾は真っ向から激突し、競り合った末に爆発を起こす。

威力は互角。適応力の特性が発動したメガルカリオならば、ゲンガーの火力にも渡り合える。

「続けてボーンラッシュ!」

爆煙の中を突っ切り、ルカリオは煙の向こうのゲンガーへと特攻する。

波導のオーラを槍の形へと変え、矛先をゲンガーへと突き立てる。

「シャドーボールです」

咄嗟にゲンガーが黒い影の弾を放つが、煙の中から突然現れたルカリオを前にして僅かに対応が遅れる。

一発しか影の弾を放つことができず、放ったシャドーボールは槍の一振りで弾き飛ばされ、直後、槍の連撃がゲンガーへと襲い掛かる。

「よし! ルカリオ、一旦下がって!」

相手が格上である以上、深追いはしない。

ゲンガーの体勢が整うより前にルカリオは素早く距離を取り、反撃から逃れる。

しかし。

「なるほど、なるほど。流石はメガシンカの力。俺様のゲンガーと互角に立ち回るとは、恐れ入りますよ。これなら私も、本気を出してみてもよさそうだな」

そのルカリオの実力を見た上でなお、ダンタリオンとゲンガーは不敵な笑みを浮かべる。

「本気……?」

本気。

その言葉に嫌な予感を感じ、ハルは聞き返す。

「ええ。まあ、口で説明するより実際に見せた方がいいじゃろう」

そう言うと、ダンタリオンは手馴れた様子で黒い杖をくるくると回す。

やがてその杖を握り、先端をハルへと突き付ける。

「なっ……!? それは……!?」

それを見たハルが、驚愕の表情を浮かべる。

黒い杖のその先にあったもの。それは。

 

「奈落の底、深淵の果てへご案内……ゲンガー、メガシンカだ」

 

杖の先に填め込まれていたのは、キーストーンだった。

同時にゲンガーが舌を出す。その舌先には、ピアスのようにメガストーンが付けられていた。

ダンタリオンのキーストーンから七色の光が飛び出し、ゲンガーのメガストーンの光と繋がる。

七色の光に包まれ、ゲンガーがその姿を変えていく。

背中や腕、そして尻尾は一気に刺々しくなり、真紅の瞳からは怪しい光を放っている。下半身は見えない。

そして。

禍々しい姿となったゲンガーの額が不気味に蠢いたかと思うと、爛々と輝く黄色い第三の眼が現れた。

昏き闇の力をその身に纏い、ゲンガーがメガシンカを遂げる。

「これが……ゲンガーのメガシンカなのか……!?」

今までハルが見てきたポケモンの中でも、その異質さは群を抜いている。

異形とさえ呼べるその姿からは、ただならぬ闇の力を放っている。

「さあ、勝負はここからじゃな。もっとも、もはや勝負にならないかもしれねえが」

ゲンガーの三つの眼がハルとルカリオを見据える。その瞳に捉えられるだけで、身が竦んでしまいそうだ。

「……やってみなきゃ分からない。ここまで来たら、やるしかない! ルカリオ!」

まとわりつく恐怖と狂気を振り払うべく、ハルは叫ぶ。

ルカリオも天高く咆哮し、自らを鼓舞する。

「その威勢、どこまで続くかね? シャドーボール!」

「どんなに強いポケモンが相手でも、僕たちは折れない! ルカリオ、躱してボーンラッシュ! 撃ち出して!」

ゲンガーの額の眼が輝き、漆黒の影の念弾が発射される。

影の弾は次第に巨大化していくが、ルカリオは地面を蹴って大きく跳躍、影の弾を回避し、周囲に無数の波導のオーラを浮かべる。

浮かび上がった波導球は次々と槍の形に変化し、ゲンガーを狙って撃ち出される。

「纏めて蹴散らしてやろう。ヘドロウェーブ」

対するゲンガーの周囲から毒液が溢れ出す。

流れ出る毒の波が、無数の槍を全て押し流してしまうが、

「ルカリオ! 突っ込め!」

刹那、毒液の波を正面突破し、ルカリオが波導の槍を携えてゲンガーの眼前に飛び出す。

鋼タイプのルカリオに毒技は効かない。毒液の波をものともせず、波導の槍の矛先をゲンガーに打ち込んだ。

「ならばこいつを食らいな! シャドーボール、連射です!」

素早く飛び退いたルカリオを捉えた第三の眼が妖しく光ったかと思うと、黒い影の弾が発射される。

先程までと比べて少し小さいが連射が効くようで、立て続けにいくつもの影の弾が襲い掛かってくる。

「この量、迎撃は無理か……! 躱して接近! サイコパンチだ!」

握り締めた拳に念力を纏わせ、ルカリオは地を蹴って飛び出し、飛来する影の弾を次々と躱しつつ、ゲンガーへと距離を詰めていく。

しかし際限なく放出される影の弾がルカリオの逃げ場を次第に狭め、最後にはルカリオは体勢を崩され、直撃を受けて押し戻されてしまう。

「今です。気合玉」

ゲンガーがニヤリと笑ったかと思うと、その姿を忽然と消してしまう。

次の瞬間、ゲンガーは突如ルカリオの背後から現れ、両手で構えた光の念弾をルカリオへと振り下ろす。

「まずっ……ルカリオ、発勁!」

咄嗟に波導を纏った右手で背後に裏拳を繰り出し、ルカリオは何とか気合玉を防いだ。

「サイコパンチ!」

さらにルカリオは念力を纏った右手を突き出すが、

「ゲンガー、戻って来なさい」

ふたたびゲンガーは何もない空間に潜るようにその場から姿を消してルカリオの拳を躱し、ダンタリオンの元へと戻る。

「ルカリオ、ボーンラッシュ!」

ルカリオが構えた手から波導が噴き出し、槍を作り上げる。

波導の槍を携え、ルカリオは一気にゲンガーへと向かっていくが、

「ゲンガー、躱しなさい」

地面を滑るように駆け抜け、ゲンガーはルカリオの骨の一撃を躱すと、虚空へと身を隠す。

そして。

 

「見せてやれ。ゲンガー、ファントムゲート!」

 

刹那。

ルカリオの周囲の空気が蠢いたかと思うと、突如空間に穴が空き、青白い光の槍が飛び出した。

「!?」

不意の一撃に吹き飛ばされるルカリオ。

そしてさらに、吹き飛んだ先の空間が歪み、再び何もないところから光の槍が飛び出す。

それが四、五回続き、

「シャドーボール!」

虚空から突然メガゲンガーが現れ、至近距離で影の弾を放ち、ルカリオを地面に撃墜した。

「ルカリオ! っ、今の技はなんだ……?」

「ククク、知らないだろうな。なんせ俺様がこのゲンガーと共に作り出した技ですから」

叩き落とされるルカリオを一瞥し、ダンタリオンは不気味に笑う。

「ファントムゲート。相手のポケモンが最後に使った技を、異空間から放つ技。メガゲンガーはメガシンカによって異空間へアクセスできるようになります。先程から異空間に潜り不可視の攻撃を仕掛けておったが、これを応用した結果生み出したのが、このファントムゲートというわけじゃ」

そして、とダンタリオンは続け、

「これで終わりだな。気合玉!」

立ち上がろうとするルカリオへ、ゲンガーが身体中の気を一点に溜め込み、気合の念弾を放つ。

「っ、ルカリオ!」

ルカリオはようやく起き上がるが、既に気合玉はルカリオの眼前まで迫っていた。

気合の念弾が、ルカリオへと直撃する。

その、直前。

 

「シザークロス! “射”!」

 

突如。

上空から鋏の形をしたオーラが飛来し、ゲンガーの放った気合の念弾を打ち消した。




《ファントムゲート》
タイプ:ゴースト
威力:−
変化
異次元の入り口を開き、相手が最後に使った技と同じ技を異次元空間から出現させる。
  1. 目次
  2. 小説情報
  3. 縦書き
  4. しおりを挟む
  5. お気に入り登録
  6. 評価
  7. 感想
  8. ここすき
  9. 誤字
  10. よみあげ
  11. 閲覧設定

▲ページの一番上に飛ぶ
X(Twitter)で読了報告
感想を書く ※感想一覧 ※ログインせずに感想を書き込みたい場合はこちら
内容
0文字 10~5000文字
感想を書き込む前に 感想を投稿する際のガイドライン に違反していないか確認して下さい。
※展開予想はネタ潰しになるだけですので、感想欄ではご遠慮ください。